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【連続テレビ小説】本日も晴天なり(25)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

一夜にして下町を焼け野原にした東京大空襲。奇跡的に日本橋人形町は焼け残った。避難していた元子(原日出子)は、トシ江(宮本信子)や彦三(森三平太)、小芳(左時枝)を助けながら、家に帰って来る。すると宗俊(津川雅彦)が、友男(犬塚弘)と一緒に焼け出された人たちを介抱していた。そんな罹災者の2人が、元子が放送局のものと知り、ラジオが嘘ばかりついているから大ぜいの人が死んだ!責任をとれ!と怒りをぶつける。

この空襲の指揮者・カーチス・ルメイ将軍の自伝によれば「火災で生じた上昇気流のために我々の飛行機はピンポンボールのように上空に跳ね上がった」とあり、搭乗員の報告では2万フィートの高度で時計の文字盤が読めたというほど火の勢いは想像を絶するすさまじいもので、戦争は非戦闘員をも区別しない皆殺しの様相を呈してきたのです。

 

男「ほら、水かけて! 早く水かけるんだ! 水かけるんだ! こっちにも水、水! 水かけて!」

サナダビルの地下? 畳を立てかけ水をかける。

 

地響き

 

畳の隙間から煙が出ている。

 

焼け野原の映像。

 

この一夜の死者10万人、罹災者の数100万。被害地域は東京全区にわたり、殊に下町はまさに廃墟と化したのですが、日本橋人形町は、その一部を焼いて奇跡的に残りました。

 

吉宗前の路地

元子「あった…! うちがあった…!」

小芳「うそみたいだよ。どっこもここも焼け野原だってえのに、あんた人形町だけが残ってたなんて…」

 

吉宗

トシ江「あんた? お前さん」

 

家の中は燃えてはいないが煙が漂っている。

 

トシ江「あんた?」

元子「お父さん!」

彦造「旦那~!」

小芳「あんた!」

百合子「お父さ~ん!」

皆、それぞれ捜しに行く。

 

巳代子「お母さん!」

トシ江「あんた…」

元子「お父さん!」

彦造「旦那~!」

トシ江「あんた~! あんた! あんた!」

巳代子「お父さん! お父さん!」

トシ江「あんた…」

 

東島「おかみさん! おかみさんじゃなかか!」

トシ江「東島さん!」

東島「無事じゃったかい。あんたら、どこへ逃げとった?」

トシ江「そんなことより、うちの人(しと)どっかで見かけませんでした?」

東島「おう、旦那なら無事たい」

トシ江「そうですか」

東島「中の湯たい」

トシ江「中の湯!?」

東島「うん。中の湯で焼け出されたもんの世話ばしちょる」

 

巳代子「お姉ちゃん! 彦さん! お父さん、中の湯だって!」

 

トシ江「ありがとうございました」

東島「ばってん、わしはまだ山ほどすることがあるけん、な。じゃ」

トシ江「は…はい」

 

吉宗前の路地

防火用水にもたれかかっている男性

東島「おい! おい、死んどるとか! 生きとっとか、こら! おい!」

彦造「まだ、息はあるようですぜ」

元子「もしもし! もしもし! 気をしっかり持って!」

東島「息があるとなら中の湯へ運んでいってくれるか? な」

元子「はい」

彦造「ほら、しっかりせえ!」

 

中の湯

焼け出された人が避難している。

 

宗俊「さあさあ、さあさあ、な、炊き出しが来るまで、さ湯だけどな、そりゃお前、腹あったまるからな」

 

友男「遠慮はいりませんぜ。とにかくね、手足を伸ばして痛(いて)え体、休めてね。大丈夫かい? 大丈夫かい?」

 

トシ江「あんた」

元子「お父さん!」

宗俊は気付いて大きくうなずく。

 

宗俊「おう、けが人か。そっちの隅に寝かしてやんな」

 

彦造「へえ。大丈夫かい?」

友男「何だ何だ、そういう彦さんだって、お前、けがしてんじゃねえか。傷口洗わなきゃ駄目だ、こりゃ」

彦造「いやいや、わしより、おかみさんの方が…」

友男「えっ、おかみさん、けがしてんのかい」

トシ江「いえ…」

友男「どこ! あっ…」

トシ江「私はね、ほんのかすり傷なの…」

宗俊「バカ野郎! てめえ! だから気を付けろっつってんだ、このトンチキ野郎!」

元子「そんな言い方ってないでしょ!」

宗俊「大きな声、出すんじゃねえ。みんな、クタクタなんだ」

 

百合子「お父さん! お父さん、うう…」横になってる芳信にしがみついて泣く。

 

宗俊「違う違う! 寝てるんだ、寝てるんだよ、え。一(しと)晩中、お前、火(し)の中走り回ったから、くたびれて寝てるんだから、お前、安心しな。何、間違えてんだ」

友男「おい、落ち着け、落ち着け。駄目だよ、お前、ハハハハハ…」

 

小芳「お前さん! お前さん…お前さん!」

友男「お~、幸ちゃん、ここにはいないぜ」

小芳「いないって…」

友男「一緒は一緒だったんだけどよ」

小芳「まさか」

友男「いやいや…」

宗俊「何を勘違いしてんだい。いい年こきやがって、落ち着け」

小芳「だって…」

宗俊「あのな、お前、警防団長は今、炊き出しと医者の心配に行ってるんだ」

小芳「それじゃあ」

宗俊「ハハハハ」

小芳「それじゃあ…」倒れる。

宗俊「おおっ、大丈夫か?」

 

宗俊「しかし、おめえたちも無事でよかったな」

トシ江「こっちの方はね、彦さんがついててくれたから」

彦造「いや、旦那もご無事で」

宗俊「ああ、今度こそてっきり駄目だと思ったけどな、周り、お前、ぐるり焼かれちまって、ここだけ残るなんて夢のようだ、な。あっ、彦さん、すまねえが、ちょっと手伝ってくんな」

彦造「へえ」

宗俊「ちょっと、こっち来てくれ」

友男「気を付けろよ」

 

幸之助「駄目だ駄目だ。医者も食いもんもとても間に合いそうもねえよ」

小芳「お前さん」

幸之助「小芳!」

小芳「お前さん! お前さん…」

幸之助「足ぃどうしたんだ!」

小芳「大したことないよ。それよりお前さん…」

幸之助「うるせえ、バカ! あれほど気を付けろって言ったじゃねえか、この野郎!」←ビンタするなよ。

 

友男「幸ちゃん、やめろ!」

小芳「お前さん…! お前さん…お前さん…」泣きながら抱きつく。

 

そんな光景を見ていた元子も目が潤む。

トシ江「元子。こっちはいいからね、お前、放送局お行き」

友男「無理だよ。電車も焼けちまったよ」

元子「大丈夫よ。歩いたって大したことないんだから」

男「そうか。すると、放送局行ってる娘さんって、あんたかね」

元子「はい」

 

男「何やってんだよ。え、何やってんだ、あんたたちは!」

元子「あの…」

男「あのもクソもあるもんか。ゆうべだって警報が鳴ったのはドカドカッと火の雨が降ってきてからだぜ。責任を取れ、責任を!」

友男「ちょっと責任取れったって、何もあんた、この子がよ…」

男「だって放送局だろ? 放送局ならもっと真面目にやってくれよ。俺たち、ラジオが命の綱なんだ…」

女「そうよ。ゆうべは一旦解除になったから、うちじゃ亭主が夜勤に出かけたんだよ。あん時、ラジオ何つった? 『洋上はるかにとん走した』って言ったじゃないの。うそばっかりついて!」

男「そうだよ…降って湧いたわけじゃ…。どうしてあんなに急にB公が来たか、その訳言ってくれよ、その訳を…」

友男「いや、だけどよ、この子はゆうべ非番だったんだよ」

女「だけど、うちの亭主はもう帰っちゃこないわよ。向島、何もなくなったっていうじゃないのさ」泣き崩れる。

男「俺ぁ、女房子供を見殺しにしちまったんだ。入(へえ)ってろっつった防空ごうに逃げろって言いに行こうとした時には、もう火の海で…やつらは多分、そのままそこで…」泣き出す。

 

どこにもぶつけようのない怒りをぶつけたんだろうけど、怒鳴りつけるんじゃなく泣きだしたのがちょっと辛い。でも元子にとっては理不尽。

 

元子「すいません…本当に申し訳ありません!」手をついて頭を下げた。

 

当時、ラジオに命を預けていたといっていい状態の中で放送局に寄せられる苦情は確かにあったのです。

 

こういう人ってだからって当然だけど軍部には言えないんだよね。友男が元子をその男女の前から連れ出す。

 

自宅に帰ってぼんやりしている元子。

トシ江「そろそろ塩入れて。元子。お前のせいじゃないんだから気にすることはないよ。みんな、大変つらい目に遭った人たちだし気も立ってんだからさ」

元子「はい」

 

吉宗

店の部分?で着物を裂いている宗俊とそれを丸める彦造。包帯かな。

宗俊「おい、彦さん」

彦造「へえ」

宗俊「もうここはいいからよ、何か腹ぁ入れたらとにかく寝ろよ」

彦造「いや、そらぁ旦那の方ですよ」

宗俊「バカ、年見て物言え」

彦造「へえ。けど、ここへ来るまでの道にも随分亡くなってる人たちがいたし、まさかと思いながら旦那の顔を見るまでは心配(しんぺえ)しましたぜ」

宗俊「ああ、軒に火がつくまではなと思って頑張ってきたんだが、おい、物干し上がってみたら、ぐるり火の海だ」

彦造「ああ…それでどこへお逃げなすったんですか?」

宗俊「小舟町の焼け跡よ。あそこなら燃えるもんもねえだろうってんでな、火の下かいくぐって夢中で逃げた」

彦造「そうだったんですか…」

 

幸之助「おい、久松警察でな、留置していた人たちを逃がしたんだとさ、え。焼け残った家は気を付けろって連絡だよ」

宗俊「てやんでぇ、お前、留置人ったってよ、せいぜいみんな闇米かついで、とっ捕まった連中だろうよ。な、命あっての物種だ。ほっとけ、ほっとけ」

巳代子「それから明治座が全滅だって」

宗俊「明治座が!?」

 

元子「だってあそこは指定避難所でしょ」

幸之助「だからそのまんま火葬場になっちまったらしい」

トシ江「なんてことなの」

幸之助「くたびれてるとこ、すまねえけどな、一息ついたら、その仏さんの始末に手ぇ貸せって言ってこられたんでな」

宗俊「分かった」

 

トシ江「ねえ、順平やおキンさんたち大丈夫なんでしょうね」

幸之助「電話は無論通じねえし分かってることは東京が終わっちまったってことだけだよ」

 

元子「私、これから放送局へ行ってきます」

幸之助「ああ、そうしてくれや。みんないろんなことを言ってて本当のことがさっぱり分からねえんだ」

元子「はい」

 

とにかく今までにない規模の空襲なんだと今更のように元子の胸は騒ぎました。

 

放送員室

恭子「ガンコ!」

元子「よかった、放送局が無事だったんで」

本多「それはこっちの言うことだよ。君は無事でよかった」

元子「はい、おかげさまで奇跡的に助かりました」

 

恭子「よかった、本当によかった!」

元子「ブルース…」

 

本多「いやね、うちの報道の腕章を巻いた者が明治座で死んでいるという情報が入ったんだ」

元子「明治座で!?」

本多「ああ、若い女性だというんでね」

元子「誰なんですか!」

沢野「立花室長が今、行ってるんだがね、君のうちとは近いし、もしや君じゃないかと本多さんも心配していたところなんだよ」

 

恭子「とにかく下町はひどいって?」

元子「ひどいなんてもんじゃなかったわ。ここへ来る途中も亡くなった方たちがまだいっぱいそのまんまだし…」

 

本多「いや、それにしてもゆうべほど司令部にいて悔しいことはなかったよ。いや、初めの2機が洋上を去った時だって八丈島からの情報では百十数機の数梯団がいるって言ってるのに軍がよこした原稿では南方海上に数目標転回しつつありっていうんだからね」

沢野「笠井中尉はどうしてたんですか」

本多「無論、あの人は空襲警報を発令すべきだと進言したよ。でもほら、例の親玉、状況がはっきりしないとか何とか言ってるうちに手遅れになったらしい」

川西「僕の時もおんなじですよ。状況がはっきりしないうちに、しかも、深夜に発令すれば陛下は地下ごうにご退避あそばさなければならないし、東京中の機能が、その間、まひするということを考慮しなければならないとか何とか」

沢野「けど、今度は、その宮城(きゅうじょう)だって焼夷弾落ちてるんですよ」

 

本多「ああ、笠井中尉は今後、状況によっては参謀を通さずに直接、情報原稿を出すと言ってるんだ」

元子「できるんですか、そんなこと」

本多「どれだけの人間が死んでるか分からんのだよ。そりゃ無論、笠井中尉としては、その時は切腹を覚悟で出すつもりだろうさ」

川西「全く赤ランプが次々について敵機がどんどんどんどん近づいてくるっていうのに若い参謀殿ときたら鉛筆なめなめ書いたり消したりだ。ようやく出来上がって親玉のところへ持っていけば、ここでもまた鉛筆なめなめ、ひねくり返して書き直してるんだから。やつらはB29の速度を分かってないんだよ!」

 

ドアが開く音、男が入ってくる。

沢野「何ですか、あなたは」

男「あの、由美は局に出ていないでしょうか」

川西「ゆみ?」

男「はい、私、黒川由美の兄ですが」

 

元子「黒川先輩、どうかなさったんですか」

由美の兄「ええ、昨夜、空襲が始まって、これはいつもと様子が違うから局へ行ってくると別れたっきりなもんですから」

恭子「あの、その時、先輩は腕章を巻いてらしたでしょうか」

由美の兄「さあ、あの騒ぎでしたから、はっきりとは覚えておりませんが…」倒れる。

恭子「大丈夫ですか!」

由美の兄「あっ…」

 

元子「大丈夫ですよ。腕章をつけてらっしゃらなかったのなら、先輩はきっと大丈夫です」

由美の兄「やめろと言ったんですがね、妹は責任感の強いやつでしたから…」

 

本多「おい、みんな手分けして捜すんだ!」

沢野「はい」

 

ドアが開く。

元子「室長!」

川西「室長、黒川君のお兄さんだそうです」

 

立花、帽子を取る。「残念でした」

由美の兄は持っていた湯飲みを落として割る。

 

廊下に飛び出す元子。

恭子「ガンコ!」

廊下の片隅で泣きだす元子。

 

あの優しかった先輩、黒川由美は明治座で遺体となって発見されました。女子放送員として初めての戦災死でした。

 

つづく

 

黒川先輩…。とっても素敵な人だったなあ。叔父さん夫婦、のぼる、悦子、金太郎ねえさん…みんなどうしたかな?