公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
火事の騒ぎから数日後。マリ子(熊谷真実)の元へ、血相を変えて信彦(森田順平)がやってきた。聞けば、茜(島本須美)とは元々恋人関係だったが、今は避けられていると言う。マリ子の口利きで何とか茜に合わせてほしいと頼む信彦。そんな中、マリ子は田河邸のマチ子(田中裕子)から電話で呼び出される。慌ててかけつけると、田河(愛川欽也)から雑誌の「天才少女特集」にマチ子(田中裕子)を推薦したいと相談を受けて…。
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火事場騒ぎがあってしばらくしたある日のことでした。
マリ子が出かけようとすると門の前に信彦が立っていた。信彦はマリ子が茜の所に行くと知ると1時間だけ、あなたの時間をくださいと言ってきた。家には誰もいないというと場所はどこでも構わない、僕の気持ちを聞いてほしいというので、甘味処へ連れていった。
このところ何度電話をしても会いたくないの一点張りで押しかけていってもドアを開けない。僕はこのままだと何をしでかすか…とマリ子に言う信彦。
信彦「愛しているんです。今はもう恥も外聞もなく彼女を愛してるんだ」
マリ子「はい」
信彦「だから先日伺ったのも彼女が心変わりをしてほかの男とつきあっているのかどうか、あなたに会えば分かるんではないかと思って。みっともないのを承知でお邪魔したんだけど皆さんがおいでになったので」
マリ子「ごめんなさい、私、ちっとも気が付かないで」
信彦「そんな、君のせいであるもんか」
マリ子「でも心変わりとおっしゃいましたね」
信彦「ああ」
マリ子「ということはお二人は…」
信彦「恋人同士だった。そう受け取ってもらって結構です」
マリ子「そうだったんですか…。いいえ、茜さんに限ってそんなことは絶対にありません。会った時はいつも今描いてる絵のことばかりで、それにほかの男の人の話なんか何も言いませんし、第一見たこともないんです」
信彦「正直に言ってくれていいんだよ」
マリ子「私、正直だけが取り柄ですから」
マリ子に心当たりはないのか聞かれると、会えば口げんか程度はすると言い、「でも僕らは愛し合ったこともある仲なんだ」と臆面もなく言う信彦。何とかもう一度会ってくれるようにマリ子に取り持ってほしいと頭を下げる信彦に、今日、茜の家に行くのはやめるから、よく考えて明日一緒に会いに行こうとマリ子は言った。あんみつに手も付けず店を出た二人。
私の東京。マリ子の中でその一つが今、甘く切なく溶けていきました。
マリ子は三吉から声をかけられた。酒田燃料店にマチ子から電話があり、すぐ田河先生の所へ行くように言われた。田河邸を訪れると、均ちゃんがニコニコ出迎えてくれ、マチ子と水泡は”試合中”というめくりの前でトランプをしていた。
水泡の話によれば、「少女倶楽部」で天才少女のグラビア特集を組むことになり、子役スターの片峰秀子とバイオリンの山本りえこともう一人、田河の推薦でマチ子が選ばれた。
長谷川町子 1920(大正9)年1月30日生まれ(当時14歳)
高峰秀子 1924(大正13)年3月27日生まれ(当時10歳)
バイオリンの天才少女はこの方?(名前が全然違うけど)
諏訪根自子 1920(大正9)年1月23日生まれ(当時14歳)
先ほどの『実業之日本』にも載っていましたが、戦前の天才バイオリン少女、諏訪根自子さんの過去上げた写真を再掲して寝ます(1933年頃)。それではおやすみなさい。 pic.twitter.com/SIKUNOGi3y
— 戦前~戦後のレトロ写真 (@oldpicture1900) February 22, 2021
”昭和9年 天才少女 バイオリン”などで検索したら出てきたので…あんまり美人で驚いた。山形県酒田の資産家の娘だったが幼少期、廻船問屋が倒産したが、でもバイオリンを続けることができた。
「マリ子さん、お茶をどうぞ」とやってきた均ちゃんに「均ちゃん、何揺れてんだよ」とキンキンいや水泡。水泡は気付いてないけど、順子は気付いてる感じ!?
さあそれからその晩が大変でした。
磯野家で話し合い。
はる「なぜでしょう。私にはどうしても分かりませんわ」
大造「ですからね、奥さん」
はる「いいえ、田河先生がマチ子の才能を認めてくださったことに対しては感謝の限りでもございません。でもだからといって雑誌に写真を載せる必要はないと思うんですのよ」
大造「ですから、それはあちらさんが望んでることでね、奥さんが断るいわれのもんじゃないでしょう」
はる「その辺のところがどうしても分かりませんの、私」
大造「困った人だな~。あんたね、自分の子供が全国に天才少女だって紹介されるのがうれしくないんですか?」
はる「別に」
大造「私は鼻が高いね」
はる「どうしてですか?」
大造「どうしてって…有名になるじゃないですか」
はる「有名になったからといって漫画が上手になるとでしょうか?」
大造「あ~、いやもうこれは選手交代だ。頼むよ、写真屋さん」
智正「そうですね~…。マチ子さんはどのように考えていますか?」
マチ子「私はややお母様に似た意見です」
智正「ほう。と言いますと?」
マチ子「その時、一緒に漫画を2ページ出してくれるのはとてもうれしいんだけど、だけど何だか大騒ぎされるのが嫌で…」
智正「しかし、大騒ぎをしているのは向こうの方で別にマチ子さんが騒がなければ構わないんじゃありませんか? ねえマリ子さん?」
マリ子「え…ええ」
大造「そうですよ。そのとおりですよ」
智正「お母さん。お母さんはマチ子さんが将来漫画家として身を立てていくことに別に反対なさらないわけでしょう?」
はる「もちろんです。子供たちがそれぞれ自分の道を自分の力で歩いてくれたらこんなに幸せなことはないと思っております」
智正「としたらですね。これは一つのチャンスと考えてください」
大造「チャンス?」
智正「はいそうです。チャンスの神様には前髪しかない。ご存じですか? チャンスの神様にはね前の方にしか髪の毛がないんですよ」
はる「まあ私ちっとも存じませんでしたわ」
智正「そしてねチャンスの神様というのはいつも不意に現れるんだそうです。ですからチャンスの神様に出会ったら迷わず前髪をつかむこと。そうでないと後ろの方に髪の毛がありませんからつるりと滑ってしまうんですね。ですから擦れ違ってしまうと手の中からチャンスは永久に消えてしまうわけです」
大造「なるほどね~」
智正「まあ今度の場合ですね、田河先生がマチ子さんの才能に対して与えてくださったこれはチャンスだと思うんですよ。としたらマチ子さんはそのチャンスをしっかりと自分のものにして、そして田河水泡先生のご期待に添っていく。それが今後のあなたの課題じゃありませんか?」
マチ子「はい」
智正「マチ子さんが今後も三吉さんたちのために楽しい漫画を描いていきたいと思うんだったら雑誌社というのはその作品を発表する大切な場なんですよ。今その場を作るためにも私は今度の特集には応じた方がいいと思いますね。いやいや、何も殊更こっちが騒ぎ立てることはないんですよ。言うならば向こうが作ってくれたお膳立てに乗りゃあいいんですよ」
はる「分かりました。それではマチ子の写真を撮らせましょう」
大造「あ~よかったよかった。いやお手数かけましたね。しかし大学出の人はやっぱり言うことが違う」
智正「いや…僕は中途退学です」
チャンスの神に出会いながらそのチャンスをつかむことのできなかった人のようにマリ子にはなぜか写真屋さんこと三郷智正が思われてならなかったのです。それは昼間、信彦のあまりにショッキングな告白を聞いたからだったでしょうか。
大造から床屋に連れていった方がいいと言われたマリ子。着るものは麻布の伯母様から作ってもらったワンピースにしようということになったのだが、はるは火事で焼け出された人にあげていた。伯母様がせっかく作ってくださったのにねえ。はるは制服でもいいという。
その翌日、マリ子の役目はチャンスの神ではなくキューピッドだったのです。
茜に話をしている途中に乱入してきた信彦に泣きだしてしまうマリ子だった。
長谷川町子が山脇高女学生だった時代の漫画の再掲です。
— 戦前~戦後のレトロ写真 (@oldpicture1900) May 17, 2020
昭和11年(1936年)の少女倶楽部1月号より。当時の彼女は多分15歳ですね。田河水泡に師事していた頃。
少倶というのは当時の人気雑誌「少年倶楽部」「少女倶楽部」共通の略語です。
3-4枚目は当時の彼女。3枚目は彼女のWikipediaページより。 pic.twitter.com/U4Ru0E7mnt
実際は制服ではなかった模様。