徒然好きなもの

ドラマの感想など

【連続テレビ小説】本日も晴天なり(9)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

元子(原日出子)は、入営した正大に合格を伝えに行きたいと、宗俊(津川雅彦)に話す。宗俊は自分も一緒に行くというが、元子は必死に説得して諦めさせ、ほかにも行きたいという者を押しとどめ、自分一人で行くことに。実は兄の恋人の千鶴子(石井めぐみ)と一緒に行き、二人を会わせるための策だった。しかし、正大はいるはずの千葉の隊におらず、途方に暮れた元子たちは、陸軍中尉の正道(鹿賀丈史)を頼ったが…。

台所

トシ江「お砂糖じゃないの。こんな貴重なものを」

絹子「うん、業務用のため置きよ。明日面会に行くのなら、これで正大さんに甘いものをうんと作って持ってってやってくれって、うちの人が」

トシ江「ありがとう、絹子さん」

絹子「うちの人もねえ、正大さんとは一番気の合った叔父と甥だし」

トシ江「ええ、正大もどんなに喜ぶことか。本当にありがとうございました」

絹子「うん、フフフ」

 

元子たちの部屋

巳代子「どうしてよ」

元子「どうしてもなの」

巳代子「そりゃあね、お姉ちゃんがお父さんを敬遠する気持ちは分かるわよ。だけど、私や順平には防空演習なんて関係ないんだもの。なのにどうして一緒に面会に行っちゃいけないのよ」

元子「いけないなんて言ってやしないじゃないの。私はただお願いだから、この次にしてくださいって頼んでるだけ」

巳代子「嫌です!」

元子「巳代子」

巳代子「勝手だわ。どうしてお姉ちゃんにあんちゃんの面会を独り占めにする権利があるのか教えてよ」

元子「私は独り占めにしたくないからこそ」

巳代子「駄目よ、そんなこと言ったって。お姉ちゃんの口のうまいのにはごまかされないんだから」プイっと横を向く。

 

元子「困っちゃったなぁ」

巳代子「いい気味だわ。どんなことがあっても私は行きます!」

元子「じゃあ、本当のことを言うわ」

巳代子「結構です」

 

元子「実はね、私には一緒に行く人があるの」

巳代子「誰よ、それ」

元子「あんちゃんの恋人」

巳代子「あんちゃんの?」

元子「うん」

巳代子「まさかお姉ちゃん」

元子「私も今度知ったばっかりなんだけど…。名前は池内千鶴子さんっていうの。年は私より1つ上」

巳代子「本当の話なの?」

 

元子「うん。あんちゃんが帰ってきた晩、2人はモンパリの叔父さんのとこで会えたんだけど、何せゆっくり話す時間もなかったし、入隊の日(し)は東京駅のホームから送ってくれることになってたんだけど警戒警報が出ちゃって、結局、バラバラになっちゃったらしいのよね」

巳代子「それで、その人…」

元子「私もね、まだ2度しか会ったことないんだけど、とってもきれいな人(しと)。あんちゃん、あんまり詳しいことは話してくれなかったんだけどね、その人には昔、親が決めた婚約者があるんだって」

巳代子「そんな…」

元子「だから、あんちゃん諦めるために北海道へ行った節もなくはないみたいだって洋三叔父さん言ってたけど…。とにかく一度は結婚できないからって別れたらしいのよね。でも…」

巳代子「でも、どうしたの」

 

元子「うん。これが別れになるかもしれないって、あんちゃん入隊のことだけは知らせたらしいのよ。それでその人この家まで訪ねてきて」

巳代子「いつ? いつのことよ、それ」

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元子「偶然、私が会えてね、それで叔父さんとこに手引きができたんだけど…」

巳代子「知らなかった、そんなことがあったなんて…」

元子「随分迷ったのよ。別に隠し事するつもりはなかったんだけどさ」

巳代子「それじゃあ、明日はお姉ちゃん、その人と?」

 

元子「ごめんね。でも巳代子たちにはまた来週って機会もあると思ったから」

巳代子「うん…だけど順平には何て言うつもり?」

元子「頭痛いのよね。あの坊主には話しても分かんないだろうし、話したところでみんなにしゃべくり回られたら、また一(しと)騒動だし」

巳代子「いいわ、私が引(し)き受ける」

元子「え?」

巳代子「とにかく、朝、3人一緒に出かけるの。そして、私と順平がなぜか迷子になっちゃうの」

元子「巳代ちゃん…あんたできるの? そんな大芝居が」

 

巳代子「やってみなくちゃ分からないでしょう」

元子「驚いたぁ。私、あんたのこと食いしん坊の優等生だとばっかり思ってたのに」

巳代子「これでも河内山の娘です。それにあんちゃんが好きだもの」

元子「ありがとう。本当にありがとう」

巳代子「そのかわり、来週の日曜は絶対に譲りませんからね」

元子「もちろんよ。いくら恋人だからって、あの人にばっかり独占なんかさせやしないわ」

巳代子「それでこそお姉ちゃん」

元子「うん」

巳代子「じゃ、代わりに手紙書くから持ってってね」

元子「あっ、それがいいわ」

 

人の恋路にこれほど協力できるのも、恋路そのものに憧れる年頃の2人だったからでしょうか。

 

吉宗前

順平「行ってきま~す!」

巳代子・元子「行ってまいります!」

 

彦造「おっ、順坊! こん次はこの彦さんと旦那と一緒に行くからって、あんちゃんにそう言ってくんな」

順平「うん!」

キン「くれぐれも生水には気を付けるようにってね」

元子「大丈夫よ」

トシ江「ねえ、順平、お姉ちゃんと迷子になるんじゃないんだよ」

順平「分かってるってば、うるさいなぁ」

巳代子「行ってきま~す!」慌ただしく走っていく。

キン「行ってらっしゃいまし!」

トシ江「行ってらっしゃい!」

 

さて迷子の一件、順平と千鶴子との入れ代わりは無事に成功したのですが、ここはあんちゃんのいる佐倉の連隊ではなく、なぜか稲毛の戦車隊でした

同じ千葉県内といっても結構距離はある。

 

応接室らしきところ

元子「大丈夫ですよ。きっと私がなんとかしてみせますから」

千鶴子「でもこのまま会えないなんてことになったら…」

元子「失礼ですけど、千鶴子さんは会いたいんですか? それとも会いたくないんですか?」

千鶴子「それは…」

元子「だったら会いたいっていう一念で押し通すべきだと思います」

千鶴子「そうですよね。ごめんなさい。恥ずかしいわ、私、自分が」

 

ドアが開く

元子と千鶴子が立ち上がる。

元子「あっ、大原さん!」

正道「ああ、やっぱりガンコちゃんでしたか。いや、桂木さんって人が会いに来てるって当番兵が捜しに来たもんですから。ささ、どうぞ座って。剣道の試合が近いんで練習をしてたんですが、日曜なんで連絡が下宿の方へ行ったらしいんです。それでだいぶん待ってるんじゃないかと思って、とにかく走ってきました」

元子「そうでしたか。それはどうもすいませんでした」

 

正道「いえ、それよりどうかしましたか?」

元子「ええ、先に会いに佐倉の方へ行ったんですけど兄に会えなかったんです」

正道「会えなかった?」

元子「はい。今日は面会できないって。だけど、せっかくはるばる来たんだし、そんなことでは帰れないから何度も衛兵所の人に理由を聞いてみたり、頼んでみたりしたんです。そしたら、今日は演習に出てるとか、その隊はもうここにはいないとか人によって言うことが違っちゃってるし、もう何が何だか分かんなくなっちゃって。それなら大原さんに聞けば、少しは事情が分かるんじゃないかと思って、それで私たち…」

正道「ああ、そうでしたか…」チラッと千鶴子を見る。

 

千鶴子「池内千鶴子と申します」

正道「大原です。隊が違うんで自分にもよく分からないが、そういうことならば明日にでも詳しく事情を調べて責任持ってお宅へ知らせましょう」

元子「どうして明日なんですか? せっかく今日こうして来てるっていうのに」

正道「いや、もう間に合いません」

元子「間に合わないって何がでしょう」

正道「面会時間にです。まあ、今から千葉へ行く便はいくつかあるでしょうが、そこから佐倉への汽車にうまく乗れるかどうかです。今からじゃとても面会時間には間に合わないんじゃないかな」

千鶴と元子、顔を見合わせる。

 

正道「残念でしたねぇ。まず自分を思い出してもらえればよかったんだが、向こうじゃ随分粘ったんでしょう」

元子「そりゃあもう」

正道「とは言っても本当に演習に出ていたのかどうかも分からないし、自分が連絡を受けてもどうにもできなかったかもしれませんが」

 

元子「ごめんなさいね。私がもっと機転を利かせてればよかったんだけど」

千鶴子「そんなことないわ。元子さん、私がハラハラするぐらいしつこく係の兵隊さんに聞いてくださったし」←”しつっこく”とちょっと強調していた。

元子「あ~あ、せっかくここまで来たっていうのに」

 

正道「ところでガンコちゃん、お昼は食べましたか?」

元子「いいえ。あっ、あの、これ、おはぎとのり巻きなんです。兄の代わりといっては失礼なんですけど、大原さん召し上がってください」

正道「いやいや、おはぎなら順平君に持って帰っておあげなさい」

元子「でも」

正道「今、飲み物を持ってこさせるから。二人とも汗でげっそりした顔をしてるよ」

 

元子「あの、大原さん」

正道「はい」

元子「あの…もし、家の方に連絡を下さるんでしたら、どうかこの方のことは…」

正道「分かりました」

元子「勝手を言ってすいません。でも兄の恋人なんです」

正道「そうじゃないかなと思ってました。それじゃ、ちょっと待っててね」部屋を出る。

 

千鶴子「いい方ですね」

元子「はい」

 

多分に見当違いの面会を済ませて元子が帰ってくると、家には思いもかけない知らせが先回りしていました。

 

吉宗

元子「ただいま」

 

茶の間

元子「えっ、あんちゃん、もうあそこにいないって?」

トシ江「ああ」

元子「それ、どういう意味?」

 

洋三「うん、だからさ、ガンコちゃんが帰ったあと、すぐ大原さん、佐倉の隊に連絡取ってくれたんだよ。そしたら、正大君の隊はもうあそこにいないってことが分かったんだ」

元子「じゃあ、一体、どこへ行っちゃったの」

トシ江「それが大原さんにもよく分からないんだって」

元子「そんな…」

巳代子「まさかもう、この日本にいないなんてことは…」

元子「変なこと言わないで!」

洋三「巳代ちゃんに怒ることないだろう」

 

宗俊「だったら一体(いってえ)誰に怒ったらいいってんだい!」

絹子「兄さん…」

宗俊「そりゃあ、万歳と言って送り出したぜ。けど…」部屋を飛び出す。

元子「お父さん!」

 

トシ江「そっとしといておあげよ。どうせね、布団かぶって寝ちゃうしか何もできないんだから」

巳代子「でも、お姉ちゃんが行ってよかった」

元子「え?」

巳代子「私だったら大原さんを訪ねるなんてこと思いもつかなかっただろうし、そしたらあんちゃんがいなくなったことも分からなかったもの」

元子「うん…」

トシ江「まあ、足手まといの順平が迷子になってかえって動きが取れてよかったのかもしれないねえ」

 

元子「あ、そうだ。はい、順平。おはぎね、一つも手ぇつけずに持って帰ってきたからね。ほら」

順平「俺、もう泣いちゃったんだから」

絹子「とにかくすごかったらしいわよ。帰ってきた巳代ちゃんの顔も半べそだったんだから」

元子「ごめんね」

 

トシ江「さあ、いいからね、お箸とお皿持っといで」

元子「はい」

順平はもうお重から手に取って食べている。

トシ江「まあ、そういうわけですから洋三さんたちも召し上がってってください」

洋三「いやいや、どうもどうも」

 

2階

畳の部屋に大の字になっている宗俊。布団はかぶってなかったね。横になり考え込むような表情。美形だな~。

 

階段を下りてきた巳代子は辺りの気配を伺い、台所にいる皿洗いしている元子のもとへ。

巳代子「それでお姉ちゃん、どうだった?」

元子「そりゃあがっかりしてたわよ」

巳代子「やっぱりねえ」

元子「だけど、変な気がしたわ」

巳代子「何が?」

元子「うん…私とあんちゃんはきょうだいよね」

巳代子「そんなこと当たり前でしょ」

 

元子「けど、あの人見てたらきょうだいと恋人と一体どっちが余計悲しむんだろうって分かんなくなっちゃった」

巳代子「そんなに?」

元子「うん」

巳代子「でもさ、私たちは生まれた時からきょうだいなんだもの。それはやっぱり私たちに決まってるわよ」

元子「だけど、一緒にいる時間が短い分、あっちの悲しみの方が密度が濃いかなぁなんて思ったりもするし」

巳代子「うん…」

元子「要するに…質の問題なのかなぁ」

巳代子「う~ん…」

 

要するに2人にはまだ分からない世界なのでしょう。

 

元子「いいわ」

巳代子「何が?」

元子「どこにいたって、あんちゃんも頑張ってんだもん。私も頑張らなきゃ」

巳代子「そうよ。最後の面接で落ちたりしたら、それこそ目が当てられないから」

元子「大丈夫よ。私はマイクロホンを通し、絶対、お国のために頑張るから。ね、そしたら、あんちゃんだって、どっかで私の声、聞いてくれるかも分かんないじゃないの」

巳代子「本当だわ、うん」

元子「よ~し、これはなおのこと頑張る意味があるわ。うん。頼んだわね」

巳代子「ちょっと、ずるいわよ、おねえちゃん!」

皿洗いを巳代子に押しつけ、2階へ駆け出す元子。また戻って神棚にかしわ手を打ち、手を合わせる。

 

つづく

 

明日も

 このつづきを 

  どうぞ……

 

巳代子がいい味出しててなかなかよい。巳代子役の小柳英理子さんは「3年B組貫八先生」で貫八先生が下宿するブリキ屋の長女役をやってたらしいのですが、このシリーズは見たことないなあ。

 

初期金八もリアルタイムじゃなく、90年代くらいまで何年かおきに再放送してたのでそれでハマったので他のシリーズは知らないし、金八以外の脚本は小山内美江子さんではないんだね。ただ、桜中学という舞台は同じで職員室の先生は校長、教頭、カンカン、上林先生など一部共通してる人もいる、と。

 

朝ドラ見てると脇を固めるベテラン俳優さんの方が今もおなじみで、ヒロイン周りの若い俳優さん、子役って意外とあんまり残ってないもんだね。

小さな橋で

2017年9月18日 時代劇専門チャンネル/スカパー!

 

あらすじ

父・民蔵が姿を消してから4年、10歳の少年・広次は母・おまき、姉・おりょうと3人で暮らしている。飲み屋で懸命に働きながらも自分の元を去った父に恨み言をこぼす母。広次はそんな母を複雑な思いでみつめていた。 そんなある日、母とのいさかいが絶えなかった姉・おりょうも、妻子持ちの男と駆け落ちしてしまう。姉をも失った母は心身ともに疲れ果て、飲み屋の常連客にすがろうとする。そんな母の様子に、広次は嫌気がさし、家の仕事を放り出して葭原で寝転んでいると、男たちに追われている父と偶然再会する…。

2022.1.23 時代劇専門チャンネル録画。普段あまり時代劇は見ないのですが、キャストにひかれました。

 

私の大好きな「救命病棟24時」の第2シリーズの江口洋介さん、松雪泰子さんの共演ということでしたが、夫婦役とはいえ、父・民蔵は4年前に突然家族の前から姿を消したので、2人のシーンがない!

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母・おまきは飲み屋で働き、姉・おりょうは米屋で働き始めた。広次は家の中のことを全てやっていた。

 

広次が主人公なので、ナレーションも広次なわけだけど、この囁き声みたいなナレーション、既視感あるなと思ったら、あんまり見たことないものの「北の国から」っぽい。

 

16歳のおりょうは米屋の手代の重吉とできてると近所で噂されていた。おまきは重吉が妻子持ちなので交際に反対する。

 

ん〜、それにしてもクラシックのBGMとかさだまさしさんの曲とか時代劇なのになんだか違和感あって…。調べたら監督は杉田成道さんという「北の国から」の演出をしていた方だそうで…あー、そういうこと。

 

そしてこの作品を見て、はっきり気付いたのが人の囁き声が苦手なこと。ずっと広次のささやきナレーションがどうにもこうにも苦手で半分くらいまで見て早送りして江口洋介さんが出てくるところまで見たけど、やっぱりもういいやあ〜と停止ボタンを押しました。

 

子役の子はとても上手なんだけど、私にはちょっと無理でした。なんとなくお父さんが帰ってきてハッピーエンドっていう感じの作品でもなさそうだし。

 


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【連続テレビ小説】本日も晴天なり(8)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

元子(原日出子)は1次試験に合格した!すると、金太郎(木の実ナナ)が三味線を持ってやってきた。本当に常磐津でのど鍛える気かと驚くと、金太郎は芸者をやめて、軍需工場の事務員になるのだという。トシ江(宮本信子)からお守りを渡され、元子は2次試験に挑んだ。マイクを通し、50音、早口言葉、詩の朗読など、発声を試された。そして見事、2次試験も突破!宗俊(津川雅彦)もあぜんとする中、元子はあることを思いつく。

元子たちの部屋

元子は窓辺の文机で兄に手紙を書き、手前の巳代子はノートで何かを読んでいた。

 

元子「敬愛する兄上様。兄上様には厳しい軍務にお励みの毎日と存じますが、私たちも元気で過ごしておりますので何とぞ、ご休心くださいませ。さて、今日はうれしい報告がございます。私、この度、女子放送員の第1次試験に無事、合格することができました。それもきっとあんちゃんが応援してくれたからだと思うの」

文机に飾られた正大の写真

元子「本当にありがとう。2次も私、頑張るからね」

 

巳代子「ストロベリーショートケーキ エンド シュークリーム オードブル グラタンオニオンスープ ビーフステーキ コールドミート…」

元子「何言ってんの? あんた」

巳代子「うん? うん…今は学校工場だけど2学期からは工員さんたちと一緒に働くようになるんだって」

元子「それとショートケーキとどういう関係があるのよ」

巳代子「だからね、この夏休みでいよいよ英語の授業はジ エンドになっちゃうんだって。だから一応みんな今まで習ったところを確認しておきなさいって言われたから」

元子「それにしても出てきたのはみんな食べ物の名前かメニューだったわよ」

巳代子「あら、本当?」

元子「そうよ。食いしん坊なんだから」

巳代子「だけど言うくらいは許してよ」

元子「嫌だ、変に思い出して生唾が出てきちゃうじゃない」

巳代子「駄目。欲しがりません、勝つまでは、です」

元子「何よ、寝た子を起こしておきながら」

巳代子「あ~あ、おいしいものさえあったら、私、戦争なんか何年続いたって平気なんだけどな」

 

元子「ねえ、今度、工員さんと働く工場、何作るの?」

巳代子「ん~、まだ分かんない。ケーキの工場ならいいのにね」

元子「そんな軍需工場あるわけないでしょ」

巳代子「だから、あればいいと言ってるんでしょ」

 

元子「ねえ、あんちゃんに手紙書いてるの。一緒に入れてやるから巳代子も書かない?」

巳代子「うん、書く書く。『姉上は第2次試験の発声練習を常磐津でやるようであります』って書く」

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二人で笑いだす。

 

巳代子は多分、巳年生まれとすると、1929(昭和4)年生まれかな。昭和元年生まれの元子とは3歳違い。「芋たこなんきん」の町子が昭和3年生まれなので同年代だね。巳代子は軍国少女という感じはないかな。初期金八の生徒の1人にいてもおかしくない。

 

宗俊「お~い、元子ぉ! 金太郎が来てるぞ!」

 

元子「えっ、うちの河内山、本当にやらせる気?」

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巳代子「まさか」

 

宗俊「お~い、いるのか、いねえのか!」

 

元子「は~い!」1階へ。

 

茶の間

宗俊「おい、ほらほら…」

元子「いらっしゃい」

宗俊「そっち座れ」

元子「わあ、本当にやるの?」

金太郎「まさか」

元子「だって三味線持ってきてるもの」

金太郎「ううん、今日はね金太郎ねえさんのいとまごい」

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元子「えっ、いとまごいって一体どこへ行っちゃうのよ」

トシ江「どこにも行きはしないんだけど、今度、お勤めに出るんだって」

元子「金太郎ねえさんが?」

金太郎「そうよ。これでも花の独り者だもの。そうでもなかったらさ、徴用か女子挺身隊だもんね」

元子「で、一体どこへ?」

金太郎「口跡には自信があるしさ、学問さえあれば私だって放送員になりたかったわよ」

宗俊「てやんでぇ」

 

金太郎「お茶くみなのよ。軍需工場の社長さんがね、お茶くみ専用の事務員として雇ってくれるっていうから、まあ当分は芸者の方はお休み。情けないけど、ほかにできることがないんだからしょうがないわ。そのかわりさ、もっちゃんはどんなことがあっても頑張って放送員になってよね」

宗俊「てぇ!」

元子「ええ」

宗俊「くだらねえこと言うんじゃねえ」

 

金太郎「ねえ、音声試験なんたってさ、もともともっちゃん声がいいんだし、瓜売りが瓜売りに来て瓜売り残し売り売り帰る瓜売りの声なんてのが出るんじゃない?」すっごい早口!

トシ江「まあ上手じゃないの、おねえさん」

金太郎「だって、これでおまんま頂いてたんですもの。言えるでしょう、そのくらい」

元子「それくらいは、なんとかね」

トシ江「やってごらん、ほら」

宗俊「やってみろ」

 

元子「瓜売りが瓜売りに来て瓜売り残し売り売り帰る瓜売りの声」

トシ江「ああ!」手をたたいて喜ぶ。

金太郎「上等!」

トシ江「ほかに…ほかに何かないかしら?」

金太郎「うん…隣の客はよく柿食う客だ」

トシ江「やってごらん」

金太郎「やってごらん」

元子「隣のかき…。隣のきゃ…。隣のかき…」

金太郎「落ち着いてごらん。落ち着いて」

トシ江「落ち着いてもう一度ね、よく言ってごらん」

 

宗俊「バカ野郎、早口言葉ってのはな、早く言わなきゃ意味がねえんだ」

トシ江「だったらあんた言ってごらんよ」

宗俊「と…どうして俺が言わなきゃなんねえんだ」

トシ江「だって偉そうなこと言うからさ」

宗俊「バカ野郎。試験を受けるのは元子で俺じゃねえんだぞ」

金太郎「だったら余計な口出しはおよしなさいな」

宗俊「おっ、てめえ上等な口きくな? 余計な口出し…どういう口のきき方すりゃ…。俺をなんだと思ってんだ! え! 河内山だぞ、この野郎」

あきれる元子。

 

宗俊のこと結構皆、雑に扱ってるのが面白い。

 

何はともあれ第2次試験の朝がやってまいりました。

 

元子「行ってきま~す!」

トシ江「元子、ちょいと待って! これね、水天宮さんのお守りだよ。しっかりね」

元子「はい。頑張ってきます」

トシ江「行ってらっしゃい」

元子「行ってきます」

トシ江「はい、頑張るんだよ」

 

トシ江は裏庭に出て、お天道様に向かってかしわ手を打つ。

 

放送員第二次試験受験者控室

恭子「ほら、やっぱり」

のぼる「また会えたじゃない。私の言ったとおりでしょう」

元子「はい、こんにちは」

 

眼鏡をかけた学生風の男性と目が合い、会釈する元子。

 

恭子「お知り合い?」

元子「いえ、係の方じゃないんですか?」

のぼる「それにしてはまだ学生みたいだけど…」

悦子「あの人なら私たちと同じよ」

元子「え?」

悦子「今度はね、圧倒的に女子が多いんだけれど男子も受けるには受けているのよね」

元子「そうなんですか」

 

悦子「けど、みんな優秀ねぇ。1次で200人は落ちたみたいよ」

雅美「よく知ってるねんね、五十嵐さんって」

悦子「だって私、ここに勤めてるんですもの」

元子「えっ、どうしてですか?」

悦子「うん、去年、秘書課に入ったの。だけど本当はアナウンサーになりたかったから、この機会に放送員の試験、受け直したの。だけどほかにもそういう人がいるはずよ」

雅美「それやったら差がありすぎやわ」

悦子「そんなことないわよ。試験は絶対に公平だわ」

 

元子「でも秘書課なんてすごいですね」

悦子「だけど私って割とおしゃべりなのよね。おしゃべりは秘書より放送員の方が向いてるじゃない」

雅美「でも秘書課やったら試験の内容、よく分かってるんでしょう?」

悦子「この顔見てよ、分かってればもっと自信満々の顔してるわ」

雅美「でも」

悦子「そうね…例年の様子ではね、なまりのある人でも結構合格しているけれど、でもそれは直るなまりであるかどうかがチェックされるみたいよ。あなたは関西?」

雅美「でも、と…東京には4年もいるのよ」即座にイントネーション直せてる!

 

のぼる「私はラ行が弱いから。それにダヂヅデドも」

悦子「東京の人は『ヒ』と『シ』を気を付けた方がいいわよ」

元子「どうしよう。全然区別がつかないんです、私」

悦子「全然ってことはないでしょう。お日様、お彼岸って言ってみて」

元子「お日(し)様、お彼(し)岸」

雅美、笑う。

 

そうです。東京生まれには大きな泣きどころがあったのですが、ともあれ試験です。

 

試験会場

放送室?に入る元子たち。先導していたのはカンカン(森田順平さん)だ~!

 

元子の心の声「わぁ~、マイクロホンだ!」

 

沢野「はい、じゃあ座ってください」←カンカンあるいは結城信彦。いい声。

5人の受験生たち、座る。

沢野「ではまず、マイクロホンを通して皆さんの声を聞かせていただきます。初めに軽く発声練習のつもりでアイウエオ五十音と濁音、半濁音を154番の人からマイクに向かってやってください」

 

元子「はい。154番、桂木元子、始めます。アイウエオ、カキクケコ、サシスセソ、タチツテト、ナニヌネノ…」

 

元子「この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけたのです。武具馬具 武具馬具 三武具馬具 合わせて武具馬具 六武具馬具。菊 栗 菊 栗 三菊栗 合わせて菊栗 六菊栗。瓜売りが瓜売りに来て瓜売り残し売り売り帰る瓜売りの声」

 

のぼる「…合わせて武具馬具 六武具馬具。菊 栗 菊 栗 三菊栗 合わせて菊栗 六菊栗」

 

恭子「この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけたのです。菊キリ菊キリ三菊キリ 合わせて菊キリ六菊キリ」

 

悦子「この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけたのです。武具馬具 武具馬具 三武具馬具 合わせて武具馬具 六武具馬具。菊 栗 菊 栗 三菊栗 合わせて菊栗 六菊栗」言ったあと、言えた~という感じでホッとした表情。

 

雅美「菊キリ菊キリ三菊栗 合わせて菊栗 六菊栗。この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけたのです。武具馬具 武具馬具 三武具馬具 合わせて武具馬具 むぶ…六武具馬具」ちょっと笑ったけど、ため息。

 

元子「羹(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)を吹(ふ)く」

dictionary.goo.ne.jp

元子「網呑舟(あみどんしゅう)の魚を漏らす」

dictionary.goo.ne.jp

元子「前事の忘れざるは後事の師なり」

dictionary.goo.ne.jp

元子「智(ち)は…智は目の如し よく百歩の外(ほか)を見れども睫(まつげ)を見る能(あた)わず」

meigennavi.net

元子「鶴のすねは長しといえども、これを断たば、すなわち悲しむ」

fukushima-net.com

元子「桃李(とうり)言わざれども下(した)自(おのずか)ら蹊(けい)を成す」

dictionary.goo.ne.jp

元子「善く游(およ)ぐ者は溺れ、善く騎(の)る者は堕(お)つ」

kotobank.jp

元子「雨ニモマケズ 風ニモマケズ

雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ

ジョウブナカラダヲモチ 慾ハナク

決シテ瞋(いか)ラズ

イツモシヅカニワラッテヰ(い)ル

一日ニ玄米四合ト

味噌ト少シノ野菜ヲタベ

アラユルコトヲ

ジブンヲカンジョウニ入レズニ

ヨクミキキシワカリ

ソシテワスレズ

野原ノ松ノ林ノ蔭ノ

小サナ萓(かや)ブキノ小屋ニヰテ…」

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結構がっつりやるもんだね~。コミカルな音楽に金八の面接練習の回がふと浮かぶ。

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茶の間

涙ぐむ元子。

 

女子放送員になりたい元子の一念は見事2次試験も突破しました。

 

元子を取り囲む巳代子や順平も喜び、少し離れた場所で繕い物をしているトシ江やキンも嬉しそう。

 

彦造「ただいまでした」

トシ江「お帰りなさい。暑かったでしょ」

キン「行水にしますか、お湯に行きますか」

 

順平「あのね、お父ちゃん」

巳代子「お姉ちゃん、2次も受かったわよ」

 

何も言わずに奥へ行く宗俊。

 

元子「お父さん!」

彦造「大(でえ)丈夫ですよ。大将は一日、今日辺り通知が来るんじゃねえかって気にしっぱなしだったんだから」

元子「本当!?」

彦造「あっ! 今行っちゃいけねえよ、お嬢。今飛び込んだら、旦那ぁ体裁悪くてどなることしかできねえのが関の山だ」

元子「分かった!」

 

2階へ駆けあがる元子。「あんちゃん、お父さんも喜んでくれてるみたい! だってもう途中で駄目かと思ったけど、私、最後まで投げなかったんだもの…。そうよね、投げちゃいけないのよ。だから、あのこと私、思い切ってやってみるわ。待っててね」

 

夕方、茶の間

長火鉢を挟んで向かい合う元子と宗俊。

元子「お父さん」

宗俊「何でぇ、改まりやがって」

元子「おかげさまで第2次試験も合格いたしました。本当にありがとうございました」頭を下げる。

宗俊「何もおめえに礼を言われる覚えなんかねえや」

元子「ですから明日、私、あんちゃんとこに面会に行って、このこと報告してきたいんですけど」

 

宗俊「おう、面会なら俺が行く」

元子「だって、明日の日曜、お父さん、町内の防空演習でしょ。お父さんがいなけりゃ収まりがつかないわ」

宗俊「祭りじゃねえんだ。納めるみこしがあるわけじゃなし」

元子「けど、お父さんは班長さんでしょう」

宗俊「するってぇと何か、班長てのは兵隊に行った息子の面会に行っちゃいけねえってのか」

 

元子「そういうわけじゃないけど、いっぺんに行かないで入れ代わり立ち代わり誰かが元気な顔見せてた方があんちゃんだって、きっと喜ぶと思うのよ」

宗俊「だったらおめえが来週行けばいいじゃねえか」

元子「だから私は第2次試験の…」

宗俊「そんなことは俺の口から伝えてやりゃ、それで済むことだ」

元子「それじゃあ、かえってあんちゃんに心配かけるようなもんだわ」

宗俊「何でだよ」

元子「受かった本人が行かないのに、お父さん一人が受かった受かったってバカの一つ覚えみたいに言ってるとこを想像してみてよ」

宗俊「バカの一つ覚えだ?」

元子「いいえ、二つ覚えでもいいんだけど」

宗俊「何を?」

元子「さては落ちて元子のやつ顔見せられないんだって、あんちゃんがそう思い込むと思いませんか?」

宗俊「いや、だから、それはお前…」

 

元子「と、すればですよ。あんちゃんに信用してもらうためにはお父さんがこの合格通知を持っていくのが一番いいんです」

宗俊「そ…そうだよ、そのとおりだよ」

元子「けど、あいにくこの葉書は本人以外みだりに持ち歩いてはならないことになってる」

宗俊「な…何でだよ」

元子「そもそも放送とは公のものです。公の仕事とは国家的な仕事ということですからね。言いつけを破って持ち歩いてうっかりなくしでもしてごらんなさい。これは国家の機密を落としたということにもなるんです。そんなことしたら勇躍入営したあんちゃんの足を引(し)っ張る結果にもなるんだし、ここはやっぱり私が面会に行き、お父さんは銃後の父として息子に負けずに防空演習にまなじり決して取り組むのが一番いい方法ではないかと、ねえ」

あぜんとする宗俊。

元子「お父さんだって、そう思うわよねえ」

宗俊「ペラペラ、ペラペラよく回る舌だなぁ、おい」

元子「そりゃそうよ、今度の試験じゃ死に物狂いで猛勉強したんだもの」

宗俊「分かったよ」

元子「お茶…お父さん、はい」

 

この粘り、元子には何か考えがあるようですが…。

 

つづく

 

明日も

 このつづきを

  どうぞ……

 

こんな怒涛のセリフ量なのに何十秒か余ってる!

 

のぼる…満州出身。

恭子…横浜出身。

悦子…放送局の秘書。

雅美…関西出身。

 

カンカン出たね~。今度はピリッとしたカンカンっぽい感じの役だな。ああ、明日は「岸辺のアルバム」の再放送もある~。宗俊と堀先生を比べるのもまた楽し。

 

先週よりぐっと台詞の増えた元子。でも安定感あるよね。