あらすじ
蝶子(古村比呂)が歩いていると、突然見知らぬ男子学生(円崎一也)に声をかけられるが、強盗と勘違いした蝶子は慌てて逃げ出す。後でその話を聞いた叔父・泰輔(川谷拓三)と妻・富子(佐藤オリエ)は大笑い。ふたりはその男が蝶子に好意があったのだと諭し、蝶子は大いに照れる。ある日、佐々木光代(山下容里枝)と木村益江(山下智子)と学校から帰る蝶子の前にあの男が再び現れ、手紙を渡そうとするのだが…
2025.5.7 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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国松連平:春風亭小朝
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北山道郎:石田登星
小西幸夫:長谷川恒之
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木村益江:山下智子
佐々木光代:山下容里枝
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音楽教師:黒木優美
男子学生:円崎一也
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早川プロ
劇団いろは
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:川谷拓三
学校帰りの蝶子に学生服の男・小西が声をかけた。「あの…あの…」
蝶子は自分の着物のたもとを見る。
小西「あの…あの…いや、あの…」学帽を脱いで近づいてくる。やっぱりこの人、でかいな!
走り去る蝶子。
野々村家
泰輔と富子が笑っている。
蝶子「笑い事でないっしょ!」
富子「ごめん、ごめん、ハハハハ!」奥へ。
蝶子「あれは物取りかもしれないわ」
泰輔「あ?」
蝶子「したって、スリというのも東京には、いるっていうでない?」
笑いが止まらない泰輔。
蝶子「何がおかしいのさ!」
台所にいる富子。「ねえ、スアマとキンツバとどっちがいい?」
蝶子「キンツバ」
富子「うん!」
泰輔「あのね、チョッちゃん」
蝶子「ん?」
泰輔「叔父さんが思うに、その学生さんはチョッちゃんと口をききたいわけさ」
蝶子「なして?」
泰輔「いや『なして』って…おい!」奥にいる富子に呼びかける。
富子「そっちの方は、あんたが詳しいんじゃないの?」
泰輔「つまり、あれだ。チョッちゃんにおかぼれしてるんだな」
蝶子「え?」
泰輔「いや、好意を抱いてるわけさ」
蝶子「チョッちゃんを好きだってこと」
泰輔「そういうことさ」
蝶子「やだ~!」
富子「『やだ』ったって、ね?」また奥へ。
泰輔「その学生、口きいてだな、その、まあ、ゆくゆくは交際したいなと思ってるんじゃないのかな」
蝶子「なして交際しなくちゃなんないの?」
泰輔「しなきゃいけないってことはないけど…おう、来た来た」奥から富子がおつまみ?を運んできて、泰輔が富子のお猪口に酒を注ぐ。「まあね、チョッちゃん、年頃になると、そういう男が現れてくるもんさ」
富子「男は女を、女は男を気にするようになるんだねえ」
泰輔「恋というやつだ」
富子「う~ん」
きんつばを食べる蝶子。
泰輔「チョッちゃんもそういう年頃になったんだねえ」
富子「我が子だったら、こんなのんびりしたこと話せないんだろうけどね」
泰輔「そうかあ?」
富子「ああ、あんたなんか『うちの娘に声かけやがったの、どこのどいつだ』って、すっ飛んでくよ。フフフ。あっ! ねえ、チョッちゃんさあ、男の人、好きになったことある?」
蝶子「うん…」
富子「好かれたことは?」
蝶子「あ、ううん」
富子「あ~、両方、ある顔だ」
蝶子「いやいや、あれは好きっていうより尊敬に似たもんだから」
泰輔「学校の先生だ!」
蝶子「うん」
富子「好かれたの、誰に?」
蝶子「いや、多分、そう思うだけで…」
富子「滝川で?」
蝶子「うん」
泰輔「あ、頼介君?」
蝶子「あ…」
富子・泰輔「へえ…」
富子「まあ、しかし、その学生さんも、うぶだねえ。チョッちゃんの前に立つと何も言えなくなるっていうんだろ?」
蝶子「『あの、あの』ばっかし」
富子「フフフ、昔のあんたみたい」
酒を噴き出す泰輔。
富子「あんたがさ、この裏に下宿してた頃さ」
泰輔「俺の何がうぶだったよ」
富子「私に近づこうと思って、あの手この手使ってさ」
泰輔「知らねえなあ」
富子「フフン」
泰輔「酔ったな」
蝶子「話、聞きたい」
富子「あのね」
蝶子「うん」
富子「私のおっかさんがね、まだ生きてた頃、夜、ここにいるとね、『お土産です』な~んつって、すし買ってきたり、昼間は昼間で『まき割りましょうか』とかね、『何か手伝いましょうか』とか」
蝶子「へえ!」
泰輔「あれは下宿代、滞納してたからで」
富子「それ口実に近づいてきた。昼間、私一人になるとね、『今度、根津権現の縁日に行きませんか』とかって近づいてくんの」
蝶子「へえ~」
蝶子「行ったんかい?」
「ありがとう」の第1シリーズも上野が舞台だから、不忍池とか縁日とか話題には出てたけど何せオールセットだからなあ…(^-^;
富子「断ってばっかりいたら、かわいそうだから3回に1回はね」
蝶子「へえ~」
富子「そうだったね、ね?」
泰輔「忘れたね。よいしょ」立ち上がってお銚子を取りに奥へ。
富子「ほらね、チョッちゃん。男ってのは、ああしたもんなんだ」
泰輔「『ああしたもんなんだ』とは何だ?」
富子「ん? すぐ忘れるっていうの! (蝶子に小声で)お気を付けよ」
蝶子「叔母さんは叔父さんのこと嫌ってたんかい?」
富子「いや、嫌いってことはないけど、好きってほどじゃなかったね」
奥から戻って来た泰輔。「じゃあ、何で俺と一緒になったんだ?」
自分でお酒も用意するんだな~。富子にお酒も注ぐくらいだしね。
富子「あんたが風邪なんかひくからさ」
泰輔「何?」
富子「ウ~ウ~うなって寝てた時だよ。私、つい血迷って鍋焼きうどん作ってやったんだ。そしたらね、この人ったら、もう涙流して喜ぶじゃない。そしたらさ、女としちゃ、うれしくないわけないもんね。つい、グラリときたりするじゃない。まあ、そう、情にほだされたってことかね」
泰輔「あれ? じゃ、あれか? 情にほだされて、しかたなく一緒になったってわけか?」
富子「そうだよ」
泰輔「ああ、そうかい」
富子「そうさ」
泰輔「そういう了見なら分かった」
富子「何だい」
泰輔「たった今、このうちから出てってもらおうじゃねえか!」
蝶子「ちょっと!」
富子「何、言ってんのさ。ん? このうちは誰のうち? ん? あんたね、下宿人が私の亭主に昇格しただけじゃない。出てかなきゃなんないのは、あんたの方だよ」
蝶子「叔母さん!」
家があるっていいねえ。
泰輔は長火鉢に置いたお銚子を触って「アチチチチチ!」と耳たぶを触る。
昭和しぐさ! 蝶子も富子も笑う。
⚟道郎「こんばんは!」
蝶子「兄ちゃんだ! いらっしゃい。上がって、上がって」
道郎「こんばんは!」
富子「道郎さんも一杯いくんだろ?」
道郎「ええ、是非」
蝶子「兄ちゃん、いいとこ来てくれて助かったわ」
道郎「また、夫婦ゲンカ?」
泰輔「いや…」
富子「チョッちゃん、大げさなんだよ」お猪口を道郎に渡す。
泰輔「はい、まあ、ひとつ」お酒を注ぐ。
道郎「どうもすいません」
泰輔「よいしょ」
道郎「2階の田上さん、帰ってきてる?」
富子「まだみたいだね」
泰輔「何?」
道郎「小説書き上げたから読んでもらおうと思ってさ」
蝶子「どんな話?」
道郎「言わない」
蝶子「ケチ」
田上さんという下宿人がいるんだね。前回、俊道が下宿人が男ばっかりって言ってたのが気になってた。下宿人、夢助だけじゃないんだね。
富子「チョッちゃん、お茶」
蝶子「すいません」
泰輔「仕事探すって言ってたけど、どうした?」
道郎「なかなかいいのがなくて」
富子「いいのって?」
道郎「楽な仕事で働く時間が短くて給料のいい仕事」
泰輔「そんなのあるわけない」
蝶子「そうだ。兄ちゃんちょっと考え甘いんでないかい? そういう精神で人の心ば打つ作品書けると思うんかい?」
道郎「お前には分からないよ」
蝶子「すぐ、そう言って…」
道郎「お前、仕事で体力使ったら、疲れて、原稿書く気になれないだろ?」
蝶子「何やったって、書ける人は書けるんだ」
道郎「何、言いたいんだ?」
道郎は東京にいる時は訛ってないんだなーとふと思った。
泰輔「まあまあ、まあまあ、きょうだいゲンカは、やめ、やめ!」
蝶子「夫婦ゲンカは、いいんかい?」
泰輔「え?」
富子「あ、ハハハ! ねえねえ、道郎さん、ちょっと話聞いて」
道郎「はい!」
富子「今日ね、チョッちゃんね…」
蝶子「叔母さん!」
富子「いいじゃない、いいじゃない」
道郎「何か?」
富子「うぶな学生に接近されたんだよねえ!」
驚く道郎。
泰輔「その学生、チョッちゃんの前に来ても『あの、あの』しか言わないんだって。ね? けど、まあ、その学生、これから毎日でも待ち伏せすると思うな」
道郎「帰ります」
泰輔「え?」
富子「小説読んでもらうんじゃないの?」
道郎「妹の話をそっくり題材にしたと思われますよ」
蝶子「そんな話なんかい?」
ため息をつく道郎。「また、書き直しだ。おやすみ」
顔を見合わせる蝶子、泰輔、富子。
<チョッちゃんは例の待ち伏せの学生のいる道を避けて、今日から、もう一つの道を行くことにしました>
授業
教師「じゃ、北山さん」
蝶子「はい!」ピアノの前へ。
教師「じゃ、『ア』でね」
蝶子「はい」
教師がいくつかピアノで音を出す。
蝶子「♬ア ア ア ア ア ア ア」
教師がピアノの鍵盤をたたく。「この音が低いわね。出してごらんなさい」
蝶子「♬ア~」
教師「あのね、口、もっと開いて。おなかに力入れて。目もカッと開く! 顔つき気にしてたら声は出ません。目をしっかり開いて。頬骨を高くしなさい」
蝶子が頬を触る。
教師「そう。じゃあ、もう一度」
蝶子「♬ア ア ア ア ア ア ア」
教師「これまで音楽やってきたの?」
蝶子「いえ」
教師「それじゃ、遅いわね。みんな、ここに来る前に勉強してるんだから」
蝶子「したけど、私は例えばピアノを見たのは3か月前に初めてで」
クラスメイトから笑いが漏れる。
蝶子「笑うことないんでないの! みんな、違った環境にいたんだから」
益江「そうよ!」
光代「賛成!」
学生「俺なんか東京来て初めてピアノってもん見たクチだ」
益江「私なんて何年もピアノやってるけどね、ちっともうまくなんかなんないもんね」
教師が手をたたいて会話を止める。「そんなこと自慢になりません!」
笑われて、すぐ反論する蝶子がよい! 昨日、掃除に来いとか言ってた男子学生がピアノを見たことなかったのか!
帰り道、早足の蝶子たちの前に再び小西が現れた。
益江「例のあれ?」
うなずく蝶子。
光代「逃げよう!」
引き返す蝶子たち。
小西は学生服の第二ボタンを外して、懐に手を入れて、蝶子を見ていた。
石段を下りてきた蝶子。「益江さん! 光代さ~ん!」一人になって歩き出すと、また前に小西が! 懐から手紙を出して渡そうとした。「あの…これ」
蝶子「何ですか?」
小西「これを…これを!」
蝶子「私、ポストなんかでないです!」
小西「わ、わ、分かってます!」
蝶子「…したら!」走り去る。
野々村家
笑い転げる連平。「じゃ、チョッちゃん、何? チョッちゃんはポストじゃありませんって言ったの?」
うなずく蝶子。
連平「そしたら、相手も『分かってます』って言った!? へえ~!」
奥から出てきた富子。「人間、とっさの時は、すっとんきょうなこと口走るもんさ」
連平「だけどさ…」
富子「学生もうぶならチョッちゃんもうぶなんだねえ」
連平「そうだねえ。チョッちゃん、男だったら『明烏(あけがらす)』といきたいとこだな」
蝶子「『明烏』って?」
連平「落語の演題」
富子「およしよ」
蝶子「どういうこと?」
富子「郭話(くるわばなし)。まだ早いよ」
蝶子「『クルワ』って?」
連平「うん、あのね…」
富子「しゃべると怒るよ!」
連平「おお、怖! あ、そうだ、怖いって言えばさ、チョッちゃん、覚えてる? あの、ほら、こないだ映画館で紹介した岩崎要」
蝶子「バイオリンの?」
連平「うん。あいつにこないだ怒られちゃってさ」
蝶子「うん…」
富子「何の話?」
連平「いや、舞台からね、合図したって話、したら仕事の最中に、そんなことしちゃいけないっつってね、大変な騒ぎ」
蝶子「ふ~ん」
富子「ちょいと」
蝶子「あのね…」
連平「いやね、あたしとあいつの違いは、ここだね。あいつはね、仕事になると鬼になっちゃうの。ま、女に対しても鬼だけどさ」
蝶子「そんな感じ」
連平「いや、だけどね、違うんだよ。あいつの場合、しょうがないの。黙ってても向こうから近づいてくんだから」
富子「へえ、あんたと大違いだね」
連平「ほっといてくださいよ、そんなこと、ホントに。そら、確かに違いますよ。あたしの場合はね、じっとしてれば女が近づいてこないの。そのかわり、あたしがね近づいていくと女が逃げちゃう」
蝶子「なるほどね」大きくうなずく。
<その翌日のことです>
洗濯していた蝶子。
⚟連平「ごめんよ! ごめんよ!」
蝶子「は~い!」
玄関へ出た蝶子。「どなたですか?」
連平「社長か、おかみさんいる?」後ろには要がいる。
蝶子「あ、叔父さんは仕事だし、叔母さんは、ちょっと買い物」
連平「あ、そう」
蝶子「あの…」
連平「あたしは、これから仕事だしな。チョッちゃん、悪いんだけどさ、しばらくの間、要さん、預かってもらいたいんだよ。いや、預かるといってもね、うちに置いといてくれればいいの。あたし、仕事終わったら、またすぐに来るから。それまでに頼むよ。要さん!」
蝶子「したっけ…」
連平「じゃ、また後で」
要「ああ」
連平「チョッちゃん、頼むよ」玄関の戸を閉め、行ってしまった。
玄関に残された要。「上がってもいいのかな?」
蝶子「あ、あ…どうぞ」
正座する要。「よろしく」
<これが2人の2度目の出会いでした>(つづく)
東京編が始まり、北海道編が意図してゆったり進めていたように思う。セリフの量が違うもね! ここらで要の印象が変わるシーンでもあるのかな!?
