NHK 1987年4月24日(金)
あらすじ
蝶子(古村比呂)の元に幼なじみの彦坂頼介(杉本哲太)がやってきたことは、「いいなずけが来た」「逢引きした」「部屋にあげた」「結婚式の日取りを決めた」など、校内に尾ひれが付いた噂となって、瞬く間に広がってしまう。そのきっかけは親友・邦子(宮崎萬純)のちょっとした冗談だった。ついに蝶子は担任の神谷(役所広司)と、寄宿舎で生活指導を担当する川村(中原理恵)とともに校長室に呼び出されてしまう。
2025.4.11 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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神谷容(いるる):役所広司
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北山みさ:由紀さおり
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川村市子:中原理恵
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彦坂頼介:杉本哲太
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田所邦子:宮崎萬純
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熊田剛造:津嘉山正種
ユーリー・ゴドノフ:東銀之介
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飯島加代:蛯名由紀子
遠山伊佐子:紘川淳
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斉藤峰子:江馬小百合
石井スエノ:仁科扶紀
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山口フサ:土屋里織
高畑品子:大滝久美
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鳳プロ
劇団いろは
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北山俊道:佐藤慶
<実は今日、チョッちゃんに滝川の家から荷物が届いたんです。しかも、わざわざ届けに来たのは彦坂頼介だったんです>
同室の仲間の前で荷物を広げる蝶子。「わあ~、お菓子!」
邦子「あ~、やっぱしね! チョッちゃんの家から荷物届くと必ずお菓子入ってるもんねえ」
蝶子「これは、後」
伊佐子「あ! 手紙」
邦子「頼介さんの恋文だ」
伊佐子・加代「え~っ!?」
蝶子「母さんからだ」
邦子「な~んだ」
スエノが部屋に入って来た。「今日、チョッちゃんの恋人が来たんだって?」
蝶子「違うわ!」
邦子「許婚」
スエノ「えっ!」
蝶子「邦ちゃん!」
スエノ「違うのかい?」
蝶子「違うの!」
スエノ「したけど、随分と長話、してたっていうんでないの」
蝶子「誰が?」
スエノ「みんな噂してるわ」
蝶子「滝川から、わざわざ来てくれたんだもん」
スエノ「会いに?」
蝶子「荷物届けに! 家のこととか、いろいろ、話、聞いてたから」
スエノ「ふ~ん!」
邦子、立ち上がり「頼介さ~ん!」と手を振る。
蝶子「何さ!」
蝶子は寮の階段に腰掛けて手紙を読む。
みさ「蝶ちゃん、手紙を見せていただきました。父さんにも、たみさんにも品子さんにも見せました。だけど、父さんは、なんも言いません。それから、進路のことですが、焦らないことです。それともう一つ、今度こちらに手紙を出す時は父さん宛てにしてください。母さん宛てに来ると、父さんは不機嫌になります。そのこと、何とぞお願いします」
⚟川村「洗濯物、途中で放ってるの、誰ですか?」
⚟生徒「北山さんで~す!」
⚟川村「北山さ~ん!」
蝶子が返事をする。
⚟川村「北山さん、洗濯物、放りっぱなしですよ」
蝶子「は~い!」
この時代の冬の洗濯…考えただけでも恐ろしい。
北山医院診察室
品子「先生、明日は朝から忙しいですよ」
俊道「何があった?」
品子「まず、神明(しんめい)の郭(くるわ)で淋病の検査。午後は第一小学校で身体検査。そのあとは…」
北山家
みさ「頼介さん、ご苦労さまでした」
頼介「いえ」
みさ「掛けて」
頼介「はい」
みさ「蝶ちゃんに会えた?」
頼介「はい。ちょうど寄宿舎にいらして…元気そうでした」
みさ「そう」
頼介「はい」
みさ「何か言ってなかったかい?」
頼介「いや、なんも」
みさ「そう」
頼介「心配することないと思います。はい」
品子「あ、ホント、頼介さんだ」
頼介が立ち上がって頭を下げる。
品子「いや、先生が『頼介さん来てる』って、おっしゃるもんだから」
みさ「なして、分かったの?」
品子「あ、頼介さん」
頼介「はい」
品子「先生、『来てください』って」
頼介「あ、はい」
みさ「上がってください」
診察室
品子「先生、やっぱり頼介さん、来てました」
俊道「う~ん」
⚟頼介「頼介です」
俊道「おう」
頼介が診察室に入って来た。
俊道「品子君、頼介君に渡す薬、調合しといて」
品子「はい」
俊道「岩見沢に行ってきたんでなかったのかい?」
うなずく頼介。
俊道「みさに頼まれて、蝶子のとこへ。何もとがめてるわけではないんだ」
頼介「行ってきました」
俊道「うん」あごで椅子を指し、頼介が座る。「馬ソリで行ったんかい?」
頼介「汽車で行きました」
俊道「ほう、したら、初めての汽車でないか」
頼介「はい」
俊道「どうだった?」
頼介「晴れがましかったです」
俊道「よかったでないか」
頼介「蝶ちゃんにも、そう言われました」
俊道「あれは…どんなふうだった? 蝶子は」引き出しからキャラメルの箱を取り出す。
頼介「元気でした。訪ねていった時、ちょうど洗濯の途中だったらしく、タスキかけてました」
俊道「蝶子が洗濯をねえ」キャラメルの箱を差し出し、頼介が受け取る。「何か言ってたかい?」
頼介「別になんも…」
教室
蝶子「おはよう!」
一同「おはよう!」
峰子「チョッちゃん、聞いた、聞いた! 昨日、男の人とあいびきしてたんだってかい?」
蝶子「あいびきってことになってんのかい?」
峰子「婚約者が滝川からわざわざ訪れて結婚式の日取りまで決めてったっていうでない!」
蝶子「ええ~っ!」
邦子「おめでとう!」
フサ「あれ? ただの恋人でなかったの?」
スエノ「許婚よ、ねえ!」
峰子「みんなの噂では、そうだ」
蝶子「そうよ、そうよ。あの人は許婚です。結婚します。式の日取りも決まりました。これでいいのかい?」
峰子、スエノ、フサ「…」
蝶子「邦ちゃん…」
邦子「あのね、これ、ウソだからね。今のチョッちゃんの冗談」
フサ「最初に許婚って言いだしたのは邦子だ!」
峰子「もうあれだ。学校中に広がってるわ。北山蝶子が男の人、寄宿舎に呼んだ、とか何とか」
蝶子「そんな~!」
神谷が教室に入ってきて、席に着く生徒たち。
伊佐子「起立! 礼!」
一同「おはようございます」
神谷「おはよう。北山君!」
蝶子「はい!」
神谷「だいぶ騒がれてるらしいね」←面白がってる。
蝶子「先生までからかうんですか!?」
神谷「あ、すまんすまん」
<しかしまあ、噂というものは怖いもので変な尾ヒレがついて、ついには校長の耳にまで入ってしまったんですねえ>
校長室
蝶子「それは誤解です! 昨日、寄宿舎に来た人は、こ、こ、恋人でも許婚でもありません! 呼びつけたわけでもなし、部屋に上げたなんて、とんでもないです!」
川村「それは私が確認してます。北山さんと来訪者は面会室で会いました」
熊田「そう」
蝶子「大体、昨日来た人は私の幼なじみです。ではありますが、それだけではなく、父の往診を手伝ってくれたり、いわば親戚づきあいしてる人です」
熊田「何しに来たんだね?」
蝶子「母に頼まれて衣類などを届けに」
熊田「滝川からわざわざ?」
蝶子「はい」
神谷「したけど、滝川からなら、わざわざという距離じゃないっしょ」
調べたら、今は電車で40分くらいの距離だった。
熊田「いや、私が言いたいのは、なして小包で送らないのかということだ」
蝶子「それは…」
神谷「それは家の人の勝手でないですか?」
熊田「したけど、変でないか?」
神谷「変ですか?」
熊田「変だわ」
川村「そうでしょうか?」
熊田「うちの人が子供の様子を見がてら荷物を届けるっていうんなら分かるよ。それをだな、他人にわざわざ届けさせるなんてな。それだったら小包で送ってもいいんでないか?」
神谷「したから、そういうことは家の人の勝手ではないかと言ってるんです」
熊田「大体、男子禁制の寄宿舎に若い男が来ること自体、どうかと思うんだ」
川村「男の人が…つまり、生徒の家族関係の男の人が寄宿舎を訪れるということは、これまでに何度となくありましたが、間違いは一度もありませんでした」
神谷「それに面会室で会ってるっていうことですし、問題ないんじゃないですか?」
蝶子「私も小包で送っていいんでないかと思いました」
熊田「そ…そうなんだよ」
蝶子「したけど、昨日来た人は母に頼まれて来たんです。その人は滝川の外に一度も出たことのない人です」
熊田「え?」
蝶子「汽車にも一回も乗ったことのない人です。母はそのことも知ってます。だから、母はその人に荷物持たせたんです。セーターを送ってほしいっちゅう、私の手紙見て、母はその人を汽車に乗せてやれるいい折りだと思ってわざわざ届けさせたんです。それでよかったなって、私、思ってます。汽車にも乗れたし、知らない町にも来れたし、それでよかったなって、私、思ってます」
笑顔になる神谷。
蝶子「それでも寄宿舎に来ていけなかったんでしょうか?」
神谷「校長の耳には、どういうふうに伝わったか知りませんが、北山君を呼ぶ前に噂の実態を調べてみるべきでした」
熊田「もう行っていい」
神谷「はい。行こう。失礼します」川村、蝶子も頭を下げる。
教室からどんどん人が帰っていく。蝶子は机で何か書いている。
邦子「チョッちゃん、怒ってる?」
蝶子「そうだ! 邦ちゃんのせいだ! 邦ちゃんがみんなに変なこと言ったから!」
邦子「したけど、滝川で頼介さん紹介してくれた時、チョッちゃん、許婚だって言ったっしょ?」
蝶子「冗談だぐらい、分かったしょや!」
邦子「したから、私も冗談のつもりで…」
頬を膨らます蝶子。
邦子「したけど、頼介さん、チョッちゃんのこと好きなんでない?」
蝶子「あ?」
邦子「あのまなざし、あの態度、あれは…」
蝶子「頼介君は昔からああなの。小学校、上がる前からの幼なじみだ。ずっとああいう人なんだ」
邦子「ふ~ん」
蝶子「うん」
邦子「まだ?」
蝶子「先帰ってて」
邦子「したけど…」
蝶子「書き終わったら、郵便局、行かんきゃなんないし」
邦子「うん。したら、帰るわ」
蝶子「気ぃ付けて」
邦子「うん!」
学校と寮って隣接してるのかと思ってた。
蝶子は手紙を書いていた。「母さん、荷物、昨日受け取りました。お菓子は、みんなにお裾分けして喜ばれました。それにしても頼介君が届けてくれたのには驚きました。驚いただけでなく、学校中で変な噂になり、校長先生にも呼び出され、困ってしまいました。変な噂というのは、私と頼介君が恋人同士だとか許婚だとか、いろいろでした。事情を説明して事なきを得ましたが、私はいたたまれませんでした」
郵便局へ行き、3銭切手を1枚購入した蝶子。
手紙の続き「母さん。頼介君のことを思ってのことだとは、よく分かりますが、頼介君をこちらに来させることは二度としないでください。お願いします。それと今回は内容が内容なので手紙の宛名は、やっぱり母さんにしました」
3銭切手を貼った、みさ宛ての手紙を窓口に出した蝶子。「お願いします」
郵便局員「どうしたの?」
蝶子「あ、いえ」
郵便局員「出すのかい? 出さないのかい?」
蝶子「やめます」手紙を破いて屑籠へ。3銭切手~!
<チョッちゃんは、こんなことで慌てふためいた自分の狭さが嫌になったのかもしれません。見に覚えのないことだから毅然としてればいいんだ。そう思ったのかもしれません。母の好意や初めて汽車に乗った頼介の喜びに水をさしたくないと考えたのかもしれませんね>
蝶子は歩きながら歌い出す。
♪うそをついて だますばかり
メロディは「女心の歌」っぽい。
蝶子はパンの屋台の前を通りかかり、通り過ぎたが、「1つください!」と話しかけた。
ユーリー「はい!」
蝶子「5銭だよね?」
ユーリー「はい」手渡しでパン!
蝶子はユーリーにお金を渡す。「ここで食べていいですか?」
ユーリー「どうぞ」
パンを二つに割って食べる蝶子。「おいしい!」あんぱん?
ユーリー「どうもありがとう」
蝶子「ホントにおいしい。おじさん、ロシア?」
ユーリー「そう」
蝶子「売れてるかい?」
ユーリー「あんまりね」
蝶子「こんなにおいしいのに」
ユーリー「冬だから、人、外へあんまり出ないんだよ」
蝶子「学校には人いるわ」
ユーリー「ん?」
蝶子「そうだ! 昼休み、学校に来たら売れるわ。ねえ、おじさん、おいで! こんなにおいしいもん、私だけ食べるのもったいないと思うんだ」
ユーリー「学校ね?」
蝶子「高女なの。分かる? 高女」
ユーリー「はい、はい」
蝶子「したら、昼休みに正門でなく、東側の小さな門があるから、そこに!」
ユーリー「はい」
<こんなこと勝手に決めていいのかな…チョッちゃん>(つづく)
校長に前から目ぇつけられて、また火種が…

