公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
清志(小椋悠聖)が両手の指の付け根にばんそうこうをしている。不審に思う町子(藤山直美)だが、清志は「こけてすりむいた」と答えるだけ。数日後、町子は昭一(火野正平)が、庭の物干しざおのそばで清志といっしょにいるのを見かける。昭一が清志にさかあがりを教えようとしていたのだ。懸命に練習するが、なかなかできない清志。見入っていた町子はお手本を見せようと、自らさおを握り地面をけるのだが…。
朝、徳永家茶の間
町子「はい」
健次郎「ありがとう」
茶の間に入ってくる昭一、登、隆。
昭一「それでな、おっちゃんのこと食おうとしたワニが口、バ~ッと開けたところへくいをパッと差し込んだら、ワニが口、閉じられへんとハンガッハンガッハンガッてなりよったんや」
登「ヒェ~ッ!」
隆「ほんで、ほんで?」
昭一「ワニ、顎、外れたね」
登「すごい!」
昭一「そやろ?」
隆「それからそれから?」
昭一「それからはもう学校帰ってからの続きにしよう。おなかすいた。飯食おう、飯食おう」
席につこうとする昭一。
由利子「あ、そこ、清志の席」
昭一「あ、そう…」
町子「お兄さん、こちらへどうぞ」
昭一「はい」
町子「ねえ、清志君は?」
登「お兄ちゃん、朝早うに出ていった」
健次郎「出ていった?」
昭一「新聞配達でもしてんの?」
町子「あら、帰ってきた。おはようさん」
健次郎「どこ行っとった? こんな朝から」
昭一「あ、すまんすまん。席、こっちや」清志の手を取る。
清志「痛っ!」
昭一「あれ? けがでもしたん?」
清志「何でもあれへん」
町子「清志君、お茶わん貸してちょうだい。はい。ちょっと待った。あんた、両手けがしてるやないの」
清志「コケて擦りむいた」
町子「お薬、塗っときましょか」
昭一「ああ、そらええわ。売るほどあるもんな」
健次郎「そんなもん、唾つけといたら治る。ごちそうさん」席を立つ。
町子「医者の言うことやろかねえ」
昭一「俺らのちっちゃい頃は虫に刺されても蛇に噛まれても薬草塗って治しとったなあ」
町子「薬草?」
昭一「うん。熱出たらヤギ汁。で、貧血にはハブのかば焼き」
町子「ハブ!?」
昭一「ハブ。このハブをちっちゃい頃から、ず~っと食べてると10歳ぐらいで見事に脱皮するね」
町子「え~っ!」
昭一「すいません。うそついてました」
子供たちの笑い声
町子「さっさと食べなさい」
よく見たら、お代わり待ちの昭一を無視してるのね。面白い。
仕事部屋
雨戸をあける町子。「はあ~」
昨日の清志の泣き顔が思い浮かぶ。
清志の様子がおかしいのが気にかかる町子でしたが…
町子、ため息。
この日は週刊誌の「作家の書斎拝見」の取材が来る日でした。
町子「言うても女流作家の書斎っていうやつやから、これ全部片づけてしもたら何か『全然仕事してません』みたいやから、これがこうあって『さあ、今から書きまっせ』の場合はやね、『書きまっせ』は、ちょっと斜めに向いてる方…」
独り言を言いながら机の上に原稿を置いてみる。
のれんから純子が覗いていた。「フフフ」
町子「どうしよう、恥ずかしい…」
純子「あの、これ、ご確認ください」
町子「どうもありがとうござ…。あらまあ~、こんなきっちりと…」
花岡町子略歴
幼い頃よりノートに自分で考えた物語を書き綴る少女だった。
4月 淀之川高等女学校入学
昭和19年 3月 淀之川高等女学校卒業
4月 樟心女子専門学校国文科入学
昭和22年 3月 樟心女子専門学校国文科卒業
昭和25年 4月 北区にある金物問屋佐々木商店にて事務員として働く。
昭和35年~ 浪花文学研究科で小説修業する。
この頃より、同人誌などの懸賞小説に積極的に応募するようになる。
短編を中心に恋愛小説、歴史小説、サスペンスなどの習作を書き続ける。
昭和38年 2月 「虹色」が「文芸浪花」の懸賞小説部門で一席に。
生まれた町を一度も出たことのない三十代の女性が主人公の恋愛小説。藤村恒夫氏の選評は「先ず先ずの及第点。アイディアの数々に才能の片鱗が」
昭和40年 11月 「花蔵」が「浪花人」で入選。賞金は五万円。
昭和初期の船場を舞台にした人情喜劇。大阪の歴史、風俗に対する造詣の深さが活かされている。「花草子」で篤田川受賞…
以下、字幕だったり画面が切れたりして分からないのでここまで。字がきれい!
純子「取材用です。これから毎回ご入り用でしょうから」
町子「ありがとうございます」
純子「あの…お召し物、そのままですか?」
町子「あきませんか?」オレンジのチェックのシャツに緑のニット。
着替えてきた町子。ピンクの2ピースのスーツ。「どうですか?」
純子「うわ~、すてきです!」
町子「久しぶりに着たんですよね、このスーツ」
純子「ああ、え~っと…。これ、どうですか?」ブローチをスーツにあてる。
町子「これですか?」
純子「うん」
町子「あら! 案外、これって色あうんですね」純子が鏡を持っている。
純子「いいですよ~」
町子「いいですか?」
純子「うん」
町子「いや、きれいやん、こうやったらね」
仕事部屋を出る町子。「よいしょ」
廊下の向こうから健次郎が歩いてくる。
町子「あっ、健次郎さん。見て、これどう? いい? これ。どう?」
健次郎「カラーで撮ってもらいや」
町子「あっ、それ聞いてないわ。ねえ、ちょっと健次郎さん。清志君、お友達とけんかでもしたのかな?」
健次郎「けんかくらいするやろ。ほっとけ、ほっとけ」
階段を下りてきた昭一。「何? 清志のこと?」
町子「うん。昨日、泣いて帰ってきたから」
昭一「まあ、大したことないやろ。ほっとこ、ほっとこ」
町子「いや、あの…。さすが、兄弟。よう似てはるわ~」
応接間
取材記者「執筆はお昼間ですか?」
町子「朝から朝までです」
記者「えっ?」
町子「晩ごはん食べ終わりましてから徹夜することもありますので」
記者「ああ」
町子「クッキーでもいかが?」
記者「いただきます。あっ、おいしい!」
純子「焼きたてでございます」
記者「後ほど外での撮影もお願いします」
純子「お庭ですか? 表ですか?」
記者「表の方で」
純子「診療所の撮影はくれぐれもご遠慮くださいましね。患者様のプライバシーがございますので」
記者「分かりました」
町子「お~」と感心し、満足そうにうなずく。
診察室
健次郎「はい」
鯛子「はい」カルテ?を受け取る。
健次郎「あ~っ! 今日みたいな日は夕方から混みそうやなあ」
鯛子「先生、今日の運勢見てあげましょ。ちょっと待ってね。え~っとね…」
昨日の回でも見ていた占いの本を持ってくる。
鯛子「え~っと…『家庭内トラブルあり』」
健次郎「ここしばらく我が家にそれがなかった日がありますか?」
鯛子「『幸運の鍵は兄弟』!」
健次郎「アホな! 矛盾してるやん」
鯛子「けど先生、あのお兄さんモテはるでしょうねえ」
健次郎「え? あれが? あんなええ加減なんが」
鯛子「あの、ええ加減そうなとこが魅力なんですよ。分かりません? ウフッ! フフフフ!」
健次郎「分かりません」
応接間
テーブルの上に置かれた町子の本を撮影するカメラマン。
「花草子」「恋の風見鶏」「私の大阪万華鏡」
記者「デビュー作の原稿なんてありますか?」
町子「はい。すぐ持ってきます」
仕事部屋
外を見ると昭一が脚立に物干しざおをくくりつけていた。一緒にいるのは清志。
町子「あら!?」
昭一「あっ、物干しざお借りました」
町子「いや、何してはるんですか? ねえ、お兄さん」
昭一「洗濯物、取り込んどいたから」
町子「清志君、帰ってたの? ねえ」
昭一「よっしゃ。これでいけるな」
町子「いや、『これでいける』て何してはるんですか? お兄さん」
昭一は物干しざおの一方を肩に担いでいる。「よし、清志、いこう。ちょっとパッとな。ええか? 片足で思い切り蹴んねんで。よいしょ! あかんな。あんなもうちょっと勢いよう蹴んねんて。もう一回、もう一回。せ~の! クラスでね、これでけへんの、こいつだけなんですわ。朝から練習して、これ、手にけがして…。あかんて。あのお尻をなクイ~ンと上げんねん。そいで空向かってカ~ンと…。もういっぺんやってみ、ちょっと。せ~の! よっ!」
町子「いけ、いけ。もう一回いってごらん、もう一回。できるはずや、絶対に。もう一回いってごらん」
昭一「よっこら…」
町子「違うねんて、あんた。違うねん。手で体上げようと思うからでしょ。ここやねん。太ももでガンと上げんねん。太ももで」
昭一「ちょっとちょっと…」
町子「分かる? それだと手と太ももがガンと一緒にならなあかんで。分かるか? いくよ。こうやってね、例えばこうやって、こう…」と鉄棒代わりの物干しざおに本気で逆上がりしようとする。
昭一「肩が、肩が、肩が…!」
物干しざおが折れる。清志、あぜん。
町子「痛~い」←昨日のミニ予告。腰を強打。
昭一「腰、打った?」
町子「痛い! ちょっと、これ…」
純子「先生!」
町子「痛い! 痛い、痛い、痛い、痛い…」
純子「大丈夫ですか? 先生」
町子「あかん…。痛い、痛い」
カメラマン、思わず撮影。秀平みたいなやつだな!
純子「写真、撮らないでください!」
昭一「あかん、あかん。撮ったらあかん」
純子「何、ボ~ッとしてんですか? お医者様。ほら、早く、お医者様!」
町子「痛い、痛い、痛い…。つってる、つってる! 痛い、痛い…」
純子「あ、そう」
町子「痛い、痛い!」
純子「あららららら…」
診察室
診察台にうつぶせになっている町子。「痛い!」
健次郎「あんたはアホか! 何を考えてんねん、ほんまに」
町子「いや、あの、ついね…。痛い!」
聴診器で遊んでいる昭一。
健次郎「つい? つい物干しで逆上がりしてしもたん?」
町子「あのね、清志君、見てたらねえ…」
健次郎「あのな、大人と子供の目方の違い考えへんかったんか?」
町子「いや、あの、今やったらよう分かる。痛い~。痛い~」
昭一「まあ、大したけがやなくてよかったやないか」
健次郎「え?」
昭一「いやいや、俺はやなあ、清志が『逆上がりでけへん』て相談するからな」
健次郎「余計なことせんでええねん」
昭一「あの年で逆上がりでけへんかったらかっこ悪いやないか。大体、お前、知ってたんか? 忙しいて子供のことほったらかしとったん違うか?」
健次郎「人の家のこと気にする前に自分のことなんとかしたらどやねん?」
町子「健次郎さん!」
昭一「なんとかてどういうことやねん?」
健次郎「ええ年して仕事も持たんとフラフラフラフラ流れ歩いて、借金で首回らんようなったり、純情な女の子だまして追いかけられたり」
昭一「あれはちゃんとしてきたよ、もう」
健次郎「いや、それにしてもや」
昭一「ああ、そうか。家庭持ってへんかったら半端もんか?」
健次郎「いや、そんなこと言うてへんやないか」
町子「お兄さん」
昭一「町子さん、悪かったな」
昭一が出ていき、純子が入ってきた。「あの…」
町子「あ、あの…取材の方、帰らはりましたか?」
純子「はい。先生に『お大事になさってください』って…。あの写真…すっ転ばれた時のお写真は今回は、お載せいただかないようにお願いしておきました」
町子「よかった。そうかてパンツちょい見えなんやもん」
純子「丸見えでございました」
健次郎、笑いをかみ殺す。純子さんのすっとぼけた感じが、あー、面白い! てことはカメラマンはパンツ丸見え写真を撮ったということ!?
夜、茶の間
健次郎「お代わり」
町子「はい。あ、痛っ! 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い! あ…痛い」
由利子「私がする」
町子「ごめんね、由利子ちゃん」
登「町子おばちゃん、大丈夫?」
町子「大丈夫。名誉の負傷」
隆「授業参観、来れる?」
町子「えっ!?」
隆「忘れてたん?」
町子「ううん。忘れてない、忘れてない。今度の日曜日やったね。大丈夫よ、これぐらい。もうね、明日になったらおばちゃんね、マラソンでも何でもね…。痛いわ…。あかん、あかん、あかん」
健次郎「無理しな。アホ」
町子「うん」
健次郎「(お代わりを持ってきた由利子に)ありがとう」
町子「あ…痛い」
登「逆上がりなんて簡単やのにな」
隆「僕かてできんのに」
町子「練習したらできるよ」
清志「僕はあかんねん。運動音痴やから」
健次郎「そんなことない。練習したらできる」
町子「そう。誰でも努力せなあかんの」
清志「もうええねん! けがしたら嫌やもん。逆上がりでけへんかっても死ねへんし。ごちそうさん」
由利子「清志は怖がりなだけやねん」
夕食後の茶の間
いつもの土瓶で焼酎を飲む健次郎。町子は後片付けが終わる。
町子「よいしょ。あ…私もやっぱり飲もかな」
健次郎「コラコラ」
町子「やめとくかなあ」
健次郎「主治医の意見は聞かんのか?」
町子「一杯だけええことにしよ。なっ。ええことにしよ」
健次郎「ちょっとだけやで」
町子「ちょっとだけ。痛い、痛い…。痛っ。はい、すいません」
健次郎「ほんまにもう。頭でも打っとったらどないすんねん、ほんまに」
町子「たいへんなことやったね」
健次郎「子供みたいやなあ」
町子「けど、私、昔からね、鉄棒得意やったんですよ」
健次郎「僕もやで」
町子「うん。何で清志君、でけへんのやろね?」
健次郎「そら、みんなができるいうわけでもないやろ。それぞれの性格もあるし」
町子「由利子ちゃんが『怖がりなだけや』て言うてたでしょ? 何でちっちゃい時から鉄棒ちゃんと教えといてあげへんの?」
健次郎「そんなもん親に習うもんかい? あんた、自転車、誰に習た?」
町子「お友達」
健次郎「ほれ」
町子「で、弟と妹にはね、私が教えてあげたの。お父ちゃん、仕事、忙しかったから」
健次郎「そんなもんやろ?」
町子「うん。ねえ、健次郎さんは?」
健次郎「僕?」
町子「うん」
健次郎「誰やったかな。忘れた」
町子「友達?」
健次郎「うん? う~ん、どやったかなあ。もう、寝よか」
町子「もう一杯だけ」
健次郎「夜中に痛なっても知らんで」部屋を出ていく。
町子、1人になって「お兄さんや」とつぶやく。
工藤酒店前?の公衆電話
昭一「まだやねん。いや、もう、2~3日待ってくれよ。友達やろ? え? ほかが相談に来てんの? そらまあええ物件やもんなあ。俺も気に入ってるからなんとかしようと思てんねん。金は折り合いつくよ。それや、保証人や。あとは保証人だけなんや。今な、心当たり当たってるから、もう3日…いや、2日でええわ。待ってくれ」
それを聞いていた純子。
翌朝、茶の間
由利子「ごちそうさま。行ってきます」
一同「行ってらっしゃい!」
登「お兄ちゃん。はよ行って学校の鉄棒で練習しようか?」
清志「いらん!」席を立つ。
登「何やねん! 人がせっかく言うたってんのに!」
健次郎「しばらくかまいな。ごちそうさん」
町子「はい」
登「ごちそうさま。隆、行こ」
隆「うん」
一旦席を立った隆が戻ってきた。「おばちゃん」
町子「うん?」
隆「授業参観、絶対来てや!」
町子「分かってるよ」
隆「約束やで!」
亜紀と二人きりになった町子。「はあ…。行きたい気持ちはやまやまなれどや。ねっ」
亜紀「うん」
町子「返事してくれんの?」
亜紀「うん」
町子「はい、おつゆ飲みなさい。はい、ちゃんとおわん持って。そう。はい、あ~んして」
11月のスケジュール帳
19日(日)が授業参観日だけど、その前まで予定はびっしり。川柳大会があったのは12日(日)だけど空欄だった。
原稿を仕上げなければ授業参観には行けない。気がかりなことが絶えることのない町子の生活でした。
ため息をつく町子。「はあ…。痛い! あれ? イテテテテ! 痛い!」
ミニ予告
昭一と並んで座っている町子。「てれるて、もう!」
逆上がりのくだり、つらいね。ちょっと検索するとクラス全員逆上がりできました!みたいなのがバンバン出てくるのもつらい。別にみんなができなくてもよくない!?と思ってしまう私は清志君と同じく運動神経0。