公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
放送局をやめ古着屋を始めた元子(原日出子)。モンパリに住み込むのぼる(有安多佳子)に、海外の引き揚げが始まったことを知らせると、のぼるは抱き付いて喜び、洋三(上條恒彦)と絹子(茅島成美)もようやく安堵する。10月になると正道(鹿賀丈史)が桂木家にやって来た。武器引き渡しなど軍の仕事が終わったので松江に帰郷するという。だが宗俊(津川雅彦)との晩酌の最中に警察が来て、古着屋は無断営業で違反だと言い出す
モンパリ
元子「六根! 六根! 六根いる!?」
洋三「騒々しいね。今度は何がおっぱじまったの?」
元子「海外からの引(し)き揚げが始まったのよ。ねえ、六根は?」
洋三「あっちだ…六根! 六根ちゃん!」
のぼる「ガンコ!」
元子「ブルースがね、今、局から電話くれて海外の引き揚げが始まったんだって」
のぼる「それじゃあ…」
元子「まあ、今回のは…第1回目はメレヨン島の兵隊さんだって。でも、引き揚げが始まることは始まったのよ」
ウォレアイ環礁=オレアイ環礁=メレヨン環礁…全く響きが違うように思う。
のぼる「ガンコ…!」元子と抱き合って喜ぶ。
絹子「よかったねえ。本当によかったよかった」
のぼる「ありがとう、おばさん。ありがとうございます、おじさん」
洋三「もうちょっとの辛抱だからね」
元子「よかったね」
吉宗
宗俊「まあ、かなりの人数だそうだから、局でも名前までは分かんないらしいんだけどな、まあ、詳しいことはそのうち留守宅に知らせが入(へえ)るってよ」
キン「そん中に善吉は入ってないんでしょうか」
宗俊「慌てなさんな」
キン「そんなこと言ったってさ…」
宗俊「いや、まあ聞きなよ。いいか? メレヨンが一番になったってのはな、こりゃ、理由があるんだ」
キン「だったらさっさと言ってくれたらどうなんですか」
宗俊「いや~、だからさ、何でもその島はな、まるで食い物がなかったんだってよ」
キン「まるでないって、そりゃ一体…」
宗俊「いや、だから、まあ詳しいことはな、ニュースで言うだろうけども、何でも早く連れて帰(けえ)らにゃならねえようなあんべえだったんじゃねえのかな」
キン「かわいそうにまあ…。そんな食べ物ないとこで、まあ、戦争してただなんてね」
宗俊「いや、だから、な? もしもその船に乗ってなかったとしてもだ、善吉に正大は飢え死にの心配だけはねえってことなんだから、まあ、それでよしとしなきゃ。な。物は考えようだぜ、おキンさん」
キン「へえ、まあ、そりゃそうですけどね…」涙を拭く。
幸之助「あ~」店に入って来た。
宗俊「おう」
幸之助「いたいた。おう、お前、河内山、聞いとくれよ、おい」
宗俊「こっちもな、うれしい話があるんだ」
幸之助「冗談じゃねえよ、こんなむかつく話があってたまるかってんだよ、おい」
宗俊「何だと?」
幸之助「いや、さっき小芳のやつにせっつかれてな闇市行ったと思いねえ」
宗俊「おう」
幸之助「そしたら毛布にシャツ、米まで売ってる野郎がいてよ、なんとこいつが俺の隊の古参兵だよ」
宗俊「それがどうした?」
幸之助「え、俺もバカだから懐かしくて声かけたらよ、その野郎、その品物の出どころ、どこだと言ったと思う?」
宗俊「知ってるか、そんなこと」
幸之助「え~、あの終戦のどさくさに紛れて連隊からトラックいっぱい持ち出したんだとよ、え。俺たち兵隊には、ろくに靴下も支給しなかったんだよ、え。こんなバカな話があるか、おい。まるで泥棒じゃねえかよ、おい」
宗俊「まあ、闇市で幅を利かしてる連中はな、そういう、はしこい手合いばっかだよ」
幸之助「けど、それ、悔しくって、俺もう…」
宗俊「ハハハハ。まあ、大物はな、この乱世にジタバタしねえもんだ」
幸之助「ジタバタしねえで古着屋か」
宗俊「何を?」
キン「けど、さすがお嬢ですよねえ。近頃、農家へ着物持ってってもあんまりいい顔しないもんで逆に買いに出たら、まあ、あることあること。訪問着で布団作ってるくらいだもんね」
宗俊「ああ、布団だけじゃねえんだよ。ふんどしまで作ってんだ」
幸之助「てぇ、それで売れてんのかね、この店は」
宗俊「商(あきね)えってのはな、飽きずにやるから商えってんだ。ヘッ、覚えときやがれ」
敗戦のショックで虚脱状態に陥った日本人も食べていなきゃなりません。それがこの闇市なるものを生み出したのでしょう。9月の末には放送協会も街頭録音の前身「街頭にて」の第1回をスタートさせました。
闇市の資料映像から、道端でマイクを傾ける川西。
JOAK 「街頭にて」録音
という看板が背後にあり、米兵も立っている。
川西「ということで、戦時中のこと、あるいは敗戦後、現在のこと不平不満、ひょっとして感激したこと、どんなことでもいいですよ。何でもいいですからおっしゃってくださいませんか。本当に何でもよろしいんです。皆さん一人一人の声がこれからの日本をつくっていくんですから。さあ、その男性の方、いかがですか」
川西さんのアナウンスが戦中の雄たけび調ではなくなった。
女性「あの~」
川西「はい」
女性「私にはどうにも我慢できないことがあるんですけど、いいですか?」
川西「どうぞどうぞ。さあ、こちら…。遠慮なくおっしゃってください」
女性「大きな荷物を背負った復員兵の方によく会いますけど、兵隊さんはそれぞれ苦労なすっているから我慢もできますけど、お役所や軍需工場の人たちが私ら見たこともない砂糖や水あめを石油缶で分けているんですよ。どうしてああいうのを取り締まってくれないんですか」
男性「そうだよ。あれはね、戦争をしてたから『欲しがりません、勝つまでは』と私たちには回ってこなかった品物でしょう。それを闇で売るなんてのは『泥棒に追い銭』ですよ」
しゃべっている男性が見たことある顔だなと思って調べたら、ちょこちょこいろんなドラマで見かけていた。「おしん」にも出てたらしいが何の役だったかな?
川西のもとに多くの人が集まりしゃべり始める。今の「街録」的な番組。
モンパリ
店内にはレコードから曲が流れている。
恭子「初めはしゃべることに慣れなかった人たちも一旦、せきを切ったら大変だったみたい」
のぼる「放送協会もすごいこと始めたのね」
恭子「うん。私もその録音聴いてみたけど、室長がね『民主主義とは自分の言葉で自分の考えをしゃべることから始まるんだろうな』って感激してらっしゃったわ」
元子「自分の言葉で自分の考えをしゃべる…」
恭子「うん。私もね、今まで国民はいかに個人の考えをしゃべってはいけないとされてきたかっていうことをつくづく感じたわ」
元子「だってそんなこと言ったら『非国民(しこくみん)!』のひと言だったんですもの」
のぼる「それがそもそも変だったのよね。一億一心なんだから、みんなが少しでもよくなるためには勇気を持って私腹を肥やす連中を告発しなきゃいけなかったのに」
恭子「うん、本多先生もおっしゃってたわ。再び5『ん』をはびこらせたら新生日本は、またしても滅ぶだろうって」
元子「ごおん?」
恭子「うん。軍隊の軍、官僚の官、闇(あん)は闇(やみ)で金にものを言わせる者、顔をきかせる顔(がん)、それに番ですって。番っていうのは私たち大衆のことで今まではおとなしく順番を待ってるだけだったけれど、これからは4つの『ん』をのさばらせないようにしっかりと監視をする番人にならなければいけないって」
元子「そのとおりだわ」
のぼる「でも、ブルースが局に残って本当よかった。でなかったら、こんなすばらしい話聞けないもんね」
恭子「本当にそう思ってくれる?」
元子「もちろんよ。どんな道を歩もうと私たちはやっぱり同期の桜なんですもの」
恭子「よかった。ガンコたちが私一人だけ裏切ったように思ってないかと本当のところ、とてもつらかったのよ」
元子「バカなこと言わないで。そんな狭い考えは持っておりません」
のぼる「ねえ、このレコードもそうだけどね、私、PXのおかげでこんなものプレゼントされるのよ、ほら」
恭子「わぁ、これがナイロンの靴下なのぉ!?」
のぼる「闇の『あん』じゃないからご安心。今度ブルースに会ったらあげようと思って取っといたのよ」
恭子「本当?」
元子「私ももらってびっくりしちゃったんだけど絹より薄い靴下があるなんて考えもしなかったものね」
恭子「どうしよう。この前、近藤さんに聞いたんだけどね、闇じゃ1,000円からしてるんだって」
のぼる「そうよ。だからさっそうとはいていきなさいよ」
恭子「やだ、うれしくて涙が出ちゃう」
のぼる「恭子ったら」
当時、ナイロンストッキングは若い娘にとって憧れの的、高根の花でした。
店に入ってきた米兵2人。
のぼる「ハロー。プリーズ」席に案内する。
恭子「慣れたものね」
元子「今や金色(こんじき)六根なのよ」
恭子「何? それ」
元子「『金色夜叉』の貫一顔負けで昼間PX、夜は当モンパリでバンバン働いて貯金しているの」
恭子「どうして?」
元子「うちを買いたいんですって。満州から帰ってくるご両親が手足伸ばして休めるようにって掘っ立て小屋でもいいから自分のうちを買いたいんですって」
恭子「ふ~ん。六根も頑張ってるのね」
元子「うん」
それぞれが将来のことを考え始めていた10月のある日でした。
吉宗
正道「ごめんください」
元子「はい、いらっしゃいまし」後ろを向いて着物の整理をしていたが振り向く。「大原さん!」
茶の間
正大の写真と陰膳。かぼちゃが供えられている。
正道「いや~、実にさっぱりいたしました。どうもありがとうございました」
トシ江「なかなかお似合いですよ」
正道「あ…。正大君にご用意なさってたんでしょう。彼に申し訳ないです」
宗俊「何を言ってんですか。はばかりながら着物道楽で鳴ってるこのおやじがついてるんだ。まして焼け出されたわけじゃなし、え。やつのもんだってそれ1枚ってわけじゃねえんだから」
正道「はい」
宗俊「いや、長い間ご苦労さんでした。ほいじゃまあ一杯いきましょう、え」
正道「はい、頂きます」
順平・巳代子「頂きます!」
元子「頂きます」
トシ江「元子からお国にお帰りになる前には必ず寄っていただけるもんだと思ってましたけど10月に入っても音沙汰ないし、まあ、お国にお帰りになったのかと思ってました」
正道「はい、復員手続きのあとに武器引き渡しの作業が残っておりまして戦車を焼いたりなどをしておりましたから遅くなりました」
順平「戦車、焼いちゃったの?」
正道「うん、そうだよ」
順平「もったいない!」
元子「何言ってんの。もう戦争は終わったんだから、あんなものはいらないのよ」
正道「だからね、一人でお葬式してきたんだ。200両の戦車、一両一両ね」
宗俊「え? あんた一人で200両ですかい」
正道「はい。私が責任者でしたし、それに最後まで残りましたから」
トシ江「はあ、そうだったんですか。そりゃ大変でしたねえ」
正道「はい。もしかしたら自分や部下たちの棺おけになったかもしれない戦車かと思うと複雑な気持ちでした。ですから、しっかり葬ってきました」
元子「大原さん…」
トシ江「それでこれから…」
正道「はい。元子さん…いや、皆さんの元気なお顔を拝見できましたので明日の夜行で帰ろうかと思います。それで最後まで手伝ってくれた者に渡したんでほとんど何もないんですが砂糖です。お世話になったお礼というわけじゃありませんが順平君にもらってきました」
トシ江「あ…何おっしゃるんですか。あの松江には、おばあちゃまもいらっしゃるんですし、こんな貴重なもの頂くわけにはまいりません」
正道「いえ…松江からは無事、体一つで戻ってくれば十分だってくれぐれも言われておりますから」
宗俊「あんた、ほかに何も品物は?」
正道「はい、列車は鈴なりですし、そんな荷物を持って、けがでもしたらそれこそ何にもなりませんから」
宗俊「へ~え」
正道「は?」
宗俊「いやね、内地の将校が車で品物運んだってのは珍しくねえからな」
正道「はい、中にはそういうこともあったかもしれませんが…」
元子「そうよ。私、少なくとも大原さんだけは最初っからそんなことする人(しと)だと思わなかったわ」
宗俊「へ~え、最初っからね」
元子「ええ」
宗俊「へ~え…」
東島「吉宗さん!」
トシ江「はい!」
宗俊「おう、もう店は、おしめえだよ」
東島「そん店のことでちいと調べたかことがあるばってん」
宗俊「おう」
トシ江「何でしょう?」
東島「いや~、吉宗さんじゃ紺屋んくせに違う商売ばやっちょるとわざわざ本署まで言うてきたやつがおるもんじゃけんね」
宗俊「違う商売?」
東島「ああ、無断営業は違反じゃけん」
宗俊「冗談じゃねえよ」
東島「うん?」
宗俊「無断営業がいけねえんなら、おい、闇市の連中、一体どうすりゃいいんだ」
東島「いやいや、闇市でん正式には許可がいるばってん、あんたんところは、こう、ちゃんとした店があるけん、なおのこと見逃すわけにはいかんたい」
宗俊「てやんでぇ! 俺はな、闇やってるわけじゃねえんだ、な。農家からいらねえ着物を逆輸入してだよ、おめえ、焼けて着物を着る人が…」
東島「いやいや、そげんこつを聞いとるんじゃなか」
宗俊「じゃあ、何を聞いたんだ!」
東島「だから届けも出さんで営業ばしよるんは、やはり違反じゃと、わしはな…」
宗俊「違反だ? 違反ならもっとでっけえ違反してるやつに文句言やぁいいじゃねえか。てめえ、弱い者いじめしやがって、この野郎」
東島「そげんとならちょっと来てもらおうか」
宗俊「この野郎、え? お上のご威光をかさに着やがって。なんだよ、こら!」
東島「おい!」
元子「お父さん! せっかく大原さんが見えてる時になにもブタ箱にぶち込まれることはないでしょ」
宗俊「けどよ、おめえ…」
正道「申し訳ありません。今日はちょっと酔っておりますので無断営業に関しましては明日、私が責任を持って」
宗俊「出しゃばるな、こら! 俺ぁ酔ってるわけじゃねえぞ!」
正道「申し訳ありません。こういうわけですから」
宗俊「何を言ってやがんだ! 俺を…」
トシ江「すいませんね、本当に」
茶の間に連れ戻す正道。
宗俊「クソッ、力強(つえ)えな。おう、てめえ、この始末、どうつけてくれるんだ、え!」
正道「けんかはいけません。これからの日本は全て丸腰、話し合いの精神でいくことになったんであります」
宗俊「おう、そうかい。そんならその話し合いのお手並み拝見しようじゃねえか、え!」
正道「はい、承知いたしました。それでは明日、立会人として元子さんをお借りします」
ドキッ☆とする元子。
さて、その明日のことです。
路地を一緒に帰ってくる正道と元子。仲よさそう。
茶の間
長火鉢に置かれた看板。
許可第五一五號
古物商(衣類)
昭和廿年十月十八日
看板の下の方には住所、元子の名前、生年月日など。
トシ江「鑑札?」
正道「はい。古着を扱うのには鑑札が必要だったらしいんですね。それで元子さんにはお気の毒でしたが、回るところを回って速戦即決、この鑑札を頂いてきました」
トシ江「おとうさん、今度は、あんたが何か言う番じゃないんですか」
宗俊「そりゃおめえ…何だ、その顔は、元子」
元子「だって、私とお父さんじゃ1週間かけたって、とてもこの鑑札もらうとこまでいけそうもなかったんだもの」
宗俊「分かったよ。分かりましたよ。大原さん」
正道「いえ。自分もこれで安心して松江へ帰れます」
宗俊「それじゃ…ね、一杯、飲み直しといきますか」
元子「お父さんったらこれなんだから」
宗俊「グズグズ言ってねえで支度だ支度だ。ほら…」
トシ江「はいはい」
元子「はい」
宗俊「おめえ、尻が重いぞ」
元子「はい」
頼もしい大原大尉とも明日でお別れとなれば何となく寂しい宗俊一家でした。
つづく
ヒロインのモデルを放送協会を辞めちゃった方にしたのは何でか?と思ったけど、その方が話の広がりも出るからかなあ? 恭子が残ったことにより、放送協会の情報は入ってくるしね。
そういや、おしんとかだと結構勝手に露店とかやってなかったっけ?と思ったら、それでヤクザに絡まれたりしてたか…(^-^;