フジテレビ 1983年1月21日
あらすじ
明美(樋口可南子)から、西洋館の変な男(山崎努)が死んだはずの実の父だと聞き出して、和彦(鶴見辰吾)は動揺した。 その男、写真家沢田竜彦は、十八年前、和彦をみごもった母の都(岩下志麻)を捨てたのだ。 そして十年前、都は和彦を連れ、いまの父、省一(河原崎長一郎)と結婚した。 中学一年の妹、良子(二階堂千寿)はその時省一が連れていた娘だった。受験勉強も手につかず、大晦日の夕方、和彦は西洋館に竜彦をたずねた。
2025.3.13 日本映画専門チャンネル録画
和彦<僕の母は10年前、小学校2年の僕を連れて、今の父と結婚をした。父のほうには2歳になったばかりの良子がいた。そして10年、今は、ごく平凡な家族だ。僕の本当の父はとっくに死んだと言われていた。その男は母と適当に遊んで母から逃げ出したのだった。結婚もしなかった。母は、しかし、そいつの子供を産んだ。それが僕だ。それから18年、今更、僕らの前に現れる資格はない。どんな事情があろうと、そんな男に今の僕らの家庭をかき乱す資格はない。そう…そう僕は思った>
脚本:山田太一
*
音楽:小室等
*
プロデューサー:中村敏夫
*
望月都:岩下志麻…字幕黄色
*
望月省一:河原崎長一郎
*
望月和彦:鶴見辰吾
望月良子(よしこ):二階堂千寿
*
三枝多恵子:荒井玉青
磯山:大林隆介
渡辺:高村玄二
*
下坂泰雄
高瀬仁
堀真一
*
中真千子
*
店主:日野道夫
店主:久保晶
店主:桐原史雄
*
宇都宮英世
三田恵子
古賀プロ
*
*
沢田竜彦:山﨑努…字幕水色
*
協力:相模鉄道
*
写真提供:倉田精二
「フラッシュアップ」
(白夜書房 刊)
*
演出:河村雄太郎
*
製作・著作:フジテレビ
日野道夫さん、久保晶さん、桐原史雄さんは「岸辺のアルバム」にも出てたな。
ま、日野道夫さんといや、矢場さんだけど!
毎回オープニングに出てくる写真にギョッとしてしまう。
夜、和彦の部屋のドアを良子がノックした。「お兄ちゃん、お母さんがね『大晦日なんだから窓拭きなさい』って」ドアが閉まっている。「開けてよ! 返事ぐらいしなさいよ。なによ、さっきから」
都が下から「良子が拭いてあげればいいでしょう?」と言うと、良子が階段を降りてきて、和彦が鍵をかけて返事も全然しないので、勉強してると思う?と都に聞いた。都はあきれ、今度は都が和彦に呼びかけた。
和彦は外を歩いていた。
良子「寝てるのよ、絶対。人が勉強してると思って遠慮してりゃ、いい気になって」
部屋の鍵を開ける都。「ちょっと黙って。おかしいわよ、こんな騒いでんのに」
良子「お兄ちゃん?」
部屋に入ると電気はついているのに誰もいなかった。
和彦「こんばんは」と声をかけて電気をつける。「こんばんは!」
⚟竜彦「誰?」
和彦「僕です。望月和彦です。先日伺った、あの…もんです。話があって来ました。大晦日だし、来年になる前にちゃんとしてきちんとしとかないといけないと思って来ました。あの…」
⚟竜彦「何をきちんとするんだ?」
和彦「上がってって、いいですか?」
毛布をかぶって竜彦が階段を降りてきた。
和彦「こんばんは」
竜彦「2階のストーブは石油切らしてな。おいで」
ダイニング
テーブルの上は乱雑で竜彦は椅子に座り、ウイスキーをラッパ飲みし「なぜ立ってる?」と声をかけた。
和彦「いえ」
竜彦「かけろよ」
洋館だけど台所は庶民っぽい…のは「顔で笑って」もそうだったな。竜彦は立ち上がり、水を飲んだ。
和彦「あの、実は…」
竜彦「待て待て待て。飲むか? ウイスキー」
和彦「いえ、僕は、まだ…」
竜彦「フッ…」
和彦「あの…実は新村明美さんに会いました」
竜彦「待てよ」
和彦「はぁ?」
竜彦「今、何とか言ったな?」
和彦「えっ…」
竜彦「『ウイスキー飲むか?』と言ったら『まだ』と言った。『僕はまだ』と言った」
和彦「いえ、僕は…」
竜彦「まだ高校生だからということか?」
和彦「くだらなく思えるでしょうけど」
竜彦「いいや」
和彦「法律がどうのというんじゃなくて、実際問題として受験があるし」
竜彦「俺はちっともくだらねえなんて思っていねえよ」
和彦「そうでしょうか?」
竜彦「いいや。自分を抑えるということは、いいことだ。そうやって少しずつ何かを諦めたり我慢したりする訓練はしなきゃいけない。そういうことをしねえと人間、魂に力がこもらねえ。しょっちゅう好きなようにしてちゃ、肝心なときに精神にあんた…力がねえ。何かをドカンとやることができねえ」
和彦「はい…」
ため息をつく竜彦。「『高校生だから酒は飲めません』『女房がいるから、ほかの女とは寝ません』『立ち小便はしません』『満員電車で屁は、たれません』そんなことは、みんなくだらねえことだ。しかしな、そういうちっちゃなことで自分を抑える訓練をしておくことは絶対に必要だ。そういう訓練をしなかったヤツは肝心なときに自分を抑えることができねえ。『これだけは言っちゃいけねえ』なんてこともしゃべっちまう。しゃべらないまでも顔に出ちまう。そういう安っぽい人間にやっちまう。毎日、自分を抑える訓練をしなきゃいけない。自分を抑える我慢をする。すると、魂に力が蓄えられてくる。『映画が見たい』1本我慢する。2本我慢する。3本我慢する。4本目に『これだけは見たい』と思う。見る…そりゃあんた…見る力が違う。見たい映画、全部見たヤツとは集中力が違う。そういう力を蓄えなくちゃいけない。好きなようにやりたいようにしてちゃ、そういう力なくなっちまう。しかしだ、それにはあんた、限度ってものがある。見たい映画3本我慢し、4本我慢し、6本・7本・8本我慢してるうちに別に見たくなくなっちまう。何が見たいんだか分からなくなっちまう。欲望が消えちまう。これじゃ、あんた、力を蓄えることにはならねえ。力を…生命力をむしろつぶしちまうことになる。我慢をしすぎて力をつぶしちゃいけねえ。自分の中の生きる力をな。生きるってことは自分の中の死んでいくものを食い止めるってことよ。気を許しゃ、すぐ魂は死んでいく。筋肉も滅んでいく。脳髄も衰える。何かを感じる力、人の不幸に涙を流すなんて能力も衰えちまう。それをあの手この手を使って食い止めることよ。それが生きるってことよ」またウイスキーを口にする。
和彦「あの…僕のほうの話に戻すと…」
竜彦「待て」
和彦「はぁ?」
竜彦「『きちんとする』と言ったな?」
和彦「はい」
竜彦「大晦日だから、きちんとする」
和彦「いえ」
竜彦「何をきちんとしたいのか知らないが」
和彦「だから…」
竜彦「きちんとするなんてのは、くだらないことだ」
和彦「そうでしょうか?」
竜彦「人間はワケの分からないもんだよ。頭じゃこう考え、やることは、そっぽで思ってることは、あっちだなんてことは、しょっちゅうだ。ワルは、ずっとワルってもんでもねえ。好きだ嫌いだなんてこともひとっことでじっとしちゃいねえ。そんな人間相手に何をきちんとしようっていうんだ? きちんとできるとすりゃ、そりゃ安っぽいロボットみてえに割り切れた人間だけだろうぜ」
和彦「そうかもしれないけど…」
ため息をつく竜彦。「お茶飲んで帰りな」
和彦「…」
竜彦「なんだってきちんとすることがあるんだ?」
和彦「…」
竜彦「コーヒーでも入れようじゃねえか」
和彦「僕が何を言いに来たのか見当がついてるみたいですね。コーヒーは、いいです。新村さんから、あなたが僕の父だってことを聞きました。あの人を怒ったりしないでください。あなたが僕の前に出たがったわけじゃないって、何度も強調してたし、あの人に責任はないです。僕は自分の父がどんな人かと小さいころから思ってました。母は『死んだ』としか言わなくて、それ以上聞くと怒るから聞こうとしませんでした。だけど、どんな人かと思ってました。生きてて、こうやって会えたの良かったと思ってます」
じっと聞いてる竜彦。
和彦「でも、僕は今、父がいるし、母もそりゃ夫婦だからケンカなんかもするけど、基本的には今の父とうまくいってるし、そんなところへあなたが現れるのよくないと思います」
竜彦「俺は…」
和彦「現れる気は、もちろんないでしょうけど、でも、こうやって会ってたりすれば、いつか分かったりすると思うし、僕も今日かぎりで会わないほうがいいと思います。冷たいようだけど、18年も放っといたんだから、しょうがないと思います。考えて、それだけ言いに来ました。病気、治してください。目が悪くなってるのに精密検査するの嫌がって病院へ行かないって聞きました。あの人、本気で心配してます。『孤独すぎるから、治す気力もなくなってるんだ』って、そう思って、時々、僕のことを話すんで、僕を捜したそうです。病院へ行ってください」
竜彦「大したことはないのさ」
和彦「でも、カメラマンが目が悪くなるなんてショックだし治してもらいたいと思います。3度会っただけだけど、話、面白かったし、もっと話したいっていう気持ちなくもないけど、今の父、こっそり会ってたなんて知ったらイヤな気がするだろうし、そんな思いさせたくないし、やっぱり会わないほうがいいと思ったんです。ひとつだけお願いがあります。あの人から、あなたの写真集が出てるって聞いて、本屋探したけどありません。図書館ももう暮れで休みで、あったら1冊もらいたいと思って…」
竜彦「ここへ留守番に入る前にみんな捨てちまってな、ないんだ」鼻水垂れ流し。
和彦「そうですか」
竜彦「あんたの言うとおりだ。会わないほうがいい」
和彦「はい」
竜彦「帰りな」
和彦「僕が思ってたより、いい人でした」立ち去ろうとする。
竜彦「おい。あんたをあの女が勝手に連れてきたのは事実だが、そう、しむけたのは俺だ。会ってみたかった」
振り向いて話を聞く和彦。
竜彦「ハァ…頑張って、いい大学、入りな。お互い忘れよう。さよなら」鼻水をぬぐってウイスキーを飲む。
和彦「さよなら」
カーラジオが流れている。
省一「おっ、始まったな、『紅白』」
渡辺「ええ、やってますね」
省一「まったく…何年『紅白』を見ないかねえ」
助手席に乗っているのが省一で運転が部下の渡辺。酒屋前に止まって降りる。
省一「こんばんは。遅くなりまして」
店主「あっ、ご苦労さん」←久保晶さん
お正月用に酒の箱詰めをしている店主夫婦。「大変なんでしょう? 両替で」
省一「いやぁ、暮れは例年のことで、もう」
店の客が帰り、店主たちと同様「ありがとうございました」と頭を下げる省一と渡辺。
次の店主は矢場さん! 「岸辺のアルバム」ではフィリッポのマスター。
省一「はい。確かにちょうだいいたしました。では、これ領収とつまらない物(もん)ですが」箱を渡す。
店主「ああ」
省一「本年は本当に秋ちゃんのことといい大変な年で、ご苦労さまでございました」
渡辺「お世話になりました」
省一「来年は、きっといい年でありますように私ども心からお祈りしております」
渡辺「お祈りいたしております」
店主「そんなこと言っとったって、いざとなりゃ冷てえんだ、信用金庫は」
省一「そんなことありませんよ、おとうさん。銀行に比べたらですね、私らどれだけ、お客さんの身になってやってるか分からないんですよ。頼りにしてくださいよ。何でも言ってくださいよ。来年は…来年は心機一転、盛り返しましょう! おとうさん」
ちょっと嫌みっぽいとこ、矢場さんだ。箱がいっぱい積んであってカウンターがあって、和菓子とかお弁当とかの店かな? 部下の渡辺役の高村玄二さんの顔、なーんか見たことあるよな~と思ったら、高村智庸さんという芸能リポーターだった。
居酒屋
省一「よくやったよ、旦那。今年は本当によくやった。まいった、敬服した。おめでとうございました」
店主「いやいや、口ばっかじゃなくてさ」ウイスキーを勧める。
しかし、省一はこれからまだ6軒あるとコップに手でふたをして断る。「両替でそりゃもう大変なんだから」
棚がガランとした駄菓子屋?で背を向けて泣いている女将。
省一「女将さん」
何があったんだか!?
車の中
省一「あっ…奥さん、予定日2日だったか?」
渡辺「ええ、おとついから実家で私も正月は、そっちです」
省一「そうか」
渡辺「まったく晦日っていってもいろいろですねえ」
省一「ああ、いろいろだねえ」
望月家のリビング
テレビ画面には―82年回顧―<政治>というテロップ。
中曽根総理が万歳している。
良子がソファにもたれかかってテレビを見ていた。
和彦の部屋
都「どこなの? どこ行ってたの? おかしいじゃない? 明かりつけたまま、こっそりなんて。行くなら行くって言えば、お母さん何にも言わないわよ」
和彦「そうかな?」
都「文句言ったことないじゃない」枕カバーを替えている。「なぜあんなことしたの?」
和彦「どこへ行くとか言いたくなかったんだ」
都「どうして?」
和彦「そういうこともあるさ。いいじゃない、もう」
都「いや、いいけども。『お兄ちゃん、このごろ変だ』って良子も言ってたから、受験で少し疲れてるのかなと思って」
和彦「そんなことないよ」
都「はい」枕を渡す。「そう、分かった。うるさいようだけど、これでお母さん、何にも言わなかったら、どう? あんなふうに出てって、それ知ってて何にも言わなかったら…」ため息をつく。「なんとなく寂しいような気がするんじゃない?」
和彦「どうかな」
都「あ~あ…今年も終わりか。イヤんなっちゃうなぁ。どうってことなくて年ばっかり取って」窓を開けて外を見ている。「あら、お向かい、今日になって松、飾ったわ。ハッ…あの奥さんじゃ一夜飾りだって何だってかまわないんだろうけど」またため息。「フフッ…ジャマね。さて、お風呂に火をつけて、布団をひいて、一応終わりかな」
出て行こうとした都を和彦が呼び止めた。「お母さんって、横浜のバーや喫茶店じゃ顔だったんでしょう?」
都「5~6軒よ、よく行っただけ」
和彦「ケンカなんかした?」
都「ケンカって…」
和彦「『した』って、おばあちゃん言ってたけど」
都「2~3回よ。こっちも生意気だったけれど、外人相手に渡り歩いてる変なのがいたりして『表へ出ろ!』なーんてね、ハハハ…」
和彦「想像つかないなぁ」
都「なによ、急に」
和彦「どうして、お父さんと結婚したの?」
都「どうしてって…」
和彦「お父さん、堅くてヤボくさいし、似合わないじゃない?」
都「遊んでたのは昔のことでしょう? お父さんと会ったときは、もうあなたもいたし。あっちこっちのショーウインドーの飾りつけやってフゥフゥ働いてたもの」
和彦「お母さんって…」
都「うん?」
和彦「もし、違う相手と結婚してたら、すごく違う生活してたと思うな」
都「女は誰でもそういうところあるけど」
和彦「そうじゃなくて、お母さんは何かすごく違う一生を抱えてて、でも、それは抑えて今みたいに暮らしてるっていうか」
都「何言いだすの? なに? 一体」
和彦「ちょっと思っただけだよ」
都「『ちょっと』って…」
和彦は、もう下へ行っていいよと机に向かうと、都は和彦の背後に回り、「ちょっと騒げ!」とくすぐり始めた。「騒げ騒げ騒げ! あんたは発散しないから、おかしいんだ!」2人でわちゃわちゃしてると、良子がドアを開けた。「ヤダ。怒ってんのかと思ったらふざけてる。人が1人でテレビ見てんのに…」ドアを閉めていってしまった。
都は、すぐに追いかけ「この、ひがみ女め! いつからそうなった?」とくすぐり始める。「いつからひがみだした? この子は!」
良子「ヤダ、ヤダったら~!」
ソファに横になっていた良子に馬乗りになって「よし! プロレス、プロレス!」と騒ぐ。
リビングに降りてきた和彦もあきれる。
都「ねえ、みんなで暴れようよ。昔、よくやったじゃなーい」袋をかぶり「タイガーマスク」と子供たちに言い、♪行け、行け、タイガーと歌って真っ暗な和室に入って向こうずねをぶつけて痛がっていた。
和彦「バカだなぁ、ハハッ…」
良子「急にどうしちゃったの?」
元旦
和室に集まる省一、都、良子。省一と都は着物。
省一「それはヒステリーだよ、お母さんの」
都「そうじゃないわよ」
良子「気が変になったかと思った」
都「時々そういうことしたほうがいいと思ったの」
良子「そうかな?」
都「そうよ。みんな、おっきくなって暴れなくなったし、お父さんも暴れないし」
省一「おい、変なこと言うなよ」
良子が笑う。
台所に戻った都。「あっ、たまには取っ組み合いでもしたほうがいいと思ったの」
良子「お兄ちゃん、どこ?」
和彦は玄関で大きな封筒を持っていた。
良子「ずるいんだから、手伝わないで」
和彦「年賀状取りに行ってたんじゃない」
良子「あら、来てた? さっき見たとき来てなかったよ」
和彦は階段に大きな封筒を置き、年賀状を持って和室へ。「去年より多いんじゃない?」
良子「ホント?」
都「さあ、座って」
省一「年賀状は、あとだ」
良子「どうせお父さんのほうが多いんだしね」
省一が良子から年賀状を受け取る。
都「そう、お母さんなんか2~3枚」
和彦「ああ…腹減った」
省一「じゃ、みんなちゃんとして。1年の初めだ」
都「さあ、和彦」
和彦は、あぐらだったのを正座し直す。
省一「え~、今年はとにかく和彦が大学へ入ることが一大目標だが、これはあんまり言うとプレッシャーになるからな。ハハッ…まあ、頑張ってくれ」
頭を下げる和彦。
省一「え~、良子は中学2年に進む。まあ、あの…こないだみたいな不良と何かするのは、もうやめてくれ」
良子「うん、向こうがよけりゃね」
省一「よくても悪くても逆らうな」
良子「分かった」
省一「あとは、ただみんな病気しないで、なんとか仲よく平和に1年を送れたらと思う」
都「よろしくお願いします」
省一「じゃ、あけましておめでとう」
都たち「おめでとうございます」
みんなでお雑煮を食べる。
階段に置かれた封筒は住所はなく、”望月和彦さん”とだけ書かれていた。
部屋に戻った和彦が封筒を開けると、手紙が落ちた。
明美<<ゆうべ12時過ぎにようやく仕事が終わって、あなたのお父さんの所へ行きました。するといきなり「本は、ないか?」と言うの。「俺の写真集を持っていないか?」と言うのです。「もちろん持ってるわ」って言うと、あなたにすぐにでも見せたいようなことを言うの。強がって「本だけ渡して、もう会わないことに決めた」なんて言ってたけど本心ではないと思います。あなたが本を欲しがったこと、とてもうれしかったようです。それで元日のまだ暗い道を飛ばして届けに来ました。一体私は何をしているんだろうと思うわ。うるさがられながら、おせっかいを焼いてるの。でも、やめたくないのは、あの人が本当にひとりきりで、ほかの誰とも似ていなくて、くそマジメで男と女ということを抜きにしても惹かれてしまうからだと思います。簡単に「会わない」なんて決めないでほしいと思うの。あの人は口でどう言おうとあなたを必要としているのです>>
”標的”というタイトルの写真集
いま写真の流れが大きく変ろうとしている
沢田竜彦作品集
という帯がついている。
ページをめくるとオープニングにも毎回出てくる上半身裸の女性とか後ろ姿とか警察に捕まる人、入れ墨の人…などなど。
望月家には省一の部下夫婦が訪れ、省一が上がるように勧める。磯山という部下は「これから親父んとこ行きますから」と断る。
磯山「いえ、ちょっと課長のお顔だけ見たくなって」
省一「調子よくなったな! お前も」
磯山役の大林隆介さんは80年代以降は声優が主って感じみたい。
和彦はノートの下に写真集を置き、そっと見ていた。
磯山夫婦を送り出し、玄関に戻った省一。「あいつもまあ、俺の顔、見たいわけないじゃないか」
都「でも、うれしそうよ。お父さん」
省一「バカ野郎、そんな、人よくないよ」
都「そうかなぁ」
磯山が持ってきたのは、ノリではないかと都が言う。
省一「俺なんかに奮発してどうするんだよ?」
都「そりゃ、お父さんが出世すると思って狙いつけたのよ」
リビングのソファに座る省一。「うるさいんだよ。すぐ人をバカにするような言い方して」
都「バカになんかしてないでしょう」
省一「日ごろ、しごいてる部下がだよ、元旦のいの一番に挨拶に来るなんて大変なことなんだよ。こんな管理職探したって、そうそういるもんじゃないんだよ」
台所で包みを開ける都。「だから褒めてるんじゃない?」
省一「本来なら会社のヤツなんかに全く会いたくない日にだよ」
都「お父さんも行ったほうがいいんじゃない?」
省一「どこへ?」
都「それだけうれしいんですもの。行けば、支店長も喜ぶわよ」箱の中身は缶入りのノリ2缶。
省一「そんなね、そんな…そこまでして、俺はね…」
都「そりゃ、そう思うけど」
省一「そんなこと言うなよ。気になってくるじゃないか」
夜、和彦は電話ボックスから明美に電話した。寝ていた明美が電話に出る。
和彦「とっても…とってもいい写真ですね。ああいう人たち撮るの大変だったろうし、みんな、気持ちよく撮られていて撮った人の人柄みたいなものが分かるような気がして」
明美「そう」
和彦「あの…家(うち)の者に見せるわけにもいかないし、感想を誰かに言いたくて電話しました。ありがとうございました」
明美「行ってよ」こっそりならいいじゃないと竜彦のもとへ行くよう勧める。「そんなこと、私に言わないで、あの人に言ってあげりゃいいのよ」受話器を置く。
翌日、望月家のドアチャイムが鳴る。和彦がドアホンに出ても返事をしない。
多恵子「何でもねえよ」
「あの野郎」ダイニングでジャンバーを着て勉強していた和彦は多恵子を追いかけた。「おい、ちょっとそこで待ってろよ。家、鍵かけてくるから」
多恵子と歩く和彦。「言いたかないけど、うちのなんかいじめたってしょうがねえじゃねえか。こないだ殴るだけ殴ったろう? それでいいじゃねえか。放っといてやってくれよ。あいつもちょっと逆らうようなところあるけど、よく言っとくからよ。頼むよ。じゃあな」
多恵子が呼び止め、「そんなことで済むと思ってんのかよ?」
和彦「そんなにあいつ何かしたわけ?」
多恵子「どこ行ったよ?」
和彦「ああ、今日は親父とおふくろと3人で川崎大師へ行ってるよ」
多恵子「お前は?」
和彦「俺は、ちょっと受験だからよ。ちょっとヤバくて。それに初詣なんて趣味はねえしよ。ハァ…あんなの放っといてやってくれねえかな。まだ子供だしよ、中学ったって小学生みたいなところあるし」
多恵子「コーヒーつきあいな」
和彦「あっ、俺…」
喫茶店
仏頂面の妙子。
和彦「何にも言わねえんだな。言うことあるんなら聞くって言ってるじゃない。悪いけど、こういうとこにいるの困るんだよ。もう12~13日で共通一次だしよ」
多恵子「お前が呼び止めたんだろう?」
和彦「えっ?」
多恵子「お前が追っかけてきたんだろう? こっちは帰ろうと思ってたのによ」
和彦「だから、それはひと言、妹のこと頼もうと思ってよ。コーヒー代払っとくから、君はゆっくりしていきゃいいよ」立ち上がろうとする。
多恵子「行くなよ。冗談じゃねえよ」
和彦「だって、こうやってたって、君、口利かないし、どうしていなきゃなんないのよ? 用があるなら言ってくれよ。黙ってるの…困るよ。中学3年だろう? 今年は高校だよね? 高校どこよ?」
多恵子「行かねえよ。おかしいかよ」
和彦「おかしかないよ」
多恵子「手ぇついて謝りやがって」
和彦「えっ?」
和彦の土下座シーン
そんなのが兄貴だと男のくせにしっかりしろと妹はツッパりたくもなると話す多恵子。和彦は多恵子にも兄がいると聞き、俺みたいなのかな?と聞く。「それで、つまりイライラしてツッパってるわけ?」
多恵子「関係ねえよ」
多恵子の兄は、ゆすりと強姦でムショに入っている。お父ちゃんは寝てる。お母ちゃんは勤めてる。「お前なんか、あんな家住んで妹思いのフリしやがって、関係ねえよ、行けよ、子供は行けよ、行けよ、子供は…」
「それぞれの秋」の津田とは違う感じかな? でも、和彦を見る目が気になる。
望月家
♪白樺 青空 南風
省一がソファに正座して「北国の春」を歌い、部下たちが拍手を送る。都がお酒を出す。
和彦は自室で省一の歌を聴きながら、竜彦を思う。河原崎長一郎さん、美声ですな~。
良子がテレビ見たいのにイヤんなっちゃうと和彦の部屋に入って来て、ベッドに寝転がった。「勉強ばっかしてるわけじゃないんでしょう?」
和彦「してるさ。何言ってるんだ?」
良子「お父さんもよく歌うよね。全然飲んでないのに」
和彦「シラけてるわけにもいかないだろう?」
良子「大体さ、あいつら4日からまた一緒に働くんでしょう? どうして休みに家、来んのよ?」
和彦「親父が上役だもの」
良子「じゃ、ムリして来てるってわけ?」
和彦「そうだろう?」
良子「バッカみたい」ベッドから起き上がり、和彦の学習机の椅子に座る。「お父さんだって、あれであとで必ずブーブー言うんだよ。『休みぐらいシーンとして本でも読みたかった』とかさ」
和彦「しょうがないさ、社会へ出りゃ」
良子「分かったようなこと言っちゃって」
和彦「うるせえな、行けよ」
良子「あ~あ、お兄ちゃんも今にああなんのか」
和彦「なるか、バカ」
良子「だって勤めりゃしょうがないでしょう?」
和彦「ああいう会社ばっかりじゃねえもん」
良子「そんなの外からじゃ分からないじゃない?」
和彦「いいだろう? うるせえな」
沢田竜彦写真集を発見した良子。「あっ! ほら、お兄ちゃん、こんなの隠して」
和彦「おい、バカ」
良子「『勉強してる』とか言って」
和彦「おい、そんなんじゃねえんだ、返せよ! おい」ベッドにいた良子に覆いかぶさるように「おい、バカ野郎」というと、良子は顔をそらす。「つまんねえことすんなよ。行けよ、行けよ」
良子は部屋を飛び出した。
洋館の庭で落ち葉を集めていた竜彦。「おう」
和彦が頭を下げた。
竜彦「おいで」
和彦「あの…『もう来ない』って言いましたけど、もう1回だけ来ました。写真集、ありがとうございました。僕は、とてもいい写真集だと思いました。どこがいいのかよく分からないけど、撮られてる人たちが撮ってるあなたにとても打ち解けてるっていうか、そういう感じがして、ああいうとこの人と仲良くできるっていうのは、やっぱり本当の優しさというか、そういうものを持った大人じゃないとダメだと思うし、僕なんかが撮りに行ったら、水ぶっかけられちゃうだけだろうし、僕は自分が子供のせいか、とてもいいと思いました。撮った人がいいと思いました。それだけ言いに来ました。さよなら」
竜彦「待ちな。お茶飲んで帰りな」
和彦「でも『もう来ない』って言ったのに」
竜彦「言葉に縛られることはない」
家のほうへ歩いていく竜彦の後を追う和彦。
望月家
良子が脱衣所のぶら下がり健康器にぶら下がりながら「お兄ちゃん、バッカみたい」と都に話していた。都は洗濯機から洗濯物を取り出していた。
良子「昨日、変な本、読んでたから取ろうとしたら、すごかったのよ」
都「ふ~ん…あなたは、またすぐそうやって…」
良子「だってやたら勉強してるような顔するんだもん」
都「放っとくの。あのくらいになればね、男は変な本、読みたがるのよ」
良子「そう思うでしょう?」
都「うん?」
良子「もう必死で取り返そうとしたのよ。だから、どんな本かと思って、今、ちょっと見てきたらベッドの下に隠してあるの」
都「余計なことしないの」
良子は本を都の前に出すが、都は「見たくない見たくない」と拒絶。
良子「大したことないのよ。全然どうってことないのに、すっごく泡食うんだもん」
都「元の所へ戻してらっしゃい」
良子「ちょっとお兄ちゃんって育ってないわよ。ヌードも何にもなくて『沢田竜彦作品集』なんて、全然どうってことない」本を持ったまま、脱衣所を出て行った。
ヌードがない!?…80年代って過激なものが多かったから、あれくらいでは…!? イヤイヤ…え~…
ショックを受ける都。
洋館
和彦は竜彦にお茶をいれていた。
望月家
省一はソファに横になって寝ていて、良子はテレビを見て笑っている。
都は2階の和彦の部屋に入り、ベッドの下の写真集と発見。
竜彦と和彦をお茶を飲み、都は写真集をベッドの上に投げつける。(つづく)
予告
社員「沢田さんの住所ですか?」
編集者「いや『写真がもう撮れなくなった』なんて話は聞きましたけどね」
信代「恋人?」
都「そ…そんなんじゃありません」
信代「本当? 『あの声は恋人捜してる声だ』って、みんな言ってるわよ」
ご期待下さい
ついに都と竜彦が会う!?


