公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
女学生の町子(尾高杏奈)は竹山牧師(金替康博)に梅原(黒田純子)が大阪を離れることになったと告げる。梅原の父親が奉安殿の焼失の責任をとって自殺したことを潔い立派な生き方だと思う町子に対し、竹山は町子の考えをいさめる。町子は竹山に反発し、その日から竹山の幼稚園に行くことはなかった。一方、徳一(城島茂)から写真を教わっているカンジ(森田直幸)が、戦争で処分される前の動物園の動物の写真を撮ってくる。
キク、町子、梅原が並んで座っている川の土手。
大人町子「梅原さんのお父さんが亡くなり、梅原さんは大阪を離れることになりました」
キク、町子がそのまま並んで座り、梅原が消える。
キク「何でやろ? 神さん、何で死なしはったんやろ? 梅原さんのお父さんのこと…。あんなにいつも立派に学校のお仕事してはったのに…。私がお母ちゃんの病気のこと、お祈りしてんの、ちゃんと聞いてくれてはんねやろか?」
町子は立ち上がり、走る。
神のこひつじ幼稚園
町子は集会所の壁に貼ってある子羊を抱いたキリストの絵を見ていた。
竹山「こんにちは。今日はお一人ですか?」
町子「はい」
椅子を持ってきた竹山。「また壊れてしまって。ほかのお二人は? お休みですか?」
町子「梅原さんはもう来ません」
竹山「えっ…?」
町子「お父さんが亡くなりはったんです。学校の奉安殿の火事があって…」
竹山「もしかして、あの新聞記事の校長先生というのは…」
黙ってうなずく町子。
竹山「そうですか。あの方が梅原さんの…。そうですか…。梅原さん、お気の毒に…。奉安殿が焼けたのは、お父さんのせいではありませんのに…。どうしてそんなことをなさったのか…。信じられない」
町子「けど、新聞には『見事な最期』と褒めてありました」
竹山「いけません、そんな言葉で! あ…よくない…。よくないです…。そんなふうに褒めるのはよくないことです。褒めるのもいけないし、けなすのもよくない…」
町子「何で?」
竹山「えっ?」
町子「何で褒めてはいけないんですか?」
竹山「時節が悪いです…。悪い時代です」
町子「潔い立派な生き方やと思います。そやのに何で!? 先生には…竹山先生には分かれへんのです! 梅原さんのお父さんのお気持ちが…。梅原さんの気持ちも梅原さんのお母さんの気持ちも、先生には分からへん!」集会所を飛び出す。
竹山「花岡さん!」
竹山はひざまずき手を組む。ほめるのもよくないし、けなすのもよくないという言葉がずしんと来ました。
大人町子「その日から二度と私は神のこひつじ幼稚園に行くことはありませんでした」
花岡家茶の間
ハガキをじっと見ている和代。
徳一「何、見てるんや?」
和代「信次からのハガキです。ふたつき前にこれ来てから何も言うてけえへん」
徳一「『便りがないのは達者な証拠』やで。なっ。心配しすぎると体、障るで。うん?」
和代「そうですね…。ああ…教室は?」
徳一「うん? う~ん、まあ…」
イト「見なはれ! 私が言うたとおりやろ。ホットケーキやめたらパタッと来んようになりましたがな」
徳一「そんなことあらへんで…。来てる子は来てる」部屋を出ていく。
イト「男の子やろか。顔がきつうないさかい女の子やろかな。あの子がおなかにいた時は、そらもうおとなしかったさかい、てっきり女の子やと思てた。フフッ…。生まれてからもあのとおり、いつまでたってもおとなしい気の優しい子ですけどなあ」
イトがいなくなった後、おなかをなでる和代。「あんた、男の子なんか? 女の子やないんか?」
大人町子「そして、私はといえば…」
町子たちの部屋
本を読んでいる町子。物差しを持って立ち上がり、物差しを刀に見たてて斬る。「小次郎、敗れたり!」
覗いて見ていた孝子と目が合う。
町子「あんた、それ私のワンピースでしょ!」
孝子「ええやんか! 貸してえな!」
町子「あかん! 脱ぎ!」
孝子「あっ、佐々木小次郎!」
この辺が昨日のミニ予告。
町子「え? 孝子~!」
階段を下りる孝子。「ええやん、別に減るもんやなし!」
追いかける町子。「お母ちゃんに買うてもろてからいっぺんしか着てへんねんで!」
孝子「貸してえな! ケチ!」
茶の間に移動。
町子「あかん! そんな派手な格好して外、出られへん! 非国民や!」
孝子「家の中やったらええやんか!」
町子「あかん! 脱ぎなさい!」
孝子「嫌や! 離して! あっ!」
町子「同じ手には乗らへん!」
孝子「違うて! ほら!」
町子「あ~!」
カンジ「よう! 写真教室来たんやけど」
孝子「こんにちは! フフフ…」
写場
徳一「そしたらいくで。はい、1、2、3」
カンジ「あれ?」
徳一「なっ、鏡と同じことでそっからのぞくと右左が逆さまになる。それに慣れなあかんのや」
カンジ「なるほど!」
「ごめんください」
徳一「あ…いらっしゃいませ」
兵士と母が頭を下げる。
徳一「お待ちしてました。そちらにお掛けになって…。ちょっとごめん、休憩な」
カンジ「はい」
カンジが手にしているカメラを見た徳一。「ああ、それな、この間、出張行った時のフィルムが2~3枚残ってるから好きなもん撮ってみい」
カンジ「えっ…ええんですか?」
徳一「うん。お待たせしました」
空き地
町子「教室、1人だけになってしもたね」
カンジ「そやなあ。写真教室どころやないもんな。さっきの人も入隊やな…。もうすぐ17歳以上の男の人は兵役につくて決まるんやて」
町子「え…」ポパイが後ろ向いちゃった。
カンジ「知ってるか? 動物園で動物いっぱい処分されてんねんで。空襲で檻壊れて逃げ出して人、噛むからて」
町子「新聞で見た」
カンジ「お前はライオンに生まれんでよかったなあ。ライオンは自分がライオンに生まれたこと後悔してんねやろな」
町子「してんのん?」
カンジ「え?」
町子「男に生まれて後悔してる?」
カンジ「いや、それはない。ただ時代が選べたらよかったなあ…。ほんまのとこ」
町子「時代?」
カンジ「好きなワンピース着て、外歩ける時代や」
町子「そんなもん選ばれへんねから…。選ばれへんねから…。ほら、ポパイ…よしよし…」
写場
徳一「あさって戦地に行かれるんですか。そらまた慌ただしいですな。そしたら撮らしていただきます。ええお顔です」
シャッター音
ダイニング
町子「ほんま?」
徳一「ああ。写真の仕事に興味あるて」
イト「あの子がかいな? へえ~」
徳一「そや、もうちょっとしたら見習いで仕事に連れていったってもええなあ」
イト「熱心なこっちゃ…。孝子、おしょうゆ取ってちょうだい」
ムスッとした孝子。
イト「どないしましたんや?」
和代「町子とけんかしまして」
徳一「そうなんか?」
孝子「お姉ちゃんがイケズするからや!」
町子「人の洋服着たがるからやろ! 自分のん持ってるやんか!」
孝子「あれが着たかってんもん! あれ、お姉ちゃんより私の方が似合うもん!」
町子「そんなことあれへん!」
和代「やめなさい、2人とも!」
孝子「お姉ちゃんより私の方がかわいらしいもん!」
和代「これ! 同じような顔して何、言うてますの!」
和代たちの部屋
和代「最近やたら着るもんやらお化粧やらに興味持つようになって…。うん。こないだなんか文代ちゃんの置いていったマニキュア、ごそっと塗ってたから怒ったりましてん。『そんなん誰かに見られたらどないすんのん?』て」
徳一「うん」
和代「そしたら『いっぺんも爪塗らんうちに死にたない』て。もうやたら最近、反抗的で…。ちょっと…」
徳一「うん」
和代「聞いてはりますのん?」
徳一「うん」
和代「ちゃんと聞いてはりますのん!?」
徳一「え? 聞いてる…。聞いてます」
和代「ほな、私、今、何言いました?」
徳一「『ちゃんと聞いてはりますのん』て。フフッ」
写場
写真を見ている徳一。
大人町子「その数日後のことでした」
徳一「ええ写真やな」カンジに語りかける。
写場に麦茶を持ってきた町子。
徳一「町子、来てみ」
町子「何?」
徳一「これ、見てみ」
町子「あ…」
ゾウ、メスライオンの写真。
町子「これ…」
徳一「カンジ君が撮った」
カンジ「もうすぐおらんようになるみたいやから…」
徳一「かわいそうにな…」
空き地
カンジ「カメラのぞいてたら時間忘れてしまうんや」
町子「そんな面白いの? 小説より面白いの?」
カンジ「どっちも面白い。けど小説で身、立てんのはな、ちょっとやそっとではなあ…。ほんまのとこ。何や? あんた小説家になろうやなんて大それたこと考えてんのか?」
町子「いや…まあ…。おかしかったら我慢せんと笑て」
カンジ「笑わへん…。その時点で僕の負けや」
町子「え?」
カンジ「本気で思われへんもんは負けや。いや、そやから言うて写真家は簡単になれるて思てるわけやないで」
町子「ほんまのとこ?」
カンジ「ハハッ。そう。ほんまのとこ」
昭和20年
大人町子「そして昭和19年の夏が終わり、昭和20年の正月が明けると私たちの学校の生徒は勤労動員で働くことになりました。鉄製品の供出など家の中には戦争の影が重くのしかかってきました」
町子「お母ちゃん、お母ちゃん!」
和代「あ~、何?」
町子「お母ちゃん! これ、恥ずかしいわ! 毛糸のパンツなんかはいてる人、寮でほかにいてへん!」
和代「あったかい格好しとかな。工場は冷えますやろ!」
町子「そやけど…」
和代「見場は悪うても、その方が体によろし。四六時中、見せて歩くわけやなし。かわいらしいやん」立ち上がるとおなかがかなり大きくなっているのが分かる。
町子「え~っ!?」
和代「持ってきなさい」
町子「はい…」
和代「はあ…。旋盤触らすために上の学校行かしたんやあれへんのに。ほんまに…」
町子の部屋
荷造りしている町子。
大人町子「工場の寮に寝泊まりし、週に1度、自宅に戻る生活。戦況は厳しさを増す一方でした」
町子「やっぱり置いとこ」
ピンクの毛糸のパンツが床に置いてある。
ミニ予告
何かを見つめる町子が振り向く。
小学1年生の時に教室にあった「かわいそうなぞう」をふと手に取って涙目になったあの日…こういう話、本当に嫌。でも朝ドラで取り上げられるのは珍しい気がする。