公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
町子(藤山直美)は、一真(石田太郎)が香港から持ち帰った小さな千手観音像の手の1本をうっかり折ってしまう。町子は、一真にそのことを隠して観音像をしばらく借りる。そんなとき、「弟子にしてほしい」と町子に二ノ宮留夫(マギー)が訪ねてくる。そして手の折れた観音像を見て、実家が骨とう商の二ノ宮は「同じ観音像を用意する」という…。また、町子の友人の神田みすず(友近)が、町子に、自身の不倫を打ち明ける。
数冊の月刊誌に新作の小説を毎月発表し続け、相変わらず忙しい町子です。
仕事部屋
執筆する町子。
応接間
純子「新聞の連載小説ですか。新聞って毎日出るんですよね?」
丸谷「ええ、毎日です」
純子「ということは毎日締め切りがあるんですよね?」
丸谷「今はどのくらいのお仕事を?」
純子「週刊誌のエッセーが1本とそれから毎月の小説雑誌に中編と短編が1本ずつ」
丸谷「ほんならかなりお忙しいですね。無理でしょうか?」
純子「それは先生のご判断ですので、お話ししてみます」
丸谷「ひとつよろしくお願いします」
純子「こちらこそ。それではまたお電話差し上げます」
丸谷「はい、お願いします」
純子「ありがとうございました」
茶の間
松岡「毎朝新聞さんらしいですわ」
鈴木「はあ…新聞に連載かあ。よいしょ」
お正月にも来ていた編集の松岡さん。キンタロス。
松岡「先生、また新しいの引き受けはるつもりなんですね…。これ以上きつうなったら、こっちの身がもちませんよ」
純子「あっ、お待たせしております。お茶、お代わりいかがですか?」
鈴木「あっ、もう結構です。はい」
松岡の表情を見て…
純子「すみません」
台所にお茶を運んできた純子。
健次郎「忙しそやね」
純子「あ…。毎朝新聞さんが連載のご依頼に見えたんです」
健次郎「え? できへんでしょ? 忙しいのに」
純子「多分今なら…」
健次郎「そやろね」
純子「うん? お引き受けになると思います」
健次郎「え? まさか。なんぼ何でもそらないわ。(編集者たちに)ご苦労さんです」
会釈する鈴木と松岡。
松岡「そや」
健次郎「え?」
松岡「この際、ついでに診てもらおかな」
健次郎「何?」
松岡「先生、ここ十円ハゲできてるでしょ?」
健次郎「あのね、ついでに診てもらおてな心がけでは病気は治りませんよ。それにこのね、十円ハゲいうのは皮膚科が専門やからね。まあ、僕が言うてあげられるとしたら『原因となっとる心労を取り除きなさい』ということぐらいです。はい」
松岡「はあ、どうも…。心労の原因は重々分かっております」
仕事部屋
原稿を書いていた町子がくしゃみする。
玄関
鈴木「いや~、どうもありがとうございました。次は新明出版さんですね。松岡さん、十円ハゲができたそうですよ」
町子「え?」
鈴木「まだまだやなあ。いや~、僕は以前キムラ先生の担当でハゲが3個と胃潰瘍になりました。ハハハハ! それじゃまた、よろしくお願いします! どうも!」
町子「ありがとうございました」
鈴木「はい!」
町子「はあ~…」
純子「先生、作家って業務上過失傷害で訴えられないんでしょうかね」
町子「月刊誌が2つ、週刊誌が1つ。発売日が同時期ですからね、どうしても締め切り日が重なってしまうんですよね~」
純子「先生」
町子「うん?」
純子「お体、大丈夫ですか~?」
町子「私は元気だ~!」
昼休み・茶の間
健次郎「何やて?」
町子「私、新聞の連載、引き受けました」
健次郎「新聞て毎日出るんやで」
町子「知ってますよ!」
健次郎「いつ休むねんな? というよりいつ書くねん? それ」
町子「皆さんに言うていただいてる時にね、私、頑張らなあかんのんですよ」
純子「先生、本当にお体大丈夫ですか? あの、今ならお断りできますけど…」
健次郎「そうそう。あの…あんたな手は2本あるけど、書く手は1本やで」
町子「それやったら私ね、観音さんにお願いして、あと10本ぐらい増やしてもらいたいね」
ごはんをモリモリ食べる町子。「ねえ、純子さん、松岡君は?」
純子「え?」
町子「松岡君に渡さなあかんでしょ? 私。渡さなあかんでしょ? ねえ」
純子「よろしくお願いします」
町子「はい」
待合室
松岡「うん、おいしい!」
藪下「うん!」
どんぶりでラーメンを食べている。
鯛子「ちょっとヤブちゃん、何してんの?」
藪下「『お昼まだや』て言いはったから」
松岡「つきおうてくれてはるんですわ。藪下さんの分、分けてもろて」
藪下「お昼用に買い置きしてあるんです。あっ、よかったから鯛子さんも」
鯛子「これから毎日お昼それ食べんの?」
藪下「お弁当みたいに面倒やないし、おいしいですよ」
鯛子「はあ…」
即席の袋めんだよねえ?
その日の午後
メモを見ながら歩いてきた男(ジョビジョバのマギーさん)。
応接間
純子「先生とは同人誌時代に?」
二ノ宮「ええ、交流がありまして。あの、先生、お仕事中ですか?」
純子「はい。今、先生は、あの、ご執筆中でございます」
二ノ宮「あ~、そうですか。あの僕の方は時間なんぼでもあるんでここでお待ちしてます。あの、トイレお借りしても…」
純子「はい、どうぞ」
二ノ宮「あっ、すいません」
純子「こちらの奥でございます」
二ノ宮「あっ、そうですか」
純子「はい」首をかしげる。
同じ頃、診察室では…
啓徳と書かれた紙袋から箱を取り出す一真。「これ、気に入るかな?」
健次郎「お~、こらこら、どうもすんませんな」
一真「いやいや…。よいしょ」
健次郎「どないでした?」
一真「え? おもろかったで、香港」
健次郎「へえ~。で、お寺も回ってきはった?」
一真「いくつかな。ほら、いろいろ買うてきたで」
健次郎「あっ、すんませんな」オレンジの風呂敷包みを開ける。「あっ、うわ! 千手観音さんや」
一真「ああ、ああ、それな、あの…」
健次郎「これはええ観音さんやね。値打ちもんやろね、これ」
一真「う~ん。一目見て気に入ったんや」
健次郎「高いの?」
一真「ああ…そら、もう。く、く…口で言えんくらい! へへへへ! お寺で大事に置いとこと思てな。うん」
町子「失礼します。あら、おじゅっさん、お帰りなさい」
一真「はいはい、ただいま。いや、もうね、旅先で水が合わんで下してしもたんや」
町子「え?」
一真「で、薬もらお思て寄ったん」
町子「大丈夫なんですか?」
一真「うん」
町子「うん」
健次郎「何や?」
町子「ちょっと栄養剤もらおうかなと思て」
一真「え~、そりゃ仕事しすぎとちゃうか。たまには旅行にでも行きなはれ」
町子「そうですよね」
一真「うん」
町子「あっ、奥でお茶でもどうぞ」
一真「はい、おおきに」
健次郎「そやな。奥、行こか」
一真「はいはいはい…」
町子「何? これ」
健次郎「あの…これ、ちょっと持ってきてあげて」
町子「いや、これ、ちょっと待って。観音さん?」
健次郎「うん、そうや」
町子「持ってくの? そっちに」
健次郎「ああ」
町子「ちょっと待って。あらまあ、すごいやん。へえ~」持ち上げようとしたときに手前に倒してしまった。「何をすんの、私は。もうそそっかしいねんから。よいしょ」千手観音の手が1本折れてしまった。「えっ!? あら~! こ…困っちゃうね…。え~? 何すんの? ちょっと…」
茶の間
一真「ハハハ! お恥ずかしい。ハハハハハ!」
町子「あの、おじゅっさんすいません。大変申し上げにくいことなんですけれども…」
健次郎「それな、えらい値打ちもんらしいで」
町子「え?」
健次郎「なっ。唐時代のもんとか何とかな」
一真「ああ、へへへへ…」
町子「あ…あの、おじゅっさん、もしよかったら、これちょっと貸しといてもらえませんでしょうか? 今、小説でお寺の場面書いとりまして、あの観音さんも出てくるので参考にさせてもらえたらなと思いまして。いかがなもんでございましょうか?」
健次郎「いやいや、それだから大事なもんや言うてるがな」
一真「いや、そら、お役に立つんやったら、もう仏さんも喜びはる。どうぞどうぞ」
町子「ありがとうございます」
一真「今度の小説、お寺が出てくんの?」
町子「お寺が出てくるんです。きょ、きょ…京都のお寺のミ…ミステリー、ミステリー…。はい」
一真「ミステリー」
町子「ありがとうございました」
一真「へえ~」
仕事部屋
町子「これは…え~、何ともならんの? これ。どうすんのよ? こんなことになってしもてからに…。ちょっ…。誰!?」
二ノ宮「ハハハハハ! どうもどうもどうもどうも!」仕事部屋に入ってくる。
純子「駄目じゃないですか! もう勝手に!」
二ノ宮「あ~、失礼しました。あの、つい…」
純子「いや…先生のお知り合いって聞いたもんですから…」
町子「はあ!?」
二ノ宮「二ノ宮留夫です。以前、『すずかけ』という同人誌の集まりで、あの、先生…。(千手観音が目に入り)うわ~、こらまた随分古いですね!」
町子「これはこれは…これ、このままに置いといてくださいね」
二ノ宮「あのね、僕ね、実家が骨とう屋なんでこんなん詳しいんですよ」
町子「実家、骨とう屋さん?」
二ノ宮「あれ? これ、折れてますね」
町子「いや、折れてんのやなしにこれこれ、は…はめ込み式、はめ込み式、これ。ネジ、ネジ、ネジ」
二ノ宮「あれ? 前に同じの見たな」
町子「同じの見ました?」
二ノ宮「ええ。あれやったら同じのご用意しましょうか? 同業者に聞いたらなんとかなりますけど」
町子「用意てできるんですか?」
純子「先生?」
二ノ宮「ねっ、そうしましょ! 任してください! あの、そのかわりと言ってはあれなんですけども弟子にしてもらえませんやろか?」
町子「は?」
二ノ宮「小説家になりたいんです、僕。そのために会社も辞めました」
町子「あの…二ノ宮さんですか?」
二ノ宮「ええ」
町子「私、弟子とるようなね、そんな大それた作家やないんです」
二ノ宮「いやいや、いやいや、先生はすばらしい小説家です。最近のも読みました。あの『ふんだりけったり』」
町子「『降ったり照ったり』」
二ノ宮「あと『すっとこどっこい』も」
純子「『おっと、どっこい』」
二ノ宮「とにかくお願いします。『あかん』言われても、僕、諦めません。意志が強いのが僕の取り柄なんです。ほな、明日も来ますんでよろしくお願いします。あ~、あの観音さん、必ず探しますんで」
町子「いや、これと同じ…。ちょっ…いや、ちょっと違うねん! ちょっと待って!」
純子「先生! どうして同じものが必要なんですか?」
千手観音に視線を送る町子。
純子「はあ…そうだったんですか」
町子「純子さん。私はバチ当たりますよね?」
純子「う~ん、やっぱり一真さんに正直に、ねっ、お話しなさった方が…」
町子「私も正直に言おうと思たんです。けど、ほれ、何て言うかようあるでしょ。タイミングが悪いとか…。そう…言いそびれてしまいましてね」
純子「ですが、先生…こう、まあ…弁償として同じものをご用意する…?」
町子「私もね、自分の気持ちの表れとして同じものを用意して、あの…ちゃんと一真さんにお返ししようかなて、もう今それしか思えないんですよね」
純子「あっ!」
町子「何か名案浮かびました?」
純子「松岡さんが原稿待ってらっしゃいます」
町子「松…」泣き出す。
夕方
原稿を持って徳永家を出てくる松岡。「よかった…。ほんと、よかった…」原稿に頬ずりして去っていく。
そして、原稿を仕上げたその夜、町子は親友のみすずと久しぶりに会っていました。
たこ芳
みすず「あ~、おいしい」
町子「けど、久しぶりやったね。元気やった? テレビのお仕事は?」
みすず「秋から新しい料理番組入んの。追われてるわ!」
町子「うん。あっ、りんさんこの人ね、テレビのお料理番組の台本書いたり、お料理雑誌の記事を書いたりしてるんです。もう私の古~いお友達」
みすず「『古~い』て、もう古漬けみたいに言いなや」
りん「もみない浅漬けよりず~っとよろしがな。はい。うちのたこです。どうぞ」
みすず「あっ、たこ芳のたこや~」
町子「そのままそれガブ~ッてかぶりついて」
みすず「このままやね?」
町子「うん。そのままガブッて」
みすず「いただきます」
町子「どう?」
みすず「おいしい~!」
町子「ほんま? 私、ここ、大阪で一番やと思うもん」
みすず「うん! それはそうと私の知り合いでね、カモカシリーズ読んで『一度ここの店に来たい』て言うてる人がいてんねん。連れてきてええかな?」
町子「ボーイフレンド?」
みすず「うん。まあ…」
りん、ニコニコ。
みすず「えっ? 仏像の?」
町子「シッ!」
みすず「のりでくっつけへんの?」
町子「接着剤で応急処置はした。あ~、『弟子になりたい』て言うてきた、あのけったいな男、バチ当たったんかな」
みすず「そんな早うバチ当たらへんやろ」
町子「そうかな」
みすず「弟子志願か…。町子も一人前の証拠やね」
町子「ほんでまたマンがええのか悪いのか骨とう屋やて、もう…」←字幕は”マン”だったけど、これは”間”じゃないの!?
みすず「あっ、それやったら私の彼に聞いとくわ。彼の趣味ね、骨とう屋めぐりやねん」
町子「若いのに渋い趣味やないの」
みすず「うん。まあ…」
町子「そう。そしたら実物見せるわ。ねっ。すぐここ来てもろたら? 彼に。ここにここに」
みすず「あ~、そないすぐ来られる人やないから無理」
町子「え? 仕事忙しいの?」
みすず「うん…。まあ、家庭…うん、が…うん」
町子「家庭?」
みすず「うん…」
町子「ひょっとして、みすず、そのお相手…」
みすず「家庭持ち」
町子「はあ…」
突然のみすずの告白でした。
町子「そう…」
ミニ予告
二ノ宮「あのカモシカのおっちゃんからもお口添えお願いします」
あ~、今日一日「カモシカのおっちゃん」で笑ってしまいそう。
「マー姉ちゃん」で、町子も「サザエさん」の新聞連載を持ってたけど、毎日締め切りじゃなくある程度日数をまとめて書いてたんじゃなかったかな~?
マギーさん、たくさんドラマには出てるけど、あんまり関西弁のイメージがなかったからちょっと意外に思ったけど、兵庫出身なのか。