公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
町子(藤山直美)と健次郎(國村隼)と純子(いしだあゆみ)は徳永家に遊びにきた作家の加藤舞子(岡田茉莉子)と編集者のソノ子(もたいまさこ)と松岡(寺杣昌紀)とで、ワイセツ談義で盛り上がる。そんなとき認知症のお年寄り、石川サキ(河東けい)が診察を受けにくる。サキは、今日が正月であることがわからない。しかも、老人ホームに入っていたサキを家族が正月に迎えにくるという。町子は家族に連絡を取ろうとするが…。
お正月2日目。徳永家に遊びに来た女流作家・加藤舞子たちと大いに盛り上がる町子でした。
応接間にお酒を持ってくる純子。
ソノ子「花岡先生」
町子「はい」
ソノ子「私ね、永井荷風の作といわれている『四畳半襖の下張』なんかは性的毒性がない分、ワイセツじゃないと思うんですけど」
町子「そうですよね。毒なんかありませんもんね」
舞子「そもそもワイセツとは何でしょう?」
松岡「あの、先生方、男性のおる前でそんな話…ねえ!」
舞子「何言てんの! 男性の前で何で遠慮せないかんのよ」
健次郎「まあ、あのご婦人方の前ですが、ワイセツというと僕の場合は『忠臣蔵』なんです」
舞子「うん?」
町子「え? 『忠臣蔵』何でワイセツなんですか? ねえ、健次郎さん」
健次郎「いや、まあまあ聞いて…。年末になったら必ずテレビで『忠臣蔵』やりますでしょ。あれを見てるとね、雪の降る日、橋の上で大高源吾と宝井其角(きかく)の会う、あのおなじみのシーンね。それ見てるとね、思い出すのがおやじの歌なんですわ」
舞子「歌?」
純子「お父様の?」
健次郎「うん。♪『大高源吾は橋の上 わたしゃ お前の腹の上 ドンドン』」
松岡の笑い声。にらみつける舞子。
歌舞伎の演目にも両国橋で大高源吾と宝井其角が出会うシーンがあるのね。
健次郎「すると母親が怒るんですわ。『お父さん、やめなさい!』て」
純子「そりゃそうですよねえ!」
健次郎「ところがね、僕にしてみたら、その母親が遮ることの方がワイセツやったんですよ。そやから人間ちゅうのは、こう自然でありのままやったらワイセツなんてものはないんですよ」
舞子「大体、その『ワイセツ』っていう言葉作ったこと自体がワイセツやわね」
健次郎「そのとおりですよ!」
松岡「気、合うてますね」
町子「神辺さん、どないですか?」
ソノ子「うん? 新婚旅行ってワイセツ」
純子「えっ? そうですか?」
ソノ子「ほら、新婚旅行客の多い宮崎の海岸なんかでね、カップルでいるんだけど日本人ってはしゃぐでもなく、ただ歩いたりしているだけでしょ」
松岡「ただ歩いてるんやったらええやないですか」
ソノ子「(松岡を指さして)抑えてるから…」
舞子がその指を下ろす。
ソノ子「余計おかしいの」
町子「あ~、なるほど…」
ソノ子「そういうのがもう海岸いっぱいで、すごい海岸いっぱいのワイセツ感なの」
一同の笑い声
町子「すごい、それ!」
子供たち「ただいま~!」
ソノ子「すいません。すいません」
町子「え~、では、あの大人の楽園は終了です」
ソノ子「すいません…」酔っ払って机に突っ伏す。
経緯が分かりやすく、面白かった。後に裁判になった時に、証人として作家たちが名を連ねる中、吉行淳之介の名前もあった。
程なく喜八郎とイシも帰宅し、更にご近所の人々もやって来て宴会は更ににぎやかになりました。
応接間は開け放たれ、茶の間に近所の面々もそろう。
町子「あっ、あの、うち、お世話になっております、お寺さんの一真さんです。あっ、近所の映画館の…」
廊下
健次郎「玄関とこ? 医院の?」
イシ、うなずく。
徳永醫院のドアを開けようとする音。
健次郎「誰や?」
無言なので、健次郎がドアを開ける。
サキ「先生」
健次郎「石川さん、どないしたん?」
サキ「薬もらう日でっさかいな」待合室に入ってくる。
健次郎「うん? 薬やったら年末に渡したがな。やすらぎ園の林さんと昨日来た時に『正月休みの分やで』て」
サキ「今日は血圧も測る日やよって」
イシ「石川さん、まだ、今日はね、お正月休みですからね」
サキ「あ~、さぶかった~! 看護婦さん、ご不浄、貸しとくんなはれ」
診察室
血圧を測ってもらっているサキ。
健次郎「うん、ええよ。石川さん、お正月は息子さんが迎えに来て家に帰る言うてなかったか?」
サキ「息子?」
健次郎「うん」
サキ「あっ、息子はあんた、名古屋ですがな。1日の朝に来て、迎えに来てくれまんねん」
健次郎「う~ん、いや、そやからな…」
サキ「先生はどないしはんの? お正月」
イシ「(小声で)健次郎、ちょっと」
健次郎「あっ、ちょっと待っといて」
受付
イシ「やすらぎ園、電話、誰も出はれへんわ」
健次郎「あっ、あの、園長さんな、お正月はいつも家に帰られへん入園者の人を自分の別荘連れてってるはずや」
イシ「場所、聞いてへんの?」
健次郎「ああ…」
待合室
編み物をしているサキ。
健次郎のもとに町子も来た。「お母さんに聞きましたけど、息子さんとこも誰も出はらへんねんて」
健次郎「あ~、困ったなあ。どないなっとんのやろか」
町子「老人ホームの方も連絡つかへんのでしょ?」
健次郎「うん…」
町子「けど『迎えに行く』言うて来えへんのやったら、ひどい話やね。お正月にお母さん一人ほったらかしにしとくやなんて!」
健次郎「いや、そら、何か事情があんのやろ…。それよりあんた向こう戻っとき。あんまりお客さんほったらかしにしといたらあかん」
しかし、夕方になってもどこにも連絡はつかないままでした。
受付
受話器を持っていたイシが電話を切る。
茶の間
一真「あ~、健さん、遅いなあ! 服部のじいさん、だいぶ具合悪いのかな」
応接間
舞子「池内さん、遅いわね…。私、顔見るまで帰らへんからね」
ソノ子「ほんとに来るの?」
松岡「うん…『夜までには』て言うてらっしゃいました」
舞子「ほんまは、はなから来る気なかったんちゃうの? お正月早々、若うもない小うるさい女たちの顔、見とうないて」
松岡「いえいえ、そんな…」
町子「どうぞ。あ~…」
待合室
サキ「そうそう、先生」
健次郎「何?」
サキ「再婚しなはったんやな」
健次郎「うん」
サキ「どない? 今度の奥さん。何やえらい有名な人やて?」
健次郎「よう覚えてくれててんな。うん。楽しいやってるよ」
サキ「え~! エヘヘ!」
町子「サキさん」
サキ「え?」
町子「おなかすきはったでしょ。お口に合うかどうか分かりませんけど」
サキ「いや~! まあ! ハハハハ…!」
健次郎「(小声で)覚えてることもあるんや」
サキ「は~、まあまあまあ! 数の子なんてお正月にしかお目にかかれへんのに! うん!」
仕事部屋
電話をかけている町子「おかしいなあ。何で出はれへんのやろ…」
健次郎「あんたな、あの、お客さんとこいててあげて。向こうは僕とおふくろいてるから」
町子「息子さんに追い出されはったんかな?」
健次郎「さあ、それはなあ…」
町子「あんな年取って、独りぼっちでかわいそうに、もう…」
健次郎「今な、おふくろ相手にず~っとその息子さんの自慢話してはるわ。大阪、離れとないんやて。息子さんが名古屋に転勤の時に『一緒に』て言われたんやけど、19で隣の町から嫁いできて、ご主人とこの商店街で散髪屋開いて大阪しか知らん。どこにも行きとないて…。はあ…。死ぬ時はご主人が亡くなったこの大阪でと決めてますて…」
町子「ねえ、健次郎さん」
健次郎「うん?」
町子「せめてこっち連れてきてあげよう」
健次郎「それ言うたんや。ほなな『もうすぐ息子が迎えに来るからここ動かれへん!』言うて、あそこ動けへんねん」
町子「そう…」ため息をつくが何かを思いついたように立ち上がる。
待合室
みんな集まって談笑している。サキも楽しそう。
健次郎「なにもみんな連れてこんでも…」
町子「そうかて…」
町子「(待合室の椅子に座っていた舞子に)すみません。こんなとこに引っ越しさせてしもて…」
舞子「ううん」
健次郎「あの…ほんまにすいません。せっかくの正月に」
舞子「お医者さんの待合室で宴会できるやなんて人生、そう何べんもできることやないからね。あ~、さすが花岡さんとこ、お正月からいろいろ起きるわ。お正月に年老いた母親を一人にするなんて許されへんわ!」
一真「さあさあ、飲も飲も飲も!」
仕事部屋
受話器を持っている町子、そばにいる純子。
町子「あ~、もしもし? 石川さんですか? あ~、石川さん? うん。あのね、ちょっと! あんた、何考えてんの!? お母さん独りぼっちにしてかわいそうに…。どういうつもりなんですか!? ねえ、何考えてんのて…。『あんた、誰?』て私があんたに何でそんなこと言われなあかんのんよ! お母さんのこと考えてんの? かわいそうにお正月から独りぼっちで…」
茶の間
健次郎「息子さんと連絡取れたんやて?」
町子「うん…」
純子「どこにいたんですか? お母さん、ほったらかしにして!」
町子「違う、違う。ほったらかしやなかったんよ。1日の午後からね、みんなで有馬温泉行ったんやけども旅館から1人だけ急にいなくなりましたって」
純子「え?」
町子「警察にも連絡して、一生懸命捜して…。ひょっとして名古屋のうちに帰ったんかなて息子さん考えはって…」
純子「じゃあ、老人ホームにはちゃんと迎えに行って温泉に連れていったんですか」
健次郎「ほったらかしにしとったわけやなかったんや」
町子「『すぐ迎えに行きます』て。『無事でよかった、よかった、よかった』て、息子さん電話口で泣いてるんやもん…。どうしよう、健次郎さん、私、また早とちりしてしもた。『何考えてるんですか!? 親ほったらかしにして! どないいうことですか!? どないするんですか!?』て。どうしよう、健次郎さん…」
健次郎「またやってしもた?」
町子「うん…」
♪「始めのためしとて」
待合室から歌声が聞こえてきた。
待合室
♪「終りなき世のめでたさを」
俊平「はい、どうした!」
♪「松竹立てて門ごとに」
「はいはい!」←一真の声に聞こえた。
♪「祝う今日こそたのしけれ」
「はい、もう一回、もう一回、もう一回!」
♪「年の始めの」
町子たちも加わり手拍子を送る。
それから間もなく、サキは家族に迎えられて帰っていきました。
夜、台所
町子「はい、これで最後です。矢木沢さん」
純子「はい」
町子「ほんとに今日はありがとうございました。あとは私たちで…」
純子「それじゃ、私はこれで失礼いたします」
町子「遅くまですいませんでした。ありがとうございました」
純子「それでは」
イシ「ありがとう」
町子「そしたらお母さん、これ、お願いします」
イシ「はい」
茶の間に入ってきた純子。「あの、大先生…」
健次郎「はい」
純子「ちょっとだけ、お電話をお借りしてもよろしいでしょうか?」
健次郎「あ~、どうぞどうぞ」
純子「あ…申し訳ございません」
ダイヤルを回す純子。「あっ、もしもし? お父さん? 私。純子。そっちはどげんね? 寒かと? 風邪ひかんごつせんといかんよ。うん。そいでねえ…」
健次郎や台所にいた町子、イシも微笑ましく見ている。
純子「やっぱり来週そっちに行くけん。うん。日帰りになるかもしれん。うん? ほんとねえ!」
純子の父は福岡で一人暮らし(母、兄は亡くなっている)。
仕事部屋
町子「あっ、もしもし、お母ちゃん? もう寝てた? ああ…。ねえ、旅館のお料理どう? おいしかった? うん。あ~、それはよかった。で、お湯は? え? 信夫、湯あたりしたて? 何をしてんの? あの子…。いやいや、違うの。うん。近々でええねんけど、一緒にミナミでごはんでも食べへんかなと思って。うん。ああ」
ミニ予告
昭一「シュッシュッシュッシュッ!」
初登場がここだっけ?
いい話だった。石川サキ役の河東けいさんは「純ちゃんの応援歌」では、もものおばさんで田丸のお母さん。ももが大阪に来てから、ぱったりと牛山家の女性陣が出てこなくなってちょっと寂しかったなあ、そういえば。