NHK 1987年6月16日(火)
あらすじ
滝川に暮らす父・俊道(佐藤慶)、母・みさ(由紀さおり)のもとに、蝶子(古村比呂)からの手紙が届いた。そこにはバイオリニスト・岩崎要(世良公則)と結婚すると書かれてあり、俊道は激怒する。父が認めようとしないと知った蝶子はすっかり気を落とす。それを見た要は、直接滝川に行って、ご両親に挨拶しようと蝶子に提案する。自分と結婚することで、蝶子が親と不仲になることだけは避けたいと、要は考えていた。
2025.6.3 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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北山みさ:由紀さおり
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野々村富子:佐藤オリエ
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田所邦子:宮崎萬純
河本:梅津栄
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北山道郎:石田登星
彦坂安乃:近藤絵麻
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鳳プロ
早川プロ
劇団いろは
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神谷容(いるる):役所広司
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北山俊道:佐藤慶
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野々村泰輔:前田吟
洗濯物を干している蝶子。
<結婚。要さんと結婚。チョッちゃんは、そう決意したのです。その決意は3~4日前、手紙を書き、滝川の両親宛てに出していました>
北海道空知郡瀧川町一ノ坂
北山俊道様
北山家
手紙を読んでいる俊道と横からのぞき込むみさ。はあ~、北海道の両親、久しぶり!
手紙の文面に驚く俊道。
みさ「お父さん?」
読み終わった手紙をみさに渡す俊道。
みさ「あ~、いやあ、『結婚します』って!」
俊道「蝶子の冗談だべ」
みさ「いや、したけど、相手の名前までちゃんと。『岩崎要』って」
俊道「こんなことがあっていいんかい! 『結婚ば申し込まれました。随分考えて、ついに承知しました』。冗談でないわ!」
驚くみさ。
俊道「そんな手紙、すぐに燃やせ!」
みさ「結婚…」
俊道は部屋を出ていった。
野々村家
蓄音機の前で音楽に聴き入る蝶子。
邦子「岩崎要さんのことは、ずっと嫌がってたのに急に結婚とは」
富子「そうなんだよねえ。正直言って、本当に訳が分かんないの」
神谷「いや、今にして思えば、北山君は少しずつ変化してましたわ。岩崎さんへの見方っていうか、対し方っていいますかね」
富子「あ、そうでした?」
神谷「はい、何となくそう見えました」
邦子「…そう言われると、つい最近なんか『お化粧しよう』なんて口走ってたし、何か心境の変化があったなとは思ってたんだ」
富子「あ、そ~う」
邦子「あ」
富子「お茶どうぞ」麦湯だね。
神谷「すいません」お盆の上のコップを手に取って、飲む。
♬~(レコード)
Googleの曲検索で出てきた曲名は「人生を楽しめ」。
蝶子「初めは私だって要さん嫌だったのよ」
富子「うん」
蝶子「興味も何もないし嫌な人って思ってた」
富子「ずうずうしいし」
蝶子「不気味だし、何かドロドロヌメヌメした感じで」
神谷「ふ~ん」
神谷先生、今日はYシャツにネクタイ姿だね。
蝶子「ねえ、叔母さん」
富子「うん?」
蝶子「あれは2年以上も前だよね? ほら、女の人とのゴタゴタで男の人に追いかけられてるとかで要さん、このうちに逃げ込んだことあったでしょ」
富子「うん!」
邦子「聞いた、聞いた」
蝶子「結局、居所突き止められて、追ってきた男に、要さん、殴られたのよ!」
富子「あん時はザマなかったね!」
蝶子「…その時よ」立ち上がる。「殴られたあと、腕痛めてないかって、要さん、バイオリン持ち出して試しに弾いたんだわ。うん。それ見た時『へえ~』なんて、別の一面、見たような気はしてたんだ」
蝶子「で、2年ぶりに今年、会ったじゃない? ほら、オペラの仕事で一緒になって。『蝶々夫人』の練習の時、要さん、ほかの人には分からないミスをしたのよ。で、それで『演奏をやり直してほしい』って言って、ほかの楽団員から文句出たんだ。『誰も気付かなかったんだし、ス~ッとやればいい』って言った人と真剣に言い争ったの。仕事に厳しいのは、いいなあって思ったんだ」
神谷「なるほど。それで見直したんかい? 岩見沢の写真館のおやじさんの話、持ち出して、興奮してた頃だべさ」
邦子「あぁ!」
神谷「人物のいろんな別の一面ば知ると何か新鮮に思えるもね」
蝶子「うん」うっとりとした表情で座る。
神谷「何かの因縁だべなあ」
邦子「しかし、いきなり結婚とは」
ん? 蝶子、神谷のコップの麦湯飲んだ!?
蝶子「それは、はずみさ」
富子「はずみは、ちょっとまずいんじゃないのかい?」
神谷「いや、案外、そんなもんかもしれませんよ。結婚なんて」
⚟「郵便です!」
富子「はい!」部屋の外へ。
んで、神谷先生、蝶子が飲んだ麦湯、飲みほしてる~!
神谷「で、今後のことは、どうなってんだ?」
邦子「式とか、そういうのは?」
蝶子「詳しいことは、まだ何も」
富子「チョッちゃん、お父さんから」
蝶子が慌てて手紙の封を切って、手紙を広げる。
富子「何だって?」
蝶子「『先日お申し越しの結婚うんぬんの件、甚だ遺憾である。かくのごとき申し状、もっての外である。許せるわけない』…これだけ」
夜、要が野々村家に来て、手紙を読んでいる。「これだけ?」
うなずく泰輔。「ま、手紙一本だけでは許すはずがないか」
要「そうですね」
富子「要さんの親御さんの方は?」
要「おやじは、もう死にましたし、まあ、おふくろは何も言いません。まだ結婚のことは言ってないんですけど。まあ、言わなきゃならんてこともないですから」
富子「それでいいの?」
要「次男ですから、はい。もう、随分前に遊びほうけてた頃、おふくろの面倒見てる兄には勘当同然なんですよ」
泰輔「なるほどねえ」
昭和の遊びほうけてるって、想像だけでもえげつなさそう。昭和の映画見てると、子供が出来た→男は始末しろ、で終わりだもん。で、女性の方は体調崩したりしてさ。
要「ただ、蝶子さんの両親には、ちゃんと許しを得ておきたいんです。かっさらうようなまねはしたくありません。僕が僕の親とどうなっても、それはいいんですけど、蝶子さんには親とまずくなるようなことだけは、させたくないですから」
うなずく蝶子。
富子「よく言った、偉い!」
要「口では何とでも言えますわ」
富子「嫌みだね」ほほ笑む。
前回、そんなやりとりがあったもんね。
泰輔「しかし、どうしたもんかねえ」
蝶子「やっぱり、要さんには一度、滝川に行ってもらった方が…」
要「いいよ」
泰輔「そうだな。直接会って見てもらう。これが一番、手っとり早いか、うん?」
要「そうですね」
<その夜、チョッちゃんは滝川の父に手紙を書きました。要さんの人となりや、そして要さんと一緒に会いに行きたいとも書きました>
北山家
みさが封を切る。「はあ、はあ…はい」手紙を広げて見せる。
俊道「お前、読んでみれ」
みさ「はい」
俊道「何て書いてきた?」
みさ「は、はい。『相手の人と一緒にお父さんに会いに行きたい』って」
俊道「わしは会わんから」
みさ「い~や、したけど、お父さん、相手の人ば見てみないうちから反対も賛成もないんでないんですか? 滝川に来さしたらいいっしょ」
俊道「わしは相手がどうのこうのとしゃべってるんでない。相手がどうであれ『蝶子の結婚ば許すわけにはいかん』としゃべってるんだわ。滝川には来るに及ばず!」部屋を出ていく。
<俊道さんのその言葉は、そのままチョッちゃんへの手紙に書かれました>
カフェ泉
手紙を読む邦子。
♬~(シャンソン)
これ?
河本「何事?」
蝶子「え?」
河本「2人とも深刻な顔して」
邦子「結婚するの」
河本「え、誰が?」
邦子がアゴで蝶子を指す。
河本「相手は?」
蝶子「岩崎要」
河本「やっぱりね」
邦子「やっぱりって?」
河本「いや、私はね、ひそかに予感するものありました。岩崎さんと蝶子さん、初めはよそよそしく、次にはぎこちなく。ね! 恋が実りゆくというのは、ああいうものかとね、やきもきして眺めてたんですよ」
邦子「へ~え」
河本「だけど…喜ばしいことなのに、どうして沈んでるんですか?」
邦子「チョッちゃんの父親が許してくれないんです」
河本「あ、そう」
邦子「チョッちゃん、あとは強行するしかないわね」
蝶子「強行って?」
邦子「許しなんか関係なく結婚しちゃうのよ」
河本「いや、あんた、大胆なこと言うねえ」
蝶子「この人は家出の経験者なのよ」
河本「あ、そう」
うなずく邦子。「東京に来た頃は『親子の縁を切る』って言ってたような親が今ではそんなこと忘れてるもの。結果さえよけりゃ親は安心するの」
蝶子「だけど、要さんは『私の親の許しは得たい』って言うのよ」
邦子「どうするのよ!」
蝶子「北海道には毎日、手紙書いてんだけどね」
<しかし、その後、俊道さんからの返事は途絶えてしまっていました>
野々村家の前には菊の花が咲いてる。秋になったのね。
富子「チョッちゃんたちのおとっつぁんてのは、こういう人なの? 娘が結婚するって言ってんだよ! こう言っちゃ何だけど普通なら親が出てくるよ! それが『なしのつぶて』だ!」お茶を一気飲み。「熱っ!」
泰輔「何だ、慌て者」
道郎「まあ…嫌なことなんか、まともに立ち向かうのを嫌う人ではあるけど」
蝶子「逃げようとするし」
泰輔「都合が悪くなると黙るし」
蝶子「怒るし」
道郎「そのくせ小心でだらしないし」
泰輔「それ、ごまかすためにムスッとしてね」
富子「ホント、子供だね」
要「何か自分のことを言われてるみたいだな…」
道郎はセーター来てるし、すっかり秋、って感じ。
泰輔「いやいや、あのおやっさんね、もっとタチが悪いよ」
蝶子「叔父さん、なにもそんなふうに言わんくてもいいしょ! 私の父親は父親なんだから」
泰輔「悪かった」
要「蝶子君」
蝶子「はい!」
要「手紙には来ても会わないと書いてあったけど、僕はやっぱり北海道行こうと思うんだ」
蝶子「私も?」
要「君が一緒に来てくれないと北海道で道迷うだろう? 俺」
蝶子「はい!」
道郎「それがいいかもしれないな。不意打ちで行きゃ、おやじは慌てる。動転する。そうなると隙が出来る。それが狙いさ。はずみで承知するってこともある」
要「ああ」
富子「北山家ってのは、はずみで事を起こすんだねえ」
蝶子「え?」
富子「ううん」
泰輔「ちょっと待った! 突然、行くのもいいが、逆に敵が態度を硬化させるおそれがある。あの性格だよ。すねる。すねて意地を張る。意地を張ったら気持ちが高ぶる。(気持ちが高ぶると診察に来た患者さんに)薬を間違えて渡すおそれがある。よし! ここは私も一肌脱ごう!」←字幕だと()内のセリフが出なかった。なぜ?
富子「どうすんだい?」
泰輔「俺も一緒に滝川に行くんだよ。2人の介添え役として行って義兄(にい)さん説得してくる!」
富子「大丈夫かい?」
泰輔「何が?」
富子「あんたで?」
泰輔「何言ってやんだよ!」
富子「あちらのお義兄さんとは『気まずい』って言ってたじゃないか。説得なんかできんのかい?」
義兄さんというと、違う人が思い浮かんじゃうね! 博!
泰輔「俺だってね、やる時はやるんだよ。任せとけって! いいね、チョッちゃん」
うなずく蝶子。
泰輔「いいね?」要を指さす。
要「よろしくお願いします」
泰輔「任せなさい!」
<チョッちゃんは少~し不安でした>
蝶子の自室
帽子を選んでかぶり、手鏡で確認する蝶子。
⚟安乃「蝶子さん、安乃です!」
蝶子「入って! 久しぶりだねえ!」
安乃「ご無沙汰しました」きちんと手をついて頭を下げる。
蝶子「あ、どうも。話、聞いた?」
安乃「この前」
蝶子「そういうことになったのよ」
安乃「おめでとうございます」
蝶子「…どうも」
礼儀をたたき込まれてる感じだな、大人っぽくなった。
安乃「今日は蝶子さんが滝川に帰られるって聞いたので来ました」
蝶子「うん」
安乃「これを公次に渡してもらいたいんです」風呂敷包みを渡す。
蝶子「いいよ」
安乃「『私と頼介兄ちゃんから』って言ってください」
蝶子「うん」風呂敷包みを受け取る。「梨、食べるかい?」
安乃「はい」
走る蒸気機関車
<その夜、チョッちゃんたちは北海道へと向かいました>(つづく)
要もそこは明治の男できちんとはしてるんだな。

