NHK 1987年5月30日(土)
あらすじ
久々に叔父の泰輔(川谷拓三)と妻・富子(佐藤オリエ)の家に帰ってきた蝶子(古村比呂)は、しばらく彦坂安乃(近藤絵麻)を同居させてほしいと頼む。夜な夜なむせび泣く安乃を、蝶子は抱きしめるしかない。その後、安乃は国松連平(春風亭小朝)のつてで女中として奉公に出る。ある夜、蝶子の下宿先に頼介(杉本哲太)が姿を現す。札幌経由で三日前に上京したのだという。頼介と安乃は久々の再会を果たす。
2025.5.17 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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野々村富子:佐藤オリエ
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国松連平:春風亭小朝
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彦坂頼介:杉本哲太
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田所邦子:宮崎萬純
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北山道郎:石田登星
梅花亭夢助:金原亭小駒
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坂本智太郎:関時男
山野鈴:戸田恵子
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彦坂安乃:近藤絵麻
女:西田絵里
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鳳プロ
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神谷容(いるる):役所広司
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野々村泰輔:川谷拓三
<この日の朝早くチョッちゃんと安乃は東京に着きました。初めての旅の疲れが出たのか安乃は野々村家に着いた途端、眠ってしまいました>
野々村家
茶の間
すすり泣く富子。泰輔も涙を拭く。
道郎「そうか。頼介君、そういうことになったか」
うなずく蝶子。
道郎「真面目だからな~」
蝶子「うん」
道郎「かたくなすぎて窮屈に生きなきゃいいけど…」寝っ転がる。
道郎とは大違い!
蝶子「したから、あの子、しばらく同居させてもいいかい?」
富子「お安い御用だよ。ねっ、あんた」
泰輔「ん? ああ!」
蝶子「ありがとう!」
泰輔「そんな…」
泣き続ける富子と泰輔。
いい人たちだな~。こっちまでもらい泣きしちゃう。
夜、蝶子の隣の布団で寝ている安乃が泣いていた。
蝶子「安乃ちゃん。安乃ちゃん! 悲しいのかい? さみしいのかい? 兄ちゃんや公次君のこと、考えてるんかい?」
首を横に振る安乃だったが、蝶子に抱きついて泣いた。
蝶子「いつかまた会える…会えないわけないしょ!」
蝶子はいつものワンピース、安乃はモンペよりスマートなズボン?で出かけた。
邦子の住むアパート
蝶子「この子は安乃といいまして、まぁ、私の妹みたいなものです」
神谷「よろしく」
ペコっと頭を下げる安乃。
今日も短パンの神谷。
風呂敷包みをちゃぶ台の上に置く蝶子。「お土産だ」
神谷「いやいやいや」においを嗅ぐ。「あっ、干物とかあるんかい?」
神谷「いやいや、悪いねえ」
蝶子「なんも、なんも」
神谷「遠慮なし」
お茶の準備をしようとする神谷に近づく蝶子。「やります」
神谷「いいから、いいから。いい、いい」
蝶子「そうかい?」
神谷「うん」
蝶子「日曜日だし、邦ちゃんもいると思ってたんだよ」
神谷「最近は日曜も出かけること多くて」
蝶子「そうかい」
神谷「この家は暑いもねえ。北海道は、もう秋だべさ」麦湯を出す。
蝶子「はい」
神谷「うん」
蝶子「先生、邦ちゃんと何か?」
神谷「いや、なんも。ただ…私と一緒にいること、後悔してるんでないかな?」
蝶子「なして?」
神谷「うん…そんな感じするんだわ。田所君には、こんなこと話したなんて、ないしょな」
蝶子「はい」
ん~、なんか神谷って他人事っぽくない!?
神谷「安乃ちゃんといったかい?」
安乃「はい」
神谷「なんぼだ、年?」
安乃「11です」
神谷「そう。優しいねえさんかい?」
安乃「はい!」
神谷「そうかい」
<これが神谷と安乃の運命の出会いだということは、この時、誰も知りません。かく申す、私のほかは誰もです>
ど、どういうことー!? 神谷ってロ…(自粛)
派手なワンピースに大ぶりのイヤリングをつけた邦子が帰ってきた。「あ! チョッちゃん。やぁ、帰ってきたんかい!」
蝶子「うん」
邦子「この子は?」
蝶子「妹だ」
邦子「え?」
蝶子「ねっ」
頭を下げた。
頼介の妹だって言えばいいのにね。
邦子「ふ~ん、ウフフ! いやいや、暑いもねえ」
蝶子「邦ちゃん」
邦子「ん?」
蝶子「家に寄ってきたんだ。先生からの手紙で、おばさん、少しは安心してたみたいだわ」
邦子「そうかい」
蝶子「『元気にしてたら、それでいい』って」
邦子「うん」
蝶子って、すごい空気読みだよね。
蝶子「はい。おばさんから預かってきたんだ」
邦子が封筒の中身を確認するとお金が入っていた。「手紙もなんもなし? あ、先生。チョッちゃんにあのこと話したかい?」
神谷「ん?」
邦子「童話のこと」
神谷「あ!」
蝶子「何さ?」
邦子「あ、お兄さん、なんもしゃべってないのかい?」
蝶子「いや、着いてすぐバタバタしてたもんだから」
神谷「道郎さんに預けた原稿ば出版社の人が読んでくれてね、作品の一つを雑誌に掲載してくれることになったんだわ」
蝶子「いやあ、本当かい!?」
神谷「あぁ」
邦子「出版社の人も『これからも書いたもん読ましてほしい』って、しゃべってるんだ。ねっ」
神谷「うん!」
蝶子「いやあ、よかったでない!」
邦子「よし! 今日は、お金もあることだし、外に食べに行こうよ。いいっしょ?」
蝶子「あ~、うん…」
邦子「ねっ?」
神谷「よし! じゃ、支度するか。安乃ちゃん、おいしい物、食べに行こう!」
うなずく安乃。
神谷「よし、行こう」
邦子「よ~し」
人の金という意識もなく即決する神谷。蝶子は2人の関係性に戸惑っている!? 相変わらず、田所君、先生と呼び合う2人。
<数日後のことです。安乃の仕事探しを頼まれていた連平が、いわくありげな2人を連れてやって来ました>
野々村家
連平「この間から話をしてました。坂本智太郎さんとこちらがお鈴さん」
坂本「坂本です」
鈴「山野鈴と申します」
戸田恵子さん!
連平「智太郎さんは岩本町で繊維問屋やってましてね、うちとは古いつきあいなんですよ」
坂本「というわけで」
連平「ですから、こちらの奥方とも私は顔なじみ。ね! 旦那」
坂本「ええ、まぁ。連平さんから話は行ってると思いますが、5年前からこれを、え~、根岸の方に、その、別宅をあれしまして、住まわせておりまして…」
蝶子「質問!」
坂本「はい?」
蝶子「前いた女中さんは先月やめたと聞きました。理由は何でしょうか?」
富子「いじめたとか?」
泰輔「逃げられたとか?」
鈴「違います!」
坂本「前いた子は嫁に行ったんで」
鈴「私は、おしめちゃんに『嫁に行っても来ておくれでないか』って頼んだんですよ」
坂本「『しめ』っていう女の子でして」
鈴「おしめちゃんも『できたらそうしたい』って言ってくれました」
蝶子「それがどうして?」
鈴「お連れ合いの住まいが千葉の在だというんで、しかたなく…」
泰輔「う~ん、なるほど」富子の表情を確認するよう見る。
連平「どうです? ここいらで安乃ちゃんに目通りって運びは。ね!」
なんとなくうなずき合う蝶子、富子、泰輔。
蝶子「連れてくる」
鈴「気に入ってくれるかねえ」
坂本「う~ん」
鈴「私、口下手だしねぇ」
外からセミの声がする。
蝶子が安乃を連れてきた。「こちらが昨日話した…」
安乃「こんにちは」
鈴「こんにちは!」
坂本「お名前は?」
安乃「彦坂安乃です」
鈴「いい名前だこと!」
泰輔「安乃ちゃん、こちらのねえさんのうちなんだけどね」
安乃「よろしくお願いします!」手をついて頭を下げた。
鈴「お前さん!」
坂本「じゃあ、私らも是非こちらを」鈴と共に頭を下げた。
蝶子「いじめたりしないね?」
鈴「そんなこと!」
連平「こちらは、ご心配いりませんて」
泰輔「じゃあ…うん?」
蝶子「うん」
安乃の手に自分の手を重ねた富子。「お頼みします」
鈴・坂本「はい!」
連平「決まりましたね。あ~、よかった」
<安乃の仕事が決まりました>
枯草の舞う夜。
<11月も末のある夜>
野々村家
長火鉢の前にいる泰輔と繕い物をしている富子。泰輔が富子のお猪口に酒を注ぐ。
富子「ありがと」
激しく戸を叩く音がする。
泰輔「ん?」
何度も戸を叩くので、2人して玄関へ。
富子「どなた?」
⚟女性「あの~」
富子「はい?」
泰輔「誰だい!?」
⚟女性「いや、それが…」
⚟要「ああ、俺です! 俺だぞ」
泰輔「どこかに木刀なかったか?」
⚟女性「岩崎要さんのお知り合いでしょうか?」
泰輔「え、あ~、はい」玄関の戸を開けると、要がなだれ込んできた。
要「お~っとっとっと」
泰輔「ああ~!」
要「あいたっ」
富子「何だい?」
要「あ、どうも! どうも」
女性「知り合いですよね?」
要「はい!」
泰輔「あ、ええ、まぁ」
要「ほら、だから言ったろ。ここはな、俺が大変に親しくしてる、うちなの」
富子「冗談じゃないよ!」
女性「じゃ、あと、よろしく」
要「おお、ご苦労!」
泰輔「ちょちょ、ちょちょ…」
要「さよなら!」
泰輔「あの、ちょっとね…」
要「ご苦労」
富子「どうすんのさ、これ」
泰輔「しょうがねえな。夢さんの部屋にでも。要さん、ほら!」富子、蝶子とともに茶の間へ運ぶ。
要「もう、飲めない…」
富子「靴、脱いどくれよ!」
泰輔「要さん、ほら、しっかり」
富子「チョッちゃん、すまないけど、表、閉めとくれ」
泰輔「要さん、ほら! 重たいねえ、この人は」
玄関に出た蝶子に耳に自転車のベルが聴こえた。「誰さ?」
暗がりから行李箱を抱えた頼介が出てきた。
蝶子「頼介君!」
茶の間
うどん?をすする頼介。富子がお茶をいれ、蝶子が出した。会釈する頼介。「あのあと、汽車、乗り継いで札幌に出たんだ」
蝶子「うん」
頼介「札幌でしばらく荷車引きして日銭稼いだ。それでやっと、なんとか汽車賃出来たんだ」
蝶子「東京には、いつ?」
頼介「3日前」
蝶子「その間、何してたんさ?」
頼介「…ここ探すのに手間どってな」
蝶子「そうかい」
富子「あの、お代わり」
頼介「いや、もう、ごちそうさまでした」
泰輔「外は寒かったろう」
お茶を飲む頼介。
蝶子「頼介君。安乃ちゃんは元気だ」
うなずく頼介。
泰輔「安乃ちゃん、いい人のうちに世話になってる。安乃ちゃん、自分から何でもするんで、そのうちの人、大喜びでね」
笑顔になる頼介。
朝、野々村家の前の路地を歩く夢助と安乃。
夢助「さあ、入った入った。安乃ちゃん、連れてまいりました!」
⚟泰輔「ご苦労さん!」
⚟富子「お帰り!」
夜、頼介が来て、朝になって夢助に使いを頼んだって感じ?
頼介が顔を出す。
安乃「兄ちゃん!」
頼介「うん!」
見つめる安乃。
頼介「うん。上がれ」
夢助「あの人、起こさないと」
富子も泰輔も頼介、安乃を見てニコニコ。
頼介「ありがとうございました」
蝶子「会えてよかった」
泰輔「うん」
また目を潤ませている富子。
要「あの~」茶の間に顔を出す。
泰輔「ゆうべは大変だったんですよ」
要「どうもすいません」
泰輔「フフッ、お茶でも」
要「すいません」なぜか蝶子のぴったり隣に座る。「久しぶりだね。しばらく見ない間に女っぽくなったかな?」
泰輔「ウフフフッ」
要の方を見ない蝶子。「何言うんさ、ねえ」富子に同意を求める。
同じく要の方を見ず、お茶を出す富子。「どうぞ」
要「あ」
蝶子は安乃の隣に移動。「頼介君は、このあと、どうするんだい?」
頼介「東京で仕事探すつもりだ」
蝶子「探すっていったって…」
富子「連平にまた頼むって手もあるよね」
泰輔「うん、うん」
蝶子「そうだね」
頼介「いや、そういうのは自分で」
蝶子「したけど」
頼介「自分のことぐらい自分でなんとかしないと」
蝶子「したっけ、たまには甘えてもいいんでないかい?」
頼介「やっぱし自分で」
要「いいなぁ。俺は、こういう男が好きだな」
ツーンと横を向く蝶子。
頼介「したら、俺は」
要「じゃ、俺も」
富子「そうね」
泰輔「いや、まあ…」
引き止めようとする泰輔の手をバシッとたたく富子。←いいぞ!
蝶子「またね!」
要は手にはめた紐のようなものをグルグル回して笑顔。
蝶子「頼介君」
頼介が照れたように手を少しあげて去っていった。
<東京は、もうすぐ冬を迎えようとしていました>(つづく)
川谷拓三さんの
けが のため
来週から野々村泰輔役は
前田吟さんにかわります。
へえ~! 川谷拓三さんが降板するのは知ってましたが、これから本格的に東京編が始まる序盤だとは思わなかったな。前田吟さん…まだイメージ湧かないな~。こないだまで「赤い激流」見てたしな…。
安乃ちゃんも昨日の公次くんも昭和の終わりの子役だから、今ほどの巧みさまではいかなくとも「えーん、えーん(棒)」みたいな子役ではないな。名演技!
最初の女学校編ののんびりさに比べると、月曜日、梅雨から始まり夏休み、そして今回で11月と割とポンポン進むようになった。頼介君と安乃ちゃんがもう再会するとは思わなかったよ。安乃ちゃんは個人の家のお手伝いさんでよかったね。
神谷先生は最初がいいイメージあったけど、要に関しては、まだ何というかよさがちょっとね…これからどうなるの!?
