TBS 1970年8月6日
あらすじ
万吉(林隆三)のところへ、大阪でも指折りの遊侠の親方雁高(辰巳柳太郎)が、命仕事を頼みにきた。雁高の訪問に感激した万吉は、どんな仕事でも引きうけると約束した。
2025.2.21 時代劇専門チャンネル録画
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原作:司馬遼太郎
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脚本:山田太一
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音楽:木下忠司
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万吉:林隆三…字幕黄色
小左門(こさもん):藤村志保…字幕水色
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いく:初音礼子
お鹿:七尾伶子
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丸屋:野々村潔
はな:田中筆子
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嘉七:金子信雄
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与力内山:西村晃
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平助:常田富士男
吟味役:大塚国夫
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老同心:宮崎準
打役:市原清彦
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板倉賢一
エースプロ
あらくれ
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雁高(がんだか):辰己柳太郎
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プロデューサー:飯島敏宏
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技闘:大沢慎吾
イラスト:沼田彩
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演出:鈴木利正
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制作:木下恵介プロダクション
TBS
小左門<雁高といえば、当時の大坂で指折りの侠客、その親分が1人暮らしの万吉のもとへ思いもかけぬ大仕事を頼みに来たのでございました>
雁高の頼みとは、最近、あほみたいに上がった米の値段を万吉に食い止めてもらいたい。…おお、タイムリー!
米を買いまくってる奴がいて、買い占めされたら米が足りない。堂島はこの10日ほど、きちがい相場で米商人(あきんど)の中には、店を潰した者も死んだ者もいる。米を買い占めているのは江戸の幕府…ということになっているが、本当は江戸の商人。役人を取り入って、公儀お買い上げ米という名目をもらって買いまくっている。話を聞いた万吉も憤りを覚える。
そのため、町人は3倍もする高い米を食べさせられている。金持ちはいいが、貧乏人は首を吊らなきゃしょうがない。「うちのおかんもひと事やないわ」と万吉が言い、その仕事を受けたら貧乏人が助かると聞き、どんな仕事か分からないけど、命を懸けてやることに決めた。
最初は雁高のところへ荷が下りたが、雁高は年を取りすぎており、とにかく今度の仕事はどえらい仕事で体を張らなければできない仕事だという。「悔しいけど、年には勝てんわ」と断ったものの、この大仕事ができるのは北野の万吉っつぁんしかないと思った。
仕事の説明の前に同行した男の紹介をした。丸屋は堂島の米問屋の旦那で堂島衆の総代。丸屋は手をつき「よろしゅうおたの申します。米問屋、丸屋の主(あるじ)でございます」と万吉に頭を下げた。
仕事は明朝。あしたの朝、取引所に乗り込んで、相場の立ち合いができないようにめちゃくちゃに暴れてもらいたい。敵はならず者を100人ぐらい雇っている。
「万吉、命を捨ててやってこましまっさ!」
ひとり、畳に横になり庭を眺める万吉のもとに、いくが訪ねてきた。万吉が返事をしなくても部屋に上がり込んできたいくは五目をこしらえて持ってきた。しかし、昼日中からゴロゴロしている万吉を注意した。
万吉は今日は、おばん相手になっとるわけにはいかんと「重箱置いていんでくれ」と追い返した。いくは万吉と食べようと2人分作って昼に間に合うように走ってきたと文句を言う。しかし、万吉は、1人分を重箱に入れて1人にしてほしいと頼んだ。
寒い中、障子を開けっぱなしで心配するいくに万吉は、ない頭を絞っていると困っていた。部屋にあった立派な木箱に200両の銭が入っていて、勝手に開けたいくは驚く。しかし、万吉は「人足や」と思いつく。
町を歩いた万吉は飛鳥屋・嘉七(かしち)宅を訪ねた。障子を開けると、派手な着物を着た嘉七が酒を飲んでいた。万吉が部屋に入り、親方の息のかかっている人足は何人か聞いた。ざっと200人と答えた嘉七はたくあんを切らずにそのままかじっていた。
万吉は訳は後回しにして、力はあるか聞いた。
嘉七「頭はあほやけど、力だけはある。わしも40年、この道で飯食うてきたが、こんな馬鹿力の要る仕事は地獄ならいざ知らず、浮世には、ほかにないわ」
油締めが主な仕事で、菜種搾るのに並の人足ではこなしきれない。日当は35文。万吉はたったそれだけでと笑い、わいは1人当たり1日に1両出すから200人集めてもらいたいと頼んだ。なめられたと思った嘉七は怒るが、万吉は懐から切り餅といって小さな包みを出した。中身は小判。200両を出し、親方の分は別に出すから、200人の人足を雇ってもらいたいと頼んだ。
集まるのは、あしたの夜明け前、場所はここ。行き先は堂島。仕事は喧嘩。嘉七は笑い出した。
万吉の家を平助が訪ね、聞き込みの結果を報告した。「まんだら」という黒田藩の中間(ちゅうげん)がいて、中間のくせに侍の子に四書五経を教えに行く変わり種がいる。
地獄耳で大坂中の悪事という悪事は何でも知っている。その男は博打が好きで45~46にもなるのに中間頭はおろか、女房ももらえない。堂島の様子もよく知っていた。なかなか本題に入らない平助にイライラする万吉。
まんだらのおっさんが言うには、格別、頭目というのはいない。江戸の若い衆がむやみにかき集めたならず者だそうで気は荒い。83人いる。堂島は昔から奉行所の役人は1歩も入れない土地なので堂島の米会所の構内でどんな喧嘩をしても役人は1人も来ない。だから、殴られ放題、殴り放題。万吉は地獄耳にしゃべってないだろうな?と念押しした。
<飛鳥屋嘉七は四方八方に若い者を走らせ、市中のあちこちにいる人足にその旨を伝えさせましたが、何せ200人という人数のこと、しかとしためどのつかぬうちに夜となり、万吉も泊まり込んで、その首尾を待つことになりました>
飛鳥屋で待機する万吉。嘉七があれこれ指示を出す。嘉七自身も下手な人足の10人分になれると自負する。「まあまあ、年やから、ちぃとこう…ぼてが入っとるんやけど、なにもこの…喧嘩は力やない。度胸の比べっこや。おじけづいた者が負けやで」と語る。上半身脱いで、押し出しが利くやろ?と見せつける。背中のガマンも見せると言って背中を向けると彫り物がしてあった。長方形のこんにゃくのような…?と思ったら、こんにゃくだった!
万吉「鍾馗(しょうき)とか児雷也(じらいや)とか強そうなガマンにせなんだねん?」
嘉七「そら、お前、こんにゃくやったら人がびっくりするやろが」
万吉「へえ、びっくりしまんなぁ。まあ、せやけど怖がりますやろか?」
人によっては脅しが利く。「煮ても焼いても食えん男」。嘉七の在所の尼崎では「酢でもこんにゃくでも食えん」という言葉があり、そんな男になりたくて、こんにゃくのガマンをしたと笑う。
<翌朝、まだ夜は明けぬという時刻、続々と人足、ついに200人集まってまいりました。万吉、その人数を10人ずつに分け、1人ずつ長を選び、その長20人を部屋に呼び入れて、喧嘩の目的を話したのでございます>
万吉「とにかく相場をつぶすこと。ええ? 相手は江戸商人に雇われたやくざ者や。そやな、ざっと80人はいるやろうな。敵の城は天下の堂島や」
嘉七「ええな? 日当が1両や」
男性たち「1両!?」
嘉七「こないな支度、二度とあらへんで」
やる気を見せた男たち。
万吉は手拭いを持ってるか聞き、戦法を話し始めた。手拭いに石を包んで振り回す。嘉七は威勢が悪く、景気がつかないと反対する。万吉は棒や刃物はあかん、相手のケガが大きすぎるのは性に合わない。相手がドスを持っていても、手ぬぐいのほうが寸法がある。嘉七も納得し、指示を出した。万吉は更に鼻っ柱を狙えと指示。鼻血を出させる。人間は血に弱い。堂島の悪党は我が血や味方の血を見て驚く。
そこで万吉が「頭をかち割れ」とどなる。そうすると、鼻血を見て、味方の頭を割られたと思う。けんかは必ずこちらが勝つが、万吉が「逃げろ」と言ったら、会所の辺りをうろうろしてたらいけない、なるべく四方八方遠くへ逃げて橋を渡って、役人に捕まるのは万吉一人。
嘉七「ひとつ、人足の力、天下に知らせてこませ!」
男性たち「よっしゃ!」
万吉「頼むで!」
夜明け頃、万吉、嘉七、人足たちが橋を渡り、並んで歩いていた。
万吉「これなるは明石屋万吉なるぞ! 江戸からの不浄商人に申し上げる。その衆は公儀御買米(こうぎごかいまい)なりと称し、徒党を組んで、巨額の相場を張り、不当に米値をつり上げ、その上がり方、天井知らず。されば、この明石屋万吉、天下の貧民に成り代わり儀によって、不浄相場をたたき壊したる! けがを嫌う者は兆散せよ。戦わんとする者は出合え!」
男たちが出て来て喧嘩が始まる。
<おかしな男でございます。明石屋万吉といつの間にか屋号をつけていることといい、学問もないくせに妙な名調子を用意していることといい、どことなく愛嬌のある男でございます>
テーマソングに歌詞がついてる? 男たちの乱闘が続くが、橋の向こうでは役人が手を出せずに立っている。
<万吉はどなりながら、けれど、自分だけは例の石手拭いを持ちませんでした。「殴られ専門で度胸を磨いてきたのに、今更、殴る側に回れるか」という理屈でございました。そして、喧嘩は万吉の作戦どおり、もう一方的に人足たちの勝利でございました>
万吉は米会所の屋根の上で手拭いを振り回しながら指示を出す。
<戦い終わると兼ねての手はずで人足たちは、たちまち四方に逃げ、会所の辺りに残ったのは万吉だけになりました。もちろん相場の立ち合いも何もあったものではありませんでした>
橋の上でウロウロするしかない役人と壊れた堂島米会所の看板を手に橋まで歩いた万吉は橋の上から看板を落とした。「見たか、聞いたか!? 恐れながら大公儀のご威光を偽り、私利私欲によって巨利を博せんとしたる悪徳商人の巣はここにつぶれたり! つぶしたるは摂津・北野の生まれ、歴としたる一本立ちの大人、明石屋万吉や!」
同心が「召し捕れ!」と命じ、捕り方が「御用だ、御用だ!」と取り囲んで捕まえた。
吟味所
役人「面(おもて)を上げて、神妙に申し上げい」
内山「そのほう、北野村生まれ無宿、万吉であるな?」
万吉「へい。北野村生まれ、無宿、万吉でございます」
<与力は内山彦次郎さまといって、大塩平八郎の乱に大塩を捕らえたことで名を知られたお方でございました。そのころの幕府で誰よりも財政に明るく、その卓識を高く買われていたお方で、それほどのお方が吟味方におなりになっただけでも万吉の事件の大きさが分かるのでございました>
万吉の罪状は明らかで万吉も認めている。吟味の眼目は罪状にはない。内山は誰に頼まれたのか万吉に聞いた。吟味役も誰に頼まれたか聞くが、万吉は誰にも頼まれてないと答えた。平素、あそこに遺恨を持ってる顔役が雇われている、その顔役に意趣腫らししようと喧嘩を申し込んだと答えた。顔役の名前は地獄屋鬼五郎。吟味役はいいかげんなことを申すなと怒鳴り、反論する万吉を見て、ニヤリと笑う内山。
万吉「この万吉の舌は1枚。2枚は使いまへん」
吟味役は鞭で叩くことを内山に提案すると、内山はうなずいた。この打役が市原清彦さんで、「岸壁の母」の暴力夫ね。その印象が強くて…。
酷い暴力を振るうシーンだったけど、半面、市原悦子さんって運動神経いいなとも思った。どっちもアクロバティックでさ。
打役は鞭をふるい、骨が砕けた者もあれば、目の玉が飛び出した者もおると脅す。
万吉「結構だす。打っとくなはれ」
鞭を振り上げたが、内山が止め、米問屋の主人たちを連れ出し、万吉の鞭打ちを見せるよう命じた。
米問屋の主人たちが並び、丸屋の主もいた。
内山「よく聞け。ここにおる無宿、万吉。米会所をつぶしたるは己の意思なりと申し立て、真実、万吉に依頼せし者をかばいだていたしておる」
万吉「たっ…そら、ひどいな。そないな憶測はひどおます」
吟味役「控えろ!」
内山「噓か誠か、体に尋ねることにした。そのほうどもとくと見物いたすがよい。始めい」
鞭を打たれる万吉。
下を向く米問屋たち。
鞭で打たれ続ける万吉に丸屋が「申し上げます! 申し上げます…」と叫んだ。
内山「丸屋吉兵衛か?」
丸屋「へい…丸屋吉兵衛にござりまする。手前ども、お疑いのとおり、この万吉に頼み、恐れながら…」
万吉「待った!」
丸屋「恐れながら公儀お買い上げ米の妨げをいたしましてござりまする」
万吉「あ~、待った待った待った! わいはこないなおっさん知らんで」
吟味役「これ、万吉! お尋ねもなきに口を利くな」
万吉「知らんもんは知らんと言うしかおまへんやろが」
内山「万吉、存ぜぬか?」
万吉「へい、名も聞かず、顔も見たことがござりまへん。ましてや、ものを頼まれたことなど思いもよりまへん」
あくまでしらを切り続ける万吉を前に、内山は吟味を打ち切り、万吉に明日は、そろばん責めにいたすと予告した。ひと晩、牢内でとくと考えよと言うが、万吉は頼まれもせぬものを頼まれたとは申せませんと反論。
翌日、そろばん責めの前に内山はそろばんがすねの肉に食い込み、骨を押して、その痛さは名状し難いものだと脅すが、万吉は「やっておくれやす」。
そろばん責め=石抱きなのね。
同心に「楽になれ」と説得されても、「楽になりようがおまへんがな、何も言うことがおまへんさかい」と耐える万吉。石を更に重ねられ、失神した。
明日は海老責め。
<海老責めは拷問のうちでも最高のものといわれ、江戸では、この拷問に限り、老中の許可が要るほどでございました。大阪は大阪城代許可で済み、手軽ではございましたが、それでも、この責めにまで至る者は10年に1人、20年に1人という拷問でございました>
万吉を心配そうに見つめる丸屋。見てるほうも辛い!
役人が家督を継いで25年になるが、海老責めの大罪人を扱ったことは一度しかない。22年前、余呉の大六という火つけ、強盗、人殺しのあげく御用になった大悪党で、結局は千日前でさらし首になった、ええかげんに恐れ入ってしまえと諭す。
内山は万吉の大罪は城代(じょうだい)さまのお耳にも入る、公儀に弓を引き奉る大罪、容易ならず、骨を砕き、背に鉛を入れても口を割らせよと仰せられておるが、お上にもお慈悲はある。年端の行かぬ万吉にかかる痛みを遭わせるのも酷、たった今、白状すれば、罪も軽くしてやると申されておると言うが、万吉は死ぬ覚悟を決めており、「海老責めでもつり責めでも何なりといたぶっておくれやす」と内山をにらむ。
<海老責めは不思議な縄の責めでございました。縛られて転がされるだけ。始めはこれだけのものかと思ったそうでございますが、これは時間が曲者。時が経つにつれ、自然自然に首が垂れてきて体が丸くなる。人の体があれだけ曲がるものかと恐れるほど異様に曲がって、うっ血した全身がゆでたようになり、それから次第に赤みが去り、手足が青くなり、捨てておけば死んでしまうという、古今東西、この海老責めほど知恵深い拷問はないという責めでございました>
検索しないでおこう。よく考えるよなあ。
万吉の姿を見るに耐えかね、内山が「もうよい! 解け!」と命じた。医師が縄を解き、丸屋が心配そうに見つめた。
<それから5日…4日目に松屋町の牢に移され、5日目、歩くこともようやくの万吉。吟味所へ再び引き出されました>
吟味所
内山「小僧、よく辛抱したな。命を助け、解き放ってやる。よいか? よく責めに耐えたにつき、助けてやるのじゃ。お上のお慈悲をありがたく思え」
この度の件についての検察は本日をもって打ち切りとし、容疑の者38人は昨日解き放った。万吉はフラフラ。内山は「喜べ」とニヤリ。
<喜べと言われても、喜ぶだけの体力も残っておりませんでした>
縄を解かれたが、ようやく立ち上がり、再び倒れた。同心は、まだお吟味が続いてると思わないと、耐え抜いた者はこういうときによく頓死すると教えた。
気を張れ!と万吉に呼びかけ、万吉は再び立ち上がった。「こないなことでくじけるようじゃ、どづかれ屋の明石屋万吉の名折れや」
東町奉行所
町人の拍手と歓声で迎えられた万吉。丸屋も出迎えた。
<牢屋敷を出ると数百人の町人が万吉を待ち構えておりました。「よくぞ安い米にしてくだされた」「堂島をよう救ってくだされた」。中には拝む者までいる。万吉の英雄ぶりでございました>
町人の中にいく、はな、小左門、お鹿もいた。
<家には1年2000俵をどないしてでも礼として受け取ってもらうという堂島からの米が積まれた。万吉はにわかに金持ちにもなり、その名は大坂はおろか、堺や京にまで響き渡ったのでございました>
フラフラになりながら歩く万吉と取り囲む町人たち。
ナレーター<ほんまもんの一本立ちを目指す万吉は剣術を習い、書にいそしみます。そんなある夜更け、小左門を訪れた万吉の頼み事は…『俄』第5回をお楽しみに>
出演は
初音礼子
ほか
鞭打ち、そろばん責め、海老責め…拷問に詳しくなってしまった。令和の米相場もどうにかならないかな~。



