TBS 1978年2月27日
あらすじ
最愛の夫を奪い戦争は終わった。美智(松原智恵子)はせっけんの行商で必死に麻子を育てたが、松本(織本順吉)の印刷工場が再開され、やっと生活が落ち着いた。井波と暮らした家に今は満州から帰った母が同居。留守を預かっている。ある日、美智を思い独身を守る石山(速水亮)が求婚した。が、美智の心には死にへだてられた今もなお、井波が生き続けていた。
2024.10.10 BS松竹東急録画。
原作:田宮虎彦(角川文庫)
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井波美智:松原智恵子…字幕黄色
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吉岡俊子:姫ゆり子
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吉岡純子:神林由香
井波麻子:羽田直美
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佐々木裕子
ナレーター:渡辺富美子
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石山順吉:速水亮
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音楽:土田啓四郎
主題歌:島倉千代子
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脚本:中井多津夫
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監督:八木美津雄
<美智が夫・井波の戦死の公報を受け取ったのは長崎県の一漁村で夫と別れてから、およそ半年ばかりのちのことであった。そして…>
このドラマでは珍しい新聞記事のアップ
時局収拾に畏き詔書を賜ふ
四國宣言を受諾
万世の太平開かん
新爆弾・惨害測るべからず
このニュース映像に出てきた新聞紙面に似ていた。
焼け野原の映像とマッカーサーの写真。
<日本は敗戦国となり、国中が荒廃し混乱し、不安と絶望に満ちあふれた>
戦後の混乱を示すような満員列車の写真など。
<こんな中で美智の住まいは幸いに戦災を免れて残り、表札も戦死した夫・井波謙吾のままで残されていた>
井波家
雑炊を作っている美智。麻子はまだ眠っている。
仏壇に話しかける美智。「あなた、お茶が手に入ったら、すぐ入れてあげるから、もう少し待って」手を合わせる。
<井波は死んではいない。いつかきっと帰ってくる。美智は心の中でそう信じ続けることだけが麻子と共に生きていく唯一の支えだった>
美智「麻子、ほら、6時半よ。起きなさい。麻子、ほら。おはよう」
麻子「おはよう」
美智「自分で着替えられるわね?」
麻子「はい」
家じゅうのカーテンを開ける美智。
吉岡家
足踏みミシンで作業する俊子。
純子「お母ちゃんいってきます」
俊子「はい。ああ、ちょっと待って。ちゃんとちり紙持ったの?」
純子「うん、持ったよ」
子役も変わらないし、ランドセルしょってるけど、純子ちゃんいくつになった?
美智「おはようございます」
俊子たち「おはようございます」
純子「いってきます」
俊子・美智「いってらっしゃい」
俊子「さあどうぞ」
大きな荷物を唐草模様の風呂敷に包んで背負ってきた美智。
俊子「やっとバラックの校舎が建ってね、疎開した友達、みんな帰ってきたって、純子、喜んでるの」
美智「よかったですね」
俊子「ええ」
美智「私たち戦災に遭わなくて、ほんとに幸運でした」
俊子「でもね、肝心な亭主殺されちゃったんですもん。せめてこのぐらいはね。はい、どうぞ」
美智「あっ、すいません。できました?」荷物を置いて家に上がる。
俊子「ええ。どうかしら?」ハンガーにかかったアイボリーのオーバーコート。裏地は薄ピンクに見える。「こんなのが商売になるかしら」
縫い目などチェックする美智。
俊子「千葉の兄がね、また恩着せがましく言ってきたのよ」
美智「再婚の話ですか?」
俊子「うん。バカにしてるわよね。50のおじいちゃんですもの。これで商売になったら兄からの援助は断ろうと思ってるの。2階の部屋代と合わしたら、なんとかやっていけると思って。ねえ、どう?」
俊子も美智も軍関係の仕事だったから終戦で職がなくなったんだろうね。50のおじいちゃんというのは、俊子も小学生の娘がいる年齢だとせいぜい30代だと思うので、その年代からしたら50は普通におじいちゃんに思えるって話だと思う。昭和30年代の映画だと40過ぎの人をおばあちゃん呼ばわりしてるのも見たことあるけど。
美智「上手にできてるわ。ほんとは大丈夫かって心配してたんです。でも、これなら売れるわ。お預かりします」
俊子「まあ、ありがとう。ねえ、奥さん。どうしてうちの2階に来てくれなかったの?」
美智「ですから、あのうちには井波との思い出がありますから」
俊子「それは分かるけど、いくら待っても帰ってくるわけじゃないんだから、かえってつらいんじゃないかと思って。それにね、上の人、変な商売してるらしいのよ。まだ寝てるの。起きてくるのは、いつも昼過ぎ。どぎつい化粧して出かけるのは夕方。酔っ払って帰ってくるし、純子の手前もね。なんだか家族が全部、こう…空襲で死んでしまったって言うもんだから、つい同情してしまって…この分だと、いつ男を引っ張り込むか分かったもんじゃないし、無理やりにでも奥さんに借りてもらえばよかったと思ってるのよ」
美智の背中に背負っていたのは行李で、俊子の作ったオーバーコートも入れた。俊子の話を聞きながら、行李を風呂敷に包み直したり、テキパキ作業を進める。
美智「でも、この間、会ったら、そんな悪い人じゃないみたい。女一人、生きてくのは大変だから」
俊子「うん。まあ、そう思って我慢はしてるけど」
美智「しばらく様子見たら?」
俊子「そうね。部屋代、きちんと払ってくれるし、汚すわけじゃないし」
美智「じゃ、私、出かけないと」
俊子「あっ…」
美智「すいません。しょわせてください」
俊子「はいはいはい」
美智「麻子」
麻子「はい」
俊子「あ~、大変ね。麻子ちゃん、おばちゃんと一緒にお留守番しようか?」
麻子「お母ちゃんと一緒に行く」
俊子「まあ、偉いのね。お母ちゃんに似て頑張り屋さんね」
美智「すいません。木口(こぐち)取ってください」
俊子「あっ、はい」手提げを手渡す。
美智「あっ、すいません」
木口ってこういうカバンの取っ手だけど、「岸壁の母」のいせもよく持っていた手提げかばんのことね。持ち手が木製の布製のカバン。
美智「いってきます」
俊子「いってらっしゃい」
闇市で「リンゴの唄」が流れる。このドラマでこういう時代を表す歌が流れるのは珍しい。
並木路子、霧島昇「リンゴの唄」1945/昭和20年10月11日公開の松竹大船映画「そよかぜ」の主題歌。
「岸壁の母」では、のぶ子の働く食堂で流れました。
三浦先生と再会した闇市のシーンで流れたのは「東京ブギウギ」。
男性「どうですか? これ」
少年が店頭に並んだサツマイモを盗んで走る。もうちょっと新二並みに痩せた子にお願いしてほしかったね。まるまるした男の子だった。
男性「おい、こら! こら、待て! 泥棒! ちきしょう、泥棒! ああっ」
そんな混雑した闇市を歩く美智と麻子。
美智「おばちゃん」
女性「ああ…」
美智「おはようございます」
女性「おはよう。今日はどっちのほう行くの?」
美智「綱島(つなしま)の奥のほうへ行ってみようかと思って。あの…この間、お願いしたのあります?」
女性「帯ね」
美智「うん」
女性「これだけど、どう?」
美智「わあ、いいわね。おいくら?」
女性「80円の70円、150円。200円以上に売れるわよ」
美智「じゃあ、130円。今、払いますから。ねっ、いいでしょう? 人助けだと思って」
女性「顔の割にガッチリしてるわね」
美智「すいません、いつも」行李をおろして、お金を払う。
この闇市の女性が森康子(こうこ)さんかな? 私の中でおばあちゃん女優のイメージだった。さすがにこの当時は髪は真っ黒だけど。
まだ焼け野原が残った道を歩く美智。「麻子、今日はちょっと遠いけど我慢してね」
麻子「うん、電車に乗るんでしょ?」
美智「そうよ。でもね、それから歩くの。頑張ろうね」
麻子「うん」
<美智は麻子の手を引きながら少女のころを思い起こしていた。父・利周(としかね)の行方が分からなくなる度に美智は母の喜代枝と共に半端切れの行商をして京都近郊の村を回ったものであった>
1話にも出てきたセピア色の喜代枝と美智の行商シーン。
<事情は違っても、今、こうして娘の手を引いて古着の行商をして歩く自分を思うと、これが定められた運命のような気がして悲しい懐かしさを感じるのだった>
山道を歩く美智と麻子。「おなかすいた」
美智「おなかすいたの? じゃ、お弁当食べようか」
麻子「うん!」
道端に行李をおろす美智。
麻子「あっ、お父ちゃんだ」
向こうから歩いてくる復員兵風の男に近づく麻子。
美智「麻子! 違うの。違うのよ」
髭ぼうぼうの男は通り過ぎていった。
美智「麻子。お父ちゃんはね、いつ帰ってくるか分からないけど、ちゃんと麻子のこと見ててくれるのよ。麻子の中にもお母ちゃんの中にもお父ちゃんは生きてるの。分かるでしょ?」
首を横に振る麻子。
美智「麻子がもっと大きくなったら分かるようになるわ。さあ、お弁当食べて早く大きくなりましょう」
で、直後のCMが豪華なおせち。
夜、井波家
(窓が揺れる音)
うなされる美智。目覚めた美智は「あなた?」と声をかけ、明かりをつけ、寝巻のまま外へ。「あなたでしょ?」庭先まで出たけど、誰もいずに部屋に戻り、泣き出す。
こういうシーン、「岸壁の母」でもあったな。
のぶ子と寝ていたいせが突然家を出ていき、「新二? 風かな?」ってやつ。「岸壁の母」34話は終戦を扱った回で、こちらは割と長く玉音放送流した。
行商のシーンでまた主題歌が流れる。今日は1番。農家を回り、行李の中を見せる。それにしても昭和53年にロケでよくこんな農村風景があったな。それがすごいと思う。
美智と麻子は道端で食事。四角くてサンドイッチみたいに見えたけど、絶対違うだろう。
吉岡家
美智「奥さん、お邪魔します」
俊子「はい! おかえんなさい」
美智「あっ、ただいま。あのオーバー売れましたよ」
俊子「そう。ありがとう。さあ、入ってちょうだい」
美智「あっ、いえ、ここで」上がり框に座る。「奥さん、オーバーのお代」
俊子「うれしいわ」
美智「はい、110円」
俊子「あっ、手数料、あの…」
美智「いえ、いいんです。奥さん、今夜ね、うちへいらっしゃいません? お米が手に入ったんです」
俊子「すごいじゃないの」
美智「久しぶりに銀飯いただきましょう」
俊子「もちろん伺います」
階段を降りてきた女性。「おばちゃん、今夜ね、多分帰んないから、鍵かけちゃっていいよ」頭にスカーフ、パーマをかけた髪、ピンクのカーディガン、エメラルドグリーンの柄シャツ、派手な模様のスカートを履いた派手な格好。
俊子「あっ、はい」
女性「あっ、ちょっとごめんね」玄関に来たので美智と麻子がよけた。「あっ、ガムあげる」
麻子「ありがとう」
美智「どうも」
この女性が竹口安芸子さんかな?
美智「じゃあ、お待ちしてますから。純子ちゃんも一緒に」
俊子「はい」
美智「麻子、ほら」玄関を出ていく。
俊子「どうもありがとう」
井波家
かまどでご飯を炊き、美智は大根を刻んでいた。見事な手つき!
俊子「大根のおみおつけに銀飯。ハァ~、今から生唾が出そう。フフフッ」
美智「昨日も餓死した人が出たんですってね。バチが当たりそう。あっ、ご飯炊けたら、ご主人にお供えしてきて」
俊子「ありがとう」羽釜を開けて「ああ、もういいみたい。あの…布巾、もう一つないかしら?」
美智「あっ、すいません。はい」
俊子「ねえ、奥さん」
美智「なあに?」
俊子「私、主人の話されると、ちょっと気が重くなっちゃうの」
美智「どうしてです?」
俊子「ほら、再婚の話があるでしょ」
美智「気が進まないんでしょ?」
俊子「うん、今、進んでる話はね。だって、男は50で4人も子供がいるっていうのよ。気が進まないのは当然でしょ? どうせ持ってきてくれるんだったら、もっといい話を持ってきてくれたらいいのに。いくら男が足りなくなって、女が余ってるったって、ねえ、そうでしょう?」
美智「じゃ、奥さん…」
俊子「ええ、そうなの。このまま一生、純子と二人っきりじゃ…だから、相手しだいでは、やっぱりね。悪いかしら?」
美智「いいえ」
俊子「ねえ、奥さん。夜なんか心細くなって泣けてくることなんかない?」
美智「それはありますけど…」
俊子「私は奥さんと違って恋愛結婚ではなかったし、主人の写真を見てもだんだん遠い人になってきたの。すまないとは思うけど…純子のためにも再婚したほうがいいと思うし…だって、このままじゃ女学校へやれるかどうかだって、おぼつかないじゃない。どう思う?」
美智「あ…そうね」
でも、美智の母って父がいない間にも行商したりして、女学校に行かせたからな。
俊子「私は曲がりなりにも肉親がいるから助けてもらえるけど、奥さんはもっとそうだと思うの。ねえ、正直に聞かせてくれない? 奥さん、ほんとに再婚を考えたことないの?」
美智「だって私は、まだどうしても死なれたって実感がないんです。あしたにでも帰ってくるような気がして…」
俊子「そう。私はもう三回忌を過ぎたんだし…」
男性「こんばんは」
美智「はい」
玄関を開けるとスーツ姿の石山が建っていた。「しばらくでした」
美智「石山さん…」
俊子「えっ? まあ、石山中尉さん」
石山「あっ、どうも。あの…長野から今日、出てきたもんで、こんな時間にお邪魔してしまって」
美智「どうぞ」
石山「はあ」
俊子「まあ、あの節は大変お世話になりまして」←字幕が”説”になってたけど、この文脈だと”節”だと思う。
石山「いえ、こちらこそ。お二人ともお元気そうですね。やあ、麻子ちゃんと純子ちゃんだったね。おじさん覚えてるかな?」
純子「はい、こんばんは」
石山「こんばんは」
麻子はともかく、純子は俊子が療養所に連れてったことあるのかな?
純子「どうぞお入りになって」
石山「はあ。それじゃあ、ちょっとだけ。いや、実は今日お伺いしたのは、お知らせしたいことがあって伺ったんですが…どうやらご存じじゃなかったみたいですね」
俊子は「えっ!? なんで美智の自宅を訪ねてくるの?」とは思ってないのかな。
美智「なんでしょう?」
石山「伺ってよかった。あなたのお母さんが日本に帰っておられるんですよ」
驚く美智。
俊子「石山さん、ほんとですか?」
石山「ええ。ラジオはお聴きになりませんか?」
美智「壊れたままにしてありますから」
石山「ああ、そうでしたか。いや、実は昨日『尋ね人』の時間に偶然お母さんがあなたを捜しておられるのを知ったんですよ」
ラジオ<<塩崎美智さん、元京都市上京区今出川通ヤマモト23番地にお住まいだった塩崎美智さん。お母さんの塩崎喜代枝さんが捜しておられます>>
上京したばかりの美智が警官に尋ねられて答えた本籍地の住所「京都市右京区衣笠下町住吉上(あが)る」とは全然違うと思ったけど、喜代枝が出した住所は小野木と暮らしてた家ってこと? 手紙を出してたんだから結婚したのは知ってたよね?
美智「母が私を?」
俊子「よかったわね。あなた心配してたのよね。シンガポールに行ったまでは分かってるけど、その後の消息が分からないって」
石山「お母さんは神戸の近くの引き揚げ者収容所におられます。これに住所を書いてきました」
住所を書いたメモを渡された美智は手で顔を覆って泣きだす。
麻子「お母ちゃん、どうしたの?」
美智は近くに来た麻子を抱きしめた。
俊子「ほんとによかったわね。石山中尉さん、どうも」頭を下げた。
美智「麻子。なんでもないの。純子おねえちゃんに遊んでもらいなさい。純子ちゃん、お願いね」
純子「はい。麻子ちゃん、はい」
何か渡されてきょとんと純子を見ている麻子。
美智「わざわざお知らせくださいましてありがとうございます」
石山「あっ、いえ。東京には用事もあったんです。まあ、用事というよりは、今度、東京で仕事を始めることになりまして。実は戦争が終わってから、ずっと長野に引きこもっていたんですが、友人と一緒に弁護士事務所を開くことになりまして」
俊子「まあ、そうだったんですか。またよろしくお願いします」
石山「あっ、いえ、こちらこそ」
美智「お茶を…」立ち上がる。
俊子「あっ、私がするわ」
美智「いえ、いいです」
俊子「ねえ、それよりあなた、あしたにもお母さんを迎えに行かないと」
石山「そうですね。お母さん、どんなに喜ばれることか」
美智「すいません、私…」
俊子「えっ?」
石山「何か?」
台所にいる美智に近づく俊子。「どうしたの?」
美智「少し考えてみます」
石山も立ち上がる。
俊子「奥さん」
美智「すいません」(つづく)
喜代枝と別れた経緯を考えると、美智のように迷うのは当然だろうな。でも、結局は…
麻子役の羽田直美さんは出演が確認できたのは3作品で石井ふく子プロデュースドラマ「今日だけは」「記憶」の2作とこのドラマだけで活動期間は2年弱。結構上手なのに。
興味あるのは「今日だけは」なんだけど、再放送の形跡なし。「記憶」は単発の日曜劇場でTBSチャンネルでは再放送したことあるみたい。

