公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
正道(鹿賀丈史)の部下が急に訪ねてきた。居合わせた巳代子(小柳英理子)が手早く料理を出し、元子(原日出子)は料理の上手い奥さんと勘違いされる。順平(斎藤建夫)は、自分が書いた映画のシナリオの感想を元子に聞くが、あまりに厳しい批評に怒ってケンカになる。するとそこに巳代子から電話が来る。テレビの料理番組の先生が風邪で倒れてしまい、巳代子が代わりにやることになったので、手伝いにすぐ来てほしいという。
大原家玄関
巳代子「昨日は本当にどうもありがとうございました。おかげで今朝は、お父さんも当たりが柔らかくて、やっぱり大原のお義兄(にい)さんだって祐介さん、ホッとしてました」
正道「ハハ…何言ってんだよ。ふだんは近いばっかりにね、祐介君にお願いしっぱなしなんだから、たまには八つ当たりの肩代わりしなきゃいけないと思ってたんだ」
元子「そうよ。まあ、とにかくお上がんなさいよ」
巳代子「ううん、弘美も待ってるし、ここで失礼する」
元子「あんたも忙しいのね」
巳代子「ごめんなさいね。今日はね、東洋テレビでスポーツタオルをもらったの。で、大介ちゃんにちょうどいいだろうから届けに寄っただけ。すてきなんだから」
正道「どうもどうもありがとうございました」
巳代子「とんでもありません。じゃあ、それじゃあ」
石原「こんばんは」
工藤「ごめんください」
月曜日の回に正道の仕事場の事務所にいたのが、石原と工藤。ただ、この回は顔がほとんど見えなかった。
正道「お~、君たちか」
石原「どうもすいません。あの、どうしようかなあと思ったんですが」
工藤「このままうちへ帰る気にもなれなかったもんですから」
正道「いいから、上がれ上がれ」
石原「いいですか?」
元子「ええ、どうぞどうぞ」
工藤「しかし、食事時だし…」
正道「何言ってんだ、それ狙って来たんだろ。下手な遠慮しないでほら、上がれ上がれ」
石原「じゃあ、失礼します」
元子「お上がりになって…」
巳代子「どうぞお上がりになってください」
台所
巳代子が料理を作り、元子が熱かんを作る。
元子「じゃあ、巳代子」
巳代子「うん」
茶の間
工藤「あっ、どうも頂きます」
元子「失礼いたします」
正道「お~、来た来た」
工藤「すいません、奥さん、どうも」
元子「どうぞ」
正道「お~、ありがとうありがとう。さあ、遠慮しないでどんどんやってくれよ」
石原「しかし、強いんですねえ、大原さんって」
工藤「だから俺がそう言ったじゃないか」
石原「でもさ、僕はどなってるところと弁当を食ってるところしか見たことないからさ。全然の石部金吉かと思ってたもんね」
工藤「そうだよな」
正道「まあ、どっちかっていうとそうかもしれんな。相棒もいないのに一人で縄のれんくぐる趣味はないな」
石原「では、お相手でしたら、いつでも僕にお申しつけください」
正道「しかしな、やっぱり酒は、たまにうちで飲むのが一番うまいな」
工藤「見ろ、やられちゃったじゃないか」
石原「やられちゃった」
正道「まあ、酒の飲み方はな、人の好き好きだけども、うちで飲めば酔えば寝ちゃえばいいんだから」
工藤「そうだ」
石原「でも、チョンガーが膝小僧を抱えて一人で飲むのってわびしいもんですよ」
朝鮮語だったのか。ドリフの歌にもあったよな、嫌じゃありませんか、チョンガーは。
正道「だったら今度、飲みたくなったらうちに来いよ」
石原「えっ、本当ですか?」
工藤「お前は、ずうずうしいんだよ」
正道「いや、構わん構わん。そのかわりな、毎日ってのは困るけどな」
石原「いや、1週間に2回…いや1回でもいいんです。なんせ僕は寮生活なもんですからね」
台所を預かる主婦にしたら地獄のような会話だな…。寮生活なら賄いとかでるんでしょー? 図々しいにもほどがある。
台所
巳代子「はい、出来上がり」
元子「じゃあ、持ってっていいのね?」
巳代子「あっ、パセリ刻んであるからパラパラっと」
元子「パラパラっとね」
巳代子「そうそう、そうそう」
元子「でも、助かったわ、巳代子。もう私一人(しとり)じゃ、こんなにたくさんこんなに手早くとてもとても」
巳代子「若い人(しと)なら何てことないわよ。独り者には家庭料理、そして、ありもの材料で豪華風のものをもう一つ出す」
元子「あ~、さすが専門家」
巳代子「エヘヘ…それじゃ、お願いします」
元子「はい…」
茶の間
元子「お待たせしました」
工藤「あっ…お~! こりゃうまそうだ」
元子「さあ、どんどん召し上がれ」
工藤「頂きます」
石原「いやぁ、感激しちゃうな」
工藤「うん、こりゃいける!」
元子「あら、そうですか」
工藤「ええ。いやぁ、奥さんのレパートリーの広さに驚きました。いいなぁ、大原さんは」
石原「うん、これ、まるで本職だよな。やっぱりかみさんもらうには料理がうまくないと駄目ですねえ、大原さん」
正道「ハハ…いいから、食え食え。な」
石原「はい、頂きます」
正道「この石原君もね、1人暮らしなんだよ。それでこれからちょくちょく来るっつうけども、まあ頼むな」
元子「ええ。大したことは何にもできませんけど、どうぞいらしてください」
石原「あっ、あのどうぞよろしくお願いします!」
笑い声
元子「ごゆっくり」
石原「はい、どうも」
大原家玄関
石原と工藤の歌声
石原「あ~!」
元子「気を付けてくださいね…」
工藤「あ~、どうも遅くまですいませんでした」
石原「すいませんでした」
工藤「ごちそうになりました」
正道「はい。じゃあ、まっすぐ帰るんだぞ」
石原「分かってますよ。それじゃ、奥さんどうもごちそうさまでした」
元子「おやすみなさい」
工藤「明日、よろしく!」
石原「失礼します。どうも」
正道「あ~、危ない危ない、ほら…。ちゃんと靴履いて…。ハハハ…」
元子「まあ。さあさあ」
正道「あ~」家の中へ入っていく。
昭和だな~。ホームドラマやドリフのコントなんかでもよくあるシチュエーションだったような。家に人がしょっちゅう来る家、嫌だよ。
この間は顔もあんまり見えなかった石原と工藤。石原はちょっとコメディっぽい感じの人で工藤はイケメン。工藤役は中原由視さんというのはこの間調べたけど、中原丈雄さんに似てないか!?と思ったのです。
中原丈雄さんのドラマデビュー作は1982年のTBSポーラテレビ小説「女・かけこみ寺」で、中原由視さんもこのドラマに出演されてるのです。それを調べていたらあるブログにたどりついて…読んで別人なんだなと。すごく詳しくて勉強になりました。
ダイニング
元子「お茶でもいれ直しましょうか」
正道「ああ」
元子「よいしょ」
正道「あの石原っていうのはね、最近、現場に来たんだけれども、一度、折を見て工藤に連れてこいって言っといたんだよ。しかし、突然来るとは思わなかったな」
元子「だけど、喜んでくれたみたいで」
正道「うん、そうだね。ほかの現場でなんだけどね、酒で間違いを起こしたり、ばくちに手ぇ出して問題を起こした男がいてね、橋本とも対策を話し合ってたんだよ。時々、今日みたいなことあるかも分からんけども忙しいけども、よろしく頼むな」
元子「もちろんよ。だけど、日曜の昼間なんかに来てくださると大介もお仲間になれるとんですけど」
正道「大介か…」
元子「ええ。学校からもね、微妙な年頃だからって注意されてはいるんですけど、私じゃ男の子のことは、よく分かんないし、ああいう若い人たちがおにいさんみたいな調子で仲間に入れてくれると安心なんですけどね」
正道「あ~、そうだな」
元子「以前は順平がいろいろと面倒見てくれてたんだけど…」
正道「年の近い叔父とおいだからな」
元子「それでもだんだん世界が変わってくるのね」
正道「そして、また助け合うようになるんだよ」
元子「ええ…」
大介「にぎやかだったねえ」
正道「お~、大介。うるさかったか?」
大介「ううん。ほら、巳代子叔母さんのタオル」
元子「まあ、すてきじゃないの」
大介「明日、学校に持ってっていい?」
元子「ええ。そのために持ってきてくれたんですもの」
大介「は~い。じゃあ、おやすみなさい」
正道・元子「おやすみ」
素直ないい子じゃないの。昭和25年生まれだから、これから学生運動にハマる可能性ありかな!?
吉宗
三味線を弾くトシ江。
宗俊「〽 世間の人は
実に粗末になるわいな
ええ そうじゃないか」
民謡や小唄などの歌い出しなどにつく記号は庵点(いおりてん)というのですね。やっと出し方が分かった。
トシ江「あ~、おとうさん、そこ…そこ違うんですよ。そこはね…
〽 そうじゃないじゃないか
そうじゃないか」
宗俊「この野郎、え、お前みたいな始末屋には、あきれたよ」
トシ江「何がですか?」
宗俊「え? だって、そうだろう。俺と一緒になって何年になると思ってやがんだ。これまでそれだけのものを持ってやがって、お前、もったいぶってしまっときやがるんだからよ」
トシ江「何言ってんですか。嫁に来て、おしゅうとめさんに帳場のこと、裏のことを教わりながら、子供を夢中になって育てて、親を送ったら戦争だもの。こんな長いもん引(し)っ張り出してる暇(しま)なんかなかったじゃありませんか」
宗俊「そりゃ、全くだ」
トシ江「けど、おとうさん、あちこちのお座敷だかきれいどころだか知らないけれど、まあ随分、月謝払ってますね。いい喉してますよ」
宗俊「頭な、白いものが増えたってのによ、やきもちやいたって始まらねえよ」
トシ江「何言ってんですか。いくつになってもね、やきもちやくのを忘れたら女もおしまいですよ」
宗俊「へへ、そうでやんすかねえ」
トシ江「えぇえぇ、そういうもんですよ」
宗俊「ハハハ…まあ、のんびりやろうや。な、トシ江」
トシ江「そうですね」
宗俊「たとえよ、半ちくでも子供を学校出したんだしよ、まあ世間様に迷惑さえかけなきゃ、あとどうなろうと俺たちの知ったこっちゃねえやな。好きにやってもらおうじゃねえか」
トシ江「そうですね…」話してる間も三味線をつま弾く。
宗俊「おい、そのな、あの~、ほら小唄をやってるって友達によ、いっぺんちゃんとさらってもらおうじゃねえか、え」
トシ江「そうですねえ」
宗俊「ああ。おい、あの~、あれあれ」
トシ江「何でしょう?」
宗俊「『つくづく』。『つくづく』いこう」
トシ江「あ~、『つくづく』は難しい…。私も忘れちゃったんじゃないかしら」
宗俊「へへ…」
トシ江「『つくづく』…
〽 つくづくと
ものにまぎれる軒の雨
降るにつけても恋しさの」
たばこを吸いながら聴き入る宗俊。風流な夫婦だねえ。昔のドラマや映画にはこうやって俳優が芸を披露する場面ってあったよねー。歌、楽器、踊り…。
現場事務所前
正道「おう、おはよう!」
一同「おはようございます!」
事務所
正道「おはよう」
一同「おはようございます」
工藤「昨日はどうもごちそうさまでした」
正道「おう」
石原「昨夜は大変ごちそうになりました!」
正道「あれからまっすぐ帰ったか?」
工藤「ええ、帰るには帰ったんですけども、こいつにえらく絡まれましてね」
石原「それはお前の方だろう」
正道「何だ、2人とも、そんな酒癖悪いのか」
橋本「おいおい、気ぃ付けろよ。どうやら2人とも奥方の品評会やってたらしいんだ」
正道「ん? 品評会?」
石原「いえ、そんな失礼なことは。なあ」
工藤「そうですよ。僕らはただ恋愛か見合いか、どっちが先にほれたのか」
橋本「まあ、いずれにしても大原さんには、もったいないぐらいの奥さんだったとか何だとか」
石原「いえ、あの、僕はね、お似合いのと、そう言ったんです、はい」
正道「どうりでくしゃみが出たわけだ」
工藤「風邪ですか」
正道「バカ」
笑い声
工藤「じゃ、行ってきます」
橋本「おう、気を付けて」
大原家
リビングで原稿を読んでいる元子と、ダイニングにいる順平。
元子「読んだわよ、順平」
順平「で、どうだった?」
元子「悪いけど、何が書いてあるか、さっぱり分かんないわ。それで言い過ぎなら観念的すぎるわね。物語としては、この話は情熱の赴くままに突き進んで破滅した男の話でしょう。けどよ、作者としての順平がこの男の破滅をうたいあげているのか、それとも突き放してるのか、それが分かんないわよ」
順平「それは見た者の受け取り方次第だろ」
元子「かもしれないけど、誰の目で、この男を追ってるのか、それが順平の中ではっきりしてないと、どう話についてっていいのか見る人は迷うでしょう。それともう一つ、もっと分かりやすい書き方はなかったの? それはね、ブルースにもこんこんと言われて私も身にしみて分かってるから言ってんの。自分の目で書きなさいよ。気取ることないでしょう」
順平「気取ってなんかないよ」
元子「そうかしら。主人公は破滅型なんだから、それでもいいけど、彼のために泣く者、泣いてくれる者の描き方に全然、血が通ってないわ」
順平「もう、いいよ。大きなお世話だよ」
元子「最後まで聞きなさいよ。意見聞きたいから持ち込んだんでしょう」
順平「ああ、そうだよ。悪口言ってもらうためじゃないからね」
元子「人の言うことは何でも悪口だと思うようじゃ、こんなものいくら書いても無駄ね」
順平「うるせえな。敬意を表して一応、意見を聞いてやったまでだい。何だい、自分だって、たった1本、放送されただけで、あとは全然、ものにならねえくせに偉そうに」
元子「関係ないでしょう」
順平「もう、いいったらいいんだよ」
元子「順平!」
勝手口から出ていく順平。
元子「けど…人のことなら、あらが分かるのかな…」
電話が鳴る。
元子「はあ~、もう、人が何かやろうと思うと、すぐ邪魔するんだから…。はい、大原です」
巳代子「もしもし、私、巳代子。お願い、お姉ちゃん、助けて! えらいことになっちゃったの!」
元子「慌てないで! 何がどうなったのかちゃんと言いなさいよ、ちゃんと!」
テレビ局の受付カウンター
巳代子「上林先生が風邪で倒れちゃったの。それで、今日の家庭料理の時間、私がピンチヒッターでやることになったんだけど助手さん呼んで新しく説明してる余裕がないの。だから、お姉ちゃんに代わりに助手さんやってもらえないかしら」
驚く元子
巳代子「本番は3時からなんだけど、すぐにさえ来てもらえれば、お姉ちゃんとならツーカーだし、多少まごついてもなんとかごまかして格好はつくだろうし…お願い、お姉ちゃん、助けて!」
元子「分かった。すぐ行くから…エプロンとか必要なもの用意しておいてちょうだい。そしたらまっすぐスタジオ行くから。何、作るのよ?」
元子の家の時計は午後1時55分。
巳代子「ラ・パテ・ドゥ・ポアソン」
元子「何? それ」
検索したら、スープ・ド・ポワソン(魚介のアラのスープ)とパテ・ド・カンパーニュ(田舎風パテ)なら出てきた。
巳代子「魚のパテよ。パテっていうのは、う~んと…ブランデーなんかを入れた魚のすり身に生クリームなんかを加えて…だから…つまりテリーヌよ」
パテとテリーヌはまた違うらしい。
元子「そんな舌かみそうなものの手伝い私にできるわけないでしょ」
巳代子「そんなこと言って、私一人じゃ、どうしようもないもの」
元子「よし、そしたら、献立変更。巳代子の得意なものでいきなさい」
巳代子「私の?」
元子「家庭料理よ。私が行くまでにそういう材料を調えておいて。大根、にんじん、ごぼう…そうだ! のっぺよ! のっぺでいきなさいよ!」
巳代子「のっぺ! 分かった!」
元子「うん! それじゃあね」
さあ、このピンチ、一体、どういうことになるんでしょうか。
つづく
余裕が出てきて夫婦共通の趣味を持つ宗俊とトシ江。バリバリ現役世代の元子と正道。しかしまあ、アポなしで家に来るのはやめよう。
やっぱり料理できる人が最強! 私は家事の中で一番料理が苦手だから尊敬する。