公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
兄・正大の恋人千鶴子(石井めぐみ)が、日本橋が空襲されたときき、桂木家を心配して訪ねて来た。元子(原日出子)は、とにかく家に入れようとするが、千鶴子は正大の無事を祈ると言って去る。焼け出された金太郎(木の実ナナ)は元子たちと暮らすこととなり、一家は賑やかに。連夜の空襲に備え、B29の爆音の聞き分け方についてを元子が放送すると、すぐにラジオを聞いていた正道(鹿賀丈史)から元子を絶賛する電話がくる。
今朝もオープニングがちょっとスローテンポだった気がする。
吉宗前
元子「とにかく母にも紹介したいし、中へ入ってください」
千鶴子「ごめんなさい、それはちょっと」
元子「どうしてですか?」
千鶴子「だって今日はそのつもりで伺ったんじゃないし」
元子「千鶴子さん…」
千鶴子「でも、希望は捨ててないのよ。だから、正大さんのご無事を一生懸命祈ってるの」
元子「はい」
千鶴子「じゃ、またお会いしましょう」
元子「はい。それじゃ、お元気で」
千鶴子「あなたも頑張って。いつもラジオであなたの声、気を付けてますからね」
元子「はい、ありがとうございます」
千鶴子「それじゃあ」
元子「気を付けて」
石井めぐみさん、小柄でロングコートが似合ってる。かわいい。
こういう時代です。千鶴子の無事を祈らずにはいられない元子でした。
元子たちの部屋
千鶴子からもらった風呂敷包みを開ける。
巳代子「わぁ、すてきなマフラー」
金太郎「ちょいとほら、英語の札がついてるよ」
元子「えっ…『メード イン イングランド』。すごい、英国製だわ、これ」
巳代子「ねえねえ、これ、私に頂戴。こういう格子柄が欲しかったのよね、私」
元子「何言ってんのよ。これは焼けてるんじゃないかと千鶴子さんが持ってきてくれたものなのに、どうして焼け出されてもない巳代子が欲しがんなきゃなんないの」
巳代子「だってさ…」
金太郎「いいじゃないの。焼け出された私が頂いたことにして、私が巳代ちゃんにあげればいいんだから、ね。はい」
嬉しそうな巳代子。
元子「駄目よ、そんなに甘やかしちゃ。困ってる人(しと)はいっぱいいるんだから。こら」
金太郎「けど、優しい人なんだねえ。正大(しろ)さんもいい恋人を持ったもんだ」
元子「だから、あんちゃんももっと早く紹介してくれればよかったのに残念でしかたがないの」
金太郎「よし、それじゃあ、この金太郎ねえさんが折を見て河内山に話をしてみよう」
元子「え~」
巳代子「大丈夫かしら」
金太郎「な~に、自分だって正大さんの年にはもう正大さんのおやじになってたんだよ」
元子「そうかぁ、そうだったわよね」
金太郎「アハハ、そうだよ」
巳代子「ああいうのを早婚の弊害っていうんだな」
元子「生意気言うんじゃないの」
当時41歳の津川雅彦さんが大学生の息子がいるような父親役をやるんだと思ったけど、早婚だったのね。だったら、当時36歳の宮本信子さんも16歳くらいで母親になった設定なのかもね。
ともあれ、その晩から焼け出されの金太郎は、この家(や)の同居人となりましたが…。
以来、連日連夜の空襲に東京都民からは寝巻きに着替えるという習慣が消え、おちおち眠れない夜が続きました。
鉄兜を枕元に置いている宗俊、靴下を履いたままの巳代子、風呂敷包みに手を置いたままの金太郎。
放送会館・階段
のぼる「ガンコ、おはよう」
元子「あっ、おはよう!」
のぼる「おばさん、嘆いてたわ」
元子「何かあったの?」
のぼる「ううん、せっかくまた私たちが大挙押しかけてくるって楽しみにしててくれたらしいの。ところが、あれからほとんど毎日の警報でしょう。みんな来てくれる暇がないって」
2人の笑い声
元子「全く昔っからお嬢さんっぽいとこがあったからな」
のぼる「あっ、おはようございます!」
元子「おはようございます!」
本多「おはよう。あっ、今日はね、2人ともちょっと難しい読みがあるから。じゃ」
2人「はい…」
放送室
♪~「お山の杉の子」が流れる。
元子「では続きまして、おとといから放送しております爆音による敵機の聞き分け方をもう一度お送りいたします。空襲から少しでも早く身を守るには爆音によって敵味方を識別する必要がございます。では、ただいまよりB29の爆音をお聴きください」
B29の爆音の音声
元子「いかがでございましたか。B29のような四発になりますと音はワン…ワン…というように聞こえます。つまり、音の源が4つになりますから、うなりも複雑になってくるわけでございまして…」
放送室から桂木家の茶の間へ
ラジオ(元子の声)「すなわち、ワン…ワン…ワン…というふうにうなりの聞こえる部分と聞こえない部分の時間が1対3の割合で規則的に連続いたします」
金太郎「そうよ…そうよね、おかみさん」
トシ江「シッ」
ラジオ(元子の声)「このようにして敵味方機の音が聞き分けられることができましたら待避ごう、防空ごうの出入りにも便利かと思われます。では、もう一度B29の爆音をお聴きください。そのあと続いて管弦楽シューベルト作曲『軍隊行進曲』をお送りいたします」
B29の爆音の音声
金太郎「もっちゃんってなんて頭がいいんだろうね。いつあんな勉強したのかしらね、おかみさん」
トシ江「何言ってんですか、あれはお偉いお人が、ちゃんとああ言いなさいって書いたものをくれるんですよ」
金太郎「けどさ、聴いてる人は、そんなこと知っちゃいませんよ。みんな、もっちゃんが教えてくれるんだって思ってますよ」
トシ江「でも、あんまりいい気持じゃないわねえ。たとえラジオでもB29の音っていうのは」
金太郎「ワン…ワン…か。でもね、おかみさん、物は考えようかもしれませんよ」
ラジオからは「軍隊行進曲」が流れる。
トシ江「何がです?」
金太郎「いや、それはさ、何かも焼かれちまって悔しいですけど考えたら、私なんか、それこそまだ小学生の下地っ子からこの商売でしょう。そりゃ、芸者稼業は嫌いじゃありません。でもね、半玉になって一本になって芸を競い合って…。だからね、一つ、うちん中に大黒柱の父親がいて、それをお父っつぁんって呼ぶ子供がいて、その子供を育てるおっ母(か)さんがいるなんていう暮らし、私は全然知らないしさ、そういううちって何て言うのかな…こう、匂いが違うんですよね。普通の家庭の匂いってのかな、私、こういうの初めてなんですよ」
トシ江「金太郎さん…」
金太郎「ね、だから、まあきれいさっぱり焼け出されでもしなかったら、当分、勇の字ってやつは帰ってくるか分かんないし、私は一生、こういう匂いを知らずに終わっちまうかもしれないでしょう。だから物は考えようですよ」
涙ぐんでるようなトシ江。
電話が鳴る。
トシ江「はい、人形町吉宗でございます。あっ、まあ、どなたかと思いましたよ。え? はいはい、ちょいと寝が足らないだけで、こっちは元気でおりますから」
正道「そうですか。それはよかった。今の放送、元子さんでしょう? あ~、やっぱりそうですか。お帰りになったらお伝えください。なかなか歯切れがよくて聴き取りやすかったし、とても重要な放送に携わっているんだなって感動しました。はい。軍人の自分がそう言うとおかしいんですが、今の放送できっと何人かが必ず自分の身を守れるでしょう。頑張るように…はい」
ラジオから「愛国の花」が流れる。
夜、茶の間
元子「本当? 本当に大原さんがそう言ってくださったの?」カーテンを閉めながら。
トシ江「ああ、本当だよ」米をついている。
金太郎「あの放送が終わって、すぐにかかってきたんだから、ねえ」天板のないこたつに入っている。
宗俊「全くその軍人のあいつがそんなこと言ってくるってのはおかしいけどよ、まあ、しかし、これで元子も一人前ってわけだ」
元子「うん…」
金太郎「どうしたのよ。芸についちゃあ、ちょっとうるさいお父っつぁんがそう言うんだから、これは立派なお墨付きよ。もっとジャンジャン偉そうな顔しなさいよ」
元子「だけど、そのあとの放送で私、とんでもない失敗をやっちゃったんです」
宗俊「何だと?」
元子「放送の原稿ってかなり字が大きいでしょう。だから…」
放送室
元子「では以上、南仏蘭西(なんふつらんせい)の模様をお伝えいたしました。この時間を終わります」カフを下ろしてホッと一息。
喜代「何やってんのよ、あんたは!」放送室に入って来た。「今、何て読んだの、何て」
元子「はい、ですから、あの途中で渡されました南仏蘭西(なんふつらんせい)、あっ…」
喜代「『あっ』じゃありません!」
これはまさにB29の猛爆に匹敵するすさまじい雷ですが、いやはや、昔は外国名も難しい字を書いたものですね。これは「南フランス」が正解です。
急な原稿なら南仏で意味が通じるのにねえ。
トシ江「それにしてもひどいわよ」
金太郎「そうですよ。そんなばばあに威張らしとく手はないわよ」
トシ江「何言ってんですか、金太郎さん」
金太郎「え?」
トシ江「私は元子の読みがひどいって言ってるの」
金太郎「いやだからそれはわざと意地悪をして『南仏』でちょん切り『蘭西』を隣の行に書いてあったんでしょう?」
元子「でも私の不注意ですから」
トシ江「そりゃひどいわよ。まあ、よくもそれで放送局が受かったもんだわ」
宗俊「な~に『失敗は成功のもと』っつってな、クヨクヨするこたぁねえ。何だって修業中はつらいもんだ。紺屋だって小僧はみんななぁ、はなぁ薪雑把(まきざっぽう)を持った職人に追い回されたもんだ」
金太郎「けど女でしょう、そのおばさん」
元子「女は女でも男には一歩も引(し)けを取らないって、そりゃ怖くてバリバリ仕事のできる人なんです」
金太郎「どうせ春日局のような女なんでしょうに」
元子「そう言ってしまえば、そうだけど、でも、いつもその人ね、今の時代ほど女性の力を必要とし、認めてくれる時代はなのではないかって。だから、どんなことにも気を抜くなって自分が鬼になってハッパをかけてくれてる人なんです」
宗俊「お前、まさかそういうのをさ、尊敬してるってんじゃねえだろうな」長火鉢の前からこたつに移動。
元子「ううん。尊敬せざるをえません」
宗俊「何だと? 今夜も警報が出るぞ」
元子「どうしてよ」
宗俊「おめえが今にそんな鬼ばばあになるかと思うと俺は夢見が悪いや」
トシ江「あっ、そうだわ。いつまでもしゃべってるとまた寝不足になっちゃう」
金太郎「あっ、そうだ」
トシ江「さあ、寝ましょう寝ましょう」
金太郎「寝よ寝よ。『寝るより楽はなかりけり』ってね。それじゃあ、おやすみなさいまし」
こたつに一人残された宗俊。
実際、朝まで警報に起こされずぐっすりと寝られたら、これ以上の幸せはないといったこのころ、世界の情勢は一体どういうことになっていたのでしょうか。
また映像の世紀みたいな史料映像。この場合、資料じゃなく史料なのかな?
正大が出陣していった頃、連合軍と共にパリに凱旋したドゴール将軍は、この前日、モスクワに飛んで仏ソ同盟条例に調印。その対象は日本の同盟国、ドイツでした。
一方、レニングラードまで進攻したヒトラーの軍隊もこのころは伸び切った補給線の弱さと冬将軍の前にかつてのナポレオン同様撤退に次ぐ撤退の負け戦のさなかにありました。
そして、そのころ放送会館では…。
食堂
のぼる「サイパンからの放送が?」
由美「夜になると中波できれいに入ってくるらしいわ。もちろんはっきりした日本語ですって」
元子「で、一体、何て言ってきてるんですか?」
恭子「無論、宣伝放送よ」
元子「つまり、私たちの海外放送みたいのとは違うのね」
のぼる「私たちのはニュースだけれど、もっとはっきりと銃後のかく乱をねらってるんじゃないの? 日本の皆さん、あなたたちは知らないだろうが日本の大本営はレイテ地上決戦の方針を放棄したとか何とか」
由美「あなた、聴いたことあるの?」
のぼる「えっ…いえ、例えばの話です。こっちだって甘い女性の声でアメリカ兵のやる気をなくすような英語の放送を出してるんだし」
恭子「それでどうなるんですか?」
由美「こっちも負けずに対抗して妨害電波を出すらしいわ」
悦子「ねえねえ、重大放送よ。三井さんが出征したんですって」
恭子「三井さんってあの広島放送局へ行った、あの三井さん?」
悦子「そうなのよ。今、広島の三重子から東京はどうかって電話してきて、三井さんからの頑張れって事づけ伝えてきたのよ」
元子「そんな…。まだ放送員になって1か月ちょっとじゃないの」
のぼる「で、どっち方面に持っていかれたの?」
悦子「それは分からないらしい」
恭子「で、三重子は?」
悦子「元気だった。向こうは空襲がないから物足りないくらいだって」
元子「ぜいたく言ってぇ」
由美「あっ、時間よ。急がないと。ごちそうさま」
元子「ごちそうさまでした」
由美たちは先に片づけに行った。
のぼる「私、モンパリの受信機で聴いたわ」
元子「え?」
のぼる「例のサイパンからの放送、おじさんのラジオに入ってくるの。ないしょよ」
電波というものは飛んでくるものです。でも元子は、この時、なぜか背筋に冷たいものが走りました。
おしん以来の背筋に冷たいものきたー!
おばさんとか鬼ばばあとか独身で仕事バリバリしてる女性への目は同じ女性からも厳しい。
中波ってAMのことなんだね。毎日毎日勉強になるなあ~。人によっちゃ、こちとらドラマを見たいんでぇ!となる人もいるのかもしれないね。でもやっぱり戦後から40年近くたっていて、ドラマっぽくマイルドに仕上げてるのだと思うけどなぁ。