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【連続テレビ小説】芋たこなんきん(144)「お兄ちゃん」

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

昭一(火野正平)が酔って帰宅し、健次郎(國村隼)と平真佐美(なるみ)のことで言い争いになる。町子(藤山直美)は機転をきかせて2人を落ち着かせる。矢木沢純子(いしだあゆみ)は北野吾郎から結婚すると告げられる。町子は心配していたが、純子は落ち着いていて北野と出会った幸せを町子に話す。そんなとき、文鳥の飼い主の鮫島(三浦誠己)が現れて…。さらに玄関に通帳と封筒が置いてあることに気付く…

夜、茶の間

町子「お兄さん、まだ帰ってきはらねんね」

健次郎「うん」

町子「捜してはるのかな?」

健次郎「そやろな…」

町子、ため息。「私も一杯頂こかな」

健次郎「仕事は?」

町子「うん、一区切りついたし」

健次郎「あ、そう。難儀な兄貴や。やっと結婚かと思たら、これや。ほんまに…」

 

町子「あ、そや、結婚言うたらね…」

健次郎「うん?」

町子「北野さん、結婚しはるらしい」

健次郎「あの新明出版の?」

町子「うん。今日、たこ芳でね、純子さんにその報告してはると思う」

 

健次郎「そうか…結婚か」

町子「いや、私もちゃんと聞いたことはなかったんやけどもね、何となくそんな気はしてたのよ」

健次郎「純子さん、大丈夫かな?」

町子「あの人のことやもん…。けど、寂しくなるのは確かやねえ」

 

戸の開閉音がして、町子が玄関へ。「あっ、お兄さんやったんですか」

昭一「よいしょ。ただいま」

町子、ため息。

 

茶の間

昭一、健次郎にも「ただいま」と声をかけて、台所に直行してペットボトルの水をコップに注ぐ。

 

台所

健次郎「何や飲んどったんか?」

昭一「飲んだよ。しゃあないもんな」

健次郎「『しゃあない』て…。酒飲んで何が解決すんね、一体」

昭一「何?」

健次郎「どないするつもりやねん?」

昭一「どないもしゃあないでしょ!」

 

茶の間

健次郎「ちょ…ちょっと待て」

昭一「いや、もう、寝んねんて!」

健次郎「あのな、お金のこともそやけどな、大体、1年も一緒に暮らしとって相手のこと何にも知らんてどういうこっちゃ? そんなええ加減な関係やったんか?」

昭一「何や『ええ加減』て?」

 

健次郎「お兄さんの顔も知らんし、前にどこに住んどったのかも知らんて」

昭一「そんな言わへんことをいちいち聞いてられるか。疑うてられへんでしょ」

健次郎「ただ目ぇつぶっとるだけやないか。ほんまのこと聞くの怖かったんやろ?」

町子「そこまで言わんでええやないの!」

健次郎「あのな、ず~っと一緒に暮らしてこうとしてたんやろ! そんなこと怖がっとって、どうやって生活していくねん?」

町子「健次郎さん!」

健次郎「大体な、兄貴はな、人と本気で関わろうとしてへんねや! そんなんで一生いくつもりか?」

町子「健次郎さん!」

 

昭一「ええやんか。もうどっちみち先長いことないねや」

健次郎「開き直るなよ、そうやって!」

昭一「やかましいな、お前は!」

健次郎「誰がやかましいねん!」

昭一「お前、大体、ちいこいことグジュグジュグジュグジュ言い過ぎなんじゃ、お前はもう!」

町子「やめてって、もう!」

健次郎「グジュグジュ言わしてるの、誰や!?」

町子「もう…」その場を去る。

 

昭一「そんなもんほっとけよ!」

健次郎「兄貴が…兄貴がちゃんとさえしたら、俺、言わんでええねやないか!」

昭一「じゃあ黙っといたらええやないか! ず~っとお前!」

健次郎「黙れ…」

急に電気が消える。

 

健次郎「何や?」

昭一「停電か? おい」

 

明かりのついたろうそくを持って町子が台所から歩いてきた。

 

健次郎「何や?」

町子「気、しずめてください、2人とも。どなりおうてたかて何の解決にもなりませんでしょ。ねっ、ねっ」テーブルの上にろうそくが置かれる。

昭一「用意がええな。これ、停電用か?」

町子「ロマンチック用」

ズコーッとなる昭一。「フフフフ…」

町子「フフフ! このキャンドルの明かりだけでね、ワイン飲むことがあるんですよ、二人だけでね」

昭一「お前ら二人で? ほう! やっぱり君らは、おもろい夫婦やね!」

健次郎「ほっとけ」

 

昭一「健」

健次郎「うん?」

昭一「お前はほんまにええ人に巡り会うたな」

健次郎さん、照れてる?

昭一「そこへいくとあかんな、俺は、いくつになっても…。明日マンション帰るわ。う~ん…これからどないするかちょっと考えてみる。あっ、世話になったね」

 

朝、茶の間

昭一「はあ…。おはようさん」

町子「おはようございま~す!」

健次郎「おはよう」

町子「あれ? お兄さんちょっと顔色悪いのと違いますか?」

昭一「そうかな?」

町子「うん」

昭一「どうもないて…」

 

すかさず健次郎が昭一のおでこに手を伸ばす。

健次郎「あかん。だいぶ熱あるな」

町子「あら、大変!」

昭一「いや、何でもないの」

町子「寝てはる方がよろしいて!」

昭一「大丈夫です」

健次郎「ただの風邪やろうけどこじらせたらまずいから。薬、あったな」

町子「あ、はい。よいしょ」

 

健次郎「今日は帰られへんで。薬のんだら寝ときや」

昭一「そんなお前、これ以上迷惑かけられへんやないか」

健次郎「何を今更!」

 

町子「お兄さん、これ、食後ですからね、ごはん食べたら必ずのんでくださいね」

昭一「ありがとう」

町子「あ、そう、私、お昼にね、あったか~い鍋焼きうどん作らしてもらいますわ」

昭一「おおきに…」

 

仕事部屋

町子あての郵便物をテーブルの上に置く純子。「そうですか。お風邪ですか…」

町子「けど、しゃあないですよね。精神的なショックが大きかったんやと思いますわ」

純子「あ…」

町子「はい」

 

純子「昨日、新明出版の北野さんから報告がありました。『結婚します』って」

町子「あ…そやったんですか」

純子「はい」

町子「いや、純子さん、あの…」

純子「はい?」

町子「う~ん、何でもないんですけど…」

 

町子の顔を覗き込む純子。「ありがとうございます」

町子「え?」

純子「心配しててくださったんですね」

町子「いえ…いや、私は心配なんかしてませんよ」

純子「先生」

町子「はい」

 

純子「北野さんと出会った頃のことをあれこれ思い出してたら…ああ、本当にいい友達と出会えたんだなあと思いました。考えたら、北野さんと初めて出会った頃の私って一番最低の時だったんですもの。父の入院のことやら町子先生にご迷惑をおかけした時のことやら、もうどうしていいんだか分かんなくて辞めてしまおうと思ってて…。そんな時、北野さんが全力で助けてくれて力づけてくれました。私が仕事を続けていくかぎり、いつまでも信頼できる友達としていてくれる…。そんな人が人生に町子先生や大先生のほかにもう一人いるなんて私って幸せです!」ニッコリ笑って大きくうなずく。「フフフフ!」

町子「ハハハハハ」

 

和室

布団に寝て天井を見ている昭一。

町子「あ…お兄さん、どないですか?」

昭一「おおきに。あのね、うつったらあかんから、そこへ置いといて。後で勝手にやる」

町子「私、大丈夫です。けどお兄さん、長い間、『俺は流れもんや』て強がり言うてはりましたけど、案外虚弱なんですね」

昭一「流れ者、ほんまは打たれ弱いんです。健もあきれとったやろ?」

町子「いや、あきれるやなんて…」

昭一「けどな、町子さん」

町子「はい」

昭一「あの、ゆうべいろいろ考えたけども、あいつがそういうことするって、どうしても信じられへん」

町子「うん」

 

昭一「あいつな、初めて会うた時、奄美の『島唄』歌ってたんや。俺、それ聴いて泣いてしもてな。この悲しいとか懐かしいとかそういう感情やないのよ。あいつの声がこうスコ~ンと心に入ってきて、何かこの辺がフワ~ッとあったかなったらツ~と涙出てきた…。ほんでな…俺は長いことかけて、この子を探してたんやないかなて瞬間的に思たんや」

町子「運命の人?」

昭一「あっ、あかん! それな、あっちこっちで安売りしすぎてな、肝心な時に説得力なくなってしもた」

 

町子「はい」薬と水の入ったコップを渡す。

昭一「あ…ありがとう」

町子「はい」

昭一「それがこのざまやろ…。お金も惜しいけどな…」

町子「はい! お薬のみましょう!」

昭一がテンポよく薬を飲む。

町子「はい、治りました!」

昭一「ほんまや」

 

茶の間

健次郎「あ…まだしんどそうか?」

町子「はい」

健次郎「ああ…。まあ、しゃあないな。老後の計画も白紙に戻ってしもたしな」

町子「けど、お兄さんね、まだどっかで信じた~いと思てはる。好きなんやね…」

健次郎「アホやな」

町子「アホやねて…。けど、私ね、お兄さんのことすてきやなと思いますもん」

 

健次郎「すてき?」

町子「うん」

健次郎「すてきで済む話かいな」

町子「健次郎さんも言うてたでしょ。『あの子はそんな子やないような気ぃする』って。私もね、お兄さんの話、聞いてたら何やそんな気がしてきたの」

健次郎「う~ん…。けどな、口座から全額引き出して連絡もない。そら、どう考えてもあかんやろ…。そら、僕かてな、何か事情があって連絡がでけへんのやと思いたいけど…。その事情って一体どんな事情やろ?」

 

玄関のチャイムが鳴る。

 

玄関

町子「は~い! はい…」

鮫島「徳永さんのお宅ですか?」金髪でツンツン髪を立てた若い男。

町子「ええ。そうですけども、どちら様でしょうか?」

鮫島「鮫島いいます」

町子「え?」

鮫島「鮫島です!」

町子「鮫島様。ご用件は?」

鮫島「徳永さん…」

町子「あ…」

 

健次郎「はい、私ですけど」

「『迷い鳥』保護しています」のチラシを広げて見せる鮫島。

健次郎「あ、これ…」

鮫島「はい。うちのピースケ君がこちらでお世話になってるって知って」

町子「ピースケ君!?」

 

庭の文鳥のお墓に新たな線香が立てられる。

跪いて手を合わせる鮫島。「仲のええつがいやったんです! けど、半年前にメスのピーチが死んでもうて元気なくなって…。そやのに僕の不注意で逃がしてもうて…。ものすごう心配してたんです」

町子「そう…」

鮫島「ピースケ、堪忍やで…。(振り向いて立ち上がり)ほんま、ありがとうございました!」

健次郎「いえ…」

 

こういう時に茶化す雰囲気が全くないのがいい。

 

茶の間

町子「ピーチとピースケ夫婦か…」

純子「かわいがられていたんですねえ」

健次郎「そうやねえ」

町子「今頃、天国で仲よくしてるかな」

純子「夫婦か…」

 

物音

町子「うん?」

 

玄関

町子「うん? えっ!?」

靴箱の上にお札の入った封筒と通帳、印鑑が置かれていた。

町子「真佐美さん…」

 

徳永家の門を出た真佐美。

町子「真佐美さん!」

泣きそうな顔になり立ち去ろうとする真佐美。

町子「待って! ちょっと待って! あかん!」

真佐美「離してください!」

町子「離さへん! ちょっとうち入って、ちゃんと話聞いてちょうだい! ねえ! 話、しなさいって、真佐美ちゃん! ちょっと待ってって! お願いやから!」

家から健次郎、純子、昭一が出てくる。

昭一「真佐美!」真佐美の顔の殴られたあと?を見て驚く。

町子「うち入って! え!?」顔の傷に気付く。

 

ミニ予告

町子「いや~、何? びっくりするわ」

 

笑うところ、ふざけるところはあるけど、茶化さないところは茶化さない。真剣な時は真剣、こういうところがこのドラマの好きなところの一つかも。