TBS 1978年1月9日
あらすじ
美智(松原智恵子)の旅行中、父と母は満州に渡っていた。美智は置き去りにされたのだ。同じ家に下宿する帝大生・石山(速水亮)は父が前科七犯と知りながら、一人で生きる美智を愛し結婚を約束。が、市役所の福祉係・小野木(伊藤孝雄)は二人の間を裂くため石山の父親に美智の秘密を教えた。小野木は美しい美智が目的で塩崎母子の世話をしてきたのだ。
2024.8.22 BS松竹東急録画。
原作:田宮虎彦(角川文庫)
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塩崎美智:松原智恵子…字幕黄色
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石山:速水亮
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塩崎喜代枝:利根はる恵
井村さき:津島道子
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小川:阿木五郎
陽子:種谷アツ子
ナレーター:渡辺富美子
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小野木:伊藤孝雄
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音楽:土田啓四郎
主題歌:島倉千代子
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脚本:中井多津夫
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監督:八木美津雄
「岸壁の母」のときから役名の出てる人と出てない人がいて隣のおばちゃんは今まで役名表記はなく、字幕で”さき”と出ていた。今回初めて、”駄菓子屋のおばちゃん”と役名が出ていた。
4話からサブタイトルが変わっているのは、「岸壁の母」が1977年12月30日(金)まで放送、「別れて生きる時も」は年明け1978年1月4日(水)から始まっているせい。公式サイトでは「岸壁の母」のときも1週間分のあらすじがまとめて出ていて、今回のドラマも1~5話に同じあらすじが出てるけど、正確には4~8話が2週目のあらすじだと思う。
だから今回は月曜日回。
前回の振り返り。
電車に乗った美智を見送る喜代枝。「美智、気ぃつけて行っといで」
<美智が会社の慰安旅行に発った朝、母の喜代枝は美智を近くの駅まで見送った。しかし、美智は、あの優しい母が自分を置き去りにして父と共に満州へ発つ決意をしていたことに気づくすべはなかった>
上京區役所
喜代枝「美智は何も知らんと出かけていきました」
小野木「ええ」
喜代枝「せやけど、帰ってきたときにどんなにびっくりするやろか。それ思うたら、うち…」
小野木「塩崎さん。お気持ちは、よう分かります。そりゃあ、今はつらいでしょう。しかし、美智さんの将来のことを考えて、せっかくご決心なさったんですから。あ…さあ」←小野木はんの不気味さは、ちょっとした視線とか目つきかなあ? 喜代枝を椅子に腰掛けさせる。「で、美智さんは、いつ旅行から帰ってこられるんですか?」
喜代枝「ええ、8日の晩には」
小野木「じゃあ、その間に満州へ…」
喜代枝「ほんま言うたら、美智は一緒に満州へ行ってもええ、そない言うてくれたんどす。そやさかい、余計つろうて。せやけど、主人は、若い娘が一緒についてきてもろくなことはない。一人、京都へ置いていけ、そない言いますし。小野木はんかて、美智の先のことを考えたら、そのほうがええ言わはるし、やっぱしそうするほかしょうがないのかもしれまへん」涙ながらに語る。「小野木はん、どうか美智のこと、ほんまによろしゅう、おたの申します。小野木はんだけが頼りですよって」
若い娘が満州行ってもしょうがないと考えたのは正しい! 別に利周は1人で行ってもいいと思ってたんじゃないの~? 美智を一人、京都に置いてけは喜代枝の脳内変換じゃないの~?
小野木「美智さんのことは、どうか安心して私にお任せください。お約束しますよ。悪いようにはしませんから。あっ、ただ美智さんには、ちゃんと手紙を置いていってあげてください。どんなことがあっても小野木を頼っていけ、そない」
喜代枝「ええ。美智には、そのように書き置き残しときますよって。うちら裸のまんまで満州行きますけえ、美智になんも残してやる物がおへん。これは主人の景気のいいときにうちに買(こ)うてくれた物どす」ケースに入った指輪を見せる。「どんなに困っても、これだけは手放さんと大事に持ってましたんやけど、これ、美智がお嫁に行く日が来たら渡してやってほしいんどす。今の美智やったら、ひどい母親や、むごい母親やて、そんな物(もん)捨ててしまうのやろうと思います。そやさかい、あの子がお嫁に行く…お嫁に行くときに…」泣きだす。
美智は21歳なんだから、この時代なら今すぐ嫁に行ってもおかしくないのにね。
旅館
布団に入っている美智と陽子たち。
陽子「みっちゃん、もう寝た?」
美智「ううん」
陽子「うちもよう寝れんのやわ。外に出て少し話そう。ええやろ?」
美智「うん」
みんなが寝ている部屋から出る。着替えなどが置いてあって、旅館の奥の窓際スペースか?
美智「なあ、みっちゃん、あしたの朝、早(はよ)う起きて、もういっぺん大原美術館に行ってみいひん?」
四国旅行だけど、岡山の大原美術館まで行ったのかな。
美智「朝早う行ったかて美術館、閉まってる思うけど」
陽子「美術館の前の川べりを散歩するだけでもええ気持ちがするやないの。今日は感激やったわ。ルノワールやゴッホのほんまもんが見られたんやさかい」
"大原美術館 ゴッホ"で検索したら出てきた記事。陽子が感動したのもこの絵だったのかな? ドラマと全く関係ないけど面白いエピソード。ドラマ放送時には分かっててあえてドラマに取り入れたとか?
陽子「みっちゃん、どないしたん? 心配そうな顔して」
美智「なんや、うち、早う帰りとうなったわ」
陽子「あかんな。もうお母ちゃんの乳が恋しなったん?」
美智「アホらしい。けど、なんとのう、うちのことが気になって」
陽子「なんぞあったん?」
美智「ううん」
塩崎家の前の路地のつきあたりに「ぜいたくは敵だ!」の看板があるのに、社員旅行って…と思ったけど、映画版は(原作も?)時代が少しずれてて、昭和6年に美智が21歳だったから、ちょっと矛盾が生まれたのかも。いせさんも昭和8年に第1回の防空演習に出たけど、まだまだ普通の暮らしだったし。
自転車で塩崎家の前に来た小野木は玄関の戸に手をかけるが、さきが店の外に出てきた。「あっ、小野木はん、ハハッ。こんにちは」
小野木「こんにちは。おばちゃん、今川焼1個、食べさしてもらうわ」
さき「へえへえ、どうぞ」
店に入りがてら、焼いてあった今川焼を口にする小野木。「あっ…10個ばかり包んでくれ」
さき「ええ、おおきに。フフッ」
向かいの
高波易断所
五代目の名前は高波秋實だね。
小野木「塩崎さん、誰ぞいてはるか?」
さき「いいえ。皆さん、お留守どす」
小野木「ふ~ん、留守か」
さき「へえ、おとといの晩、旦那さんと奥さんが出かけはったし、娘さんは会社の旅行に行ってはりますし。さあ、どうぞ」お茶を出す。
小野木「塩崎さん、どこへ出かけていったんや?」
さき「へえ、なんや鳥取のほうへ2~3日、墓参りに行く言うて行かはりましたけど。あっ、ちょっとすんまへん」奥から店の前へ移動。
小野木「ああ」
さき「まあまあ、娘さんがお留守の間に、お二人でお楽しみとちゃいまっか」
小野木「ハハハハッ」
さき「北海道から旦那さんが帰ってきはってから、奥さんいっぺんに若返りはりましたしなあ」
小野木「ハハッ。確か娘さんのほうは今日、帰ってくるんやなかったのかい?」
さき「ええ、そうどす。確か今日やって思います」
店の前を学生服姿の石山が通りかかる。
さき「あっ、石山はん」
石山「あっ、ただいま」
さき「あのな、信州のおうちのほうから、なんやお荷物が届いてましたえ。あの階段の下のとこ、置いてもらいましたさかい」
石山「どうも」
小野木は会話中、石山に背を向けるが、石山が去るとにらみつける。
玄関を入った階段下に”檎林州信”と書かれた木箱が置いてあり、石山は自身の学生かばんを乗せて2階まで運んでいった。
小野木「あの学生、ほんまに帝大の学生か?」
さき「へっ?」
小野木「帝大の学生がなんでこんな所へ下宿しとるんや?」
さき「それがな、おうちが信州で小学校の校長はんしてはるそうどすけども、あの…お母さんが病気でな、月々十分の仕送りがないそうでな、まあ、うちの2階やったら、そないに掛かりがいらんさかい」
小野木「なんぼもろうとるんや?」
さき「へえ、月に5円どす」
小野木「5円? そら安すぎる。もっと取ったらええやないか」
さき「そやけど、貧しい学生はんやさかいに」
昭和8年に家賃4円20銭の一軒家に住んでいたいせ。時代が微妙に違うし、きっと食事や洗濯、掃除の手間賃も入っての5円ということだよね。それなら安いか。
小野木「真面目な学生か?」
さき「へえ。もう明けても暮れても勉強ばっかりしてはります。将来は立派な裁判官にならはるお人どすなあ」
小野木「裁判官?」
さき「へえ。帝大の法科に行ってはって、将来は裁判官になるんや言うてはります」
小野木「フッ…ハハッ。おばちゃん、バカも休み休み言うてや。なんぼ帝大の学生やちゅうたかて、そう簡単に裁判官になれるもんやあらへん。そんなこと真に受けとったら人に笑われるわ。ハハハッ」
さき「そうどすやろか」
何もそんなバカにしたようなこと言わなくていいだろ!
石山「おばさん」
さき「へえ。はあ、ヘヘッ」
石山「あっ、あの…田舎からリンゴ送ってきたんで、どうぞ召し上がってください」
さき「いやあ、一人でこんなにぎょうさん多すぎますがな」
石山「ああ、じゃ、あの…塩崎さんにもあげてください。いつもいろいろ頂いてばかりですから」
さき「それやったら石山はんから直接渡してあげたほうが、塩崎さんかて喜びはりますわ。あの…今日は帰ってきはるさかいに」
石山「あっ、じゃあ、そうします。どうも」
さき「おおきに」
<その日の夕方近く、美智は予定どおり京都に帰った>
大きなお守り札を3枚抱えた美智が早足で歩いている。
こちらを見ると、大きさから御守札の中サイズと思われる。今は10000円!
<旅行の間、言いようのない気がかりがつきまとってならなかったのは事実だった。しかし、一心同体だと思ってきた、あの母親が自分一人を残して、父と共に満州へ去っていったとは美智の想像だにしなかったことである>
美智「おばちゃん、ただいま」
さき「あっ、おかえり」
美智「はい、お土産」
さき「いや、おおきに。いやあ、大きなお札さんやなあ」
美智「こんぴらさん、お参りしたときの」
さき「へえ~、『夫婦円満、家内安全』と書いてあるわ。お母ちゃんもお父ちゃんも大喜びやわ。お二人ともまだ帰ってはらへんけど、あしたには…」
美智「えっ?」
さき「みっちゃん、お母ちゃんから何も聞いてへんの?」
うなずく美智。
さき「お父ちゃんと一緒に鳥取のほうへ墓参りに行くっちゅうて」
考え込むような美智。
さき「どないしたん?」
笑って首を振り店を出ようとした。
さき「あっ、みっちゃん。部屋の鍵、預かってるえ。へえ」
美智「すんません」
石山や小野木が入ってくる玄関の戸は開いてて、土間の扉に鍵がついている。美智が鍵を開け、部屋に入るとちゃぶ台の上に「美智へ」と書かれた封筒が置かれていた。
部屋のカーテンを少し開けて手紙を読み始める美智。
「みっちゃん、お母ちゃんを許してください。何もかも何もかも、あんたのためや思うて、お母ちゃんはお父ちゃんと一緒に満州に行きます。お母ちゃんは泣きながら、この手紙を書いています。何もかもあんたの幸せのため。そう思うて、お母ちゃんはお父ちゃんと一緒に行きます。困ったことが起きたら小野木さんの所に相談に行ってください。母より」
泣きながら手紙を書いてるとか関係ないわ!
回想シーン
喜代枝<<あかん子やなあ。なんで髪をすいてきいひんかったん?>>自分の頭のべっこうのくし?で美智の髪をとかし始める。
美智<<あんまりゴソゴソしたら、お父ちゃん目ぇ覚ます思うて>>
喜代枝<<あんた、くし持ってきたんやろ?>>
美智<<うん。カバン中、入ってる思うけど>>
喜代枝<<忘れてたらいかんさかい、お母ちゃんの持っていき>>
美智<<うん>>カバンに入れる。
回想終わり
美智はタンスの中が空になっていることに気付いて、部屋の外へ。「おばちゃん、すいません、ちょっと」
さき「へえ。どないしたん?」
美智「うちのお母ちゃん、いつ出かけていきましたやろか?」
さき「お母ちゃんか? う~ん、みっちゃんが旅行に行った次の日やったなあ」
美智「それで、いつ帰ってくるって?」
さき「うん、そやな。今日、帰ってくるって、そない言うてはったわ。みっちゃんが帰るまでには、きっと戻ってくるて。もう帰ってきはるえ」
美智「すんません、ほな」
階段を降りてきた石山。「あの…ああ、郷里からリンゴ送ってきたもんで、どうぞおばさんに召し上がってもらってください」
美智「いえ…」
石山「あっ、どうぞ」
お盆に乗せた10個ほどのリンゴを土間に落としてしまう美智。「すんません」
石山も拾うのを手伝う。
美智「おおきに」
何か言いたげだけど部屋に戻っていく石山。
部屋に戻った美智は、まーたリンゴ落としてる。「お母ちゃん…」と堰を切ったように泣き出した。
<夜の静寂が訪れるにつれて、美智は、やっと自分に何が起こったのか正確に分かったような気がした。要するに自分は、まるで捨て子のように見捨てられ天涯孤独の身になったということである。そして、これまで唯一の支えだった母親を永遠に失ったということである>
また自転車の乗って来た小野木。「おばちゃん、おはよう」
さき「おはようさんどす」
小野木「塩崎さんは?」
さき「はあ。娘はんは帰りはりましたけど、旦那さんと奥さんは、まだどす」
小野木「娘さんは?」
さき「へえ。会社へ行かはりましたけど」
小野木「会社?」
さき「へえ」
小野木「娘さん、会社へ出かけていったんか?」
さき「へえ」
小野木「ゆうべ、なんぞ変わったことなかったか?」
さき「変わったこと? いえ、別におへんなあ」
小野木をさっそく頼ると思ったのか? うぬぼれてんなあ!
美智の働く会社
額を押さえる美智。
陽子「みっちゃん、どないしたん? 具合悪そうやね」
美智「うん、旅行でちょっと疲れてしもうて」
小川課長に呼ばれた美智は、経理へ持っていく書類を渡されて歩き出すが、勤労課の扉を開けた途端、立ち眩みを起こしてしゃがみ込んだ。
小川「塩崎君、どないしたん?」
医務室
額に手拭いをあてられている美智。
陽子「やっぱり旅行疲れがたたったんやわ。今日は、もう帰らしてもろたらどうえ?」
首を横に振る美智。
陽子「けどな、みっちゃん、なんぞ心配事があるんと違う? 旅行に行ってる間中、みっちゃん、全然元気がなかったやないの」
ドアが開き、小川課長が入ってきた。「塩崎君、大丈夫かいな?」
美智「はい。ご心配かけてすんまへん」
陽子「やっぱり帰らしてもろうたら?」
小川「ああ、そのほうがええ。あっ、なんやったら区役所の小野木君に電話して、うちの人に迎えに来てもらうように頼んだろか?」
美智「うち、もう大丈夫ですさかい」体を起こす。
小川「あ~、そう無理したらあかんて」
陽子「みっちゃん、なっ? みっちゃん」
美智「うち、ほんまに大丈夫です」
小川「ほんまか?」
美智「ええ」
小川「ほんなら、君な。今日、塩崎君、うちまで送っていってやり」
陽子「はい」
美智「いえ、うち、休ませてもろうたら、ほんまにようなりましたさかい」
電車に乗っている美智。こういう電車の撮影ってどうしてたんだろ? さすがに昭和50年代にこういう電車じゃないでしょ!?
まだ塩崎家の土間でウロウロしていた小野木は、さきと美智の会話に耳を澄ます。
さき「みっちゃん、おかえり」
美智「ただいま」
さき「なんや顔色が悪いけど、どないしたん?」
美智「別に」
さき「そうか? 小野木はんが来てはるえ」
美智「小野木はんが?」
さき「うん。なんや、ご用があるんやて。中で待ってはるえ」
意を決して玄関の戸を開ける美智。
小野木「ああ…今、お帰りですか」
会釈する美智。
小野木「会社から旅行に行ってらしたんですって?」
美智「はい。昨日、帰ってまいりました」
小野木「ああ、そらあ楽しかったでしょ。お母さんに用があって、お留守に何度も伺ったんですけど、誰もいてはらんさかい」
美智「母は鳥取のほうに出かけてますさかい」
小野木「鳥取のほうに?」
美智「父と一緒に墓参りに行ってます」
小野木「ほう、墓参りに? それでいつ帰ってきはるんですか?」
美智「じきに帰ってくると思います」
小野木「じきに? 美智さん。お宅でなんぞ変わったことがあったんと違いますか?」
だんだん美智との距離が近くなってないか? 怖っ!
美智「いいえ。なんにも変わったことあらしまへん。父と母が帰りましたらお役所のほうへ連絡いたしますさかい。うち、旅行から帰ったとこで疲れてますさかい、これで失礼します」
小野木「美智さん。じゃ、お母さんが帰りましたら、必ず役所のほうに」玄関を出ていった。
自分の家に戻った美智。(つづく)
小野木の不気味さがちょっと癖になるけど、でも、三浦先生みたいな人、いないの~?