NHK 1987年6月24日(水)
あらすじ
蝶子(古村比呂)は野々村家のミシンを借りて、頼まれた洋服づくりをはじめる。そこへ国松連平(春風亭小朝)が現れ、最近、田所邦子(宮崎萬純)のようすがおかしいとぼやく。夜の銀座で言い争いをしたかと思ったら突然泣き出し、だいぶ荒れているらしい。蝶子が邦子の家をたずねると、邦子はまだ情緒不安定のままで、蝶子が結婚に逃げたと批判しはじめる。モデルとして売れていても、邦子はひとりで生きることに疲れ切っていた。
2025.6.11 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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北山みさ:由紀さおり
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野々村富子:佐藤オリエ
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国松連平:春風亭小朝
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田所邦子:宮崎萬純
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早川プロ
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神谷容(いるる):役所広司
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北山俊道:佐藤慶
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野々村泰輔:前田吟
<チョッちゃんは洋服作りにいそしんでいます。同じアパートに住む人に頼まれて張り切ってるんです>
野々村家
ミシンを使って洋服作りしている蝶子。
富子「へえ~、相変わらず大したもんだねえ」
蝶子「叔母さんにも作ってあげようか?」
富子「洋服をかい?」
蝶子「そうだよ」
富子「やだよ!」
蝶子「どうして?」
富子「だって、風吹いた時なんか裾まくれ上がっちゃったりなんかすんだろ?」
蝶子「そうだよ」
富子「やだよ、やだ!」
蝶子「どうしたの?」
⚟戸が開く音
富子「は~い!」
⚟連平「あたしです~」
富子「連平だ」
⚟戸が閉まる音
連平「おや、チョッちゃん、今日は出張かい?」
作業しながら振り向きもしない蝶子。「こんにちは!」
連平「こんちは!」
富子「うちのがね、知り合いの人からどうとかこうとかでミシン預かってるもんだから」
連平「は~、訳はどうあれ、ミシンがこっちにあるとチョッちゃんもこっちに来ると」
富子「ま、私は、その方がいいけどね」
蝶子「私も外に出られるし」
茶の間
富子「どうした?」
連平「いや~、暇で暇でねえ」
蝶子「やっぱりトーキーのせいで?」
連平「ああ。今日は夢助でも連れて芝居見物に行こうかと思って」
富子「あら、夢助、出かけたよ」
連平「寄席?」
富子「すぐ帰ってくるような様子だったけど…」
連平「はあ~。じゃ、あたしゃ暇ですからね、ゆっくりさせてもらいます」
富子「じゃ、お茶でもね」
連平「すみません」
富子「ううん」台所へ
連平「ねえ、チョッちゃん!」
蝶子「な~に?」
連平「邦ちゃん、どうしたのよ?」
蝶子のミシンの手が止まる。
連平「何だか変だよ」
蝶子「変って?」
連平「いや、ちょっとさ、何かおかしいんだね。荒れてる感じ」
蝶子は作業を止めて茶の間へ。「荒れてるって?」
連平「いや、こないださ、銀座で見かけたの。夜の10時ごろかなあ。マネキンガールとおぼしき女が2~3人とね、モボが3人ぐらい、バーから出てきたの。ほら、あの美人座の並びの」
富子がお茶を運んできた。「そいで?」
連平「その中に酔っぱらった邦ちゃんがいたの」
蝶子「酔ってた?」
連平「うん。1人の男ばっかりベタベタするもんだからね、同僚のマネキンと口ゲンカになってさ。そのあげくに舗道にしゃがみ込んで泣きだしちゃうんだもん」
<邦子のことは、この前から気にはなっていたのです>
邦子の住むアパートの戸をノックする蝶子。「邦ちゃん?」再びノック。
ドアが開く。
蝶子「あ、いたの?」
邦子「仕事休んだのよ」ふんわりした紫色のネグリジェ姿
部屋の中
蝶子「具合悪いの?」
邦子「二日酔い…かな」
蝶子「お酒?」
邦子「お構いできないけど」
蝶子「飲めるの? お酒」
邦子「飲めないけど…憂さ晴らし」
蝶子「憂さ、あるの?」
ベッドに座っていた邦子が立ち上がってカーテンを開ける。「そんなもの、チョッちゃんにはないわよね?」
蝶子「邦ちゃん…どうしたのよ?」
再びベッドの上へ座る邦子。「何が?」
蝶子「連平さんに聞いたけど…この前、銀座通りで女の人と言い争いをしたり泣いたりしてるのを連平さんが見てたのよ」
邦子「そう…見られたか」
ベッドサイドの壁に竹久夢二っぽいイラストの絵葉書が貼られている。
蝶子「この前、初めて、うちに来た時も帰り際、邦ちゃん、ちょっと様子変だったし。どうしたっていうのよ」
ため息をつく邦子。「チョッちゃん、どうして歌の道やめたの? あんなに簡単に捨てたの?」
蝶子「だって…」
邦子「高女時代、あんなに意気込んでた道じゃない?」
蝶子「邦ちゃん」
邦子「遠山伊佐子がさ、卒業後、見合いするって言った時『そんなんでいいのか』ってチョッちゃんも言ったのよ。『そんな人生でいいのか』って。『何かしなくていいのか』って。だけど、何もしないで結婚したのはチョッちゃんじゃじゃない!」
伊佐子の見合い話は出てたけど、蝶子は別に文句言ってないけどね。
蝶子「何、言いたいのよ?」
邦子「…」
蝶子「邦ちゃん…何かつらいことあるんじゃないの?」
ため息をつく邦子。「女が一人、こうやって生きてるんだもの。無理だってするわよ。結婚に逃げたチョッちゃんには分からないだろうけど」
蝶子「私を批判してるの? 結婚に逃げたって、どういうこと?」
邦子「逃げよ」
蝶子「逃げてなんかいない。選んだんだもの。自分で決めて選んだのよ。邦ちゃんだって、そうだったじゃない。家でも神谷先生との同棲も別れたのもマネキンになったのも自分で決めたんじゃない? 私も見習わなきゃって思ってたんだよ。自分のことは自分でって!」
邦子「分かったわよ!」
蝶子「邦ちゃん!」
邦子「帰りなさいよ! 幸せな家庭に帰りなさいよ!」
蝶子「分かったわよ!」部屋を出て、戸を強く閉めた。
邦子に変に同情しないとこが蝶子のいいところ! 専業主婦VSキャリアウーマンみたいな構図も昭和初期というより昭和末期の対立っぽくも感じる。
神谷の部屋
神谷「田所君、仕事もちゃんとやり一人で立派に生きてる」
蝶子「はい」
外には洗濯物、部屋には紙風船。文机に向かう神谷先生は着物姿で太宰っぽい。
神谷「華やかな世界にいて、一見、何の不満もないように見えるだろうけど、そりゃやっぱりつらいこともあるんでないか? したっけ一人だ。部屋に戻れば一人なわけだ。寂しいこともあるべ。世の中に出て仕事してたら、いろいろあるもね。自分一人じゃ、しょいきれないこともあるべ。そういう時、君たち夫婦ば見たんだわ。夫婦ってもんば見て羨ましいっていうもんがあったんでないか?」
蝶子「邦ちゃんもホントは結婚したいってことですか?」
神谷「結婚かどうかは分からない。支えになる人が欲しいっていうもんはあるのかもしれないわ。彼女には一人で仕事して一人で生きていけてるっていう自負もあるべ。板挟みってもんでないかい?」
蝶子「先生」
神谷「うん」
蝶子「邦ちゃんの相談に乗ってやってください」
神谷「いや…向こうからしゃべってくるなら話は別だけど、こっちからっちゅうのは…」
蝶子「それはちょっと薄情じゃないですか?」
神谷「いや、なんも、私がただの元教師というだけだったら別だ。したっけ、田所君とはしばらく一緒に暮らした男だもね」
蝶子「…」
神谷「私は田所君にとっては見限った男だべ? そういう相手から何やら言われたら、田所君の性格だら、もっと傷つくんでないか?」
うなずく蝶子。
岩崎家
イライラして部屋をウロウロする要。腕時計を見てため息。
坂上「おい、岩崎、落ち着けよ!」
ドアが開き、蝶子が入って来た。「すいません!」
要「蝶子!」
坂上「やあ!」
要「今、何時だと思ってる!」
蝶子「すいません!」
要「今日は6時には帰ると言って出たろ?」
蝶子「はい!」
要「坂上君を食事に誘ったんだ」
坂上「いや、僕は飛び入りなんだから」
玄関から今に移動する蝶子。
要「今までどこに行っていた?」
坂上「まあ、いいじゃないか」
要「よくはない!」
エプロンをあて、台所に立つ蝶子。「千駄木に行ったら、邦ちゃんの様子がおかしいっていうんで心配になって邦ちゃんの部屋に…」
要「ふ~ん。じゃあ、俺のことは心配じゃなかったのか?」
坂上「何、心配すんだよ。子供じゃあるまいし」
要「で、ずっと邦子さんのとこ?」
蝶子「そのあと、神谷先生に相談に…」
要「何!?」
蝶子「だって、神谷先生は恩師というだけでなく、邦ちゃんにとっては、つまり…」
要「1人で行ったのか?」
蝶子「え?」
要「神谷先生のとこだ!」
蝶子「そうよ」
要「お前、男一人の所に、よくも一人で」
蝶子「男って…何言うの!?」
坂上「そうだよ、お前、それ、言い過ぎだよ!」
要「何で今日なんだ? 今日じゃなきゃいかんのだ? 時間のこと考えたらな、また別の日にするとか!」
蝶子「私の親友だもの! その親友が変だっていうじゃない。心配するじゃない! 明日にしようとか時間がどうのこうの考える余地のないぐらいの親友なの!」
うんうんと二人の間でうなずいてる坂上。
要「じゃ、俺は!」
蝶子「『俺は、俺は』って…そんなことも分からない人なら私は出ていく!」
坂上「蝶子さん、ちょっと!」
要「おい! (坂上に)ほっとけ!」
ドアが強く閉まり、要は息を吐く。
出ていくところがある人は強い! 笹野さん、結構出てくるとは思わなかった。
野々村家
泰輔「夫婦ゲンカか?」
蝶子「私は家出してきたんだから!」
泰輔「けどさ、遅く帰りゃ誰だって怒るぞ」
蝶子「邦ちゃんのことが心配で時間のことなんか忘れてたのよ。親友のことなんだからって。そしたら何て言ったと思う? 『神谷先生一人のとこによくも一人で行ったもんだ』って、こうよ!」
富子「要が?」
蝶子「ひどいでしょ? 侮辱でしょ? 知らない男の人ならともかく神谷先生は恩師なのよ!」
泰輔「うん、そりゃ要さんが悪い」
富子「そりゃそうだよ」
蝶子「だから私出てきちゃった」
富子「もう帰んなくたっていいよ。ずっとここにいりゃいいんだから」
泰輔「おいおい!」
富子「ごちそうさま」
泰輔「俺もごちそうさんだ」
蝶子「叔母さん、ごはんある?」
富子「食べてないの?」
蝶子「うん」
富子「すぐ支度するよ」台所へ
泰輔「ケンカ初めてか?」
蝶子「ううん」
泰輔「どうして?」
蝶子「だって、わがままなんだもん」
富子「チョッちゃんがね、外、出歩くの嫌がるんだって」
蝶子「スネたり怒ったり、ホント、子供なの」
泰輔「へえ…」
蝶子「結婚前と全然違うんだから」
ご飯を運んできた富子。「2~3年前とは別人だって言っただろ?」
泰輔「うん」
蝶子「ありがと。いただきます!」
富子「仕事一筋。夜遊びもしない。女っ気の方もなし。そうすりゃ、あんた、チョッちゃんだって、かえって息苦しいやね」
泰輔「うん、そういうこともあるな」
富子「2人が結婚するって時、あんた『2人は絶対にうまくいく』って見得切ったんだからね」
泰輔「だから何だよ」
富子「責任お取りよ」
泰輔「責任? どう取るんだよ。俺が言ったのはさ、『あの当時の2人なら』ってことだよ。要さんがこんなに変わると思ってもみないもん」
富子「そりゃそうだけど」
泰輔「今まで堅物だった男がだよ、ある日、ガタガタッと色の道に溺れるってのは聞いたことあるけどさ」
富子「その反対もあるの。遊び人だった人が急に真面目になってさ、融通の利かない唐変木になっちまって、うちん中、ぎくしゃくしたって話…」
泰輔「なるほどね」
富子「だからね、チョッちゃん」
モグモグ食べていた蝶子の箸が止まる。
富子「引き返すんなら今だよ」
泰輔「何、言いだすんだよ」
富子「今はまだ若い。やり直しはきくよ。私みたいに四十の声聞いてからじゃ手遅れになっちまうよ」
泰輔「おい!」
富子「何だい?」
泰輔「お前、何か? 俺と一緒んなって、あれか? 『しまった』と思ったことがあるっていうのか?」
富子「ないと思ってたの?」
泰輔「どういうことだよ! 俺が仕事に失敗したことか?」
富子「そんなこと!」
ハラハラ2人を見守る蝶子。
泰輔「じゃ、何だよ!」
富子「あ~、もう、いろいろありすぎて!」
蝶子「ちょっと…」
泰輔「言っとくけどな、俺はお前と一緒んなって失敗したなんて思ったことは、これっぽっちもないんだぞ!」
富子「そりゃ、あんた、神楽坂にはけ口あったからじゃないか!」
思わず目をそらす泰輔。
富子「いつだったか私が熱出して寝込んでた時、あんた、神楽坂の染丸だか染子だかと湯島天神で甘酒すすってたろ!」
それがあの染子だったのか!
泰輔「7~8年も前の話じゃないか」
富子「8年だよ!」
泰輔「そのこと、誰が言ったんだよ!」
富子「私、知ってんだから!」
泰輔「そうか。するとあれか。引き返せるもんなら引き返したいというわけか! 分かった。別れてやろう! さっさとこのうちから…」
富子「このうちは私のうちだよ!」←強い!
泰輔「そうか…じゃ、俺が出てくよ!」
富子「どこ行くの!?」
泰輔「チョッちゃん、こっちだし、要さんのとこでも行くか!」玄関へ
蝶子「叔父さん!」
泰輔が戸を開けると要が立っていた。「要さん!」
要「申し訳ありませんでした」
泰輔「いえいえ、そんな、あの…」
要「蝶子、俺が悪かったよ」
蝶子「ホント?」
要「うん。謝るから帰ってきてくれよ」
蝶子「いいわよ」
要「そうか」笑顔
蝶子「じゃ、叔父さん叔母さん、私、帰るから」
泰輔「あ、そうか」
蝶子「おやすみ」
泰輔「おやすみ」
要「お騒がせしました」
泰輔「あ、いえ」
要が戸を閉める。
泰輔「フフ…」富子を振り返る。
富子「出てかないの?」
坂道を歩く蝶子と要。これが丸々セットなのか。すごい。少々気まずい雰囲気だが、要が背を向けてしゃがむ。「おんぶしてやるよ」
驚く蝶子。
要「早くしろ!」
当たりの目を気にしながらもおんぶする蝶子。
要「よいしょ!」
蝶子「ウフフフ…」
要「こら! 変な笑い方するんじゃない!」
蝶子「ウフフフ」手で口を押えて笑う。「フフフフフフ…」
この2人のおんぶを見たら急に「のだめカンタービレ」を思い出した。
ドラマでもおんぶのシーンあったよね~。
<それから1か月と少し、たった頃…>
東京駅…じゃなく上野駅かな? 駅前に降り立つ俊道とみさ。
<8月の初め、俊道さんの甥の結婚式に出席するため、チョッちゃんの両親が東京にやって来ました。しかし、そんなことはチョッちゃんは全く知りませんでした>
煎餅をかじりながら部屋のはたき掛けをする蝶子。(つづく)
邦子も要も蝶子が強く言い返すからいいようなものの…言ってることは結構酷い。


