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【ネタバレ】太陽の涙 #8

TBS 1972年1月25日

 

あらすじ

勉(小倉一郎)は悪い人間ではないが、どうにもひねくれている。しかし、それは勉の精いっぱいの甘え表現だった。そして、誰かに寄りかかり甘えたいのは、泰子(馬渕晴子)も同じだった……。

2024.3.28 BS松竹東急録画。

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人生には

奇妙な出合いがあります

いや 奇妙な出合いこそ

人生なのかもしれません

仕合わせも

不仕合わせも

の時静かに訪づれます

昼と夜のように

 

及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。

*

前田寿美子:山本陽子鉄板焼屋「しんさく」の娘。25歳。字幕緑。

*

池本良子(よしこ):沢田雅美…病院の売店の売り子。

及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。

*

井上はつ:菅井きん…そば屋「信濃路」の女将。

及川高行:長浜藤夫…正司の父。

*

堀:森野五郎…小川の向かいのベッドの入院患者。

板前:浅若芳太郎

医師:下小鶴英一

*

林:高木信夫…矢場の向かいのベッドの入院患者。

鈴木:渡辺紀行…小川の隣のベッドの入院患者。

田中:豊田広貴…鈴木の向かいのベッドの入院患者。

*

看護師:坂田多恵子

仲居:小峰陽子

ナレーター:矢島正明

*

宮沢泰子:馬渕晴子…正司の元婚約者。

*

前田新作:浜村純…寿美子の父。「しんさく」マスター。

*

小川:三島雅夫…1年半入院している病院の主。

 

はつのアパート

手馴れた様子でミシンをかけているはつ。古いドラマでよく見る黒いミシンだけど、足踏みじゃないんだね。

 

物音に気付いて玄関のドアを開けると高行だった。「お邪魔じゃなかったですか?」

はつ「いいえ。さあ、どうぞ」

高行「寝てるのかと思いましたよ」

 

店のほうに行った高行は、はつが風邪で休みだと聞いてきた。

はつ「そりゃ、まあすいません。あら、なんですか? それは」

高行「また不細工な物を作ったもんですからね」布巾?をとるとのり巻きだった。

はつ「おやおや、そりゃごちそうさま。さあ、どうぞ」

高行「他に能がないもんですからね」

 

玄関から部屋に移動するはつ。「いいえ。及川さんののり巻き寿司は、おいしいんですよ。酢加減が良くって。早速いただきましょう」

高行「ミシンをかけていたんですか?」

はつ「ええ。他にすることもありませんしね」

高行「いいんですか? 起きていて」

はつ「風邪なんて言い訳ですよ。ちょっと癇(かん)に障ることがありましてね。今日はわざと休んでやったんですよ」

 

高行「そうですか。多分、そんなことじゃないかと思いましたけどね」

はつ「情けない話ですよ。親のほうが嫁さんに気兼ねをして休まなきゃならないなんて。それも角が立たないように風邪を引いたなんてウソを言って。一体なんのために生きてきたのか分かりませんよ、この年まで」

高行「そうね。この世の中はさまざまですよ」

はつ「情けない話ですよ。昔はうちの息子だって、ああじゃなかったんですけどね。変わるもんですね。代が替わると親のことより自分の嫁さんや子供のことですからね。もうもう私なんて居場所はありませんよ」

高行「でも、ものは考えようですよ。狭い一軒のうちの中で孫のお守りに追われていてごらんなさい。それこそ居場所はないんだから」

はつ「そりゃまあ、そうかもしれないけど」高行にお茶を出す。

 

はつさんの暮らし、羨ましいけどなあ。1人暮らしする余裕があり、仕事も時々は休んでもよし。趣味のミシンをやったり、茶飲み友達もいる。妻子を優先する息子に育てたなら、それはそれで子育てがうまくいった証拠という気もする(橋田ドラマを思い浮かべながら)。何より自ら進んで別居を選んだんだからね。

 

はつは一緒にどうです?と誘う。もう食べてきた、ケンちゃんにも食べてもらおうとたくさん作ったと言う高行。

 

はつ「あの子も好きなんですよ。お父さんののり巻きが。さあ、どうぞ」

高行「じゃあ、ご相伴して」

はつ「正司さんもよっぽど好きなんですね、このお寿司が」

高行「あれはもう、何を作ったって、おいしいおいしいって」

はつ「そりゃまあそうですよ。こう言っちゃなんですけど、お父さんが不器用な手つきで作るんですもの」

高行「いやいや、これだけは得意中の得意ですからね」

笑うはつと高行。

 

この2人の笑いには心が遊ぶような楽しさがあります。そして、この日常の中の断片に実は人々が求めるもの幸せの本質を垣間見ることができるのです。

 

高行は正司が寝つかれないと12時ちょっと前まで出かけていたことをはつに話した。高行も気になって眠れなかったが、早起きしてのり巻きを作って、勉のお見舞いに行く正司に届けてもらった。

 

はつは昨日、ケーキやチョコレートを誰にもらったのか言っていなかったかと聞いた。

 

はつ「じゃあ、お父さんには話さなかったんですよ。やっぱりてれくさいんですよ。それがね、とってもステキな人なんですって。初めて会ったとか、あの、タクシー一緒に乗ったとか言ってましたよ」

高行「そんなことがあったんですか」

はつ「それですよ、眠れなかったのは。ポーっとしてましたからね。ロマンチックな顔をして。やっぱりお嫁さんをもらわなきゃダメですよ。もう年頃はとっくに過ぎてるんですもの」

 

病院の廊下を歩く正司と勉。初2ショット! 

勉「よそうよ、売店行くの」

正司「どうして?」

勉「うるさいよ、あの女の子は。また余計な口を出すに決まってんだ。どっかそこらに掛ければいいよ」

正司「あの子とケンカしたのか?」

勉「ケンカ?」

正司「信濃路の奥さんがそう言ってたよ」

勉「またそんなこと言う。余計なおせっかいもいいとこだよ」

正司「だって、あの子が泣きそうな顔をして…」

勉「そんなことは向こうの勝手だよ。泣きたくもなるんだろ。年頃だもん。泣きたいのはこっちのほうですよ」

 

こんな具合ですからいつも泣きたくなるのは正司のほうです。でも、正司は知っていたのです。弟が甘えることのできるのは自分だけだということを。

 

売店

小川「ああ、ん~ん、甘いこと甘いこと。ん~、フフッ。ほっぺたが落ちそうだ」

良子「そんな物、落っことされたらかなわないわ」

2人で笑う。

良子「大体ね、大げさよ、おじさんは」

小川「うん?」

良子「口が曲がるだの、ほっぺたが落ちそうだの」

 

小川「でもね、私、ホントにありがたいと思ってるんですよ。こんな冷たい浮世に、あんたみたいないい人が他にいるもんですか。お茶だけだってありがたいのに。あっ…もし、あれじゃないんでしょうね? 私みたいなのがしょっちゅうここへ来てると損しちゃうんじゃないんでしょうね?」

良子「いいのよ。そんなこと気にしなくたって。みたいな人は1人だけですからね」

小川「だから、もうお菓子はいいんですよ。お茶だけもらえればね」

良子「そんなわけにいくもんですか。お小遣いが入るの月初めだけなんでしょ?」

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小川さんは生活保護受給者。

 

小川「そうなんですよ」

良子「早くベニスにいる息子さんが迎えに来てくれなきゃダメね」

小川「そう。ホントにね」

 

良子は客が来たので席を立った。

 

それを言われるのが一番つらいのです。でも、今更ウソだとは言えなかったし、実はそのウソを本当のようにしてくれた、あの一枚の絵葉書の人をこの小川さんは一日千秋の思いでもう一度会いたいと思っているのです。

 

接客を終えた良子に「よっちゃん」と話しかける小川。

良子「えっ? お茶ですか?」

小川「いいえ。ごちそうさま。もうたくさん」

良子「じゃ、病室のほうへ帰って寝たほうがいいわね。やっぱり病人なんだから」

 

小川「あの人のことなんだけどね、見なかったかしら? もうとっくに帰ってきてるはずなんだけど」

良子「誰よ? あの人って」

小川「ほら、あの人。もうずっと前になるけども、ここに掛けてさ、いなり寿司を食べてた」

良子「いなり寿司食べてく人は何人でもいるわよ」

小川「だけどね、ほら、あの…あした、ヨーロッパへ行くって言ってたでしょうが…ねえ。スッキリしたいい男で目のきれいな」

良子「さあ、そんな人いたかしら?」

 

小川「ダメだな、あんたは。あんないい顔をした男を忘れちまうんだから。そんなこっちゃ恋愛なんかできませんよ」←これは今ならセクハラ?

良子「まあ、厚かましい。タダでお茶を何杯も何杯も飲んで、その上、お茶菓子までごちそうしたのに」←この時代だって怒ってるんだからセクハラ。

小川「ああ、いえ…怒っちゃ困るんですよ。だって、あれでしょ? あんただって年頃だし」

良子「大きなお世話。好きな人ぐらいちゃんといますよ」

小川「まあまあ、そりゃ、まあ、いるでしょうけどね」

 

良子「あっ、そうか…あの人のことね?」

小川「そうそう。その人のこと」

 

良子は初めから正司のことだと知っていたのです。でも、ベニスからの絵葉書のウソを知っていて知らない顔で通すには、そのとき、とっさにとぼけてみようと思ったのです。でも、それは罪なことです。彼女にはダメでした。

 

小川「えっ? 昨日、来たんですか?」

良子「もしかしたら今日も来るかな」

小川「今日もですか? 来るんですか? あの人が」

良子「だけど、ここに寄るとは限らないのよ。もうとっくに来て帰っちゃったのかもしれないし」

小川「ああ、そうか…」

 

良子「会いたいの? あの人に」

小川「うん? まあまあ、ちょっとね」

良子「なんか用があんの?」

小川「いや、いや、いや。用じゃないけど、あっ…すまないけど、あの…お茶…」

良子「あら、まだ飲むの?」

小川「すいませんね、どうも」

良子「いいわ、いくら飲んだって。入れ替えてあげるわね」

 

看護師「小川さん、ダメですよ。早く来なきゃ。もうすぐ回診ですよ」

 

この看護師さんが坂田多恵子さんかな? 小峰陽子さんと同じように若く美しい女性で木下恵介アワーの常連。坂田多恵子さんは「あしたからの恋」でも看護師だったから、同じ病院で働いてるのね。「思い橋」では2人とも北さんの同僚社員。

 

小川「ああ、そうだ。すいません、すいません」立ち上がる。

良子「じゃ、お茶はいいのね?」

小川「うん…お茶はいいけど…」

良子「分かってるわよ。あの人が来たら教えてあげればいいんでしょ?」

小川「お願いしますよね」

 

良子「ハァ…」

 

良子の吐息にはいろんな意味があったのです。ベニスにいるはずもない息子をいると言わなければならない人のその深い悲しさや、よく考えてみれば自分だって似たようなものではないのかと。人はその人の心に入ってみないと分かりません。実は、この良子も決して幸せとは言えなかったのです。

 

毎回微妙に違う貼り紙

稲荷すし 1皿 ¥60

 

おにぎり 1個 ¥30

せきはん 1皿 ¥70

 

カウンターの隅で自作のお弁当を食べ始める良子。

 

勉「なんだ。いないのかと思ったら」

良子「いたって、いないわ。あんたなんか」

勉「そうズケズケ言うなよ。兄貴ならいい顔するくせに」

良子「ええ、するわ。お客様の質が違いますからね」

勉「そうガツガツ食べるなったら」

良子「うるさい人ね。コーヒーなんてないわよ。角砂糖がないんだから」

勉「いいよ、砂糖なしで。ゆっくり食べなよね。待ってるからさ」

 

良子「あんたね、何が良くて、こんな店へ来んの? 角砂糖はないし、角張った私しかいないのよ。あんたなんかとしゃべってたら丸くはなれないんですからね」

勉「いいよ、いいよ、それで。別にどうってことはないんだからさ」

良子「当たり前よ。あんたなんかとね、どうかあってたまるもんですか」

勉「ハハハッ、とにかくコーヒーをね」

良子「角砂糖なんてね、あったってないんですからね。値段は一緒ですからね。もういつも捨てるみたいに入れてんだから」

勉「そうそう。たまには元を取りなよ。大変だよ、君だって。よく働く、まったく。感心しちゃうよ。こういう人のことを世間じゃいい娘さんって言うんじゃないのかな」

 

勉の後ろの壁

 

おいしい

ミルクコーヒー ¥80

 

あたたかい…までしか見えなかった。

 

良子「おあいにくさま。あんたなんかに褒められるようになったらおしまいよ」

勉「そうでもないだろ? 内心うれしいんじゃないの?」

良子「トンチンカンもいいとこ。人のことよりね、自分はなんて言われてるか聞いてごらんなさい、人に」

勉「ダメだよ、そりゃ。絶望的だよ」

良子「それが絶望的な顔ですか。はい、どうぞ」コーヒーを出す。

 

勉「ありがとう。じゃ、まんじゅう1つもらおうか」

良子「まんじゅうを食べんの? あんたが」

勉「ああ、食べるよ。このコーヒー砂糖がないんだろ?」

良子「あきれた人」

勉「甘い物(もん)に飢えてんだよな。やっぱり甘さがないとダメだな、人生は」

 

トングでつかんだまんじゅうを渡す良子。「はい。あんたの人生なんて、おしくらまんじゅうでしょう? 何を言ったってダメなんだから」

勉「そうでもないよ。こうすれば…」ティースプーンでまんじゅうからあんこをすくってコーヒーに入れ始める。

良子「何すんの? あんたは」

 

病室

医師「脈も正常だし、別に悪いとこないみたいなんだけどなあ」

小川「そうなんですよ。今日みたいに心臓のドキドキしない日は、とてもいいんですけどね。どうなのかな? こりゃ。あの…今朝なんかね、脇の下に汗かいてんですよ。額に触るとヒンヤリしてましてね」

医師「血圧測ってみようかな」

看護師「はい」

小川「いや、血圧よりもなんですよ。先生ね、あの…このごろ胃のこの辺がおかしくってね」

医師「おかしいって、どういうふうに?」

小川「さあ…なんてったらいいのかな? ちょっとこう張ってるみたいな」

 

小川のベッドの後ろの壁に貼られたカレンダー?の25は放送日の1972年1月25日かな。「人の欠点を指摘する前に…人の長所を見出そう」と格言?が書かれている。

 

林「食べすぎじゃないのかな? よく売店行くから」

田中や鈴木が笑い、堀はムッとしている。矢場のベッドの位置に鈴木が移動している。

 

小川「とんでもない。どうして私にそんなお金があるんですか?」

看護師「さあさあ、寝てくださいよ」

小川「いつだってこれですからね、先生。血圧だってね、上がったり下がったりしますよ」

 

多分、今日のキャストクレジットの下小鶴(”しもこづる”と読むそうです)英一さんはこのお医者さんだよね。名前で検索したらある学校のPTA会長をしていたらしい。

 

矢場がいなくなっても、矢場にいつも同調していた林がからかうようになったんだね。

 

売店

お弁当を食べている良子。

勉「強情だな。寿司持ってきてやるって言ってんのに」

良子「あんたね、せっかくお兄さん持ってきてくれたんでしょ? どうして人のことより自分で食べないのよ? まんじゅうだの砂糖なしのコーヒーだのって。気が知れないわよ、あんたのすること」

勉「食べたくないね。親父のわざとらしい愛情なんて」

良子「かわいそうな人ね、あんたって。そこまでひねくれないと生きたような気がしないの?」

勉「まあ、そういうことになるかな」

 

良子「だからって、ちっとも自分は得をしないのに」

勉「損得の問題じゃないんだよ」

良子「じゃ、何よ? あんたが欲しいものは」

勉「だから何度も言ってるでしょ? 甘さだよな。ほんのちょっとでいいんだぜ。君がニッコリしてくれたって。それだけでいいんだよ」

良子「バカバカしい。あんたと話してんと口がくたびれるだけ。もう黙っててちょうだい」

 

勉「そうそう。面白い話、してやろうか?」奥の席からカウンターにいる良子の近くまで寄ってくる。そっぽを向く良子。

 

勉「兄貴がね、恋愛したんだよ。1年ぐらい前だったかな? それは結局ダメ。失恋なんだ」

良子「バカね、あんた。どうしてそういう話が面白いの?」

勉「そうだな。面白がっちゃ悪(わり)いよな」

良子「情けない人。あんたなんてお茶1杯出すのヤだわ」

 

勉「ほら、兄貴のことだとすぐそういうふうにムキになるだろ?」

良子「なるわよ。あんまりお兄さん、かわいそうですもん」

勉「そうそう。こんな弟のために縁談は壊れちゃうし。ついこの間もあったんだ。兄貴がヨーロッパに行ってる留守に。俺だって腹が立ったよ、しゃくだよ、あの女」

 

鉄板焼屋「しんさく」

相変わらず忙しい店内。店から厨房に入って注文を通す寿美子。

新作「少し代わりなさいよ、疲れたよ」

寿美子「いいんですよ。まだそんな年じゃないんでしょ?」

新作「年じゃないって、お前…」

寿美子「頑張らないと老い込むんですよ。ほら、上がったじゃないの」出来上がった料理を持っていく。

 

新作「おい、寿美子。代わりなさいよ、お前は」

 

店内へ注文された料理を運ぶ寿美子を見た新作は「どういうんだよ、寿美子は。急に店へなんか出て」と不思議がる。浜村純さんは長身で作業しづらそう。台が低い。

 

板前「マスターも気がもめますね」

新作「そうなんだよ」

板前「一体どういう風向きなんですか? 寿美子さんは」

新作「多分、あれじゃないかと思うんだよ。原因は昨日なんだ、きっと」

板前「昨日、何があったんですか?」

新作「どうもそうらしいんだよね。いい男だとかなんとか言ってたから」

板前「おやおや。そんないい話なんですか」

新作「いや、良くはないんですよ、それが」

 

寿美子「お父さん、ぼさぼさしてちゃダメよ」

新作「ぼさぼさなんかしてないよ」

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「おやじ太鼓」でも亀次郎が「ボサボサしてんな」って言ってた。

 

疲れた寿美子は厨房の椅子に掛けてメモを取る。急に店に出るからだと言う新作。

寿美子「2人も風邪で休んじゃったでしょ。しょうがないじゃないの」

新作「風邪をひいたのはお前のほうだろ」

寿美子「ひきませんよ、風邪なんか」

新作「恋の風邪ですよ」

寿美子「あら、おかしい」

新作「何がおかしいんだ?」

寿美子「そんな古風な言い方って、近頃聞いたことがないわ」

新作「聞いたことがなくたって、そうとしか思えませんよ」

寿美子「そんなことより伝票通さなくていいの?」

 

板前に注文の鯛茶とのり茶1人前ずつを伝える新作。出来上がった料理を5番テーブルへ運んで行く寿美子。

 

恋の風邪とはうまいことを言ったものです。確かに風邪は思いがけないときにひきます。そして、熱が出るのですから。

 

なるほど~♪

 

しかし、そのころ、正司は泰子に呼び出されて会っていたのです。

 

茶店

泰子「ごめんなさい。また呼び出してしまって」

正司「今日とあしたは休みなんだから。ホントは会社へ行かなかったんだけどね」

泰子「じゃ、ちょうどいいときに電話かけたんだわ。まさかアパートにはかけられないでしょ?」

 

店員がコーヒーを運んでくると、何も言わずに正司のコーヒーに砂糖を入れる泰子。自身のコーヒーにはミルクを入れてかき混ぜる。

 

正司「こんなことをはっきり言いたくはないけど、君、あれだよ。アパートもそうだけど、会社へも電話なんかかけてよこしちゃいけないんだ。君だって分かってるのに」

泰子「そう、分かってるわ」

正司「それを言いたくて来たんだからね、僕は」

泰子「そうね。それが当たり前ですものね」

正司「君はどうか知らないけど、僕はやっと忘れかけていたんだからね」

泰子「すいません。私ってほんとバカ。あれからすぐに結婚してしまって、それからまたこうですもんね」

正司「とにかく昔のことは忘れたいよ。僕たちはお互いにさっぱり割り切って別れたんだし、それからあと、君が何をしたって、それはもう僕には関係のないことだよ」

 

店員がテーブルに伝票を置く。

 

泰子「ローマで会わなければよかったのね。偶然ばったり会ってしまったもんだから、私、どういうわけだか、まだあなたに会ってもいいような気がして」

正司「そういうのを運命のいたずらっていうんだよ」

泰子「そう。ホントにそうだわ。あのとき、お会いしなかったら、とても私だって電話なんかかけられなかったわ」

 

正司「これは余計なことだけど、もう一度スペインへ帰ったらどうだろう?」

泰子「イヤです、それだけは」

正司「そう。じゃあ、まあ、しかたがないけど。だからって僕がこれからの君の身の上を心配してあげる義務はないからね」

 

泰子「もうなんにもないのね。私とあなたの間には」

正司「そう。なんにもないよ。あったらおかしなもんだ」

 

泰子「友達としてもダメかしら?」

正司「ダメに決まってるじゃないか。僕たちは友達だったことは一度もないんだもの。今更、間の抜けたことを言っちゃ困るよ。さあ、帰ろうか」

 

美男子の毅然とした態度、すてき。

 

ローマで出合った運命のいたずら。しかし、奇妙な出合いはもう一度あるのです。

 

タクシーに乗っていた寿美子は喫茶店から出てきた正司を発見した。「あっ、あの人、あの人! あんなとこにいるんだもの」

新作「えっ? 何があの人だ?」

寿美子「あの人がいたのよ。昨日ケーキをあげた人」

新作「えっ!? じゃあ、すぐにこの車を止めりゃよかったじゃないか」

 

とてもきれいな女の人と一緒だったとションボリする寿美子。新作は一緒だってかまわないから名前や住所を聞けばいいと言うが、寿美子はうちの店のことは言ってるし、来てくれる気持ちがあったら来てくれるという。

 

狸穴マンション近くの電柱の看板に”タヤマトシコ”。電柱に個人名?が書かれているのを初めて見た。

 

カタカナで”マミアナ”と書かれた看板が立ってる。

 

マンションへ入ってきた新作と寿美子。

新作「しかし、惜しいことしたな」

寿美子「縁があるんなら、また会うでしょ」

 

エレベーターは最上階の10階へ。

寿美子「あっ、いいんですよ。お父さんまでついてこなくったって」

新作「そうはいきませんよ」

寿美子「ちっとも人の気持ちなんか分からないくせに」

新作「分かってますよ」

寿美子が屋上のドアを開ける。

 

新作「寒いじゃないか。本物の風邪をひいたらどうするんだ?」

寿美子「とっくにひいてますよ」手すりのあるまで歩く。

新作「そうか。そっちのほうが本物の風邪か」

 

寿美子「ねえ、お父さん…」

新作「なんだ、そんな情けない顔をして」

寿美子「私、どうかしてるのかしら?」

新作「そりゃまあ普通じゃないよ」

寿美子「ねえ、どうしたらいいの?」

新作「さあ、知らないな。そんなこと」

寿美子「じゃ、ちっとも人の気持ちなんか分かっちゃいないじゃないの」

 

新作「分かってますよ。六本木の交差点の近くだろ? それならあっちだよ、ほら。もっとも空を見たってしょうがないけど」

寿美子「どうしてあんなとこにいたのかしら?」結局部屋に戻る。

 

この東京の空の下には1140万人ぐらいの人々が喜怒哀楽を生きています。そして、その仲で巡り合った正司と寿美子でした。しかも、2人のための縁談はとっくに用意されていたのに。思えば残念な成り行きでした。

 

狸穴マンション屋上から当時の東京の風景が映される。(つづく)

 

今日のテーマは”風邪”!?

 

勉はやたらと良子に対して上から目線であれこれ言うのがイヤだね~。

【ネタバレ】太陽の涙 #7

TBS 1972年1月18日

 

あらすじ

名前も住まいも聞かなかった正司(加藤剛)と寿美子(山本陽子)だが、寿美子は一目会って正司に引き付けられ、その日一日何も手につかなかった。一方、正司は病身の父や勉(小倉一郎)のことを考え気が重い。

2024.3.27 BS松竹東急録画。

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人生には

奇妙な出合いがあります

いや 奇妙な出合いこそ

人生なのかもしれません

何故なら

の人と会った事が

あなたの一生を決めるからです

 

及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。

*

前田寿美子:山本陽子鉄板焼屋「しんさく」の娘。25歳。字幕緑。

*

池本良子(よしこ):沢田雅美…病院の売店の売り子。

及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。

*

井上はつ:菅井きん…そば屋「信濃路」の女将。

ケン坊:鍋谷孝喜…「信濃路」店員。

*

仲居:小峰陽子

板前:大西千尋

ナレーター:矢島正明

*

前田新作:浜村純…寿美子の父。「しんさく」マスター。

 

オープニングの女声コーラスバージョン?の♪ラ~ラ~ラララ~が爽やかで好き。

 

この東京という大都会には1140万人ぐらいの人々が喜怒哀楽を生きています。そして、その人々が求めるもの、それは幸せです。でも、幸せはどこから来るのでしょう。

www2.fgn.jp

1970年が1140万人で2020年が1404万人。

 

タクシーの後部座席に並んで座っている正司と寿美子。

 

この2人は1140万人の中で巡り合った1人の男性と1人の女性です。では、なぜこの2人は巡り合ったのでしょう。いえ、巡り合うということが人生の全てなのかもしれないのです。ただし、求める幸せが訪れるかどうかは別ですが。そのとき、2人は次第に息苦しくなっていました。つまり、2人の中で何かが起ころうとしていたのです。

 

タクシーの初乗り料金は130円。

 

寿美子「あの…」

正司「はっ?」

寿美子「やっぱりお見舞いですか? どなたかお悪くて」

正司「いえ、大したことはないんです。ほんのちょっと軽いケガで」

寿美子「そうですか。それならまあよかったですね」

 

正司「あなたもお見舞いですか?」

寿美子「ええ。そのつもりだったんですけど、もうどうでもいいんです」

正司「そうですか。それ、あの売店でお買いになったんですね」

寿美子「ええ。手ぶらで行きましたから。お見舞いのつもりだったんですけど」

正司「あげるのをやめたんですか?」

寿美子「いえ、いなかったんですよ。せっかく行ったのに」

正司「おやおや」

寿美子「とんだ無駄遣いですわ」

正司「1000円でしたね」

顔を見合わせて笑う。

 

寿美子「ホントはお見舞いに行く義理なんてないんですもの。いなくてよかったんですわ」

正司「そうですか。義理はつらいですからね」

寿美子「ああ、そうだ。おたくにはお子さんおありですか?」

正司「えっ? 僕にですか?」

寿美子「失礼ですけど、これお持ちになっていただけないかと思って」

正司「とんでもない。僕はまだ独りですよ」

寿美子「あら…」←嬉しそう

 

正司「てんでダメなんだな、僕なんて」

寿美子「いえ、とんでもない。どうぞこれ召し上がってください」

正司「僕がですか?」

寿美子「どうぞ失礼ですけど」

正司「困っちゃうな」

寿美子「あんな売店のですもの。おいしくはないでしょうけど」←あんな、って(^-^;

正司「いやいや、あの売店の物はおいしいんですよ。特にいなり寿司なんてね。それにあの娘さんでしょう。いいですよ、あの娘さんは。今度行ったらあなたもいなり寿司を食べるんですね」

寿美子「はあ」

 

正司「それはそうと赤坂のどの辺ですか?」

寿美子「一ツ木通りでいいんですけど」

正司「運転手さん、一ツ木通りね」

www.hitotsugi.jp

正司の話し方が「3人家族」の雄一のときの竹脇無我さんみたいだな~。竹脇無我さんもこういう役似合いそう。

 

鉄板焼屋「しんさく」

新作も前掛けをあて厨房で手伝い。そこに寿美子がやって来た。「どこ行ってたんだよ? お昼の忙しいときにもいなかったし」

寿美子「すいません。ちょっとあっちこっち」

新作「信濃路のおばちゃんとこへかけたら、もうとっくに帰ったって言うし」

寿美子「それがね、お父さん…ちょっとお茶を1杯飲むわね」

新作「また何かあったの?」

寿美子「あったみたいだけど、それが変ね。私、ポーっとしてるのかしら?」

新作「へっ? ポーっとした?」

寿美子「そうらしいわ、どうも」

新作「おい、こら。あっちこっち出歩くのはいいけど、ポーとしちゃ困るよ」

 

注文が来て、品物が出来て、新作も再び手伝う。2話、4話、そして今回にも名前のある大西千尋さんって何の役?と思ってたけど、何人かいる板前の一人かも? なぜか女性だと思い込んでた。

 

お茶を飲んで、ため息をつく寿美子。

新作「どうしたんだよ? 一体。この忙しいさなかに吐息なんかして」

寿美子「私ね、病院へ行ったの」

なぜか焦る新作。「冗談じゃないよ。ちょっと来なさい、ちょっと」と厨房から控室?に連れ出す。

 

寿美子「何を慌ててるの? お父さんったら」

新作「バカ。慌てない親がありますか。お前、まさか…あれじゃないだろうね?」

寿美子「何よ? あれって」

新作「いや、あれっていうのはあれだよ。ポーっとしたり気になったり、その上、病院へ行かれて慌てない親がありますか」

寿美子「ハハッ。何言ってるの? そそっかしいにも程があるわ」

新作「そそっかしいのはお前のほうでしょ」

寿美子「私はただ病院へ行っただけよ」

新作「こら。大きな声で言うんじゃないよ。みんなに聞かれたらどうするんだよ」

寿美子「ヤなこと言うのね、お父さんったら」

新作「イヤなことだって言わなきゃ心配でしょうがないよ、ホントに」

 

寿美子「あの子に会いに行ったんですよ、私は」

勉だと知り、安堵する新作。

寿美子「早とちりまでおばちゃんそっくり」

新作「とちらせるんだよ、お前のほうが。ああ、びっくりした」

 

新作もはつも突き飛ばした寿美子のほうが悪いみたいに言うので気になって見に行った。いつまでもこんな所にいるとみんなが変に思っちゃうからと部屋を出ようとした新作だが「だけどだよ、寿美子。やっぱり気になるな。その子がいなかったのにどうしてポーっとしちゃったの?」

 

寿美子「それがこうなの。私、手ぶらで行ったでしょ? だから、病院の売店でお見舞いを買ったの」

新作「それはいいだろ。そのほうが」

寿美子「そのときよね…」うっとり顔。まあいいわとケーキを5つ、チョコレートとキャンディをちょうど1000円買った。

新作「1000円なら安いよ」

 

しかし、不良少年は勝手に出歩いていなかった。看護婦もプリプリ言っていた。

寿美子「それをいい縁談だなんて」

新作「それはもういいんだよ」と先を促す。

 

寿美子「それがこうなの。いなかったでしょ? その子が」

新作「じれったいね。お前の話し方は」←これがしばらく続きます。

 

お菓子は不良少年がいなかったので、そんな子に置いてきても無駄なので持って帰ることにした。新作に持っていなかったじゃないかとツッコまれる。

寿美子「そうなの。もっといいお菓子を2000~3000円買っていけばよかったんだけど…」またうっとり顔。

 

寿美子「その帰りよ」

新作「じれったいよ、お前の話は」

 

話には順序があると言いながら、「だから分からなくなっちゃったの」と話す寿美子。

新作「あきれたもんだ。分からないのはお父さんのほうですよ」

 

寿美子は言うに言えないこともある、ポーっとしちゃったと要領を得ない。

新作「ポーっとしちゃうよ、こっちだって」

ニッコリ笑う寿美子。かなりもどかしい会話。

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再登場した初ちゃんを思い出した。木下恵介名物なのかもしれない。

 

そば屋「信濃路」

ケン坊「あっ、いらっしゃい」

正司「奥さんいる?」

ケン坊「いますよ。女将さん! 及川さん」

はつ「おや、今日は早いんですね」

正司「ちょっと報告に行っただけだから」あしたとあさっては休み。

はつ「そうなの? あっ、それもそうね。大勢連れて外国旅行じゃ疲れるでしょう」

 

天ぷらそばを注文し、電話を借りる正司。

はつ「あっ、いいのよ。お金なんか入れなくったって」

正司「でも…まあね」

はつ「なんだか悪いみたい」

正司「僕の性分だもの」

はつ「損な性分」

 

家に電話をかけた正司は、信濃路にいることを話し、天ぷらそばをうちへ持ってきてもらいましょうか?と聞いた。「どうして? 食べればいいのに」

 

天ぷらそばを食べる正司の向かい側に掛けるはつ。「困った弟よね。昨日の夜、あんたが帰ってくることを知ってるんですもの。それなら今日必ずあんたが行きますよ。それをわざとのようにどっかへ遊びに出ちゃうなんて」

正司「僕もまさか外へ出ていくとは思わなかったから」

はつ「そうよ。それをちょいちょい出かけてしまうんだから」

正司「あした電話をしておきますよ」

はつ「あれ? もしかしたらまたあそこ行ったんじゃないかな?」

 

はつが以前行ったときに変な友達が来ていて、その辺に何か食べに行こうと誘っていた。正司もまた売店の女の子からその話を聞いた。

 

はつ「その売店の女の子よ。私がこの前行ったでしょ? そのとき、ちょうど売店の前を通りかかったら、その女の子が泣きそうな顔して飛び出してきたじゃないの。まったく何をしたのか、何を言ったんだか。あの勉ちゃんときたら、ホントに油断も隙もないんだから」

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正司「そんなことがあったの?」

はつ「それでもね、あれでなかなかいいとこがあるんですよ。それには私も感心しちゃったの。とにかくやっぱり兄弟ですよ。だから、悪くばっかりも言えないのよね」

正司「へえ、何があったんだろう?」

はつ「いいえ、あったりなかったりでね。いいこともあれば悪いとこもあるんですよ。でも、あれですよね。病院にいる間はいいけど、また出てきたら心配よね?」

正司「いや出てきてからならまだいいけど、まさか病院の中にいて変なことになると…」

はつ「そうそう。その売店の女の子だって何かあったか何を言ったか、どうも変だったのよ」

 

正司「そういえばね、奥さん…」

はつ「ねえ、正司さん」

正司「えっ? なんです?」

 

はつは、奥さんっていうのやめてちょうだいよと頼む。変、水くさい。そば屋の女将さんが何が奥さんだと言う。「おばちゃんでいいのよ」

正司「でもさ…」

はつ「でも、じゃないの。これからはおばちゃん」

正司「ハッ。困っちゃうな、こりゃ」

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黒田からおばちゃん呼びされるのを嫌がっていたお敏さんが…( ´艸`)

 

はつは正司が言いかけたことを改めて聞く。

正司「あっ、そうそう。あのね、奥さん…」

はつ「奥さんじゃないったら。おばちゃんですよ」

正司「とにかく今日、病院へ行った帰りだけどね。ちょっとステキな人に会っちゃってね」

はつ「まあ、そりゃいいじゃないの」

正司「いや。いいにも悪いにも、ただ会っただけだから」

 

はつ「でも、女の人でしょ? その人」←今はこの質問、アウト?

正司「そりゃそうですよ、もちろん」

はつ「きれいだった? その人が」

正司「そう、まあね」

はつ「何がまあねよ。それでどうしたの? その人と」

 

正司「これをもらっちゃったんですよ」

はつ「あら…まあ、もうもらっちゃったの?」←もう!?

正司「ただそれだけだけどね」

はつ「何がただよ」

正司「だってホントにそれだけだもの」

はつ「そうかしら? 初めて会って、もうそんな物もらっちゃうなんて」

 

正司「それがね…」

はつ「何もらっちゃったの?」

正司「ケーキとチョコレートとキャンデー。奥さんもあがってくださいよ」

はつ「いいの、いいの。それよりお父さんに持ってってあげたほうがいいわ」

正司「でもケーキが5つもあるんだから」包装紙を広げる。「そうだ、ケンちゃん、君も1つ食べてよ」

ケン坊「どうもすいません」

正司「お皿をね」

はつ「いいのに。そんなことしなくたって」

正司「もらい物だもの。それに気は心っていうでしょ?」

ケン坊「(皿を持ってきて)はい。わあ、おいしそうですね」

正司「そりゃね。くれた人がいいもの」←(≧∇≦)

はつ「まあ…」

正司「これは奥さんにだよ」

ケン坊「あっ、すいません、どうも」

 

100円のショートケーキ×5+チョコレート、キャンディーなのかな? いや、ケーキはもっと高いかな?

 

はつ「ねえ、正司さん。まあ、その人のことはあんまり聞かないけど」

正司「そりゃそうですよ。僕だってタクシーが拾えなくて、ついその人と同じ方向だったもんだから一緒に乗っただけですからね」

はつ「いいのよ、それは。そういうことだってなきゃ面白かないわよ。まだ若いんだし、男前だし」

正司「男前は余計だな」

はつ「いいえ。めったにない男前ですよ」←ホントホント

 

正司「ケンちゃん、すまないけど、お茶をね」

ケン坊「はい」

 

はつ「まあ、聞きなさいったら…」

正司「ええ、聞きますよ。なんです?」

はつ「これだけは言っておきたいの。余計なことだけどね、これだけはね」

正司「深刻な話ですか?」

はつ「そうよ、深刻よ」

 

お茶を注いでいるケン坊。「はやらないけどな、深刻な話は」

はつ「うるさいよ、お前は」

 

はつは正司を自分のアパートに連れて行く。お茶はもういいと言われ、こたつに入って話し始める。「実はね、こんなこと言わないでおこうかと思ったけど、でも、あとあとのこともあるし、やっぱり言っといたほうがいいかと思って」

正司「どうぞ。かまいませんよ」

 

高行とも話し合って、正司には内緒にしとこうかと思っていたが、実は正司にお嫁さんをお世話しようと思って、出過ぎたことをしてしまったと話すはつ。ダメな理由の一つは、正司が外国ばかり行っている。もっと若い人とか、もうとっくに奥さんのある人なら別だが正司も33歳。

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正司「あと3か月で4ですよ」

 

1938年4月生まれかな。昭和13年、寅年。「たんとんとん」の新さんと大して変わりないんだな。

 

はつ「だからね、その年で独り者(もん)で、それにとびきり上等のスマートでしょう。そんな人がしょっちゅう外国ばっかり行っていて、とても堅い人のわけがないって言うんですよ。そんなバカな言い方ってないと思うんですけどね」

正司「いや、そんなふうに思われてもしかたがないのかな」

 

はつ「だから、それが言いたかったんですよ。さっき、とってもきれいな人に会ったって言ったでしょ? ケーキやチョコレートまでもらっちゃって」

正司「関係ないんですよ、そんなこととは」

はつ「いいえ、あるの」

正司「ハッ…そうかな」

はつ「つまり、私が言いたいのはね、どんなにあなたが気に入った人に巡り合ってもよ、決して一番先にしょっちゅう外国へ行ってるなんて言っちゃダメなんですよ」

正司「なんだ、そんなお話ですか」

はつ「ところがそういうとこが大事なんですよ、女にとっては」

 

正司「でも、ウソは言えませんからね」

はつ「ウソを言わなくたっていいじゃないの。ただね、向こうの人が正司さんを好きになるまでは言わないほうがいいのよ。だって好きになってしまえば分かりますよ。あなたがそんないいかんげんな男じゃないってことが」

正司「大丈夫、大丈夫。そんな女性はめったに現れませんよ」

はつ「現れたじゃないのよ。現に今さっき、あんなケーキやチョコレートもらってきたんですもの」

正司「でも、あの人とは偶然だからな」

はつ「その偶然が恋になるんですよ。私なんてひどい偶然でしたよ」

ニッコリ笑顔を向ける正司。ステキ。

 

売店

奥の席でコーヒーを飲む勉。「ねえ、こういう商売してると儲かるの?」

良子「そりゃいくらかね。でも大したことないわ」

勉「だけどさ、一度聞いてみたいと思ってたんだけど平気かな? 君は」

良子「何が平気よ?」

 

勉「つまんないだろう? 君みたいな若い子が一日こんなとこにいてさ。よくおとなしく我慢できるよな。それに大したことないんじゃ、つまらないじゃないか」

良子「つまんなくたってしょうがないでしょ。そういうふうになっちゃったんだから」

勉「よしなよ。こんな店おっぽり出しちゃってさ、どんどん好きなとこに出てくんだよ。大体、病院の中なんて陰気臭いよ。若い女の子のいるとこじゃないよ」

良子「いるとこじゃなくたってしょうがないでしょ」

勉「いっぱいあるよ、面白い所が。青春は二度ないんだぜ。チャカスカやっちゃったほうが得だよ。かわいそうだよ、君が」

良子「大きなお世話。何さ、自分だってジャカスカ、ケンカするぐらいしか能がないくせに」

 

勉「フン、大体、君はね…」

良子「結構ですよ。不良のチンピラになんかとやかく言われることないわ」

勉「言ってくれんのは俺ぐらいしかないじゃないか」

良子「しょってんだから始末悪いわね。人に言いたかったらね、ちゃんと自分一人で歩いたらどうなの? 松葉杖にすがってるくせに。それもよ、まだその松葉杖ならいいわよ。あんたなんてね、お兄さんにすがってなかったら生きていけないんでしょ?」

勉「言うこと言うこと」

 

良子「当たり前よ。少しはお兄さんの身にもなってみるといいのよ」

勉「おや、そうなの?」

良子「何がそうなのよ?」

勉「そうか。なるほどな」

良子「何言ってんの? 分かったような顔して」

勉「やっぱりね。兄貴は見たところがいいからな、俺なんかと違って」

良子「なんのこと? それは」

 

勉「惚れてんだろ? 君は」

良子「バカなこと言わないでちょうだい」

勉「ほら。そういうムキになるところが怪しいよな」

良子「怪しいのはあんたのほうよ。顔だってまんざらではないし、何してんだかさっぱり分かんないし」

勉「おや、そう? 俺の顔はまんざらでもないの?」

良子「口が滑っただけよ」

勉「ありがとうね、口が滑ってさ。まんざらでもないだろ? こうやって包帯が取れると」

 

良子「あんたね、男はね、顔よりも気持ちよ。気持ちが腐ってたらどうしようもないの」

勉「そうそう。肝心なのはそこだよ」

良子「そう思ったら、もうちょっとなんとかしたらどうなの? ギブスはめてるくせに出歩いてばっかりいて。せっかくお兄さんが来たのに悪いと思わないのかしら?」

勉「思わないね、さっぱり」

 

良子「帰ってちょうだい。いつまでも粘っていられるとね、こっちは迷惑すんの」

勉「おい、ちょっと待ちなよ」角砂糖の箱をしまおうとした良子の手に触れる。

良子「汚らわしい」

勉「汚らわしいはないだろ」

良子「汚らわしいわよ、人間のクズなんて」

勉「そうか。クズか、俺は」

 

良子「ちっともまともになろうとしないだもの」

勉「なりたいんだよ、おれだって。誰かに愛してもらいたいんだよ。愛してくれる? 君なら」

良子「ああ、気持ち悪い。あんたってね、よく、そうヌケヌケ歯の浮くようなこと言えるわね」

勉「ああ、言えるね。求めてるんだからな」

良子「バカもいいとこ。開いた口が塞がんないわ」

勉「じゃあ、接吻しようか?」

良子「バカ! あんたって人は、なんてこと言うの?」

勉「そうかな」

 

良子「人に愛してもらいたかったらね、もっとこう真剣になったらどうなの?」

勉「真剣だよ、俺だって。そういう相手さえいりゃあね」

良子「いるわけないでしょ、あんたなんて」

勉「ダメかな? 君じゃ」

良子「情けない人。人を好きになるってことはね、もっと、こう切なくて苦しいもんよ」

 

新作のマンション

寿美子「私はもうなんにも食べたくないけど、お父さん、夜食食べるの?」

新作「さあな、どっちでもいいよ」

寿美子「一本つけましょうか?」

新作「お前もちょっと飲んだらどうだ?」

寿美子「そうね、一口ぐらいね。つけるわ」立ち上がって準備。

 

新作「どうも気になるよ。今日のお前は」いつもと違って変、年頃だからさっさとお嫁に行かなきゃいけないと言う。

寿美子「年頃はもうとっくに過ぎてますよ」

新作「だったらなおさらじゃないか」

寿美子「いないんですもの、行きたい人が」

 

新作はそうでもないだろと指摘。ポーっとしたり、ぼんやりしたり、板場のみんなだってちゃんと分かってる。「だからですよ」

寿美子「だからどうしたのよ?」

新作「お父さんがステキな男性と見合いさせてやろうと思ったら…」

寿美子「いいえ、結構。自分が結婚したい人は自分で探します」世の中には私がぴったり好きになれる人がいると目を輝かす。「ちょっと会っただけだってすぐ分かるんです。勘がいいのよ、私は。お父さんみたいに見当違いな人に惚れるもんですか」

新作「なるほどね」

寿美子「それをお父さんったら、たださっさと片づければいいと思って。とんでもない、真っ平よ。外国で何をしてるか分からない人なんか。それに弟は不良だし、お父さんは…だし。見当違いな結婚はお父さんとお母さんだけで結構なんですからね」

 

おー、「太陽の涙」初の無音かな? 半病人的な言っちゃいけないこととは?

 

新作「だけどだよ…」

寿美子「だけどは、お父さんの口癖」

新作「じゃあ、聞くけどさ、つまりお前の言う勘がひらめいたという人は、今日、病院から一緒にタクシーに乗った人だろ?」

寿美子「そうよ。例えばの話ですけどね」

 

新作は相手の身元を知りたがるが、寿美子は何も知らない。しかし、タクシーから降りるときに店の名前をちょっと言った。店に来てくれるかしら?と期待する寿美子。

 

新作「なんだよ、その顔は。さっき、勘がいいって大威張りしてたくせに」

寿美子「ポーっとしてたんですもの。勘違いだってするわよ」

新作「あっ、そうだ。お燗だ、お燗。つきすぎちゃうよ」

寿美子「あら」

熱がる寿美子に笑顔になる新作。

 

そのころ、正司はなぜか寝つかれないままに近くのスナックの椅子に一人、グラスを傾けていたのです。父と弟と思えば気の重い正司なのです。でも、そのとき悲しいような甘さで心に浮かんでいたのは今日、不思議なことから出会ったあの人のことでした。(つづく)

 

スナックトムのような落ち着いた店。

 

小川さんが出てこないと寂しいな~。

【ネタバレ】太陽の涙 #6

TBS 1972年1月11日

 

あらすじ

寿美子(山本陽子)が正司(加藤剛)との見合いを断ったのは、まだ結婚する気がないからである。しかし正司の弟・勉(小倉一郎)は、自分がいるせいだと思い、松葉杖をついて寿美子のマンションを訪れる。

2024.3.26 BS松竹東急録画。

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子供のころ

上を向いて泣いたら

マツ毛の虹が

きれいだった

でも大人になると

上を向いて泣かない

だから

虹も消えてしまった

 

でも

もっと年をとると

瞼の中に虹があった

いつも太陽に向って

お祈りするから

 

今回はポエムが2ページ? 1画面におさまらなかった。

 

及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。

*

前田寿美子:山本陽子鉄板焼屋「しんさく」の娘。25歳。字幕緑。

*

池本良子(よしこ):沢田雅美…病院の売店の売り子。

井上はつ:菅井きん…そば屋「信濃路」の女将。

*

及川高行:長浜藤夫…正司の父。 

ケン坊:鍋谷孝喜…「信濃路」店員。

ナレーター:矢島正明

*

前田新作:浜村純…寿美子の父。鉄板焼屋「しんさく」のマスター。

*

小川:三島雅夫…1年半入院している病院の主。

 

新作のマンション

掃除機をかける新作。

 

木下恵介アワーの男性は高齢でも家事をこなす人が結構出てくる。もっと後の時代の橋田ドラマだと若い男性でも長男様というだけで家でどっかり座ったままの人が出てくるのと対照的。

 

インターホンが鳴り、のぞき窓を見てドアを開ける新作。やって来たのは、はつ。新作が迎え入れた。話は寿美子の元を訪れた勉について。はつは勉が寿美子のマンションに電話をかけたり、マンション前で待ち伏せたことを知った。「そのことだってびっくりしちゃって。そうそう昨日ですよ。病院へ電話して、うんと言ってやったんですよ。いくらなんだって、そんな電話をかけるって法がありますか」

 

新作「じゃあ、それで来たんだ? 今日は」

はつ「あれほど言ったのに、どうして、まあ…」

新作「それも松葉杖をついてんのに、わざわざ出かけてくるんだから」

はつ「それで一体、何を寿美子さんに言ったんですか?」

 

新作「それがね、兄貴は顔もいいし、気持ちだっていいし」

はつ「あらまあ、そんないいこと言ったんですか」

新作「いやいや、それはいいんだけどね」

はつ「ええ。そりゃもういいんですよ。顔だって気持ちだって、だから私は…」

新作「まあまあ聞きなさいよ。そんないいことばっかり言ったんじゃないんだから」

はつ「そりゃまあ、そうでしょう」ソファの上で正座する。

 

新作「つまりだね、兄貴と俺とは、なんの関係もないって」

はつ「そうそう。もっとも血だってつながっちゃいませんからね」

新作「そうそう。そのとおり言ったんだから。だからさ、俺みたいな弟のために兄貴の縁談を断ったのかって。つまり、それが言いたくて来たらしいんだけどね」

はつ「へえ~、そうなんですか」

新作「うん。それはまあいいとしてもだよ」

はつ「ええ、いいですよ」

 

新作「お前なんかにはもったいないような男なんだから、そう、やすやす勘違いしてもらっちゃ困るってね」

はつ「そうなんですよ。だから私も勧めたんですからね。そう、やすやすいくら私だって…」

新作「おい、ちょっとちょっと、あんた、勘違いしてもらっちゃ困るよ」

はつ「えっ? 私がですか?」

新作「寿美子があんた、脅かされたんだからね」

はつ「そうですよ」

新作「とにかく逃げようとしたら後ろからパチンと松葉杖を投げつけたっちゅうんだから」

はつ「まあ…」

 

新作「寿美子もカーッとして、こう、どなったり突き飛ばしたり…」

はつ「あら、突き飛ばしたんですか?」

新作「そりゃ、だって…」

はつ「突き飛ばしたら転んじゃったでしょ?」

新作「そりゃ転ぶよ。表は坂道だし」

はつ「痛かったでしょう」

新作「痛くたって、なんだって、とにかく寿美子だって夢中だもの」

 

はつ「でも、あれですね。いいとこあるじゃありませんか。やっぱり血はつながってなくても兄弟なんですね。だってあれでしょ? 兄さんのためを思えばこそ松葉杖をついて出てきたんじゃありませんか。それをまあ、突き飛ばされて転んじゃって…何しろ、あの坂道ですもの。かわいそうに、どんなに痛かったでしょうね」

新作「だけどさ…」

はつ「いいえ。やっぱりうわべは不良でもなんでも優しいとこがあるんですよ。だから私は、この縁談にも自信があったんですもの。顔だっていいし、気持ちだっていいし」

 

新作「ちょっとちょっと、それは分かってるけどさ…」

はつ「いいえ。分かってたら突き飛ばしたり写真を突き返したりしませんよ。第一、今どき珍しい親孝行ですからねえ」

新作「そうそう、それはね」

はつ「それだけで十分じゃありませんか。ガッチリ屋のろくでなしの親不孝な息子には懲りてるんでしょ? それもそろいもそろって3人が3人とも」

 

勉のことを責めたかった?のに、はつに言い負かされてしまう新作。ただ、知らない男に松葉杖を投げつけられれば誰だって怖い。

 

店が終わるのは10時です。それから、このマンションの家に帰って2人だけの夜食をするのです。それも店から食べる物は持ってくるのですから、それならむしろ店で食べてくればいいようなものですが、それをしないのはせめて娘と2人だけの食事をしたい新作の寂しさです。妻にも息子たちにも見捨てられたような父親の…

 

新作と寿美子がダイニングでお茶漬けをかきこむ。

新作「陰気臭いから全部電気をつけなさい」

寿美子「はい」

新作「しかし、あれだな。あの人があれほど勧めるんだから…」

寿美子「おばちゃんもよっぽどどうかしてるんだわ。年を越したら急に老い込んじゃったんじゃないの?」

 

新作「だけどだよ…」

寿美子「どうして、だけどなの? お父さんまで老い込んじゃったんじゃないでしょうね?」

新作「そうプリプリしなさんな」寿美子のほっぺをぐりぐり。

寿美子「だって変よ、お父さんまで。文句を言ってくれんのかと思ったのに私のほうに文句言うんですもん」

新作「だって、お前のほうが突き飛ばしたんだろ?」

寿美子「当たり前よ。誰だって突き飛ばすわ」

 

新作「だけどだよ…」

寿美子「だけどは、もう結構」

新作「だって相手は片足じゃないか」

寿美子「片足だったら来なくたっていいでしょ、わざわざあんなこと言いに」

新作「それがやっぱり兄弟だからだよ」

寿美子「それはおばちゃんがそう言ったんでしょ?」

新作「そうに違いないじゃないか」

 

寿美子「だけどよ…」

新作「だけどは、いいよ」

寿美子「いいより何より、それは向こうの勝手な事情でしょ? 私の知ったことじゃないわ」

新作「でもさ…」

寿美子「こっちがどんなにイヤな気がしてるか考えてもみないで」

新作「でもね、寿美子。その弟の気持ちにもなってやってみなさいよ。おばちゃんの口移しじゃないけど、ちょっといじらしいとこもあるじゃないか。わざわざ松葉杖をついてくるなんて…。お前のお兄さんとだいぶ違うよ」

寿美子「どうしてこういうことになるのかしら。おばちゃんったら変な縁談持ってくるもんだから」

 

そのころ、正司は羽田からの高速道路を走っていたのです。外国旅行は慣れている正司でしたが、アパートで一人待っている父を思うと、その度に懐かしい日本でした。

 

正司のアパート

高行とはつがこたつでみかんを食べながら正司を待っている。お茶セットを片づけて、寿司桶をテーブルの上に置くはつ。

 

正司「お父さん、ただいま」

はつ「おかえりなさい、おかえりなさい!」

高行「ああ、やっと帰ったか」

 

正司「飛行機が遅れたんですよ」

はつ「それにしても遅かったじゃないの。羽田から電話をもらってからだって、もう1時間半にもなりますよ」

正司「やっぱり団体旅行はね」コートを脱ぐ。

中の柄を見ると、バーバリーなのかな?

 

正司「奥さんどうも。留守中はありがとうございました」ちゃんと手をついて頭を下げる。

はつ「まあ…どういたしまして。さあさあ、手を洗って顔洗って、早くもう食べてもらわなくっちゃ」

正司「すいません、いつもいつも」高行がタオルを手渡す。「あっ、どうも」

 

コートをそのままにして洗面所に行った正司。高行がコートをハンガーにかけている。

はつ「やっぱりいつ見てもいい息子さんですねえ」

高行「私もそう思うんですけどね。アハハハ…」

はつ「ヨーロッパに行くたんびに磨きがかかるんですよ」

 

高行、はつ、正司でお寿司を食べる。

 

この楽しそうな雰囲気の中にある一抹の悲しさ。それはこの3人の胸の中にある、それぞれの思いやりの美しさだったのです。父は息子のために思い、息子は父のために耐えていました。そして、その2人を見守る親切な人は早くこの息子に優しく美しいお嫁さんをと思うのです。つまり、この部屋の中には温かい思いやりがあったのです。

 

そば屋「信濃路」

ケン坊「へい、いらっしゃいまし!」

寿美子「こんにちは」

ケン坊「ああ、お嬢さんか」

寿美子「おばちゃん、います?」

ケン坊「いますよ。女将さん!」

奥から出てきたはつに話があるという寿美子。

 

はつ「まあ、うれしいお話ですか? さあ、どうぞ掛けてください。そうですか。よくわざわざ来てくださいましたよ。そんないいお話ならお電話くだされば、すぐ飛んで行きましたのに。ケンちゃん、お茶をね、おいしいの」

ケン坊「はい、ただいま!」

 

寿美子「別にいいお話で来たわけじゃないわ」

はつ「あら、そうなんですか」

寿美子「おばちゃんったら、ホントに早とちりなんだから」

 

アパートの階段を上るはつと寿美子。

はつ「こんなアパートですけどね、割合静かでしてね」

寿美子「いいわね。裏通りだから」

はつ「とにかく一日中、店にいると頭が変になるんですよ。もっともよく出歩きますけどね。あっ、そうそう、こっからね、及川さんのアパートが見えんですよ。ほら、あそこ。もうだいぶ古いアパートですけどね。前はどっかの会社の寮だったんですね。ほら、あの白いビルの右っかわ。正司さんね、昨日の夜、帰ってきたんですよ。もう、お父さんの喜ぶこと、喜ぶこと。私もね、ざるそばとお寿司を持ってって、一杯やっちゃったんですよ。ほら、あの赤い屋根のあの緑のペンキの剥げかかってるでしょ、ほら」

寿美子「おばちゃん、私、そんなアパート見に来たんじゃないわよ」

 

正司親子とはつが知り合いなのは、同じアパートの住人としてなのかと思ったら、違うというのが今回分かりました。「信濃路」が近所で昔からの知り合い?

 

はつ「そうでしたね。いい話じゃないんですもんね。さあ、どうぞ」部屋の中へ。「ここが私のねぐら。狭いけど、こざっぱりしてるでしょ?」

寿美子「まだ新しいのね」

はつ「それでも2年たってますからね。さあ、どうぞひいてください。今、お茶を入れますからね」

寿美子「あっ、もういいの、お茶は」

はつ「でも、さっきのお茶じゃ、お粗末ですからね」

寿美子「いいの。お茶よりもちょっと座ってよ。そんなのんきにはしてられないんだから」

 

はつ「そうですか? じゃあまあ、早速伺いましょうかね」

寿美子「昨日うちへいらしたでしょ? そのことなの」

はつ「私はまた気持ちが変わったのかと喜んじゃって」

寿美子「のんきね、おばちゃんったら。人のことだと思って」

はつ「いいえ。人のことだから一生懸命になるんですよ。ホントに損な性分。自分のことより人のことで」

寿美子「それは分かってるのよ」

はつ「だから早とちりなんですね」

寿美子「やだわ。おばちゃんったら」

はつ「あら、そうですか?」

寿美子「はっきり言おうと思って来たのに、なんだか変になってしまうんだもん」

 

はつ「でもね、寿美子さん。じゃ、私のほうからはっきり言いますけどね、ホントに正司さんっていい人なんですよ。いえ、正司さん一人じゃないの。お父さんもとってもいい人。それはホント。私はつくづく感心してるんですからね。さっき、あなたは見なかったけど、あのお父さんと正司さんの住んでるアパートは決してきれいでいいアパートじゃないんですよ。でもね、そこがとても感心しちゃうんですよ。だって、正司さんの月給ならもっともっといいアパートに住めるでしょ? でもね、それをしないんですよ。弟の勉さんは勝手に中野のほうのアパートに住んでますからね。それももう2年ぐらい前から別ですからね」

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「思い橋」北晴彦は東中野在住。

 

寿美子「じゃ、わざわざそんなアパートにいるの?」

はつ「ええ、そうなんですよ。それというのもね、正司さんはしきりともっといいアパートへ引っ越そうって、お父さんに言うんですけど、お父さんはこれでいい、これでいいって喜んでるんですよ。それというのも正司さんのために少しでもお金を使わないようにして貯金をさせようと思ってるんですからね。だって、お父さんがまた倒れれば、どんなふうにお金がいるか分からないでしょ? それにあの弟ですもの。お父さんも偉いけど、正司さんも偉いんですよ。そのほうがお父さんが安心ならそれでいいと思ってるんですからね、正司さんも。そうそう、今は下の部屋ですけどね。前は2階の角部屋だったんですよ」

寿美子「下の部屋じゃ日が当たらないんじゃないの?」

はつ「そうなの。窓の外はすぐ隣の建物ですからね」

寿美子「じゃ、どうして引っ越したの?」

はつ「だって、お父さんが倒れたでしょ? だからですよ。2階じゃお父さんが不自由ですからね。火事があったって心配ですよ。正司さんがよくうちを留守にしていますからね」

寿美子「でも、お父さんのためを思ったら、もっと日の当たるとこへ引っ越せばいいのに」

 

はつ「そりゃそうすればいいに決まっていますよ。でもね、寿美子さん。いいに決まってることができない人がこの世の中には多いんですよ。この東京の広い空の下で日の当たるアパートが何軒あるかしら。それも2階じゃダメで1階ですからね」

 

”いいに決まってることができない人がこの世の中には多い”という言葉が刺さった。

 

寿美子「そういえば、そうだけど…」

はつ「おたくのマンションなんて一番贅沢な人しか入れませんよ。でもね、人情の美しさって、お金のある人よりお金のない人のほうが知ってるんじゃないでしょうか。いえ、おたくのことを皮肉に言ってるんじゃないんですよ」

寿美子「いいえ。皮肉ではなくホントよ、うちは。とにかく変ですもんね」

はつ「だからですよ。だからお父さんは今度の縁談に乗り気だったんですよ。こう言っちゃなんだけど、あなたのお兄様たちと正司さんではね…」

寿美子「月とスッポンでしょうね」

はつ「私も昔からのおつきあいでよく知ってますけど、どうもそうらしいじゃありませんか」←新作からさんざんババアの悪口を聞かされてそう。

 

寿美子「でも、その人だって、あんなひどい弟がいるじゃありませんか」

はつ「でも、1人ぐらい…」

寿美子「1人ぐらいって、1人しか弟はないんでしょ?」

はつ「ええ、まあ」

寿美子「そのことで来たのよ、私は。おばちゃんからはっきり言ってもらいたいの。あの弟っていう人に。私は別にあんな弟があるから断ったんじゃないわ。第一、写真を見る気もしなかったんですもの。とにかくイヤなの。今どき写真を見て見合い結婚するなんて。ねえ、そのことをあの弟さんに言ってちょうだいよ。病院へ行って」

はつ「さあね…」

寿美子「とんだ迷惑なの。あんなこと言われて」

 

はつ「この前も言ったんですけどね、聞かないんですよ、あの弟」

寿美子「ひどいおばちゃん」

はつ「あら、私がですか?」

寿美子「自分だって手を焼いてるくせに」

はつ「でも、あれなんです」

寿美子「あれでもこれでも私はイヤなの。あんなことが新聞に出てしまって、そのすぐあとで見合いだの結婚だの、さも私が惨めな女みたい。それもどこそこのパリッとした息子さんならともかく、お父さんは半病人で弟は不良。こんな話のどこがいいのか分からないわ。ねえ、そうじゃないの?」

はつ「そうでしょうかね」

 

ああは言ってしまったものの寿美子は気になっていたのです。そうでしょうかね、と言った、おばちゃんの言葉とその吐息が。そして、腹立ち紛れの気持ちとは反対に、どういうわけか病院へ向かってタクシーを走らせていました。つまり、気がとがめていたのです。松葉杖をついていた、その弟を突き飛ばしたこと。つまり、性は善なのです。そして、その善は意外な巡り合わせとなるのです。

 

病院の売店

寿美子「このケーキは箱か何かに詰めていただけるんですか?」

良子「ああ、箱はありませんけど、あの…お包みするだけで」

寿美子「じゃ、すいませんけど、このケーキを5つと、え~っと、そのチョコレートやキャンディーを頂きましょうか」

良子「お見舞いですか?」

寿美子「ええ。なんにも持ってこなかったもんですから」

良子「チョコレートとキャンディーはおいくらぐらいですか?」

寿美子「1000円ぐらいになればいいんですけど」

良子「じゃ、他の物(もん)も入れましょうね」

寿美子「ええ、適当に」ショーケースの下を見て落ちていた絵葉書を見つけた。「ベニスの絵葉書が落ちてましたけど、ここへ来たお客さんじゃないんですか?」

良子「あら、あの人が落としてったんだわ。どうもすいません」

 

正司「やあ、こんにちは」

良子「あっ、いらっしゃい」

正司「ちょっといなり寿司を食べにね」

良子「まあ…また、いなり寿司ですか?」

正司「食べたかったよ、とても」

良子「ちょっと待ってくださいね。しゃべってんと数間違えちゃうから」

 

ショーケースの前に立っていた寿美子と目が合った正司は寿美子の後ろを通って席につく。

 

これがこの2人の出会いでした。しかし、まさかこの出会いが2人の未来の同じ出発点になろうとは思ってもみなかったのです。いや、そう言ってしまってはウソかもしれません。なぜなら、そのとき、2人の胸はときめいたのですから。

 

良子「はい、どうぞ」

寿美子「ちょうど1000円でいいんですね?」

良子「はい」

寿美子「どうも」

良子「ありがとうございました」寿美子が行ってから正司に「きれいな人よね?」

正司「うん、ちょっとね」

良子「ちょっとかしら?」

 

正司「それより、留守中、弟がお世話になったんじゃないの?」

良子「そうそう。いつお帰りになったんですか?」

正司「昨日の夜」

良子「そうなの? じゃ、早速お見舞いね」

正司「ところがいないんだよ、あいつ。どっか外へ出てったらしいんでね」

良子「そうなの。ちょいちょい出かけるらしいわよ。ホントは外へ出ちゃいけないんだけど」

正司「しょうがないヤツだな」

 

お茶を運んできた良子。「弟さん、少しいけないんじゃない? 変な人がお見舞いに来るわよ。チンピラみたいなヒッピーみたいな。来るときはね、ここへ来てコーヒー飲んでくの」

正司「困ってるんだよ、それで」

良子「少し言わなきゃダメね。私も随分言ったんだけども」

正司「そう。どうもありがとう」

 

良子「あっ、おいなりさんでしたね」

正司「帰ろうと思ったんだけど、つい食べたくてね」

良子「ハハハッ、はい、どうぞ。こんな物(もん)日本にいればいつだって食べれんのに」

正司「食べられるけど、ふだんはちょっと気がつかないよ」

良子「そうね。あっ、思い出したわ。あなたがヨーロッパに行くとき、やっぱりここへ来て、それ食べたでしょ? そんとき、ここに掛けてたおじさん、あなたにベニス行くんですかって聞いたわね」

正司「うん」

 

良子「さっきね、落としてったの、あのおじさんが」絵葉書を正司に手渡す。「いつもね、ここに来るときはその絵葉書持ってくるのよ。懐に入れてるからね、下から落っこっちゃったんじゃないの?」

正司「絵葉書を持ってきてどうするの?」

良子「どうするって見てるのよ。ニヤニヤ笑って。それも来るたんびでしょ。よっぽどうれしいのね。読んでごらんなさいよ、息子さんからよ」

正司「うん」

良子「その絵葉書が初めて来たとき、大変。もう喜んじゃって、喜んじゃって。私に読ませといてね、自分は目ぇつぶってね、聞いてんの」

正司「ふ~ん」

良子「だけど、そのあと泣いてたわ。私、あんなに悲しそうに泣く人初めて見た。私までなんだか変になっちゃったの」

正司「じゃあ、これをなくしたら大変じゃないか」

良子「そうよ。まだ気がつかないのかしらね。今にね、気がついてすっ飛んでくるわね」

 

正司「親孝行な、いい息子らしいね」

良子「さあ、どうかしら? だって、この絵葉書が初めてよ。ねえ、うまいこと言ってるけど、なんだかそらぞらしくない?」

正司「そんなことないよ。とても優しいことが書いてあるじゃないか」

良子「だって怪しいもんよ。手紙を書けばいいのに絵葉書ですもん。これっぽっちしか書けやしない。ほら、私だってそうだけどさ、あの…旅行に行ったりしたとき、絵葉書だといろんなとこ出すでしょ? ふだんは面倒でご無沙汰してるとこやなんか。ねっ? あれよ。私はね、どうもそんな気がするの」

正司「そうかな?」

良子「そうでなかったらもっとどんどん手紙書けばいいのに、この絵葉書初めてみたい。変よ、1年半もいるのに。みんなね、ウソだと思ってたのよ。ベニスに息子さんがいるなんて。私だってウソだと思ってたわ」

正司「事情があるんじゃない? いろんな複雑な」

良子「それにしたって変だわ」

 

あ、後ろの貼り紙

おにぎり 1個 ¥30

せきはん 1個 ¥30 ってのがある。

 

のり巻  1皿 ¥80

 

前回

おにぎり 1個 ¥30

せきはん 1皿 ¥70

のり巻  1皿 ¥80

稲荷すし 1皿 ¥60

 

稲荷すしがメニューから消えてる。

 

良子にお茶を頼んだ正司。

 

ヤカンから急須にお湯を注いでいる良子。「あれ?」

正司「えっ? どうかしたの?」

良子「そうか…そうよ、きっと」

正司「何が?」

良子「だってそれでなきゃ変だもの」正司にお茶を出す。

正司「だから、何がさ?」

良子「分かったわ、この絵葉書」

正司「何が? どういうふうに分かったの?」

良子「でも、そのほうがいいわ。ねっ? そうでしょ?」

正司「そうね。そのほうがいいんだろうね」

 

察しがいいな、良子。

 

良子「捜してるといけないから、私、この絵葉書持ってってあげるわ」

正司「うん」

良子「じゃ、ちょっとね」

正司「あっ、ちょっと待ちなよ。僕がここにいることを言わないほうがいいよ」

良子「そうね。言わないわ」売店を出ていく。

 

正司は、その人に会った3週間前のことを振り返ってみたのです。

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その人はしどろもどろに、しかし、一生懸命に頼んだのでした。そして、そのとき、正司の胸に突き刺さったのは、その人ばかりではなく自分の中にもある命の切なさだったのです。ふと、自分一人にすがりついている父のことを思いました。愛がきらめいたのです。

 

国立第二病院を出てきた正司。今の国立病院機構東京医療センター

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「あしたからの恋」でも直也の働く病院として使われてました。

 

タクシー乗り場に寿美子を見つけ、近づく。

正司「なかなか来ませんね、空車」

寿美子「こんな大きい病院だから、もっとお見舞いの人が来るかと思ったんですけど」

正司「あっ、来たかな?」

寿美子「いえ、乗ってますよ」

正司「そうか、がっかり」

寿美子「フッ」

 

正司「どこまでいらっしゃるんですか? 僕は有楽町ですけど」

寿美子「わたくしは赤坂です」

正司「じゃあ、同じ方向ですね」

寿美子「もし、およろしかったら…」

正司「えっ、いいんですか? ご一緒でも」

寿美子「ええ、あたくしはかまいませんけど」

正司「じゃあ、お願いします。あっ、来ましたよ」

寿美子「どうでしょうね、あれも」

正司が手を大きくあげ、タクシーが停まる。

 

人生には奇妙な出合いがあります。いや、奇妙な出合いこそ人生なのかもしれません。

 

タクシーは2人を乗せた走り出した。

 

病室の小川は老眼鏡をかけて絵葉書を見ている。堀はゆっくり歩いて病室を出ていき、林のベッドの上では林と田中が将棋を指し、鈴木が見ている。仲いいね、この3人。(つづく)

 

やっと出会った。美男美女でお似合い。