公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
町子(藤山直美)が預かっていた孝子(メイサツキ)の子、良美(山崎奈々)が行方不明になる。予定していたピアノ教室のレッスンに来ていないという。そんなとき登(神保守)ら健次郎(國村隼)の子どもたちと一緒に良美が帰ってくる。登の野球の試合を一緒に見ていたという。ピアノのレッスンをさぼった良美をしかる孝子だが、町子は無理やりピアノを習わせている孝子を責める。そして良美は本当の気持を孝子に話すのだが…。
たこ芳
健次郎「同窓会?」
一真「30年ぶりに中学の同窓会があんねんけどな…そこで、その…かなんなあ、恥ずかしな!」
町子「えっ、何?」
純子「あの、言ってもいいですか?」
一真「ええ…」
純子「あの、少年時代の初恋の女性がいらっしゃるんですって!」
一同「え~っ!?」
一真「そないにびっくりせんでもええやろ! 生まれた時から52歳やないわい!」
一同の笑い声
一真「坊主かて少年時代も初恋もあったんや。そういう人に会うのに、ワシ、よそ行きいうたら衣しかあれへんのや。考えたらな、嫁はん死んでから10年、カッターシャツ1枚しか買うたことあれへんしな。いや、そやから誰かに相談せんことには…。ねえ」
笑ってうなずく純子。
健次郎「なるほど。それで身近な女性や」
りん「私らを差し置いて。なあ」
町子「ねえ!」
一真「口の堅い人やないとあかんやろ」
りん「また失礼な!」
町子「それ、どういうことですか!?」
貞男「何や、そういうことやったんかいな」
健次郎「誰や? 『おじゅっさんと矢木沢さんのロマンスや』て」
貞男「よろしいやんか、もう!」
一真「とんでもないご迷惑をおかけするとこ…でしたわ」
純子「いえ、楽しかったです。男性のお洋服、見立てるなんて。まっ、私のセンスで役に立つかはともかくです」
一真「いやいや、いやいや…もうこれで完璧ですわ、完璧!」
りん「男前、上がりまっせ!」
茶の間に入ってきた町子。孝子も続く。
孝子「いっつもあんなふうにしてしゃべってんの?」
町子「うん。大概はね、ここでしゃべってる。子供たちが寝てから2人の楽しい時間やから」
孝子「ふ~ん…」
町子「あ、そや、正彦さん、退屈してはるでしょ。本、持ってったげて。貸してあげるから」
孝子「ううん。あの人、本、読めへんし」
町子「ほな、『楽天乙女』は?」
孝子「ああ、一応、見せたけど…」
町子「あ、そうか。あんたの子供ん時の話なんか聞き飽きてはるよね」
孝子「え? 子供ん時の話なんてせえへんよ」
町子「ほな、正彦さんの子供ん時の話は?」
孝子「あ~、聞いたことあれへんねえ…。帰ってくんの遅いし…子供らのことも相談せなあかんやろ。そろそろ良美を塾に入れなあかんからどこにするかとか、家買お思てるから頭金ためんのに家計の何を削るかとか、話、せなあかんこといっぱいあるから」
町子「そんな話ばっかりしてんの?」
そして、翌日の夕方でした。
茶の間
町子「もしもし、孝子? うん。あんた、何、言うてんの? ちょっと落ち着きなさいて! うん。行ってないてピアノ教室に良美が? ううん。こっちには帰ってきてないよ。うん。いや、ちょっと落ち着きなさいて! 分かったから。ちょっとこの辺り見てくるから。落ち着きや。ねっ」電話を切る。
健次郎「どないしたんや?」
町子「孝子がね、ピアノ教室連絡したら『今日、良美ちゃん来てません』て言われたんやて」
健次郎「え? かばん持って出ていったで」
町子「バスには乗せたて言うてんねんけれども。私、ちょっとこの辺り見てきますわ」
健次郎「僕も行くわ」
由利子「私も」
玄関
登「ただいま!」
町子「お帰りなさい」
登「勝ったで~!」
町子「そら、よかったねえ!」
健次郎「よかったな!」
町子「ねえ、良美、この辺りで見えへんかった?」
登「えっ? 良美ちゃんやったら…」
隆や清志と一緒に良美も元気に「ただいま!」と帰ってきた。
町子「良美! あんた、どこ行ってたんよ!?」
清志「登の練習試合、一緒に見ててん。『ピアノは休むて連絡した』言うから」←字幕は「言うから」だけど、「言うて」に聞こえる。
夕方、茶の間
町子「バスには乗ったけど、途中で降りて引き返してきたの? お稽古が嫌やったの? 良美…」
孝子「良美! ちょっとあんた、何してんのよ!? もう! ちょっとこっち向きなさい! 何でお稽古サボったの!? 理由言いなさい!」
良美「野球、見たかってん…。みんなと一緒に見に行きたかってん…」
孝子「あんた、黙ってそんなことしてええと思たの!? パパが病気の時にこんなえらいことして! 何かあったらママ、パパにどう言うたらええのよ!?」
町子「やめなさい、孝子」
孝子「お姉ちゃん、黙っててよ!」
町子「ちょっとこっち来なさい。こっち来なさいて言うてんのに!」
孝子「何よ!?」
茶の間から隣の応接間へ
町子「あんた、ものの考え方おかしいやないの! そら、お稽古サボった良美は悪いよ。けど、このことってね、誰がどう言ったこう言ったって問題と違うでしょ。大体あんたがやね、やりたないピアノ無理やり習わせてるのが問題…」
孝子「『無理やり』なんて言わんといてよ! 子供に特技持たせようとしてどこが悪いの? 必要な情操教育やないの。今は多少つろうても後で絶対感謝するようになんねんて! 子供が小さいうちは親ができるかぎりの機会を与えてあげなあかんの! 私、何か間違うてる!?」
町子、茶の間の良美のところへ
町子「良美。あんた、ほんまにピアノ好きなの? ねえ? これからもお稽古したいなて本当にあんた思てるの? ねえ?」
良美「初めは好きやった…。面白かった…」
孝子「ほら!」
良美「難しいこと練習して弾けたらママに褒められてうれしかってん。そやけどな、私、パパとキャッチボールでボールうまいこと捕れた時の方がもっとうれしかってん。友達としてて遠いとこまで投げられた時、もっとうれしかってん。うれしかったから走って帰って、ママに言うたら、ママ『したらあかん』て言うたけど…けど、野球してる時の方が面白いねん!」
孝子「良美…」
良美「パパにそない言うたら、またキャッチボールしてくれた」
孝子「えっ!?」
良美「『ママにはないしょやで』て言うてしてくれた。うれしかった…。パパ、野球選手になりたかったんやて」
孝子「ないしょで…」
町子「孝子…」
これまでじーっと黙って聞いていた健次郎が口を開く。「あのな…良美ちゃんの気持ちは、よう分かった。けどな、あんたが今日してしもうたことはええことやとは言われへんな。『ピアノの稽古行く』言うて違うとこ行ってたら、あかんな。ピアノに行きたないねやったら、はっきりとそう言わな」
良美「『あかん』て言われるもん…」
健次郎「『あかん』て言われてもどうしても嫌なんやったら、お父ちゃんお母ちゃんとちゃんと話、するんや。とことん話、して、それでも『あかん』て言われたら、その時は我慢せなあかん。あんたは2人の子供なんやから」
夜、茶の間
町子「やっと寝たわ」
孝子「ショックやわ~。キャッチボールしてたことないしょにしてたやなんて…。あの人がそんなこと…」
町子「それはあんたへの気遣いやで」
町子の顔を見つめる孝子。
町子「先にあんたらや」
孝子「え?」
町子「しゃべってしゃべって、とことんしゃべって…しゃべってしゃべってしゃべらなあかんのは、あんたら夫婦なんやて。夫婦の会話というのはね、業務連絡や子供の個人面談と違うねん。『何が好きで何に興味があって今、どう思てるの? あなたのことどう思てるの? 私のことどう思てるの?』って、これお互い分かり合わなあかんのんよ。そして楽しまないかんの。あんたら夫婦がね、ピアノが好きでクラシックが大好きでそれで楽しんでたら、良美、何にも言わんでも『パパ、ママ、ピアノ習わせてください』て必ず言うはずなんやから」
健次郎「あ~、さっぱりした!」風呂あがり、茶の間から台所へ。
町子「孝子。ねえ、お風呂入っといでえな。なっ」
孝子「お姉ちゃん、先入って」
町子「ええの?」
孝子「うん…。うん」
町子「はい。健次郎さん」
健次郎「うん?」
町子「お風呂入ってくる」
健次郎「おう」
健次郎、ビール瓶とコップを持って茶の間へ。孝子の前にコップを置く。「よいしょ。はい」
孝子「あ…いいです」
健次郎「あ、そう」
孝子「はあ…。何かもう…よう分からへんようなってしもて…」
健次郎は「楽天乙女」を孝子の前に差し出した。「まだ、読んでへんかったんやて?」
孝子「ええ…」
健次郎「ええご両親や。ほんま、ええ家族や。あ~」
早朝
徳永家に牛乳屋さんが牛乳を運んできた。2階から降りてきた町子は仕事部屋から物音がするのに気付いて、そっと仕事部屋を覗く。町子は綿入れ半纏姿で髪にはカーラーを巻いている。「ちょっと…。びっくりさせんといてよ、あんた。泥棒かと思たやないの」
机に突っ伏していた孝子。「おはよう」
町子「ず~っとここにいてたん?」
孝子「読んでてん…。ああ…。お姉ちゃんは、ちいちゃい時からずっと『小説家になりたい』言うて、今、ちゃんとなってる…。面白いことあったら『なあなあ聞いて』て…今でも家族中でしゃべってるわ。良美は私にもう何も言うてくれへんかも分からへんな…」
町子「アホなこと言いなさんな。そんなことあらへんて」
孝子「そやろか?」
町子「あんたの子やないの」
孝子「フフッ…。今日からでも、あの人としゃべるわ! もっといろんなこと話、する」
孝子を抱き寄せる町子。ここが昨日のミニ予告。
そして、孝子と良美は自分たちの家に帰っていきました。
たこ芳
健次郎「あ…お待たせ、お待たせ!」
町子「あら!」
一真「よう!」
町子「ねえねえ、同窓会どうでした?」
一真「もう矢木沢さんのおかげや! さあどうぞ、どうぞ、どうぞ…! 今日はね、もう、お礼ですわ。さあ、もう好きなもん、どんどん、どんどん食べとくんなはれ!」
純子「そんな大げさな…」
一真「いやいや、いやいやいや!」
りん「えらいモテモテやったらしいよ」
健次郎・町子「え~っ!?」
健次郎「それでその憧れの人も来はったん?」
一真「来てた、来てた! 2次会のな、スナックまで一緒に行ったんよ!」
純子「え~」
貞男「おっ、来てる来てる!」
俊平「おう! どやったん? 首尾は」
町子「顔見たら分かるでしょ。目尻下がりっぱなしや!」
貞男「ほんまや、また、たこになっとるわ!」
純子「で、そのお相手の方は覚えてらっしゃいました?」
一真「もちろん!」
純子「あら!」
町子「まあ、菩薩の君かあ!」
一真「写真見るか?」
町子「見せて! 見せて、見せて!」
貞男「何?」
一真「うん。ハハハハ!」
貞男「何やねん!」
健次郎「どの人、どの人、どの人?」
一真「真ん中のワシの隣」
一真の隣に並ぶのはパーマきつめの真っ赤なスーツのおばちゃん。無言で顔を見合わせる町子と健次郎。
俊平「ちょちょちょ…」
貞男「どれどれどれどれどれ…? どれ?」
貞男・俊平「菩薩さん…」
町子「と言うよりは大仏さん…」
思わずツッコむ健次郎さん。
純子「優しそうな方ですね」
一真「そやろ? そやろ? 全然変わってへんのや! 乙女のまんまや!」
りん「初恋やなあ…」
一真と純子とりんはニコニコだけど、ほかは無言。
ミニ予告
「お元気でしょうか?」
町子「元気です」
「お元気でしょうか?」と言ってるのは新八先生でおなじみ岸田敏志さん。いや、まあ、新八先生は見たことないけど、金八先生の第1シリーズの最終回に出てきたりするからちょっとだけ分かる。モーニングの人ね。
孝子だけが悪いとは思わないし、これでいい方向に進めるのではないかと思う。しかし、あの時代なら野球の好きな女の子は、出来る場所がなくて苦労しそうな感じはするけど。
それと、ラストの一真さんの初恋相手がお世辞にも美人と言えるタイプじゃなくて、無言になる展開は、もう今はやらないだろうなと思った。基本的に古さは感じないドラマだけどね。
純子さんの「優しそうな方ですね」をみんなで言い合う感じになるとか? それを昔はよかった、せっかくの面白ポイントが一つ消えたとも思わない。当時見てたわけじゃないけど、当時なら普通に笑って見てたことが今見るとちょっと変わってきたのかな。それでいいと思う。