公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
電報は、正道(鹿賀丈史)の出版社が倒産したという知らせだった。正道は急ぎ東京へ戻り、元子(原日出子) は波津(原泉)や大叔父の政久(下條正巳)たちから、正道と一緒に松江で暮らさないかと提案される。東京で出版社を再建するのも容易ではなく、公職追放が解けた今なら正道は役所で雇ってもらえる。元子は東京から帰ってきた正道に、大原家の長男の嫁として、これからの人生を松江で暮らす覚悟を伝える。正道は驚くが…。
松江・大原家
大介「わ~!」またまた石灯籠を棒で叩く。字幕は出てないけど「面、胴、小手」と言ってるみたい。
間もなく師走を迎えようとする時、東京から届いた出版社倒産の知らせは元子にとっても容易ならぬものでした。
元子「大介、あんまり乱暴なおいた駄目よ」
大介「あっかんべ~だ。バン!」
和室
武幸「なあ、元子さん」
元子「はい」
武幸「今、おばあさんから話を聞いたがね、正道も東京で大変みたいだないかね」
元子「はい」
政久「うん、まあ、ほかの月と違い12月を前にしての倒産では再建すうのも容易ではないわのう」
元子「はい。伯父様方にまでご心配をおかけして本当に申し訳ございません」
関係性はよく分からないが親戚の人。しかし、元子が”伯父さん”と言ってるから、泰光の兄だろうか? 大伯父の政久は波津のきょうだい?
武幸「いや、そうで、おばあさんとも相談したとこだがねえ」
元子「はい」
武幸「あんたら夫婦は、この松江で暮らさんかねえ」
政久「ああ、いや、あの、この間も言ったとおり、今なら正道も役所で雇ってもらええだわや」
元子「はい…」
政久「あんたにしても大介を連れて東京へ帰ったところで正道は失業してるわけだ」
元子「それはそうですけれど」
武幸「といってもねえ、東京は元子さんの生まれ故郷だし、まあ、あのお父さんがついちょられえけん、よもや路頭に迷うというようなことは万々ないとは思っちょうだども、こっちもわしら親戚のもんがついちょって、正道にあんたの実家の世話ばっかし受けさせえわけにもいかんですけんね」
元子「あの、お言葉をお返しするようで申し訳ございませんが人間、困った時は助け合うのが当たり前ではないでしょうか。そのかわり、助けてもらった時は人(しと)一倍努力して相手の厚意に応えて、いつの日か、その厚意に報いるだけの力をつけることができれば、それが人の道かと思いますけれど」
武幸「いや、そらまあ、そげだども」
波津「ほら、見なはれ。元子さんの言い分は私と同じですがね」
政久「おばあさん、いやぁ、まあ、この大原一族というのはのう、結束も固いが言いだしたら聞かん強情なところもあってのう」
武幸「まあ、大黒柱の泰光さんが寝込んでしまった以上、陽子を働きに出さんといけんだども、まあ、そぎゃんことして陽子の婚期を遅らせえやなことは親戚としてもしたくはないし、かといって、おばあさんは、できいとこまで自分たちの力でやあからと言われて、まあ、わしらの援助を断っちょられえわね」
政久「うん。だとしたらだのう、何と言っても正道は長男だし、東京の仕事が潰れたとなあと、まあ、この松江へ帰って、こっちで仕事をするのが一番いい方法ではないだらかとのう」
元子「それは確かにそのとおりでございますが…」
武幸「だったら、あんた承知してごしなあかね」
元子「はい…。でも、これはとても私の一存では決められませんので東京の主人とも相談の上、おばあ様のご意見に従いたいと思います。もうしばらくお時間を下さい。お願いいたします」
政久「うん。まあ、今日のところはそげなことかもしれんのう」
波津「まあ、そげなことですわね。ほんに…ご苦労さんでございましたわ」←字幕は”…”だけど普通に”どうも”と聞こえる。
元子「いろいろご心配いただいてありがとう存じました」
人生には、いくつかの転機がありますが泰光の病気と出版社の倒産は確かに元子の人生の一つの転機だったといえるでしょう。
政久→おばあさん、武幸→泰光さんという言い方からして、もうちょっと遠い関係なんだろうかね~。親戚づきあい、つらい…。
元子は松江における状況の逐一を夫のもとに報告しました。
夜、吉宗前の路地を歩いてくる正道と藤井。
吉宗
正道「ただいま」
トシ江「はいはい」
藤井「どうも遅くなりました」
トシ江「お帰りなさい。さあさあ、早く上がんなさいな。ねえ、寒かったでしょう」
藤井「あの、巳代子は?」
トシ江「あっ、今夜ね、冷(し)えるから早く寝かせたわよ。まあ、異常ないから大丈夫」
藤井「どうもすいません」
トシ江「何言ってんのよ。さあさあ、早く上がって。ね。さあ、こたつにでも入ってよ」
桂木家茶の間
正道「はい」
トシ江「くたぶれてる時はね、風邪ひきやすいんですから、あんたたち2人に風邪ひかれたら、私、2人に、もう叱られちゃうわよ。ね。さあさあ…」
天板付きのこたつになってる。
宗俊「おう、お帰り。今夜も随分、遅かったじゃねえか」
正道「はい。おかげさまでほとんどの債権者とも無事、話し合いがつきました」
宗俊「ああ、そりゃ大変だったな。しかし、まあ、どんな商売でもよ、店開(しら)く時よりも畳む時の方が苦労だっていうそうだからなあ」
正道「本当にそうですね。始める時は、ただ無我夢中でやればよかったんですが、畳むとなるといろんな考え、いろんな言い分の人たちが相手ですから」
藤井「すいませんでした。私が留守を預かりながら申し訳ないことをしてしまいました」
宗俊「そうお前、毎日毎晩、同じ文句で手ぇついて謝ることはねえやな」
トシ江「あんた」
正道「藤井君もこうなると思ってやったことじゃありませんし」
宗俊「んなこたぁ分かってるよ。しかし、おめえさん方、少々、手ぇ広(しろ)げすぎたんじゃねえのかい?」
正道「はい。大いに反省すべき点はあったと思います」
宗俊「まあしかし、よく乗り切ったよ。なあ。で、これから先、どうするつもりだい」
正道「はい。年が明けましたら、また新規まき直しということであります」
宗俊「ああ」
正道「それで、その間に一度、松江の方へ帰ってこようかと思うんですが」
宗俊「ああ、そりゃあいい。まあ、とにかく松江のお父っつぁんがな、持ち直してくれたのが何よりの幸いだ。しかし、大介はどうしてるかなあ。元子はどうして帰(けえ)ってこねえんだ? え? お前、亭主が夜の目も寝ねえで走り回ってる最中に松江でぬくぬくしてるなんてのは、もっての外だ」
正道「いえ、別に元子はぬくぬくなどしておりません」
トシ江「そうですとも」
当たり前だろー! 正道さんやトシ江さんがフォローしてくれてよかった。宗俊のこういう所は嫌。
宗俊「そんなとこで女がお前出しゃばるんじゃねえ」←やな言い方。
トシ江「まあ、何でしょうねえ」
宗俊「向こう2人はお前、いっぺんに失業しちまったんじゃないか、え。ここの辺で娘2人に気合いを入れねえでどうすんだ」←字幕は”向こう”になってたけど”婿”じゃないかね、これは。
藤井「しかし、今、巳代子は産み月を控えておりますから」
宗俊「そんなことは腹見れば分かるよ、俺だって」
戸が開く
巳代子「お帰りなさい。大変でしたでしょう、お義兄(にい)さんも」
正道「あっ…巳代ちゃん、今はね、元気な赤ちゃんを産むことだけ考えてればいいんだからね」
宗俊「そんなことは当たり前ですよ」
正道「あっ、はい…」
トシ江「あんた」
巳代子たち夫婦は倒産と同時にこの吉宗へ転がり込んでいました。
何はともあれ、大体の整理がつくと善後策を講じるためにも正道は松江に戻ってきました。
泰光の部屋
泰光「そげかや。東京では皆さん、お元気だったかや」
正道「はい。お父さんもちょっと見ない間に随分、お顔の色がよくなられたんで、正道、安心しました」
泰光「そうはのう、元子さんがよう面倒を見てごいたおかげだわや」
元子「いえ、私はそんな」
邦世「何はともあれ疲れたでしょう。元子さん、向こうで正道、少し休ませてやってごしないね」
元子「はい、それでは」
正道「よし、さあ」
元子「行きましょう」
正道「それじゃあ」
泰光「ああ」
別の部屋
正道「ほら、大介、東京のおじいちゃんのお土産だぞ」ミニカー。
大介「わ~い! 病気のおじいちゃんに見せてくる!」
元子「大介、あんまり騒いじゃ駄目よ」
大介「は~い!」
元子「本当にお疲れさまでした」昼間からビール!
正道「うん。手紙の様子じゃ君もいろいろ大変だったようだな」
元子「いいえ。それより巳代子の方はどうでした?」
正道「うん、まあ、いずれにしろ年内に一家上京はないからね、僕らの家に入ってるようにって言ってきた」
元子「それがいいわ。河内山が何だかんだ言うのは目に見えてるし、その度にきっと気をもむのは巳代子やお母さんなんですもの」
正道「うん。それからね、ろくなものはないんだけれども、お金に換えられるものがあったら藤井に任せて借金の返済にするようにも言ってきたから」
元子「ええ、私もそのつもりでいましたから」
正道「うん。しかしな、このままこの松江に落ち着くっていうのもな」
元子「いいえ、そうしましょうよ。私、お留守の間、ずっと考えていたんですけれども、お義父(とう)様のご病気、確かによくはなっていますけれど、この先ずっとご無理なことはできないんですよ。お義母(かあ)様だって、お口に出さないけれども、あなたがこちらで暮らすっておっしゃれば、どれだけ安心するか分からないわ」
正道「しかしね、昔から郷里に引き揚げる時は錦を飾る時とか名を遂げる時とかっていうじゃないか」
元子「そんなの古いわよ。そんな世間体より家族が力を合わせてつつましくてもいいから、みんなの心が安らぐような暮らしをたてていくことが私たちにできる一番手近なことなんじゃないんですか? ねえ、一度、お役所の面接、受けてみてくださいな。お願いします」
正道「それで、うまくいかなかったらどうするんだ?」
元子「その時はその時で、また別の方法を考えればいいじゃありませんか」
正道「しかしだよ、このまま我々が東京に帰らないってことになったら、桂木のご両親、どれだけ心配するか、それは分かんないぞ」
元子「だって、お父さんは私がぬくぬくとしているって、そう言ってるんでしょ? だったら私のせいにしてくださいな」
正道「えっ、君のせいに?」
元子「ええ。元子はこちらが気に入ってしまって職もない東京へ帰るのを嫌がってるって」
正道「だって、そんなこと言ったら…」
元子「河内山はカンカンでしょうね」
正道「そりゃ、もう今は大介がいないっていうだけで、お義母さんなんか八つ当たりもろに受けてらっしゃるんだよ」
元子「大丈夫よ。そのかわり、巳代子がもう一人、孫を産むじゃありませんか」
正道「元子…」
元子「たとえ、どんなにカンカンになったとしても、あの河内山はまだまだ元気なんです。そこが寝たきりのお義父様とは違うところよ。あなただって私と結婚して以来、ずっと東京で、いわば、ご自分のお好きな仕事をさせていただいてきたんでしょう。だったら、ご恩返しという意味でも、今は本気で親孝行する時じゃないんですか?」
正道「それはね、自分でも気にはしてるんだけれども」
元子「そうよ、今こそ、あなたはこのうちにとって必要な人なんですもの、お父さんだっていつか分かってくれますよ。お母さんだってついているんだし、きっとそのうち上手に説明してくれますとも。それにね、どんなに怒ったとしたって何たって遠いんですもの、ここまでげんこつの雨が飛んでくるわけじゃないし」
正道「しかしだな、このままここにいるってことになると、いつか言ってたやりたい道からもどんどん離れちゃうことになるんだぞ」
元子「ええ」
正道「あれだけ心を動かされた東洋ラジオの件も永久に縁が切れちゃうんだよ」
元子「それも考えました」
正道「元子…」
元子「でも、人にはそれぞれ巡り合わせっていうものがあるような気がして。どんなにその気になっていてもね、そういう状況が整わない時は、しかたがないんじゃないんですか? だから今は、この松江で大原の嫁として誠意を持って暮らせって、あの時、出雲の神様がそうおっしゃったような気がするの」
正道「後悔しないか?」
元子「一日一日精いっぱい暮らしていけば後悔なんて人生はないと思うわ」
正道「すまんな」
元子「嫌です、そんな言い方」
正道「分かった。それじゃあ、早速役所へ行ってみよう。それで駄目なら、またその時に考えよう」
元子「ええ。いざとなったら私だって外で働きますよ」
正道「おい、なめんなよ。これでも僕は元子の夫で大介の立派な父親なんだぞ」
元子「あっ、それは失礼いたしました」
笑い声
桂木家茶の間
手紙を持つ宗俊の手が震え、手紙をくしゃくしゃにする。「あの野郎、勘当だ! あの世の先まで勘当だ!」
トシ江「あんた」
宗俊「うるせえ! え、『主人にいい勤め口が見つかりましたから、私も安心してこちらで暮らせます』。元子がシャアシャアと書いてきやがったんだぞ! え! あの元子がシャアシャア…」
トシ江「わ~!」
宗俊「わ~、熱(あち)っ!」長火鉢の上の鉄瓶をひっくり返す。
トシ江「あんた、大丈夫!?」
宗俊「熱~っ!」
トシ江が手をフーフー。
案の定、宗俊の怒りはご覧の通りです。けれど、必ずやこの誤解はいつの日か解けることと信じて…。
松江で幸い、正道は役所に採用され、元子は大原家の嫁としての生活を始めておりました。
松江・大原家玄関
元子「はい」カバンを渡す。
正道「はい」
元子「行ってらっしゃいませ」手をついて頭を下げる。
正道「うん、行ってきます」
波津「元子さん! 元子さん!」
元子「は~い、ただいま!」玄関を出た元子が慌ててこけそうになる。「うわっ! あっ…」
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
松江で暮らす展開になると思ってなかったので、正直、ちょっとな~…。地方といっても地方都市とガチの田舎は違うから、地方都市なら暮らしやすいだろうけど。
年内は2022年12月31日(土)まで年始は2023年1月9日(月)から。15日~17日の休止をしないで、31日まで毎日やって年始を1月5日(木)から始めたら、そこまで間隔あかなかったのになあ。まだぐちぐち言い続けます。