公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)は1次試験に合格した!すると、金太郎(木の実ナナ)が三味線を持ってやってきた。本当に常磐津でのど鍛える気かと驚くと、金太郎は芸者をやめて、軍需工場の事務員になるのだという。トシ江(宮本信子)からお守りを渡され、元子は2次試験に挑んだ。マイクを通し、50音、早口言葉、詩の朗読など、発声を試された。そして見事、2次試験も突破!宗俊(津川雅彦)もあぜんとする中、元子はあることを思いつく。
元子たちの部屋
元子は窓辺の文机で兄に手紙を書き、手前の巳代子はノートで何かを読んでいた。
元子「敬愛する兄上様。兄上様には厳しい軍務にお励みの毎日と存じますが、私たちも元気で過ごしておりますので何とぞ、ご休心くださいませ。さて、今日はうれしい報告がございます。私、この度、女子放送員の第1次試験に無事、合格することができました。それもきっとあんちゃんが応援してくれたからだと思うの」
文机に飾られた正大の写真
元子「本当にありがとう。2次も私、頑張るからね」
巳代子「ストロベリーショートケーキ エンド シュークリーム オードブル グラタンオニオンスープ ビーフステーキ コールドミート…」
元子「何言ってんの? あんた」
巳代子「うん? うん…今は学校工場だけど2学期からは工員さんたちと一緒に働くようになるんだって」
元子「それとショートケーキとどういう関係があるのよ」
巳代子「だからね、この夏休みでいよいよ英語の授業はジ エンドになっちゃうんだって。だから一応みんな今まで習ったところを確認しておきなさいって言われたから」
元子「それにしても出てきたのはみんな食べ物の名前かメニューだったわよ」
巳代子「あら、本当?」
元子「そうよ。食いしん坊なんだから」
巳代子「だけど言うくらいは許してよ」
元子「嫌だ、変に思い出して生唾が出てきちゃうじゃない」
巳代子「駄目。欲しがりません、勝つまでは、です」
元子「何よ、寝た子を起こしておきながら」
巳代子「あ~あ、おいしいものさえあったら、私、戦争なんか何年続いたって平気なんだけどな」
元子「ねえ、今度、工員さんと働く工場、何作るの?」
巳代子「ん~、まだ分かんない。ケーキの工場ならいいのにね」
元子「そんな軍需工場あるわけないでしょ」
巳代子「だから、あればいいと言ってるんでしょ」
元子「ねえ、あんちゃんに手紙書いてるの。一緒に入れてやるから巳代子も書かない?」
巳代子「うん、書く書く。『姉上は第2次試験の発声練習を常磐津でやるようであります』って書く」
二人で笑いだす。
巳代子は多分、巳年生まれとすると、1929(昭和4)年生まれかな。昭和元年生まれの元子とは3歳違い。「芋たこなんきん」の町子が昭和3年生まれなので同年代だね。巳代子は軍国少女という感じはないかな。初期金八の生徒の1人にいてもおかしくない。
宗俊「お~い、元子ぉ! 金太郎が来てるぞ!」
元子「えっ、うちの河内山、本当にやらせる気?」
巳代子「まさか」
宗俊「お~い、いるのか、いねえのか!」
元子「は~い!」1階へ。
茶の間
宗俊「おい、ほらほら…」
元子「いらっしゃい」
宗俊「そっち座れ」
元子「わあ、本当にやるの?」
金太郎「まさか」
元子「だって三味線持ってきてるもの」
金太郎「ううん、今日はね金太郎ねえさんのいとまごい」
元子「えっ、いとまごいって一体どこへ行っちゃうのよ」
トシ江「どこにも行きはしないんだけど、今度、お勤めに出るんだって」
元子「金太郎ねえさんが?」
金太郎「そうよ。これでも花の独り者だもの。そうでもなかったらさ、徴用か女子挺身隊だもんね」
元子「で、一体どこへ?」
金太郎「口跡には自信があるしさ、学問さえあれば私だって放送員になりたかったわよ」
宗俊「てやんでぇ」
金太郎「お茶くみなのよ。軍需工場の社長さんがね、お茶くみ専用の事務員として雇ってくれるっていうから、まあ当分は芸者の方はお休み。情けないけど、ほかにできることがないんだからしょうがないわ。そのかわりさ、もっちゃんはどんなことがあっても頑張って放送員になってよね」
宗俊「てぇ!」
元子「ええ」
宗俊「くだらねえこと言うんじゃねえ」
金太郎「ねえ、音声試験なんたってさ、もともともっちゃん声がいいんだし、瓜売りが瓜売りに来て瓜売り残し売り売り帰る瓜売りの声なんてのが出るんじゃない?」すっごい早口!
トシ江「まあ上手じゃないの、おねえさん」
金太郎「だって、これでおまんま頂いてたんですもの。言えるでしょう、そのくらい」
元子「それくらいは、なんとかね」
トシ江「やってごらん、ほら」
宗俊「やってみろ」
元子「瓜売りが瓜売りに来て瓜売り残し売り売り帰る瓜売りの声」
トシ江「ああ!」手をたたいて喜ぶ。
金太郎「上等!」
トシ江「ほかに…ほかに何かないかしら?」
金太郎「うん…隣の客はよく柿食う客だ」
トシ江「やってごらん」
金太郎「やってごらん」
元子「隣のかき…。隣のきゃ…。隣のかき…」
金太郎「落ち着いてごらん。落ち着いて」
トシ江「落ち着いてもう一度ね、よく言ってごらん」
宗俊「バカ野郎、早口言葉ってのはな、早く言わなきゃ意味がねえんだ」
トシ江「だったらあんた言ってごらんよ」
宗俊「と…どうして俺が言わなきゃなんねえんだ」
トシ江「だって偉そうなこと言うからさ」
宗俊「バカ野郎。試験を受けるのは元子で俺じゃねえんだぞ」
金太郎「だったら余計な口出しはおよしなさいな」
宗俊「おっ、てめえ上等な口きくな? 余計な口出し…どういう口のきき方すりゃ…。俺をなんだと思ってんだ! え! 河内山だぞ、この野郎」
あきれる元子。
宗俊のこと結構皆、雑に扱ってるのが面白い。
何はともあれ第2次試験の朝がやってまいりました。
元子「行ってきま~す!」
トシ江「元子、ちょいと待って! これね、水天宮さんのお守りだよ。しっかりね」
元子「はい。頑張ってきます」
トシ江「行ってらっしゃい」
元子「行ってきます」
トシ江「はい、頑張るんだよ」
トシ江は裏庭に出て、お天道様に向かってかしわ手を打つ。
放送員第二次試験受験者控室
恭子「ほら、やっぱり」
のぼる「また会えたじゃない。私の言ったとおりでしょう」
元子「はい、こんにちは」
眼鏡をかけた学生風の男性と目が合い、会釈する元子。
恭子「お知り合い?」
元子「いえ、係の方じゃないんですか?」
のぼる「それにしてはまだ学生みたいだけど…」
悦子「あの人なら私たちと同じよ」
元子「え?」
悦子「今度はね、圧倒的に女子が多いんだけれど男子も受けるには受けているのよね」
元子「そうなんですか」
悦子「けど、みんな優秀ねぇ。1次で200人は落ちたみたいよ」
雅美「よく知ってるねんね、五十嵐さんって」
悦子「だって私、ここに勤めてるんですもの」
元子「えっ、どうしてですか?」
悦子「うん、去年、秘書課に入ったの。だけど本当はアナウンサーになりたかったから、この機会に放送員の試験、受け直したの。だけどほかにもそういう人がいるはずよ」
雅美「それやったら差がありすぎやわ」
悦子「そんなことないわよ。試験は絶対に公平だわ」
元子「でも秘書課なんてすごいですね」
悦子「だけど私って割とおしゃべりなのよね。おしゃべりは秘書より放送員の方が向いてるじゃない」
雅美「でも秘書課やったら試験の内容、よく分かってるんでしょう?」
悦子「この顔見てよ、分かってればもっと自信満々の顔してるわ」
雅美「でも」
悦子「そうね…例年の様子ではね、なまりのある人でも結構合格しているけれど、でもそれは直るなまりであるかどうかがチェックされるみたいよ。あなたは関西?」
雅美「でも、と…東京には4年もいるのよ」即座にイントネーション直せてる!
のぼる「私はラ行が弱いから。それにダヂヅデドも」
悦子「東京の人は『ヒ』と『シ』を気を付けた方がいいわよ」
元子「どうしよう。全然区別がつかないんです、私」
悦子「全然ってことはないでしょう。お日様、お彼岸って言ってみて」
元子「お日(し)様、お彼(し)岸」
雅美、笑う。
そうです。東京生まれには大きな泣きどころがあったのですが、ともあれ試験です。
試験会場
放送室?に入る元子たち。先導していたのはカンカン(森田順平さん)だ~!
元子の心の声「わぁ~、マイクロホンだ!」
沢野「はい、じゃあ座ってください」←カンカンあるいは結城信彦。いい声。
5人の受験生たち、座る。
沢野「ではまず、マイクロホンを通して皆さんの声を聞かせていただきます。初めに軽く発声練習のつもりでアイウエオ五十音と濁音、半濁音を154番の人からマイクに向かってやってください」
元子「はい。154番、桂木元子、始めます。アイウエオ、カキクケコ、サシスセソ、タチツテト、ナニヌネノ…」
元子「この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけたのです。武具馬具 武具馬具 三武具馬具 合わせて武具馬具 六武具馬具。菊 栗 菊 栗 三菊栗 合わせて菊栗 六菊栗。瓜売りが瓜売りに来て瓜売り残し売り売り帰る瓜売りの声」
のぼる「…合わせて武具馬具 六武具馬具。菊 栗 菊 栗 三菊栗 合わせて菊栗 六菊栗」
恭子「この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけたのです。菊キリ菊キリ三菊キリ 合わせて菊キリ六菊キリ」
悦子「この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけたのです。武具馬具 武具馬具 三武具馬具 合わせて武具馬具 六武具馬具。菊 栗 菊 栗 三菊栗 合わせて菊栗 六菊栗」言ったあと、言えた~という感じでホッとした表情。
雅美「菊キリ菊キリ三菊栗 合わせて菊栗 六菊栗。この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけたのです。武具馬具 武具馬具 三武具馬具 合わせて武具馬具 むぶ…六武具馬具」ちょっと笑ったけど、ため息。
元子「羹(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)を吹(ふ)く」
元子「網呑舟(あみどんしゅう)の魚を漏らす」
元子「前事の忘れざるは後事の師なり」
元子「智(ち)は…智は目の如し よく百歩の外(ほか)を見れども睫(まつげ)を見る能(あた)わず」
元子「鶴のすねは長しといえども、これを断たば、すなわち悲しむ」
元子「桃李(とうり)言わざれども下(した)自(おのずか)ら蹊(けい)を成す」
元子「善く游(およ)ぐ者は溺れ、善く騎(の)る者は堕(お)つ」
元子「雨ニモマケズ 風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
ジョウブナカラダヲモチ 慾ハナク
決シテ瞋(いか)ラズ
イツモシヅカニワラッテヰ(い)ル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
小サナ萓(かや)ブキノ小屋ニヰテ…」
結構がっつりやるもんだね~。コミカルな音楽に金八の面接練習の回がふと浮かぶ。
茶の間
涙ぐむ元子。
女子放送員になりたい元子の一念は見事2次試験も突破しました。
元子を取り囲む巳代子や順平も喜び、少し離れた場所で繕い物をしているトシ江やキンも嬉しそう。
彦造「ただいまでした」
トシ江「お帰りなさい。暑かったでしょ」
キン「行水にしますか、お湯に行きますか」
順平「あのね、お父ちゃん」
巳代子「お姉ちゃん、2次も受かったわよ」
何も言わずに奥へ行く宗俊。
元子「お父さん!」
彦造「大(でえ)丈夫ですよ。大将は一日、今日辺り通知が来るんじゃねえかって気にしっぱなしだったんだから」
元子「本当!?」
彦造「あっ! 今行っちゃいけねえよ、お嬢。今飛び込んだら、旦那ぁ体裁悪くてどなることしかできねえのが関の山だ」
元子「分かった!」
2階へ駆けあがる元子。「あんちゃん、お父さんも喜んでくれてるみたい! だってもう途中で駄目かと思ったけど、私、最後まで投げなかったんだもの…。そうよね、投げちゃいけないのよ。だから、あのこと私、思い切ってやってみるわ。待っててね」
夕方、茶の間
長火鉢を挟んで向かい合う元子と宗俊。
元子「お父さん」
宗俊「何でぇ、改まりやがって」
元子「おかげさまで第2次試験も合格いたしました。本当にありがとうございました」頭を下げる。
宗俊「何もおめえに礼を言われる覚えなんかねえや」
元子「ですから明日、私、あんちゃんとこに面会に行って、このこと報告してきたいんですけど」
宗俊「おう、面会なら俺が行く」
元子「だって、明日の日曜、お父さん、町内の防空演習でしょ。お父さんがいなけりゃ収まりがつかないわ」
宗俊「祭りじゃねえんだ。納めるみこしがあるわけじゃなし」
元子「けど、お父さんは班長さんでしょう」
宗俊「するってぇと何か、班長てのは兵隊に行った息子の面会に行っちゃいけねえってのか」
元子「そういうわけじゃないけど、いっぺんに行かないで入れ代わり立ち代わり誰かが元気な顔見せてた方があんちゃんだって、きっと喜ぶと思うのよ」
宗俊「だったらおめえが来週行けばいいじゃねえか」
元子「だから私は第2次試験の…」
宗俊「そんなことは俺の口から伝えてやりゃ、それで済むことだ」
元子「それじゃあ、かえってあんちゃんに心配かけるようなもんだわ」
宗俊「何でだよ」
元子「受かった本人が行かないのに、お父さん一人が受かった受かったってバカの一つ覚えみたいに言ってるとこを想像してみてよ」
宗俊「バカの一つ覚えだ?」
元子「いいえ、二つ覚えでもいいんだけど」
宗俊「何を?」
元子「さては落ちて元子のやつ顔見せられないんだって、あんちゃんがそう思い込むと思いませんか?」
宗俊「いや、だから、それはお前…」
元子「と、すればですよ。あんちゃんに信用してもらうためにはお父さんがこの合格通知を持っていくのが一番いいんです」
宗俊「そ…そうだよ、そのとおりだよ」
元子「けど、あいにくこの葉書は本人以外みだりに持ち歩いてはならないことになってる」
宗俊「な…何でだよ」
元子「そもそも放送とは公のものです。公の仕事とは国家的な仕事ということですからね。言いつけを破って持ち歩いてうっかりなくしでもしてごらんなさい。これは国家の機密を落としたということにもなるんです。そんなことしたら勇躍入営したあんちゃんの足を引(し)っ張る結果にもなるんだし、ここはやっぱり私が面会に行き、お父さんは銃後の父として息子に負けずに防空演習にまなじり決して取り組むのが一番いい方法ではないかと、ねえ」
あぜんとする宗俊。
元子「お父さんだって、そう思うわよねえ」
宗俊「ペラペラ、ペラペラよく回る舌だなぁ、おい」
元子「そりゃそうよ、今度の試験じゃ死に物狂いで猛勉強したんだもの」
宗俊「分かったよ」
元子「お茶…お父さん、はい」
この粘り、元子には何か考えがあるようですが…。
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
こんな怒涛のセリフ量なのに何十秒か余ってる!
のぼる…満州出身。
恭子…横浜出身。
悦子…放送局の秘書。
雅美…関西出身。
カンカン出たね~。今度はピリッとしたカンカンっぽい感じの役だな。ああ、明日は「岸辺のアルバム」の再放送もある~。宗俊と堀先生を比べるのもまた楽し。
先週よりぐっと台詞の増えた元子。でも安定感あるよね。