公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
宗俊(津川雅彦)は、彦三(森三平太)と幸之助(牧伸二)とで、空襲の延焼を防ぐため、近所の家を取り壊す建物疎開に従事する。三人はやりきれない気持ちを友男の中の湯へ流しにいく。生放送中に大きなミスをした元子(原日出子)に、先輩アナウンサーの沢野(森田順平)は、本来なら生放送ではなく録音番組だった、録音用のアルミ盤が足りなくなったからアルミの代わりに生で読ませるために女子放送員が採用されたのだ、と言う。
今日のオープニングはやけにゆっくりに聞こえた。
白黒の資料映像から。グラグラ揺れて屋根が崩れた。
お若い方には何のことかお分かりにはならないでしょうが、これは空襲による延焼を防ぐための建物の強制的間引き疎開です。
朝ドラでは時々出てきますが、何人かが建物を引っ張って倒したり、ハンマーで叩いて壊したり…。こういう資料映像は初めて見たかも。間引きというけど、その一角全部壊す感じなんだね。「マー姉ちゃん」は移動の際の汽車の映像のバリエーションが豊かだったけど、「本日は晴天なり」は戦時中の資料映像が見たことないようなのばっかり出てくる。
吉宗前の路地
疲れた様子の宗俊、幸之助、彦造が帰ってくる。
吉宗
宗俊「お~い!」
トシ江「はい」
宗俊「お~い!」
トシ江「あっ、お帰りなさい。あら、足どうしたんですか」
宗俊「何、ちょいとはぐらかしただけだ。おい、湯ぅ行ってくるからな、手拭い出してくれ」
トシ江「お湯屋? 今から?」
幸之助「おう、見てくれよ。色男が3人、ほこりかぶっちまって男前(めえ)が台(でえ)なしだ」
トシ江「だって、こんな時間じゃあ、まだ」
宗俊「まきなら、おめえ、たった今、6軒もぶっ壊してきたばかりだ。な、久(しさ)しぶりにヒィ~ッっていうぐらい熱いのに入(へえ)ろうってんでな、今、中の湯の友ちゃんが張り切って沸かしてる最中だ」
トシ江「じゃあ当分、焚きもんには不自由しませんね」
宗俊「ああ、ああ、豪勢なもんよ」
キン「はい、ご苦労さんでした。相変わらずの空っ茶ですけどね」
トシ江「ねえ、おキンさん、旦那と彦さんね、お湯屋へ行くんだって。ちょいと手拭いの用意してやって」
キン「へい」
彦造「けど、植惣の大黒柱、引(し)き倒す時には、あっしは何だか涙が出てきちまって」
宗俊「おい、もう、それは言いっこなしだぜ」
彦造「けどね、11でここへ奉公へ上がって間もなくのことだっただけに、あそこの建て前は今でも覚えてますよ。棟の上から、まあ、餅は降ってくるわ、銭は降るわ、五十銭銀貨なんか交ざってるもんだから、まあ、近所の小僧どもは、頭ぶつけて、たんこぶだらけになりながら拾(しろ)うのも大変なもんだったすよ。おかげであのうちぁ、震災にも残ったんだって評(しょう)判だったのによ」
宗俊「そんなこと言ったってしょうがねえだろ!」
彦造「しょうがねえから言ってんじゃねえですか!」
幸之助「まあまあ、まあまあ、彦さん、宗ちゃんも何だよ」
彦造「けど、あの柱にノコ入れる時には無残だったねえ。てめえの足、斬られる思いがした」
幸之助「おう、ああでもしなけりゃ何人で引(し)っ張ったって、びくともしねえんだから」
宗俊「まあ、おかげでな、今日の湯は天下一品よ。江戸っ子はおめえ、昔っから、からすの行水と相場が決まってるんだが、今日ばっかりは俺は意地でも長湯してやるぜ」
トシ江「そんな慣れないことして湯あたりでもしたらどうするんですか」
宗俊「供養なんだよ。な。そうでもしてやんなきゃ、おめえ、まだまだピンシャンしてる最中に、おめえ、ぶっ倒された、あの建物が浮かばれねえじゃねえか」
幸之助「そらぁ、そのとおりだよな、ハハハハハ。そういうことならさ、いっそのこと熱湯(あつゆ)長風呂の我慢大会といくか。え、彦さん」
彦造「へえ、まあ、そういうことなら」
キン「へい、お待ち遠さんでした」
トシ江「それじゃあ」
幸之助「あっ、俺も手拭い取ってくるわ」
宗俊「ああ」
元子「臨時ニュースを申し上げます。大本営発表。我が航空部隊は…」
幸之助「何のニュースだ!?」
キン「ありゃ、お嬢のお稽古です」
幸之助「もっちゃんが?」
2階
元子「…を撃沈。敵機55機以上を撃墜せり。我が方の損害、未帰還46機なり」
1階
幸之助「へ~え、大した出世じゃねえかよ。もっちゃん、大本営発表までやるんかい?」
宗俊「まさか、お前、そんな大役任されるわけねえだろ」
幸之助「そうか。近頃、めったに顔合わさねえもんだから、今日は日曜で休みかえ?」
キン「とんでもない。月月火水木金金です」
こんな曲もあるね~。
トシ江「夜勤、日勤、泊まりがあるんですよ」
幸之助「夜勤に泊まり? 堅気の娘がか?」←当時はこんな感覚か。
宗俊「仕事だってんだから、お前、しょうがねえじゃねえか」
彦造「まあ、あんまりイキのいい若(わけ)えのがいねえようなんで、そっちの方の心配(しんぺえ)は大丈夫のようですよ」
幸之助「いや~、それにしても大変(てえへん)だよ、なあ」
路地に出た宗俊。「いつまで感心してやんでぇ。手拭いがあくびしてるぜ」
幸之助「おっと、そうだった。お邪魔しました」
トシ江「はい、行ってらっしゃいまし」
キン「けどね、入ってるさなかに警報出なきゃようござんすけどねえ」
宗俊「ああ、そん時はお前『湯殿の長兵衛』よ。な、見事なひしゃくで防いでみせらぁ」歌舞伎っぽい動きをする。
幸之助「おっ」
彦造「チョーン!」拍子木をたたく真似!?
笑うおじさんたち。
湯殿に案内されて、丸腰のところを襲われたと。
津川雅彦さんは父が歌舞伎役者で子供の頃は歌舞伎の稽古もしたのかな? 歌舞伎っぽい動きがハマってる。
幸之助「そんなら、唐犬(とうけん)の」
彦造「すりゃ、権八どん」
笑い声
宗俊「おい、行くぜ」
これか?
吉宗
キン「白井権八ってあんなに薄汚かったですかねえ、まあ」
本名・平井権八って江戸っ子かい?
トシ江「後生楽な人たちだよ」
奥へ入っていくトシ江たち。1階に下りてきた元子。「新聞どこ?」
トシ江「うん、火(し)鉢の脇」
元子「あっ、またやった! あれほど私が読むまでは切らないでって言っといたのに」
トシ江「おや、そうだっけ?」
元子「昨日もちゃんと言ったのに」
キン「あら、どうかしたんですか?」
元子「ニュース読む時、外国の難しい地名なんか出てきて、もしマイクの前で読めないといけないから新聞は必ず声を出して読めって言われてんのよ。だから私、お母さんにもちゃんと…」
キン「すいませんねえ。じゃ、お読みになったら入れといてくださいましな」
ご年配の方はもうお分かりかと存じますが、新聞のこの大きさ、これはお手洗い用の大きさで当時は雑誌類と共に同じ使用目的の運命にありました。
A5くらいの大きさに切られた新聞紙をちゃぶ台に並べる元子。
放送協会の廊下
のぼる「ガンコって意外と要領悪いのね」
元子「どうして?」
のぼる「どうしてって…どうしてこの予定表を持って帰らないのよ」
元子「この予定表?」←A4サイズの冊子。厚さは結構ある。
のぼる「そうよ。毎日必要で毎日無駄になっていくもんじゃないの。だから頂いて帰ったって誰も何も言わないし、私なんか下宿のおばさんにものすごく感謝されてるわよ。立山さん、本当にいいところにお勤めだって」
元子「なるほど」
沢野が階段を下りてきた。「桂木君、君はスタジオだろ!」
元子「はい!」走って階段を上る。
スタジオではおなじみ平岡養一氏の木琴演奏でしたが、何しろ警報発令中のことで…。
木琴(シロフォン)奏者。亡くなったのがこのドラマが始まる直前の1981年7月。平岡養一役は白石健二さんという方だけど、この方の情報は出てこないな~。
木琴を演奏する平岡養一のヘルメットがずれてきているので、同じスタジオ内にいた元子が忍び足で近寄り、ヘルメットの後ろを持った。
演奏が終わり、平岡は「ありがとう」と元子と握手した。
元子は慌てて自分の席に戻る。「ただいまの平岡養一さんは木琴独奏でございました」マイクオフにしてから「ハッ!」。
放送員室
沢野「弁解の余地、全くないね」
元子「申し訳ありません」
沢野「放送員は放送するための要員で、たとえ平岡さんの演奏に協力したところで自分の役割を忘れるなんて、僕には信じられないね」
元子「はい」
沢野「おまけに『平岡養一さんは木琴でした』という、あれは何だい?」
元子「はい…」
沢野「なるほど16期は女の子ばかりで少しいい気になってるのかもしれないけど、そもそも君たちは代用アルミ盤なんだぜ」
元子「代用アルミ盤?」
沢野「そうとも。一人前に海外放送なんかを読ましてもらってると思ってるんだろうけど、もともとあれは録音で流してたものなんだ」
元子「はい」
沢野「ところが、そのアルミ盤が足りなくなったので、本当のところ、いやぁ、アルミの代わりに女の子に生で読まそうと採用されたのが君たちなんだ」
元子「そうだったんですか」
沢野「ああ、だからだね…」
由美「すいません。お話の途中で申し訳ないんですけど」
沢野「何だね?」
由美「このあと沢野さん、スタジオでした?」
沢野「そうだよ」
由美「でしたら、いらっしゃる前に、その上着、ちょっと貸していただけませんでしょうか」
沢野「この上着を?」
由美「はい、糸と針を持ってますので、第2ボタン、落ちてなくなる前につけ直させていただきたいんですけど」
沢野「それじゃあ、くれぐれも同じ失敗はしないように」
元子「はい!」
由美に上着を渡して出ていく沢野。由美は元子に笑顔を向ける。優しい先輩。
立花「黒川君もなかなかやるね」
由美「えっ、いえ、私は」
立花「いや、ああいうナルシストには、ああいうのが一番効果があるんだ。悪いやつじゃないんだが、ただただ熱心なのが玉にきずでね」
由美「はい」
立花「とにかく黒川さんにはお礼を言いなさい。ただし、同じ失敗は二度と許されないよ」
元子「はい。どうもありがとうございました。ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」
スタジオ
放送中のランプがつく。
♪琴「さくら変奏曲」
元子「海外の皆様、ご機嫌いかがですか。こちらはボイス・オブ・ジャパンです」
問題の海外放送というのは、当時、夜中の2時40分、3時20分、4時50分に同じような内容のものを放送したのです。今のように便利なテープなどはなく、それまでは片面3分しか録音できないアルミ盤を使っていたのが、さっき沢野放送員の言ったアルミ盤代わりということでした。
元子「…一番名乗りを上げた町があります」
とはいえ、この新人代用アルミ盤たち、2人一組の勤務で日勤、日勤、夜勤、夜勤、泊まり、明け、休みのフル回転。泊まりの宿舎は放送会館の向かい側にあった胃腸病院でした。
真っ暗な中、のぼると元子は手を取り合って宿舎へ。扉を開けると、真っ暗な中、顔が浮かび上がる。
元子「ハッ!」
恭子・悦子「お帰りなさ~い」
元子「またやってる!」
のぼる「ん~」部屋の明かりをつける。
笑い声
恭子「お疲れさま」
恭子、悦子、由美はコートを肩にかけて集まって座っていた。
のぼる「いい匂い。またやってんですか?」
由美「そうよ。おなかすかせて帰ってくると思って」
元子「黒川さん。今日は本当にすいませんでした」
由美「いいのよ。さあ早く、こっちいらっしゃい。表、寒かったでしょう」
のぼる「はい、夜明けともなるとさすがに」
悦子「ねえ、玄関入ったところで何か感じなかった?」
元子「何かって?」
恭子「夕方、あそこに行き倒れがあったんだって」
元子「うそ!」
由美「もう、およしなさいよ。顔色が変わってるじゃないの」
悦子「でも、ガンコって本気で怖がってくれるんですもの」
元子「ひどいわ、もう」
恭子「だけど、局もよりにもよって、どうして病院なんか宿舎に借りたのかしら?」
由美「病院だって食料はないし、入院患者を置けないからじゃないの?」
悦子「それで、どういうことになったんですか?」
由美「え?」
悦子「その続きです」
元子「嫌だ、またお化けの話なんでしょう」
恭子「いいえ、今度は黒川先輩のラブロマンスです」
のぼる「わぁ、聞きたかったんです、私」
由美「嫌ぁねえ、もう。ガラ子のは誘導尋問がうまいんだから」
笑い声
悦子「けど、その人、向こうから先に夢中になったんでしょ?」
由美「そういう言い方って嫌だけど、兄のお友達なの。だから、よく遊びにも見えてたし、最初は私もそれほどの気持ちはなかったの。でも…」
恭子「でも?」
由美「その時、私、神宮のスタンドにいたの。で、雨の中をまっすぐ前を向いて歩調を取りながら歩いてくる彼の顔を行進の中で見つけた時、私、この人のことを愛していたんだって…そう思ってしまったの。その時の雰囲気のせいだったのかもしれない…。でもね、彼はこう言ったのよ。『意気地なしに聞こえるかも分からないけど、僕は国を守るためには死ねない。でも、あなたを守るためなら』って」
悦子「すてき…!」
由美「海軍予備学生で航空隊なの。あの人、本当に死ぬかもしれないわ。そしたら私…。あっ、焦げてる!」
元子「焦げたって構いません」
由美「そうはいかないわよ、大事なお芋ですもの」
悦子「ほら、肝心なところで、もう、ずるいんだもの」
まさにお年頃、芋を焼きながら恋の話に目を輝かせば、夜勤、宿直、少しも苦にはならないのが戦時下の若き女子放送員でした。
つづく
今日は時間いっぱいだったな。
だんだん重いエピソードが出てきたな。建物疎開って理不尽だよねえ。沢野が女の子、女の子言うのも大人の女性として扱ってないような言い方だしねえ。若い人には分からないかもとかご年配の人にはおなじみとか視聴者に気遣ってる感じ。資料映像もバンバン使って戦争というものを伝えようという気持ちが伝わってくる。やっぱり、この朝ドラ、好きだわ。