公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
8月23日、敗戦の翌日からストップしていたラジオ体操の放送が復活した。元子(原日出子)たち姉弟は元気に体操するが、宗俊(津川雅彦)は全くやる気を見せない。そこへ友男(犬塚弘)がやってきて、いよいよ占領軍がやって来る、全財産が没収されると騒ぎ立てる。いよいよマッカーサーが厚木飛行場に降り立つと、放送会館には従軍記者団が大挙してやって来た。彼らはある人物を探しているのだと、興奮して元子たちを取り囲み…
桂木家裏庭
ラジオ「全国の皆さん、おはようございます! さあ、ご一緒に元気に体操いたしましょう! 第1体操、1回! よ~い、始め!」
8月23日 敗戦の翌日からストップしていたラジオ体操が復活しました。
ラジオ「…3、4、5、6、7…1、2、3、4、5、6、7、8、2、2、3、4…」
元子、巳代子、順平、彦造が家の前の路地で体操をしているが、宗俊はやる気なし。今のラジオ体操とは違います。
順平「どうしちゃったんだよぉ。何で一緒にやらないんだよぉ」
宗俊「う~ん」
順平「ほらぁ、早くおいでってばぁ」
巳代子「いいから、ほっときなさいよ」
順平「どうしてだよ」
元子「やる気のない人(しと)、誘ったってしかたがないでしょ」
宗俊ががみがみ声がうるさいってだけで嫌う人がいるけど、順平がため口で話しかけても咎めることもないんだから、宗俊は当時の父親からしたら相当優しい方だと思うけどなあ。
宗俊「てやんでぇ、体操なんかやったって、お前、腹が減るばかりで何の得があるもんか」
元子「体操は損得でやるもんじゃありません」
順平「そんじゃあ、何のためにやるの?」
元子「そうね、まず、一日の初めに気持ちをしゃっきりさせるためかな」
彦造「はぁ、そんじゃ、あっしも」途中でやめる。
巳代子「彦さん」
彦造「ええ、しゃっきりしたところで仕事のあては何にもねえんだし」
宗俊「おう、そうだとも。お前、下手にしゃっきりしてみろ。アメリカが来たらよ、一番にちょん切られてよ、その上、お前、これは使えるってんで奴隷にされるのが関の山だ」
巳代子「情けないったらないの。そんな時は、なにもおとなしくされるまんまになることないでしょう」
彦造「けどね、負けちまったんだから」
元子「大丈夫よ。その時は私たちが一生懸命抗議してやるから」
宗俊「バカ野郎、相手はお前、自動機関銃持った鬼畜生だぞ」
元子「だからって今から言いなりになる気でいることはないでしょう」
宗俊「放送局も放送局だ、え。これから、お前、取って食われようってぇ人間相手によ、うれしそうな声しやがって、お前、体操なんかやりだすこたぁねえんだい」
トシ江「そろそろ、ごはんになりますよ!」
元子・巳代子・順平「は~い!」
トシ江「ねえ、今朝はね、いいあんばいになすが5つもとれたんですよ。だから今朝は、なす入り雑炊。まあ色は…色がちっと悪いんだけどね、お芋のつるよりはましだから」
宗俊「たかがなすぐらいで能書きつけるこたぁねえんだよ」
愚痴っぽくなった男に対して、食べることに密着していた女は現実的でした。
友男「大変だよ! 大変だよ!」
宗俊「いいんだよ、いいんだよ、俺たちゃな、もうどんな大変なことが起こったって驚かねえんだ」
友男「バカ野郎。いよいよ26日に占領軍がやって来るんだとよ」
宗俊「おい、26日っていやぁ、おい」
彦造「しあさってじゃねえですか」
友男「そうよ」
トシ江「それで?」
友男「え!?」
トシ江「それでそれがどうかしたんですか?」
友男「いや、だ…だからさ、やつらが来りゃ財産は全部没収だとよ」
元子「まさか」
友男「何がまさかだよ」
元子「だって、没収されるほどの財産があるわけじゃなし」
友男「何言ってんだよ。この辺りで焼け残ったのは人形町だけだぞ。やつらが来りゃ、やっぱりな、寝起きするとこが必要だろう」
宗俊、うなずく。
友男「な? ということは、俺んとこの家財産は立派なあれだよ…」
宗俊「そりゃそうだ。おめえの言うとおりだ」
友男「そ…それによ、やつらがどっと入ってくれば、お前、食いもんだ。やつらずうたいがでっかいから同じ食うったって2合1勺じゃとても足りゃしめえ、な。ズカズカッと入り込んできて食い物出せって、こう来るのは目に見えてるじゃねえか」
トシ江「冗談じゃありませんよ。遅配欠配続きで、そんなもん逆さに振ったって出るわけないじゃないですか」
友男「そんなこと言ったって相手に通じるわけがねえじゃねえか。やつら外(げえ)国人だから英語しゃべるんだよ」
トシ江「んなことは当たり前でしょう」
友男「おっ…だから…だからさ」
トシ江「だからもヘチマもあるもんですか。どうせ生き残れるとは思ってもみなかったんだから、そん時は化けて出てやるからって、私、そこの入り口で首つってぶら下がって死んでやりますよ」
宗俊「お…おい」
トシ江「だからね、まあ早くごはんにしましょうと、そう言ったんですよ」
順平「は~い」
宗俊「はい」
このころの流言飛語は特にひどくありとあらゆるデマが飛び交いました。
放送員室
瓶ビールの栓を開ける本多。「とにかくね、慌てたってしかたがないさ」
恭子「でも、放送局へ行けば何かが分かるだろうからって、うちの者が」
元子「私のうちでもそうなんです。隣組では疎開した方がいいなんて言いだす人もいるし、母までが本気にし始めて」
本多「それだって悪くないじゃないか」
恭子「本多先生」
本多「ご覧のとおりね、放送局だって何をどうしていいか分からんのだよ。だから時報とニュースとお知らせと園芸メモかな、あっ、それにね、今日からはラジオ体操なら差し障りがないだろうっていって始めたぐらいだから。君たちだって一日も休まず頑張ったんだ。しばらくのんびりしたっていいじゃないか」
のぼる「私たちは真面目です」
本多「だったらまあ、とにかく飲みなさい」
元子「本多先生」
本多「特配用のビールが見つかったんだよ。もし取られるのならもったいないしね。どうせ取られるなら、ちょっとほろ酔い気分もおつなもんじゃないかと思ってさ。さあさあさあ、遠慮しないで、ほら、やんなさい。はあ~」ビールを飲み始める。「うん、考えたらさ、同じ放送員でありながら、君たちとは一度も飲んだことがなかったね」
元子「だって、それは私たち女ですし」
恭子もうなずく。仕事仲間の男女で飲みに行くって、いつごろから普通になったのか?
のぼる「私、頂きます」
元子「六根」
のぼる「頂きます」一気飲み。
本多「お~、ハハハハ」
川西「ハハハ、なかなかいけるね」
のぼる「酔わなければ言いにくいこともありますでしょう」
川西「あるある、あるでしょうな。しかし、あんまり酔わないうちにしてくださいよ」
笑い声
のぼる「町では婦女子への暴行は敗戦国なのだからしかたがない。そういう声があります。それは日本もかつて中国や南方でそうしたことをしてきたから。そういうことでしょうか」
川西「してこなかったとは言えないだろうね」
本多「戦争とは人を狂気にするんだよ。君たちだって15日の朝、同じ日本の軍人から銃剣を突きつけられたろう。あの時だって、もし、上官が突けと言ったら兵隊たちはためらいもなく僕や君たちを突いていたかもしれない。あるいはまた、冷静な兵隊が一人でもいて、同じ日本人じゃないかと叫んだら、兵隊たちは、ハッとして一種の催眠状態からさめたかもしれない。しかし、その叫んだ兵隊は後でどうなったろうか」
話を聞いている元子のアップ。
本多「人間は誰だって自分がかわいい。つまり、異常事態にあっては狂気の方が強いんだよ。そしてその狂気は、まさに戦争というものによって生み出されるんだ。しかし、戦争という支えがなくなった時、その狂気は一体どこへどういうふうにおさまるんだろうか」
考え込む元子たち。
本多「まあ、いずれにせよ、しあさってには先遣隊がやって来るんだ。その様子を見て、髪を切るなり、田舎へ逃げるなりしたらいいじゃないか。室長が言ってたとおり、今は自分で自分を一番大切にしなければいけないんだよ。無責任な言い方かもしれないがね、多分、僕たちだって占領軍の前には何もしてやれないだろうしね」
恭子「それは分かっております」
元子「でも、私の兄は違います。『魂の自由を大切にし、魂を抵当に入れてはならない』。兄がくれたモンテーニュの言葉です。どんな狂気の中にあっても、私の兄は絶対に女子供を殺したりなんか…。失礼します」部屋を飛び出す。
恭子「ガンコ!」元子を追って、恭子、のぼるも部屋を出ていく。
本多「これからの日本では、ああいう若者こそ必要なんだ」
川西「ええ…」
空を見上げる元子の心の声「あんちゃん! あんちゃんだけはそんなことしないわよね。信じていいんでしょ? あんちゃん。あんちゃん…」
敬礼する正大。
縁側
空を見上げる順平。外は雨。
ラジオ体操の音楽が流れるが、突然切れる。
順平「ねえ、ラジオ止まっちゃったよぉ」
キン「ひっぱたきゃいいんですよ、ひっぱたきゃ。あれ、あれ…」
24日には陸軍予科士官学校の生徒たちによって、川口放送所が占拠され、放送は9時間にわたってストップするという事件もありました。
一方、アメリカ軍先遣隊は予定より2日遅れて28日に進駐。30日には連合国軍最高司令官・マッカーサーが抗戦派将兵の騒ぎもおさまった厚木飛行場に降り立ったのです。コーンパイプをくわえて何たる伊達姿。放送協会はこの様子を実況中継する企画を立てたのですが、ノーと言われ、この日を境として日本の放送は連合軍の占領下に入っていきます。
聞いたことのあるBGMだと思ったら、アメリカ国家のほのぼのアレンジバージョンが流れた。
放送会館
ジープに乗った米軍兵士たちが大挙して押しかけた。
放送員室
沢野「彼らが来ます! まっすぐにこの部屋に向かってきます!」
立花「この部屋に?」←あれから白スーツで出勤してるんだね。
本多「落ち着けよ」
川西「女の子たち、奥、奥!」
立花「ああそうだ、奥へ入りなさい。奥へ…」
記者「ハーイ! エブリバディ!」
カメラを持ったアメリカ人たちが英語で何やら話している。
川西「何ですか! 何ですか、あなたたちは!」
口々に英語でまくしたてるアメリカ人たち。
喜代「エクスキューズ ミー ジェントルメン。(英語で)あなたたちは、一体何者ですか」
以下英語での会話
記者「われわれは、今、厚木から来た従軍記者団だ」
喜代「女子アナウンサーをとり囲んで何をしようとしているのですか?」
記者「東京ローズに会いに来た」
喜代「東京ローズ?」
記者「われわれの恋人、東京ローズに会いたいのだ」
記者「この娘たちが東京ローズだろう」
喜代「ノー ノー ジェントルメン。(英語で)彼女たちは東京ローズではない。その証拠に英語が分からずふるえているではありませんか」
以下英語で
記者「では、あなたが東京ローズか?」
喜代「私はディレクターです」
記者は喜代に板チョコを差し出す。
喜代「とにかく、ここにはいないから外に出なさい」
記者「では、どこにいるのか? ここは日本の放送局ではないか」
喜代「私たちも東京ローズに会ったことはありません。国際局に案内しますから、そこでたずねてください。さ、私について来なさい」
部屋を出ていく一団。
川西「いや~、しかし、近藤女史があんなに英語を使えるとは知りませんでした」
立花「いや~、まさに能ある爪は鷹を隠すだな」
沢野「あれっ、室長、鷹が爪を隠すんじゃないんですか?」
立花「え? あっ、あ~、そうだった」
笑い声
のぼる「東京ローズに会いたいっていうのだけ分かりましたけど」
本多「いや、米軍向けの放送をしてたアナウンサーのことだろう? しかし、彼女があんな人気があるとは知りませんでしたね」
立花「しかし、それにしても寿命が縮まったな。よかったよかった。怖かっただろう」
元子「はい…」
沢野「ところであの…これはどうしたら?」手にたばこの箱。
川西「いや、これもそうだよ。本物の舶来たばこだね。いや、ふきの葉っぱとは全然違いますよ」
元子「あっ、そういえば、私もいつの間にかこんなものをもらっていました」
大山鳴動してチョコレート1つ。やれやれよかったですね、元子さん。
茶の間
長火鉢の炭をたばこにつける宗俊が盛大にむせる。久々に麻の葉柄の着物を着てる。
彦造「大将!」
トシ江「あんた!」
キン「やっぱり毒ガスなんですよ!」
咳き込む宗俊。
トシ江「あんた!」
元子「お父さん!」
宗俊「大(でえ)丈夫だ、大丈夫だよ。はあ~、何年ぶりかな。うめえなぁ、このたばこ」
キン「嫌ですよ、まあ人騒がせな…」
巳代子や順平は板チョコの紙を開け始める。
たばこにチョコにチョコレート。一種の鎖国状態にあった日本人が久しぶりに触れたアメリカ文化の味でした。
つづく
米兵はたばこやチョコレートを常備してたんだねえ。8月15日を境に明るく描くのが最近の戦後の描き方だけど、「おしん」「澪つくし」「マー姉ちゃん」もアメリカに何されるか…という不安が描かれている。
「純ちゃんの応援歌」も昭和22年スタートだけど、まだ帰ってこない人を待っていたり、まだまだ貧しかったり、やはり戦争を経験した脚本家の描く戦争は違うな。