公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
町子(藤山直美)が暮らす隣の町のスナックに、コンビ別れをしたばかりの漫才師・南野福子(天童よしみ)と、そのマネージャー兼社長の小柳(鈴木ヤスシ)が現れる。福子は「芸人をやめて、子どもと一緒に地道に普通の仕事をしていきたい」と小柳に話す。一方、仕事部屋で原稿を書き続ける町子は、青白い顔でかなり疲れている様子。寒気がして熱っぽく、目をつぶると亡き父・徳一(城島茂)と祖父・常太郎(岸部一徳)が現れて…。
昭和45年10月
仕事部屋
原稿を書きながらため息をつく町子。
新聞の連載を始めて、もうすぐ半年。毎日の締め切りに追われ、さすがに疲労もたまっているようです。
コーヒーを飲んで「あ~」という町子。だいぶお疲れ気味。
応接間
松岡「新聞の連載、間もなくゴールですね」
純子「もう長かったです。半年、毎日ですもの」
松岡「週刊誌のカモカシリーズも抱えながらですからすごいですよ。いや~、先生、体力おありですよ」
純子「いえ。これが終わったら少しお休みいただかないと、さすがに…」
松岡「いやいや、うちとのお約束が…」
純子「あっ! 再来月号の中編」
松岡「もう、忘れないでくださいよ」
純子「あら~。じゃあ、これが終わったらすぐかからないと。え~、大変だあ…。ねえ」
診察室
健次郎「ここんとこ安定しとるねえ」
一真「そうか。ヘヘヘヘヘヘ…」
健次郎「何か運動でもしてるの?」
一真「これや、これや~」手に何かを持ったふりをして顎の下で回すしぐさ。
健次郎「え?」
一真「いやいや、歌、歌てんねや。気分すっきりするわ。声出すってのは体にええねやな。お経の声もな『一段とようなった』って、もう門徒さんから評判やで」
健次郎「へえ」
一真「『タタンタ タンタン 小倉生まれで限界育ち』」
健次郎「『口も悪いが』」
健次郎・一真「『気も荒い』」
一真「ハハハッ! ええな、ええな! 鯛ちゃんも一緒にどや?」
鯛子「私は演歌は歌いません」
一真「あ~、さよか」
鯛子「はいはい、もう終わったら、次の人お呼びしますんで」
一真「はいはい、はいはい」
健次郎「歌なあ」
その数日後のことでした。
たこ芳
俊平「♪『冷たい心じゃ ないんだよ
今でも好きだ 死ぬほどに』」
拍手
貞男「ええなあ、千昌夫は」
俊平「次、あの、町子さん歌て」
桜木健一さん、歌うまい。
ドラマの主題歌など、歌も出してる方なのね。納得。
町子「私、いいです。健次郎さんが歌いますから」
健次郎「好きな歌を歌たらええねや」
町子「好きな歌? え~、そし…あっ、今、好きな歌。歌わしてもらいま~す」
拍手
町子「♪『忘れられないの あの人が好きよ』」
なぜ、ジャンルがアニメ?
貞男「うまいな」
俊平「おう」
町子「♪『青いシャツ着てさ』」
ギターの音色が聴こえる。
りん「え? え…おたくは?」
流しの男「あ…いや、僕、実は流しですねん。今日はもう仕事終わって飲んでましたけど、おねえさんうまいから、つい…。あっ、続けてください」
町子「あ…あ…はい」
ギターの音色にあわせて
町子「♪『恋は 私の恋は』」
貞男「いや、うまい!」
町子「♪『空を染めて』」
俊平「ほんとやな」
りん「上手やわ~」
町子「♪『燃えたよ
死ぬまで私を ひとりにしないと
あの人が言った 恋の季節よ』」
そして、そのころ、隣町の、とあるスナックに一人の女が現れました。
スナック波止場前
小柳「ちょっと待ちいな!」
女性、振り向く。天童よしみさん!
小柳「やっぱりあかんか?」
福子「せっかくですけど、私、もう疲れたんです」
店に入る福子。
マスター「あっ、いらっしゃいませ」
女「いらっしゃいませ」
小柳「…んなこと言わんと。また新しい相手探すさかい」
福子「あっ、すいません。ビール1本お願いします」
女「マスター。ビール入りました」
マスター「はい、ありがとうございます」
小柳「福子ちゃん…」
福子「この2年で3回ですよ、コンビ別れ」
小柳「知らいでかいな。ワシ、マネージャーやで」
福子「けんかして解散が1回。『1人でやりたい』言うた2回。『実家の仕事継ぐ』言うて芸人やめたんがこないだ。正確に言うたら、私、3人みんなに逃げられたんですよ」
小柳「いやいやいや、そやないで…」
福子「おまけに亭主にまで逃げられてしもて。ああ…私、もう、ええんです。ここらで芸人やめて普通の仕事しますわ。地道にやっていきます。子供とずっと一緒にいられるしね」
女「お待たせしました」
福子「あっ、おおきに」
小柳「あんたがやめたら、ミス福子のファンはどないなんねんな!?」
福子「社長、あんまり大きい声で言いなや。もう恥ずかしいわ」
小柳「相方が変わっても、ミス福子の漫才が見たいというお客さんは多いんやで」
福子「ファンが多かったら、今頃テレビでレギュラーの一本でも持ってますやろ」
小柳「地方行ったら皆、喜んでくれはるがな」
福子「社長には今まで面倒みてくれはって申し訳ないと思てます。ほんまにすいません」
小柳「福子ちゃん…。好きな漫才、ほんまにやめんのんか? それでええんか?」
福子「もう私…疲れたんです」ビールを飲む。
女1「あの人、あれや」
女2「え? 誰?」
マスター「あ~、小説書いてはる、ほれ、あれ、あれ…天満北の…」
女2「あ~、あの…」
マスター「どっかで見た人や思た」
路地
町子「あ~、楽しかったなあ」
健次郎「ほんまやな」
町子「あのね、健次郎さん、歌、歌うとね腹筋使うでしょ? だからいい運動になんの。歌、歌うと健康につながってくると思うねんけど、私」
健次郎「またそうやって理屈つけるやろ」
町子「うん?」
健次郎「楽しかったでええやないか」
町子「そら、そやけどね」
家に入っていく。
玄関前で素振りする隆。
健次郎「お~、素振りか。頑張っとるな」
隆「もうすぐ大阪府の大会に出るレギュラー決まんね」
町子「へえ~、レギュラーて何塁守る人?」
健次郎「アホ」
町子「うん?」
隆「試合にずっと出られる人のこと」
町子「ああ、それをレギュラーていうの。ふ~ん」
隆「僕、補欠やったから」
健次郎「こいつのチームはな、サード…三塁を守る人な、三塁手、これが3人もいてるらしい」
町子「3人もいてんの!? 激戦やん! 隆君、頑張りや。おばちゃん応援するから」
隆「任しといて!」
町子「フフフ! 頼もしなったねえ。さあ、私も負けんように頑張って書こう!」
健次郎「これから?」
町子「新聞の最終回、もうちょっとやの。気分転換できたし、頑張ってきま~す」
健次郎「あ…」
その深夜…
茶の間
電話をしている晴子。「けどやっぱり、あれは私の責任です。私が術後経過を細かく見てれば…。初めてやったんです…自分の受け持ちの患者さん亡くしたん。はい、大丈夫です。ありがとうございます」受話器を置く。
町子「あら、晴子さん帰ってはったんですか?」
晴子「うん…」
町子が台所でコーヒーを作っていると、晴子のすすり泣く声が聞こえる。
町子「飲みはりますか? コーヒーです。はい」
晴子「ありがとう。まだ仕事?」
町子「うん」
晴子「お兄ちゃん、寝たん?」
町子「はい」
町子「何かあったんですか? お仕事?」
晴子「ううん。何もあれへんよ。それより町子さん、顔色悪いけど」
町子「私? そうですか。私は大丈夫ですけどね」涙を拭く晴子を見ている。
仕事部屋
時計は午前1時15分。
原稿の手を止める町子。「はあ…。寒いわ~」綿入り半纏を羽織る。予定でびっしりのスケジュール表。「風邪なんかひいてられへん…。はあ…」
そのころ、隣町のスナックでは…
♪ハワイ航路
堀之内「歌えましたわ!」
坂本「ほんまや、ほんまや」
堀之内「あ…あの…」
坂本「失礼ですけども小説家の花岡町子先生ですよね?」
福子「え?」
堀之内「やっぱりそうや! うわ~、雑誌で見たんと同じやがなあ!」
福子「私、そんな…」
坂本「あの~、もしよろしかったら、あの、こっちで一緒に飲んでくれはりません?」
福子「いや、あの、私…」
堀之内「いや、先生、飲みましょ! いや、感激や。こんな有名人に会えるやなんて! どうぞどうぞ!」
坂本「どうぞどうぞ!」
堀之内は、ぼんちおさむさん。
そんなことになっているとは知らない町子です。
台所
救急箱があるから、薬を飲んだのかな。
町子「あ~。はあ…。ああ…」
茶の間のテーブルに突っ伏す町子。「はあ…。ああ…」
「町子、無理しなや」
男性の声がかかり、照明が変わる。
町子「健次郎さん?」
徳一「町子、無理してんのと違うか? 顔色悪いで」
町子「お父ちゃん、どないしたん?」
徳一「そないようさん仕事して体壊したらどないすんねんな。お前はちっちゃい時から、いっこも変わってへんなあ。こうと決めたら、それしか見えへん。全力でピュ~ッて走ってしまう。おじいちゃんも心配してんねんで。なあ」
徳一の隣にあるカメラの覆いから出てきた常太郎。
町子「ああ…おじいちゃん…」
常太郎「頑固なんはワシ譲りか? しょうもないとこ似てしもてからに」
徳一「ちゃんと体休めなあかんで」
うなずく町子。
常太郎「親の言うことは聞くもんや」
笑顔でうなずく町子。しかし、徳一、常太郎の姿が逆さに見えてきて、町子倒れる。
徳一「町子!」
常太郎「町子!」
倒れた町子を抱き起こしたのは徳一。「しっかりしい! 誰かいてへんのか? 誰か! 町子! 町子!」
町子「お父ちゃん…」
健次郎「町子!」
照明が元に戻り、町子が目を覚ました。
町子「え…? お父ちゃんは? おじいちゃんは?」
健次郎「何を寝ぼけてんの。えらい熱や」
町子「健次郎さん…」再び気絶。
ミニ予告
健次郎、徳一、常太郎が並ぶ。
常太郎「何や、この子に怒られそうで…」
泣き笑いの町子。
月曜日から町子倒れる。これからいろいろありそう。