NHK 1987年4月17日(金)
あらすじ
蝶子(古村比呂)と俊道(佐藤慶)は、三日も口を利かないほど険悪なまま。頼介(杉本哲太)と道郎(石田登星)は五目並べをするが、頼介は蝶子のことが気になり、道郎は俊道が自分のことをなんて言っていたのか気になり、勝負に身が入らない。蝶子は気晴らしに頼介に馬そりに載せてもらい、頼介の家に行く。頼介は気になっていた蝶子の進路について尋ね、畑仕事を放り出したくなった気持ちについて、蝶子に打ち明けるが…。
2025.4.4 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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北山みさ:由紀さおり
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彦坂頼介:杉本哲太
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彦坂いせ:左時枝
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北山道郎:石田登星
北山俊介:伊藤環
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山本たみ:立原ちえみ
高畑品子:大滝久美
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彦坂安乃:近藤絵麻
彦坂公次:中垣克麻
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早川プロ
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北山俊道:佐藤慶
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野々村泰輔:川谷拓三
木曜日なのにロングバージョンだった!?
雪道でソリ滑りをする俊介と蝶子。
俊介「押してよ!」
蝶子「よ~し、行け~!」
俊介「うわ~、どいて、どいて!」
蝶子「あ~、あ~、あ~!」
ソリごと横に転ぶ俊介。
蝶子「下手くそ!」
立ち上がってにらみつける俊介。
蝶子「早くソリ持ってきてや!」
俊介「やだよ。取に来ればいいっしょ!」
蝶子「よし!」スコップに乗って滑りだす。「どいて~! ぶつかるよ~!」俊介にスコップを渡して、ソリを持って歩く。
<表面こそ元気そうにしてますが、チョッちゃんの胸の内は実は沈んでいます。今後の進路のことで対立して以来、父親である俊道氏とは今日で3日も口をきいていないんです>
診察室
品子「お願いします」
公次「こんちは!」
俊道「おう、公次か」
公次「はい!」
俊道「1人で来たんか?」
公次「兄ちゃんと来たんだ」
俊道「そうかい」引き出しからキャラメルを取り出し、渡す。「これ、後で食べれや」
公次「ありがとう!」
羨ましそうな顔で見ている品子に気付いた俊道が箱を渡す。「あ、すみません」
俊道「どれ? う~ん」と目を診察。品子は箱ごと!袖の下にいれる。
道郎の部屋
道郎「ま、いいから入ってや」
頼介「お邪魔じゃないんですか?」
道郎「いいんだ、いいんだ。こっちは暇なんだから」
頼介「え?」
道郎「あ、いや。ま、いいから座ってや」コタツをどかし、碁盤を置く。「さ。ジャイケンショ」
道郎が変則チョキ、頼介がグーを出した。
頼介「じゃ、黒を」黒の碁石を置く。「道郎さんも医者の先生になられるんでしょ?」
道郎「え? ああ」
頼介「先生、楽しみにしてらっしゃるもね。医者の試験受けるには、こんなに本読まんとうまくないですか」
道郎「どうかね。おやじ…ほかに何か言ってなかったかい? 俺のこと」
頼介「おっしゃってるわ」
道郎「何て?」
頼介「いや…」
道郎「正直に言ってくれていいぞ。こっちは何言われたって平気なんだ」
頼介「何も悪いことおっしゃってません」
道郎「どうせ褒めもしてないだろうさ?」
頼介「『自分の専門は産婦人科だと。医者いない頃に滝川に来たから内科や外科もやったけど、これには限度がある』って言われてたわ」
道郎「うん」
頼介「道郎さんには、したから『内科とか外科とか、ほかの専門医になってもらって滝川で腕振るってほしい』って」
道郎「…」
頼介「『医学は日に日に進歩すっから道郎さんには期待してる』って言っておられたわ」
道郎が碁石を置く。
頼介「僕です」
道郎「あ…」
頼介「蝶ちゃん、今日、居ないみたいですねえ」
道郎「どっか出ていったんでないか? あいつは、うちの中より外が似合うな。うちの中におさまり返るより社会に出ていくのが好きな性格だべな。あいつが男だったらなあ。頼介君は蝶子、どう思う?」
頼介「え?」
道郎「幼なじみとしては」
頼介「…いや、別に」碁石を置く。
道郎「俺の番だ」
頼介「あ、すいません」
道郎「まさか、あいつを好きだなんてことは…?」
頼介「とんでもないです!」
道郎「幼なじみ同士が思春期を迎え、恋心を抱き合うようになる。そういう小説は、いくらでもある」
頼介が碁石を置く。
道郎「俺だって!」
頼介「あ…」
道郎「頼介君」
戸が開き、蝶子が入って来た。「やっぱし五目並べか! 何勝何敗さ?」
道郎「まだ始めたばっかしだ」
蝶子「ふ~ん」頼介の隣に座り、汗を拭き始める。
道郎「汗かい?」
蝶子「ウフフ、ソリ滑りしてたんだ」
道郎が碁石を置く。
蝶子「そこ?」
道郎「ダメか?」
蝶子「いいんだ、いいんだ、間違えた」
道郎「横から口出すな!」
泰輔が入って来た。「あ、囲碁?」
蝶子「五目並べだ!」
泰輔「やあ」
頼介「彦坂頼介っていいます」
泰輔「ああ、いつもお世話になってまして」
蝶子「東京の叔父さん」
泰輔「よろしく」
頼介「どうも」
蝶子「叔父さん、頼介君、偉いんだ。病気のお母さんときょうだいば一人で支えて頑張ってんだよ」
泰輔「そう」
蝶子「どうしたの?」
泰輔「ん?」
蝶子は立ち上がって泰輔の顔を見る。「あ…顔色、悪いわ」
泰輔「ああ、いや~いや…それでね、道郎君」
道郎「はい」
泰輔「東京には…東京には、いつ戻るの? うん、しばらくこっちにいると言うなら、叔父さん、先に帰るし…」
蝶子「あれ、石炭の試し掘りの方は?」
泰輔「うん、今、連絡入ってね、大きな脈のある望みは、ないんだって。ハハハハハ!」
道郎「じゃあ、2~3日後には発ちますか?」
泰輔「うん」
帰り支度している頼介と公次。
たみ「奥様が頼介さんにって。もらい物の魚とか米とか」箱を渡す。
頼介「いっつもすいません」
たみ「なんもだ」
蝶子「頼介君! 馬ソリで来てるっしょ?」
頼介「うん」
蝶子「乗せてや! 雪の上、ワ~ッて突っ走りたいんだ!」
頼介「うん、分かったわ!」
雪原を走る馬ソリ。美しい~。
蝶子が「野ばら」を歌う。「頼介君、もっと早く!」
頼介「よ~し! それ~!」馬のスピードアップ!
彦坂家
公次「ただいま!」
安乃「お帰り!」
奥の間に寝ているいせ。「兄ちゃんは?」
公次「来たわ」
蝶子「おばさん、こんにちは」
いせ「ああ! 蝶子さん」
蝶子「その後どうですか?」
いせ「あ、おかげさまで」
蝶子「なんもだ」
頼介「また頂いたわ」箱を見せる。
体を起こし、布団から出てきたいせ。「ホントにまあ、いつも、いつも」
蝶子「おばさん、なんもだ! あ、ご飯の時、来てしまったんだ?」
頼介「もしよかったら食べてくかい?」
いせ「いや、大したもんないけど」
蝶子「私、いい」と言ったものの、腹が鳴る。「そういえば、昼ごはん食べてなかったわ」と笑うと、安乃や公次も笑う。「安乃ちゃん、作ってんのかい?」
安乃「うん」
蝶子「よ~し、私が作る」
いせ「いや、そんな…」
蝶子「いいの、いいの。あ、雑煮かい? これなら大して失敗することないわ」
待合室
俊介「『街角に立って待ちましょう。現れるのは、あの人かもしれない。ほら、恋の歌を歌いながら』」
俊道「何の本だ?」
俊介「お姉ちゃんのさ」うつぶせで読んでいたが、起き上がって正座する。
俊道「貸してみなさい」本の表紙を見る。「『明眸(めいぼう)』?」
本をペラペラめくる俊道。俊介は待合室を出ていった。
俊道「『待ちぼうけ』北山蝶子」
蝶子のナレーション
街角に立って 待ちましょう。
現れるのは あの人かもしれない。
ほら 恋の歌を歌いながら。
彼の足音が近づいてくる。
茶の間に行った俊道は昼食中のみさ、道郎、泰輔のいる食卓の上へ本を広げた。「これ、見れや!」
泰輔「へえ、チョッちゃん文も書くのか?」
みさ「これが?」
俊道「何だ、これは。恋とか愛とか」
泰輔「『待ちぼうけ』?」
俊道「『あの人』ってのは誰だ? 『彼』ってのは何者だ?」
みさ「さあ…」
俊道「『さあ』って、蝶子は何もしゃべってないんか?」
みさ「はい。これが何か?」
俊道「何かって、お前、何ともないんか?」
道郎「父さん、これは詩ですよ」
俊道「そんなことは分かってる!」
道郎「したから、こういう『彼』とか『あの人』とか書いてあっても、実際に存在する誰かとは限らないんです。あくまで文学上の表現であって、例えば『希望』とか『幸せ』とかいう抽象的なことを『あの人』とか『彼』とかに置き換えて表現すること、よくあるんです」
泰輔「なるほど」
道郎「例えば、去年自殺した芥川龍之介の作品の『トロッコ』ですけど…」
俊道「道郎」
道郎「は?」
俊道「お前、文学書に詳しいんか?」
道郎「いえ」
俊道「医学書の代わりに文学書を読んでるのか?」
泰輔「そりゃ、だって…」
道郎「ああ! 叔父さん」
俊道「何だ?」
道郎「いや」
俊道「泰輔君、道郎は東京で…」
泰輔「え? はい」
俊道「いや」立ち上がって、部屋を出ていった。
<危ない、危ない>
彦坂家
土間で作業する頼介。公次は読本を読み、安乃は外で蝶子と羽根つきしていた。
安乃「うわ~、また勝った」蝶子の顔に墨で×をつける。
外に出てきた頼介が「安乃、勘弁してやれ」と声をかけた。
安乃「うん」
蝶子「ありがとう。ちょこっと休もう」
安乃「うん」羽子板を持って家の中へ。
頼介「蝶ちゃん、そろそろ岩見沢に行くんだべ?」
蝶子「そうなんだ」
頼介「卒業したあとのことは? 音楽の方に進みたいっちゅう…」
蝶子「結論は出ず」
頼介「先生、反対してもやるんかい?」
蝶子「たださ…東京には行きたいなあって。ほら、泰輔叔父さんの話聞いてると、東京には見たことないもんが大していっぱいあるんだ。知らない世界を見てみたいんだ。頼介君には、そういうのないかい?」
頼介「あるさ」
蝶子「うん」
頼介「したけど、諦めるんだ」
蝶子「なして?」
頼介「俺には、おふくろや妹や弟がいるっしょ。それに土地もあるしね。俺、実は、この前、畑仕事放り出したくなったんだわ」
蝶子「なして?」
頼介「ハッ…今年、生活、楽になるって分かれば別だ。石沢牧場の嘉一さんも先生も心配してくれたわ。嘉一さんは『土地手放して牧場で働け』とも言ってくれたんだ。その方が今よりましってことは分かるんだ。したけど、土地はね…おやじ生きてた時から切り売り切り売りして10分の1になった土地だけど、おやじや俺が汗水垂らした土地なんだって思うと手放すのがいたましくて…」
蝶子「うん」
頼介「それに…人の厚意にばっかり甘えていられないっしょ。そういう人いると、ついつい頼りにして、俺、ダメになっていくんでないかって…こっから逃げたら楽だ。したけど、逃げたら俺、いつまでも逃げる人生送るんでないかって。この前、先生の寂しそうな顔見たんだわ」
蝶子「父さんの?」
頼介「先生、音楽のことで反対したんじゃないんでないかい? 蝶ちゃんが『東京に行く』って言うんで…寂しいべさ、そりゃ」
蝶子は、その辺の雪で顔をゴシゴシ。
頼介「誰かが去るっちゅうことは身近にいた人が去るっちゅうことは寂しいもんだべ、蝶ちゃん。きっと先生もそうだわ」
ハンカチで顔を拭く蝶子。
馬ソリ、いいなあ~。
診察室
泣いている子供を抱えて入って来た品子。俊道は泣いている子供と母に連れられた子供にそれぞれキャラメルを渡した。「すぐ終わるからね」
北山家前
蝶子「どうもありがとう。おばさんたちによろしくね!」
頼介「したら!」馬に向かって舌鼓(ぜっこ)…っていうのね。
蝶子「気ぃ付けて!」
振り向いた頼介は荷台に蝶子のハンカチが乗っていることに気づき、馬ソリを止めた。
蝶子「何? なしたのさ!」
頼介「なんもだ!」ハンカチを懐にしまって走り出す。
蝶子「さいなら! さいなら!」
<頼介の恋心などチョッちゃんは気付いていませんでした>(つづく)
思春期に書いた詩を家族に見られる…おおぅ! 字幕に色がついてないから分かっちゃいるけど頼介、切ないなあ。


